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土を耕し、無農薬で綿を育てる。採れた綿を打ち、糸車でカラカラと糸を紡いでいく。熟練した職人でも、一日に紡げる糸の量はたったの200g。
できあがった糸はいびつで、織り機にかけると簡単に切れてしまう。
昔から続いてきたもの、より自然に近いもの。そういったものの価値を、世の中に届けている会社があります。
取材したのは益久染織研究所(ますひさそめおりけんきゅうしょ)。糸や布といった繊維製品を自らつくり販売しています。
今回募集するのは、京都・名古屋にあるお店の店長と販売スタッフ。そしてテキスタイルの企画営業スタッフです。
経験よりも、伝統や自然への思い、ものがつくられる過程に共感できる気持ちを求めています。
奈良・法隆寺駅。
名前のとおり世界遺産・法隆寺があるこのあたりは、観光地かと思いきや意外と静かな住宅街が続く。
駅からしばらくいったところにあるのが本社。オフィスとお店が一緒になっている長細い平屋の建物だ。ワークショップを行なうスペースもある。
商品が並べられた部屋で、まずは取締役の吉井さんにお話ししてもらうことに。
すると、自然と創業者で実の父親でもある益久さんのお話になった。ご本人は最近は体調を崩していて、お休み中なのだそう。
益久さんはもともと高度成長期に糸を売る商売をはじめ、大量生産・大量消費を絵に描いたようなビジネス展開。20年にわたって成功させてきた方だ。
ところが、保証人をしていた友人の会社が倒産。自分の会社をすべて手放すことになってしまったそう。
「今でいう何十億という負債を抱えて。父は人を信じられなくなって、それまで自分のしてきたお金儲けのための商売に疑問を感じるようになったようです」
「裸一貫になって考えたとき、もうこういう商売はこりごりだと。今度は世の中に役立つこと、子どもたちに繋げられることをしたいと思うようになったと」
半年ほどは何も手につかなかった。少しづつ行動していくようになり、知識と経験を活かして、主婦たちに天然染色と手織りを教える教室を始める。
「父は、お友だちから『気がおかしくなった』って言われてました。(笑)私は当時大学を出たばかり。資源枯渇の話や、人体に有害だという紫外線の話をはじめた父を見て、キョトンってしてましたね」
益久染織研究所として、お母さまと吉井さんを合わせた3人で再スタートを切ることに。
はじめてみると、なんと独学で身につけたはずの益久さんの天然染色の技術は、古代色研究の先生にも認められるほどのものだったそうだ。
ついには中国からの要請で、農村に染織技術の指導に入ることになる。
「私も同行したんですけど、そこは昔ながらの手紡ぎをしている質素な村でした」
「そのとき見せてもらった藍染の布が、素朴であったかくて本当にかわいくってね。同じ糸でも手と機械ではできあがる布は全然ちがっていて。こういうものを残したい、と思って中国で手紡ぎの糸をつくる仕事をはじめることになりました」
農薬も化学肥料も使わず、微妙な手の感覚だけで木綿の糸を紡いでいく。近代化する日本ではすでに失われつつあった手しごとが、40年前の中国にはまだ残っていた。
益久さんの思いは、その技術を世の中に残していくことに向かいはじめる。
「この技術は日本だと伝統工芸品と呼ばれるレベルなんです。でもその扱いだと高級になりすぎるので継続はむずかしくって。技術を残していくためには日本国内で一般に流通するものをつくらないといけない」
少しでも安くするために量産体制をとるものの、手紡ぎの糸はもろい。動力織機にかけると、すぐに切れてしまう。生地の密度も均一にならない。
切れた部分を繕う細やかな技術や、いびつな糸を染めていく技術。10年以上かけて中国の農家さんや工員さんたちと協力しながら、やっと日本で販売できる製品がつくれるようになってきた。
「多分我々の会社がなくなったら、手紡ぎは世の中から消えてしまうと思います。趣味やクラフトという分野では残るかもしれないけど、それでは一部の人たちだけのものでしかない」
「生活のなかで使ってもらえれば、より長く生き残っていく。私たちは手紡ぎを文化として継続していきたいんです」
手紡ぎの技術を残していくために、これからはもっと国内で製品を流通させていきたい。今後は小売りと卸し事業にさらに力を入れていくそうです。
今の益久染織研究所は、本社を入れて国内に4つのお店をかまえている。
今回募集するのは京都・桂川のショッピングモールの中のお店と、5つ目となる名古屋の商業施設内にオープン予定のお店。
すべての店舗を統括しているのが、販売促進部で中目黒店の店長も兼任されている松野さんです。
第一声は「わたし、すっぴんなんです」というもの。
手紡ぎの和紡布で顔を洗うと、お化粧いらずなんだとか。
有機野菜を販売する通販会社で、10年ほどコールセンターの仕事をしたあと、今度は国内を転々とする生活を送ることに。
アルバイトで催事のお手伝いをしたことがきっかけで、入社することになる。
「前の仕事を選んだときもそうなんですけど、できたら嘘をつく仕事はしたくないと思っていて。商売だからといって、話をおおげさに盛っておすすめするのは嫌だったんです」
益久は違うんですか?
