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NPOの定義って、どんなものか知っていますか?Non-Profit Organization、直訳すると「非営利組織」。言葉の響きからは「利益を上げてはいけない団体」のように思えますが、そうではありません。
一般的な企業と同じく、利益は上げてもいい。ただ、その利益を構成員で分配することなく、社会課題を解消するための費用に充てる民間組織のことをNPOと呼ぶそうです。
活動内容も福祉や環境、芸術や国際交流などさまざま。国内だけで、コンビニの数とほぼ同じ5万超のNPOが存在するというから驚きです。
こんなにもユニークで、前向きで、社会のために本気な人たちの取り組みが、「非営利組織」のイメージに阻まれて伝わらないのはもったいない。
そうした想いから、NPOに特化したデザイン会社として2012年に設立されたのが、サイカンパニーです。

年次報告書やパンフレットなどの紙媒体を作成することもあれば、Webサイトの構築やデザインの案件も。そのため、グラフィックかWeb、いずれかのスキルがあるといいそうです。
もちろん、両方とも任せてほしいという方も大歓迎ですし、エンジニアとして経験を積んできた方でもいいかもしれません。
何より、まずは現メンバーの3人と一緒に働きたいかどうかが大事なような気がします。
東京・広尾。
オフィスビルの4階のインターホンを押すと、代表の平田さんが迎えてくれた。
事前のメールから想像していた通り、とってもフランクな方。

「長期的なビジョンも特にない」と笑う平田さん。
そもそも、立ち上げのきっかけはなんだったのだろう。
「大したきっかけも、崇高な想いもないんです。新卒ではじめた営業の仕事が嫌になって、辞めて。たまたま会社の後輩がNPOのスタッフと知り合いで、一緒に飲み会をしたときに、うちで人募集してるよって話になり。次の日に面接して、そのNPOに入りました」
平田さんが加わったNPO法人かものはしプロジェクトは、インドやカンボジアの貧困地域で子どもが人身売買に巻き込まれないための活動をしている団体。

もともと何も知識はなかったけれど、「はじめてみたら意外に楽しかった」そう。
「スタッフはみんな子どもたちのためにがんばっているし、前向きで気持ちのいい職場だなと思ったんです」
当初は3ヶ月のアルバイトと思っていたものの、気づけば5年半。独立を考えはじめたタイミングで、のちにサイカンパニーを共同で立ち上げる生駒さんと知り合った。
「かものはしの年次報告書を、デザイナーに外注してつくってもらおうということで。打ち合わせで名刺を交換した相手が生駒でした」
ほどなく、かものはしプロジェクトから独立した平田さん。ふと生駒さんの顔が浮かんだという。
「彼もちょうどフリーになるタイミングだったので、じゃあ一緒に仕事するか、って」
「別に起業したいとか、熱い想いがあったわけじゃなくて。お客さんから仕事を受けるときに法人化しといたほうがいいかな、ぐらいの感じでしたね」
サイカンパニーという名前も、好きな動物のサイからとったもの。
土日に出勤したり、遅くまで残業することもめったにない。
なんだか、すごく肩の力が抜けている感じだ。

ゆったりとして見えるけれど、それは一つひとつの案件にとことん向き合っている証拠。
代理店をはさむことなく、NPOと直接やりとりしながら進めていく。
「どういうものをつくるか話しているうちに、事業自体を見直したり、全体のキャッチコピーをあらためて考えることになったりもします。後ろ向きな意味ではなく、最初に立てたスケジュール通りに進まないことが多いんですよ」
たとえば、学童保育でさまざまな体験プログラムを実施している放課後NPOアフタースクール。当初は「Webをリニューアルしたい」という依頼からはじまったものの、一緒にコピーを考えたり、現場の様子がより伝わるよう、カメラマンとともに学校を訪ねて、写真や動画を撮影したりもした。

外部のデザイナーというより、そのNPOの一員として関わるような感覚だという。
「うちのメンバーは3人ですけど、このオフィスは今かものはしプロジェクトとシェアしていますし、NPOの空気を身近に感じられると思います。別にNPOに詳しくなくても大丈夫ですよ」
関わるうちに自然と知識は蓄えられていくし、NPOの側にも変化が生まれてくる。
その変化について話してくれたのが、平田さんとともに立ち上げからサイカンパニーを支えてきた生駒さん。

