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「一つひとつのお店がとがった個性をもって、まちはつくられているんだと思います。カキモリもそんなふうに、まちと一緒に成長するお店になりたいと思っているんです」これは、東京・蔵前にある文房具屋「カキモリ」の広瀬さんの言葉です。
質がよくて美しい紙や万年筆。見るだけじゃなくて、気軽に試し書きできたり、オーダーノートやインクがつくれたり、書くことにわくわくするような文房具店です。
スマホやパソコンで書く場面が増えているからこそ、人の手で書かれたものが大切なもののように思えてくる。
そんな「書く」ことにじっくりと向き合いながら文房具を提供していると、今では海外からもお客さんが多く訪れるようにお店になりました。
そんなカキモリが、この秋、群馬県高崎市で新しいお店を出します。
今回は、新しいお店をつくっていく人の募集です。
蔵前駅を降りて10分ほど歩くと大通りに出る。
信号の向こうに見えるカキモリのお店は、おしゃれなコーヒースタンドのよう。
迎えてくれたのは、カキモリを運営する株式会社ほたかの代表である広瀬さんです。
木をベースにした落ち着いた雰囲気の店内には、ツヤっとした万年筆やさまざまな質感の便箋、10色以上ありそうなインクボトルの小瓶…。
手前には、さまざまな種類の紙が並んだ棚も。
「この中から中紙、表紙、留め具を選び、10分ほどでオーダーノートがつくれます。あの機械でつくるんですよ」
「オーダーノートなら、自分でお気に入りがつくれるし、大事に持ち歩けるんじゃないかなって。開くたびにわくわくするノートがあれば、書くことってもっと楽しくなると思うんですよね」
どうしてこんな文房具店をつくろうと思ったんだろう。
いただいたコーヒーを飲みながら、これまでのお話を聞きました。
「わたしのおじいさんが、文房具屋をやっていたんです。はじめは『文房具屋なんてダサくて継いでられるか』って、外資系の医療器具メーカーに勤めていました」
けれど、やっぱり商売がやりたくて、カキモリを運営する会社「株式会社ほたか」の代表になることを決める。
「文具業界が扱う紙やペンは、ITなどの発達で、パソコンやコピー機にとって代わられました。だからこそ今、人が手で『書く』ことは価値があると思うんです」
「たとえば、LINEで告白されるのと手紙で告白されるのって、違いはもう、明らかですよね。いろんなことがデジタル化していくなかで、人にしかできないことって、これからもっと大事になっていくと思います」
たしかに、手を動かして書くと、自分の伝えたいことも整理できるし、インクの滲みや筆圧、文字のかたちから、言葉以上に伝わるものがあると思う。
「毎日やる必要はないけれど、大切なことはちゃんと紙にのこしていきたい。その価値を提供するお店が『カキモリ』なんです」
だからカキモリには、「書くってたのしい」と思えるような工夫がちりばめられている。
オーダーノートもそうだし、ふつうの文房具店ではショーケースに収まっているような万年筆も、気軽に試し書きができたり。万年筆のすぐ下には、特性が書かれた小さなメモも。
いろいろな気配りがあって、じっくりと書くことに向き合える。
「はじめは何のお店か分かってもらえないこともありました。近所のおじいちゃんが『コーヒー屋か?』って覗いたりして(笑)。2、3年かけて徐々に口コミで広まり、ようやくみなさんに知ってもらえるようになりました」
お店がきっかけになって、書くことの裾野は少しずつ広がってきている。
カキモリで万年筆を買うお客さんの6割は、初めて万年筆を買われる方だそう。
最近は、海外からカキモリ目当てに来るお客さんも増えてきた。
もう一つ。
カキモリでは、「書く」価値を伝えるほかに、地元の人たちとの関わりも大事にしてきました。
実は蔵前は、手帳の産地。オーダーノートの表紙の加工やお名入れ、中紙の印刷や断裁など殆どの工程を、地元の職人さんにお願いしているという。
「蔵前にもともといた人たちが、『このまちにカキモリができてよかったね』って思えるようにしたくて。インターネットで販売するんじゃない、ここにお店があることで生まれる、よこのつながりも大事にしたいんです」
「それに、カキモリのようなとがったお店が成り立っているのを見たからなのか、周りにも草木染めや革小物など、おもしろいお店が増えてきました」
いいかたちで、まちも盛り上がりつつある。
「この感じを、今年の秋にオープンする群馬・高崎のお店でもやりたいと思っているんです」
高崎市は、東京から新幹線で1時間というアクセスのいい町。人口は約37万人、大型商業施設や大学などもしっかり揃う、いわゆる地方都市です。
そもそも高崎は、広瀬さんの生まれ故郷。カキモリの親会社である株式会社アサヒ商会が創業した土地でもあります。
アサヒ商会代表の広瀬一成(かずしげ)さんも取材へ駆けつけ、そのルーツを話してくれました。
