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運動会や文化祭、発表会を映したビデオ。映像や音からは、その瞬間の空気やにおいまで伝わってくる気がする。
ふとしたときに見返すと、少し照れくさくて懐かしい。大切な時間を切り取ったビデオは、この世にふたつとない一生ものだと思います。
今回募集するのは、そんな一生ものの映像を撮り、ひとつの製品に仕上げる人。
会社の名前は、有限会社テス・ビデオ・ワークス。バレエを中心とした舞台のVTR撮影から、DVD・Blu-ray製品の製作・販売までを手がけています。
業界では最古参。バレエの経験者なら、一度は聞いたことがある名前かもしれません。
求めているのは、舞台を撮影するカメラマン、舞台裏を撮影するアシスタントカメラマン、そして映像を編集するスタッフ。
とくに、アシスタントカメラマンは未経験でも大丈夫。
撮影や編集に興味がある人はもちろん、バレエや舞台が好きな人まで、幅広く活躍できると思います。
舞台を撮ることに、本気になれる。そんな人を募集しています。
池尻大橋駅を降りて、高速道路の高架に沿って歩く。
渋谷駅の隣だけれど、近くには川や緑があって不思議とざわついた感じはしない。
しばらく歩くと、事務所の入るビルが見えた。
テス・ビデオ・ワークスは、地下階に事務所をかまえている。
まず話を聞いたのは、取締役の若佐さん。
入社してから30年、カメラマンとして舞台を撮りつづけている大ベテランだ。
身ぶり手ぶりを交えながら、優しい笑顔で話しかけてくれる姿が印象的。
「テスはもともと、50年続く舞台写真の会社です。時代の流れで、ビデオも撮るようになってね。部署から会社になったタイミングで、僕が入りました」
舞台専門のビデオカメラマンとして入社したけれど、バレエはまったくの素人だった。
「バレエの知識なんてまったくないから、舞台を見てもいつ何を撮ればいいのかさっぱりわからなかった。最初は、ただ漠然と眺めながら撮っていました」
それでも何度も舞台に足を運び、撮影や編集を繰り返すうちに、少しずつコツを掴んでいったという。
「ダンサーの仕草や動き一つひとつに、ちゃんと意味があるんだってわかってきたんです。すると、ただ出てきたものを撮るんじゃつまらないし、意味がないってことに気がつきました」
「それからは『この仕草はこう撮ったらどうだろう』『この場面はこの役を中心に撮ろう』って、アイデアがどんどん浮かんでくる。舞台の上で繰り広げられる物語を、自分なりにどう表現して魅せていくか。そうやって考えたものが映像に反映されるのが、もう楽しくって仕方ないんです」
口で説明するのは難しいからと、映像を見せてもらった。
モニターに映し出されたのは、若佐さんが撮影と編集を担当したという舞台『白鳥の湖』。
驚いたのが、カメラワーク。ダンサーを後追いするのではなく、まるで踊りをなぞるように自由自在に動いている。
たとえば、白鳥の姫と王子が一緒に踊る場面。ぐっと近づいて撮影しているけれど、カメラの動きに迷いがない。2人の指先の動きや息づかいまで伝わってくる。
一転、白鳥たちが舞台を駆け回るシーンは、カメラを引いて撮っているようだ。十数人のダンサーがつま先までぴったりと揃えて踊るこのシーンは、遠くから映すことでより美しく見える。
これらは一つひとつの仕草や動きが頭に入っているからこそ、できること。
なんとテスのカメラマンは、メジャーなバレエ作品の振り付けや物語の流れが、ほとんど頭に入っているという。
たくさんの撮影を経験してきた若佐さん。ここで、あるバレエ教室の話に。
「ローザンヌの一次審査に出すためのビデオの撮影を、ずっと自分が担当してきた教室なんです」
ローザンヌ国際バレエコンクールは、若手バレエダンサーの世界への登竜門。10年以上のあいだ撮影を続けていくうちに、生徒たちは成長していく。海外に進出するダンサーも生まれた。
そんな彼らが、特別な舞台のために集まったのが去年の7月。若佐さんにとっても特別な撮影となった。
「はじめて撮ったときにはまだ中学生だった子たちが、うんと成長した姿で帰ってきて。幕が下りたあとは先生も出演者も、みんな顔をぐしゃぐしゃにして抱き合って泣いているんです」
「『ああ、みんな立派になったなあ』って、気づいたら僕も泣いていて(笑)いわば親心ですよね。いままで撮ってきて、本当に良かった」
このような舞台裏の撮影は、アシスタントカメラマンも担当することになる。
隣で若佐さんの話を聞いていた岡本さんも、アシスタントを経てカメラマンとして働いている一人だ。
「アシスタントカメラマンには、幕の裏側を撮ってほしいです。そこにはいろんな表情があるからね」
いろんな表情?