前職のデザイン会社にいたころから、土日や空いた時間を使ってNPOの仕事を手伝っていた生駒さん。
「デザインが直接誰かを助けられるわけではないですけど、関わったNPOの活動が広く認知されたり、持続していくことにやりがいを感じますね」
NPOの仕事を受ける上で、心がけていることはありますか?
「NPOを知らない方にも分かりやすく伝えることを最優先に考えています。いろいろ飾るというよりも、整理するデザインかなと」
整理するデザイン。
「NPOのみなさんは想いが強いあまり、伝え方が一方的だったり、複雑な仕組みを全部伝えようとしがちです。そうしたときに、ここの表現をちょっと変えてみようとか、あえてここまで詳しく書かないようにしようとか。そのバランス感覚は大切ですね」
毎年作成している、かものはしプロジェクトの年次報告書を見せてもらった。
左が過去のもので、右が昨年度のもの。

はじめて読む人も、ずっと寄付を続けてきた支援者も満足できそうな、雑誌のようなつくりになっている。
「Webにしても、派手なエフェクトとか洗練されたデザインは求めません。いかに余計なものを省いて、シンプルに分かりやすく伝えるか。地味な作業も多いですし、新しい技術をどんどん試したい人には合わない仕事かもしれません」
それともうひとつ、大事にしているのは「分かるまで聞くこと」だそう。
「当たり前に使われている“NPO用語”が、外部には伝わりづらかったりもします。ぼくらが理解できないことは、きっと一般の方には、より伝わりづらい。なので、分からないことはとにかく聞こうと心がけています」
NPO業界にどっぷりと浸かっていなかったおふたりだからこそ、外から見た感覚を素直に伝えられるのかもしれませんね。
「そうですね。大学時代は、いかに単位を効率よくとれるか考えているような学生でしたし、NPOのことは全然知らなかったです」

大学3年生の春休みに、友人からたまたま教わったワークキャンプに参加したという。
「海外に行けて、単位にもなるなら参加しようってことで。バングラデシュの田舎のほうで、現地の子どもたちと一緒にトイレをつくったんですね」
貧困国の生活に触れながら過ごした3週間。
トイレのないような環境でも、楽しそうな子どもたちの姿が印象的だった。
「それがきっかけで『いつかこの子たちのためになることがしたいな』と思うようになり、NPOにも興味を持ちはじめました」

「たとえば、どちらのジュースを買うか?という広告って、豊かな国でしか必要ないんです。いろんなクリエイティブを考えるのは楽しいだろうけど、デザインでできることって、もっとほかにあるんじゃないかなと思って」
仕事を辞め、夫婦で約1年半世界を旅したあと、NPO向けのデザイン会社に入社。
その会社を独立してすぐ、平田さんとサイカンパニーを立ち上げた。
もうひとりのメンバーである岡田さんが加わったのは、その1年半後のこと。
ちょうどこの日、10ヶ月の産休から復帰した岡田さんにも話を聞いた。

卒業してからも年に1、2回は顔を合わせる仲だったものの、まさか一緒に働くことになるとは思っていなかったという。
書店のスタッフとして働きながら独学でWebのスキルを身につけた岡田さんは、その後、広告会社に入社。
6年働いて、クライアントからの一方通行な仕事に嫌気がさしてきたころだった。
「『このままでいいのかな…』と思っていたら、ちょうど生駒さんからサイカンパニーに誘われて。『こんな仕事、わたし待ってたんだよ!』って」
どこにピンときたんでしょうか。
「やっぱり、NPOの活動に共感できるからこそ、親身になれるんだと思います。自分の提案を受け入れてもらえたり、足りない素材は撮影に同行したり。一歩踏み込めると、余計にいいものをつくりたいという気持ちになりますね」
オフィスをシェアするかものはしプロジェクトの方からは、「外注のデザイナーにお願いしている感覚があまりないんですよね」という声も。

「すごく仕事ができて、ガツガツ進める人というよりは、じっくりコツコツと取り組みたい人。そういう人にとっては、こんないい会社ないです。なんか嘘っぽいですけど(笑)」
リフレッシュ休暇もしっかりとれるし、生駒さんなんて、家族でご飯を食べるためにほぼ毎日18時半には会社を出ていくんだそう。
3人それぞれ、なんだか居心地がよさそうです。

ゆったりして見えるサイも、走るとかなり速いそうですよ。
NPOだからと肩肘張らず、まずは気軽に飛び込んできてください。
(2017/5/23 中川晃輔)