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モノ、コト、概念。世の中に新しい何かを生み出し続けることって、すごくエネルギーが必要です。それならなぜ人は、新しいコトやモノを生み出すことをやめないのでしょうか。
楽しいから?お金儲けのため?
いろいろ理由はあるけれど、やっぱり生み出す何かに大きな意味を感じるからなんだと思います。
今回ご紹介する仕事はITの世界で新しい“何か”をつくる研究開発エンジニア。しかもフィールドは農業界という、かなり特殊な仕事です。
すでにサービスが始まっている「みどりクラウド」という農園環境モニタリングシステムの研究開発をすることになります。

ひょっとしたら、自分の開発がいつか農業界に革命を起こすかもしれない。日本の中山間地域の問題を解決できるかもしれない。
大きな可能性を秘めたプロジェクトだと思います。
自分の仕事に可能性や意味を感じながら働きたいエンジニアの方には、またとないチャンスです。気になったらぜひ続きを読み進めてみてください。
取材に向かったのは島根県奥出雲町。
中国地方のちょうど真ん中で、農業が主産業、高齢化も進む、よくある中山間地域といったところだ。

今年の夏、この町に株式会社セラクの農業IT研究所が開設されることが決まっている。
農業×IT。最近よく耳にするけれど、実際のところどういうものなのかあまりよく分からない人も多いと思う。
セラクのサービス「みどりクラウド」は大きく分けて3つの機能でできている。

つまり、みどりクラウドとは野菜の生育環境を見える化する遠隔モニタリングサービスだ。
この研究開発の事業部長をしている持田さんが、この日は奥出雲町を案内してくれることに。

持田さんは島根県の出身。大学院まで島根で農業工学を学んだあと、当時勢いのあったIT業界に進もうとセラクに入社した。
アーティストのファンサイトや携帯のアプリ開発を経て、数年前に「スマート野菜工場」という家庭菜園システムを自社開発するときまで、農学のことは思い出しもしなかったそうだ。
けれどもこのプロジェクトをきっかけに、持田さんはもう一度日本の農業界と向き合うことになった。
「農業従事者が減ったことで1人が受け持つ農地がどんどん大規模化してるんです。中山間地域ではさらに畑が分散していて、それを見てまわるだけでものすごく労力がかかってしまう」
「それに農業は環境に依存するということで、ビジネスとして安定させることをあきらめてる方もいらっしゃいます」
“農業は儲からない”そんなふうに言われることがある。
たしかに大規模化すればするほど農家の負担は増え、持田さんは今までのようなやり方ではきっと通用しなくなると感じているそう。
「これからの農業を考えたときに、まずは基本となる生育環境の計測が必要だと考えました。みどりクラウドなら、ビニールハウスの中にセンサーボックスを置いておけばいいだけ」
「これなら高齢の農家さんにも受け入れてもらえるんじゃないかと思って、始めたんです」
サービスを始めて1年半。ITの入っていなかった業界に参入していくのは簡単なことではなかったけれど、今では全国のほとんどの都道府県の農家さんたちに設置してもらい、地道にデータを蓄積しているところだ。業界では高いシェアを誇っている。

あるトマト農家さんでは、ハウス内の気温低下をみどりクラウドが知らせて、3000万円の損失を防いだことも。それ以降、「1日も手放せない」と言ってくれているそう。
今までは“仕方ない”と諦めていた停電や設備不良も、ITの力で防げるという自信がついてきた。
とはいえモニタリングするだけでは生育途中の失敗を防ぐだけ。“農業は儲からない”ということへの根本的な解決にはならない。
「今後は蓄積したビッグデータを使っていろんなサービスを提供していこうと考えているところです。たとえば生育予測や病気の予測。販売の支援や農業コンサルもできるかもしれない」
「予測をするためには、ここで研究用のトマトを育てながらいろんな実験もしていかないといけません。データのレポート機能もつくらないといけないし。機械と農園をつなぐシステムも開発しないと。もう大変です。生きてる間に全部開発できるのかな(笑)」
セラクがビジネスとして安定してお金を稼げるようになるには、持田さんの試算ではあと数年はかかるそうだ。会社としても、期待大のこのプロジェクトに先行投資しているタイミングだ。
東京本社に勤めるみどりクラウド事業部のスタッフは10名。1人ひとりがやらなければならないことは山積みだ。
「地獄ですよ(笑)」と怖いことを言う持田さん。