「もともとひいおばあさんが、戦後の焼け野原で何もない時代にはじめたのが文房具屋だったんです。当時は仕事の場面でも、売り上げ管理や用事の伝達など、すべて手で書いていました。紙とペンは、必要でよろこばれる、そんなものだったと思います」
電気技師だったおじいさまが呼び戻され、高崎駅前の商店街の一角に店舗を構えたアサヒ商会。
1950年代になると、好景気もあって一日100本の万年筆が売れることも。
「新社会人が初給料で、ちょっといい万年筆を買うんですよ」
「やっぱり昔の文房具屋って、いいものが置いてあって、子どもからするとちょっと背伸びするような、憧れの場所だったと思うんですよね」
テクノロジーの発達とともに、紙とペンがパソコンとコピー機に変わり、アサヒ商会も個人が楽しむ文具から、仕事のための道具を多く扱うようになった。車社会になって、お店も郊外へ移転。アサヒ商会は、群馬県で1、2位を争うほどのシェアをもつ文房具会社になりました。
需要に応え続け、ふとまちを見渡すと、大型量販店やチェーン店ばかりが並ぶように。駅前の商店街も衰退し、シャッター街になってしまった。
「世の中の変化の中で、売れるもの、売りやすい物ばかりを追ってしまった結果、カキモリのようなとがったお店が少なくなってしまったんですね。でも、地方だからときめく場所がないって、くやしいじゃないですか」
「いいものに触れる機会があって、『ああ、こういうのも素敵だな』『こういう考え方もあるんだな』ってちゃんと知ってもらえれば、お客さんはいるんです」
今、高崎のまちは、クラフトビール屋さんやメガネ専門店、帽子屋さんなど、IターンUターンの人がはじめた「とがったお店」も増えつつあるそう。
「地方ってどこか保守的な感じもありますよね。でも、高崎の場合ってかなりオープンです」
「高崎に住んでいる歴が長いとか短いとか全く関係なく、若手や農家、商業者など、いろんな人が自分が素敵だなって思うまちづくりをしている。春から秋にかけては、メインの通りでは、ほとんど毎週末イベントが開催されています。多すぎて行ききれないくらい(笑)」
まちとしても、じわじわ変わっているんですね。
「その雰囲気もあって、今回、駅前に商業施設ができるタイミングで出店を決めました」
お店の広さは、蔵前店の2倍。コンセプトや雰囲気はそのままに、大人から子どもまで、今までとは違った層にも来店してもらえそうです。
とはいえ、あたらしい土地でカキモリの伝えたい価値が浸透するのは、時間のかかることだと思う。
はじめは、何から伝えていったらいいんだろう。
そんなことを考えていると、隣で聞いていたスタッフの石川さんがこんな話をしてくれました。
それは、カキモリが蔵前を飛び出して、表参道でポップアップストアを出店したときのこと。
「蔵前のお店には、カキモリのことを知っていて好きでいらっしゃる方が多いんですけれど、表参道では、カキモリをまったく知らずにふらっといらっしゃった方が多くて。最初のうちは『文房具屋かあ』ってさらっと出て行かれてしまうことが、ショックでした」
あるとき、20代前半の若いカップルがふらりと訪れた。
「『何ここ?』という感じでやってきて、万年筆を目に留めていました。『文房具なんて、書かないしなあ』と言っていたんですけど、積極的に説明して、書いてみます?って試し書きしてもらったんです」
「すると『万年筆って、いいね』『かっこいい』って、最後は書き味を比べて楽しんでいらして。購入には至らなかったのですが、まったく知らなかったものを知ってもらう、0が1になるつながりをつくれたことは、楽しいことでした」
そう話す石川さんは、バイトから入社し、新卒で正社員になった方。もともと言葉や伝えることに興味があって、接客の仕事が好きなのだとか。
「よく、『どの万年筆がいいですか』ってご相談を受けます。そのとき、答え方にマニュアルはありません。お話ししながら、その方がどんなものがお好きか、色や形、書き心地など、わたしの感覚でおすすめしているんです」
「それでお客さまがよろこんでくれると、わたしもうれしい。カキモリの接客は、お金を払う、受け取るっていう一方通行じゃなくて、お互いがいることがプラスになるような、Win-Winの関係が多いなと思います」
相手を想える人なら、それぞれのやり方でよいそう。
裏を返せば、自分で考えて動くことがとても大事になってくると思う。
ここでふたたび、広瀬さん。
「高崎でも、カキモリの雰囲気は変わりません。そして、蔵前と同じように地元とつながったお店にしたいと思っています。その肌感覚は、住んでる人しかわからない。だからこそ、IターンUターンでも、高崎に根付いていける人に来てほしいです」
店長になるとしたら、経験は必要でしょうか。
「経験はなくても、経営マインドがあればいいです。自分はこの店の責任者だ、一国一城の主だって気持ちのある人。ぼくも、まったく知らないところからお店をはじめましたから。一緒につくっていきましょう」
カキモリのあるまちは、どんなまちになるだろう。
興味がわいたら、まずはカキモリ蔵前店に行ってみませんか。
スタッフ手書きの周辺マップをもって、蔵前のまちごと感じてみてください。
(2017/5/19 倉島友香)