「そうですね。うちみたいな、ものづくりの素性がクリアで自信をもってオススメできる仕事って実はそんなにないんじゃないのかな」
お店で販売しているのは手紡ぎ木綿でつくられた和紡布やストール、ソックスそして糸や布など。ふつうのお店とくらべると少し高く感じてしまうかもしれない。
「値段だけを見て買うか買わないかを判断されてしまうと、良さが伝わらなくてむずかしい商品。そういう意味では売りにくい商品だと思います。だから、なるべくお客さんとたくさん話をするようにしています」
どんな会話があるのでしょう。
「以前、いらしてくれたのは、もともと布ナプキンとか、オーガニックに興味のあるお客さまで、30代の女性2人連れでした」
「お店にある糸車で糸紡ぎをこうやってつくるんですよって実演して、ご覧いただいたら『すごい!』って。自然栽培ということだけでなく、昔ながらの技術で手間暇かけてものづくりをしているんだっていうことに感動していただきました」
話を聞いたそのお客さんたちは、うれしそうに売り場をもう一度見て回って、お母さまへのプレゼントを買っていかれたのだそう。
「よくお客さまに『中国製なの?』って言われるんです。中国製=粗悪品というイメージがあるんでしょう」
たしかに、そういうイメージを持たれてしまいそうです。
「でも、そういうときは、失われていく技術を守るためのものづくり、という話をします。そうするとお客さんの反応もガラッと変わりますね」
松野さんは自分たちの商品のどういうところに魅力を感じているんですか?
「いろいろ魅力はあるけれど、まずは品質がいいんです。はじめはお店に立つから身につけなきゃと思って靴下を買いました。そしたら気持ち良くてほかの靴下が履けなくなっちゃった(笑)」
「なんかホッとするんです。しかも使い込んだほうがいい感じになる。この肌触りには、癒やし効果があると思う」
手しごとのものになぜかホッとしてしまうのはなぜなんだろう。松野さんはいつか科学的に癒やし効果を証明したいんだそう。
店長になる方は数字も見なければなりません。売上をあげていくうえではどんな努力が必要ですか?
「自分が商品を好きであること。その熱量は絶対にお客さんに伝わるし、お店の運営にも影響する。だからまずはなるべくいろんな商品を知って、使って、好きになってほしいですね」
松野さんは店長の経験はなかったんですよね。
「私は小売り自体が初めてでしたし、店長の経験ももちろんない。販売スタッフだと思って入ったから、自信ないですって言ったんだけど。『大丈夫なんとかなるわよ』って言われて。うちの会社はいつもこんな感じ(笑)」
「私もやってみて駄目だったら考えようって思って、とりあえずやることにしました。だから、新しくはいる人に最初からプレッシャーを与える気もありません。まずはパートさんが働きやすい環境づくりをしてくれればいい」
京都のお店は月に一度、名古屋は立ち上げ途中なので頻繁に顔を出すそうだ。心配なことがあれば、都度連絡をしてくれればいいとのこと。
今後お店では手織りのワークショップの企画も予定されている。できる人にはどんどん任せていくとのことだから、興味のある人にとってはまたとない機会がたくさんあると思う。
続いて、企画営業の話をしてくれたのは営業部長の小林さん。
大きな声がよく通る、明るいお兄さんといった方です。
「企画営業の方には、糸や生地の生産管理、企画や営業をしてもらいます」
「たとえば、糸を撚り合わせる方法を変えたり、新しい糸の色を考えたり。同じ織り方でも糸のつくりが違うと、生地はまるで別物になるんです。そういうところを今は吉井が担当しているので、まずはその補佐をしていくという感じ」
企画営業は、卸先に製品を提案していく仕事。スカイプをつかって中国の工場とやりとりをしたり、見積書をつくるといった書類作業。ゆくゆくは中国の工場に行ったり、テキスタイルの企画もしていけるそう。
なんだか専門性が高そうな仕事です。経験は必要でしょうか。
「絶対に必要かというとそうではないんです。結局できるできないじゃなくて、どれだけ好きかなんですよね」
好きかどうか。
「そうですね。でも、中途半端な好きはお互いにとってよくない。」
「どれだけおもしろいと思えるかですね。綿を植える土の段階からやっていくので、0から10を知れる。そういうところにおもしろさを感じられないとしんどいでしょうね」
かくいう小林さんは社会学部出身のサッカー少年だった方。ものがつくられる工程が見える今の仕事は楽しいといいます。
「決まったことだけをするのが好きな人はしんどいと思います。どのポジションでも、うちは決まったことがそんなに多くないんです。発展途上だからこそ、やりがいを見いだせる場所だと思います」
最後に小林さんが、会社についてこんなふうに話してくれました。
「便利なことはいいことだけれど、なくしちゃったものもけっこうあるなって。手間暇かかる丁寧なものづくりを知って、便利さも知っているほうが豊かなんじゃないかって思います」
「大げさに言えば、そういうことを知ってもらうことが我々の責任なんじゃないかなあ」
みなさんの話を聞いてから、わたしも靴下を買いました。やわらかで心地よかったです。わたしは好きになりました。
(2017/6/15 遠藤沙紀)