「僕はここ島根という地方出身。東京から帰ってくるたびにさびれていくのを目の当たりにしてきました。地方にはよいものがたくさんあるのに、失われてしまうのは非常に残念です」
「こういう中山間地域の産業と言ったら農業がナンバーワンじゃないですか。いろんな手段があると思うんですけど、ITの活用で少しでも地方を元気にできたらいいなって。これは使命感だと思います」
最近、うれしいこともあったと教えてくれた。
みどりクラウドの計測システムを導入したきゅうり農家さんを訪れたときのこと。農園環境の数値を常に把握できるようになったおかげで、よりよい環境を実現しようという努力につながり、収量を20%増やすことが出来たという。
「人手が足りなくなったから、今年からサラリーマンだった息子さんもきゅうり農家を継ぐことになったと言うんです。企業に勤めるよりもきゅうり農家のほうが儲かるということですよ!」
まだまだ先だけれど、ITのちからで目指す未来は少しずつ近づいてきているみたい。
いろいろな話を聞きながら、おいしい出雲そばのお店や、たたら製鉄の記念館をめぐり、最後に農業IT研究所の予定地を訪れた。
研究所といっても、もともとは実業家の邸宅だったところを町から提供してもらっているとのこと。敷地内には実験に使うことのできるビニールハウスもあり、おどろくほど贅沢な建物だ。

「開発にあたりいろんな農家さんに協力をしてもらってきたんですけど、もっと現場の近くで意見を聞きながらやっていったほうがいいと思って、地方拠点をつくりました」
このあたりの隣近所にはエンドユーザーである農家さんたちがたくさん住んでいる。近くにはIT農業を独自に行なっている大規模トマト農園もある。

サービスをよりよくしていくにはもってこいの場所だ。
「まずは東京の本社で1ヶ月ほど研修を受けてもらいます。サービス内容を知ってもらって、チームに馴染んだらここに来てもらう予定です」
東京で研修を受けたあとは、持田さんと一緒に奥出雲に入る。けれども持田さんは本社での開発もあるため、すぐに1人で研究所を任されることになるようだ。もちろん都内のスタッフと連携しながらの仕事になる。
1人で奥出雲。相当高い技術力が求められている気がします。
「技術力は高くなくても3、4年何らかの技術開発を経験している人なら大丈夫だと思います。一番大切なのは、地域に入っていけるかどうかです」
地域に入っていけるかどうか。
「東京で開発をするだけだったら技術があればいいけど、ここでは地域の方と一緒につくっていく。そうなるとコミュニケーションができないと意味がないんです」
なるほど。とはいえ、最初はどのようにコミュニケーションを取っていけばよいか分からない人もいるかもしれない。
「それはもう、全面的にサポートしますよ!!」
前のめりになって答えてくれたのは、役場での仕事を終えて駆けつけてくれた奥出雲町地域振興課の安部さんだ。

セラクは奥出雲町の企業誘致の第一号の事例だ。奥出雲町としても協力したいし成功させたい、という心意気がとてもよく伝わってきた。
「IT企業が町に入ることで、化学変化が起きて新たな産業が生まれるかもしれない。そうして新たな雇用が生まれたり、新しい風が吹き込むことを期待しています」
持田さんは島根県内で研究所の候補地を探していたとき、奥出雲町だけが副町長から自治会長まで勢揃いして大歓迎してくれたことに驚いたそう。
安部さんいわく、すでにセラクの歓迎会が開かれることは決まっているとのこと。町をあげて期待大のプロジェクトのようだ。

「新しい事業なので目標も戦略も立てづらい。何よりも農業界は特殊で複雑な業界で、日々とにかくチャレンジし続けているかんじです」
システム開発をしながらトマトを育て、機材のメンテナンスサポートもする。やることは山のようにある。
本当に大変そう。すると、持田さんからこんな答えが返ってきた。
「『農業って儲からないのになんでこんなことやるの?』ってよく言われます。でも違うんです。農業は絶対に儲かるビジネス。やり方次第なんですよ」
「大変だけどきっと楽しいです。この仕事は、やる価値が絶対にあります」

5月26日(金)の晩にはお酒が大好きだという持田さんをお呼びしたしごとバー「ITで農業を変えナイト」が開催されます。
ぜひ飲みにいらしてください。ワクワクするみどりクラウドのこれからを、みなさんと一緒にお話しできたらいいなと思います。
(2017/5/23 遠藤沙紀)