「たとえば、小さな子どもたちが楽しそうに出番を待つ様子。もう少し大きくなると、緊張しながら真剣に舞台を見つめている子もいます。出番が終わると、ほっとして素の表情が見えたりね」
実際に、アシスタントカメラマンが撮った映像も見せてもらう。
幕が下りたあと、花束を持って先生にかけ寄る子どもたち。涙を流しながら「よく頑張ったね」と一人ひとりに伝える先生。とびきりの笑顔で、カメラを向け合うダンサーたち。
メイク中の様子や楽屋の風景、建物の外観も。
どの映像を見ても、みんな思い思いの表情をしている。きっと舞台上では見られない顔だ。
これらの映像は、製品のオープニングとエンディングに使用される。その編集をするのもカメラマン自身で、ルールは少ないから撮る人によって雰囲気はガラリと変わるそう。
製品をぐっと引き締める、大切な役割だと思う。
「僕らは、お渡しする製品がすべてなので。満足してもらえるものを届けるためには妥協しないですね」
そのために気をつけていることはあるのでしょうか。
「撮りそびれないことはもちろんだけど、まずはコミュニケーションをとることかな」
コミュニケーション?
「リハーサルを見たり、教室の先生に『どんな感じがいいですか?』って聞いたりして、イメージを掴んでいきます。仲のいいところだったら『前回のビデオはどうでしたか』って聞きに行くこともあります」
いい映像は、いい関係性から。
まずはこちらを信頼してもらえるように、生徒はもちろん、先生や保護者にも十分気を配る。そうするうちに、「前の発表会のビデオ、よかったよ」とうれしい言葉をかけてもらえるようにもなるのだそう。
ただ撮るだけが仕事ではないみたい。
口コミや紹介による撮影依頼が多いというのも、みなさんの働く姿勢を表していると思う。
最後に話を聞いたのは、営業スタッフの山辺さん。大学までバレエを続けていた経験者だ。
不動産会社や舞台制作会社を経て、2年ほど前からここで働いている。
テスを選んだきっかけは、なんだったんだろう。
「転職活動をしているときに『あっ、テスだ』って、たまたま見つけました。実は小さいころ、テスに発表会を撮ってもらったことがあって。ご縁かなと思って連絡しました」
もともとは、舞台を仕事にするつもりはなかったという。
「バレエや舞台を仕事にするって、やっぱり難しいんです。前に働いていた舞台の制作会社もやりがいはとてもあったけれど、ずっとお休みがないくらい忙しかったし、お給料もきびしくて。でもテスは、ちょうど中間なんです」
ちょうど中間。
「バランスがいいんです。きちんと生活ができて、しかも舞台の仕事ができる。いいとこ取りだなって思いますね」
今は、時間をみて現場に同行して舞台をみたり、製品ができあがる瞬間に立ち会ったりもできる。大好きな舞台のそばで働ける喜びは大きい。
それでも、入社してからは大変なこともあったという。
「私以外の社員は、みんな15年以上働いています。仲も良くて働きやすいんだけど、ずっと新しい風が入ってきていなくて。正直まだまだアナログな部分もあります」
「古くからいる社員はそれに慣れてしまっていて。営業方法や料金体系をはじめ、手付かずだった部分がたくさんありました」
まずはできるところからやってみようと、ホームページをつくり変えたり、料金プランを細分化してお客さんの選択肢を増やしたりした。ダンス仲間にも声をかけて、新たな仕事も開拓している。
やれることはまだまだたくさんあるそう。きっと、山辺さん自身が新しい風となっているんだと思う。
「これまで新しいものが入ってきていなかっただけで、提案したら『おもしろい!やってみよう』とみんな言ってくれるんです。だから、自分からどんどん発信できる人がいいかもしれませんね」
山辺さんからは、テスのカメラマンはどう見えるんだろう。
「テスは、やっていることは昔からあまり変わっていません。他社のように何台もカメラを用意したり、かっこいいプロモーションや派手な映像をつくるわけでもない。それでもお客さんがテスを選んでくれるのは、いい技術と想いを持ったカメラマンがいるからだと思っています」
「一度離れてしまっても、『やっぱりテスのビデオがいいね』って戻ってきてくれるお客さんもいる。これって本当にすごいことです」
撮影は主に土日や祝日と、夏休みなどの長期休み。発表会がとくに多い8月は、多い人だと月に8本ほど撮影にまわる。そのぶん、編集も忙しい。
体力勝負の面もあるし、暦どおりの休みはとれない。それでもみんな長く働き続けているのは、それ以上に舞台や撮影を真剣に楽しんでいるからだと思う。
いまテスが求めているのも、経験よりも舞台を撮ることに本気になれる人です。
ここで再び、取締役の若佐さん。
「僕らはものごとを教えた経験も少ないし、撮影に集中してしまうとカメラにかかりきりになってしまうかもしれない。だから、自分から遠慮なくどんどん発信してくれる人がいいな」
隣で山辺さんもうなずきます。
「わからないことや、やりたいことがあればどんどん教えてほしいです。こちらもどんどん教えていきたいし、関わっていきたい」
ここの皆さんは、本当に楽しそうに舞台や撮影のことを話してくれる。
その顔はどれも優しくて、しがらみなく働くことができそうだと感じた。
最後に、山辺さんが一枚の写真を見せてくれた。これは9年前の、山辺さんの現役最後の舞台での一枚。
なんと、これもテスが撮ってくれた写真だそう。
「入社後に、これを撮ってくれたカメラマンに会えました。『こうやって今でも大切にしてくれてるって思うと、本当にやっててよかったって思うよ』って言ってくれて。それはビデオでも同じこと」
「一生ものをつくるって、こういうことですよね。私は、本当にいい仕事だなって思います」
(2017/5/27 遠藤真利奈)