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わたしたちの事務所で毎日つかっているグラス。取材をしたら、松徳硝子株式会社の工場でつくったものだとわかりました。とても薄くて、まるで飲みものを直接持っているみたい。暑い日にこのグラスで麦茶を飲むと、また格別です。
取材を終えて思うのは、このグラスには松徳硝子のみなさんの工夫が詰まっているということ。
今回募集するのは、ガラス職人見習いと、グラスの検査・出荷・販売を担当する人。どちらもコツコツ続ける仕事も多いけれど、自分で考えて行動することが求められます。
いいガラスをつくるのは当たり前。工夫をかさねて、これからも伸び続けていく会社です。
東京・錦糸町。
デパートや飲食店が立ち並ぶ駅前を通り抜けると、静かな住宅街が広がる。しばらく歩いたところに、松徳硝子株式会社の工場はあります。
「古い工場でしょ。そこが好きだっていう社員も多いですよ(笑)」
迎えてくれたのは、専務取締役の齊藤さん。
少しコワモテだけれど、よく笑いかけてくれる方だ。
松徳硝子は、大正11年の創業。約100年間、数千種類の手づくりガラスを製造してきた。
「もともとは、電球用のガラスをつくる工場です。機械が電球をつくるようになってからは、ガラスを薄く吹く技術を活かして、ガラス器をつくるようになりました」
ガラス器は、すべて職人の手仕事。日本全国の飲食店やセレクトショップ、さらに海外でも人気が高く、信頼も厚い。
なかでも薄さと使い心地にこだわった「うすはり」は、松徳硝子を代表する人気商品だ。
順調にみえた会社が、危機に陥ったのは2004年。
売り上げの半分以上を占めていた観光地への出荷がとまり、一時は廃業寸前まで追い込まれた。
齊藤さんが松徳硝子に加わったのは、2006年のこと。
その当時は、ものづくりの会社で営業所長と広報宣伝を担当していた齊藤さん。うすはりを愛用していたことがきっかけで、ボランティアとしてブランディングや経営企画を手伝うことに。
松徳硝子へ転職したのは、ボランティアをはじめてから4年後。いちばんの危機を乗り越えたとはいえ、経営はまだ厳しかった。
「職人は一人もサボらずに本気でガラスづくりに取り組んでいるし、販売チームも黙々と頑張っている。だからこそ、ここを儲かる工場にしたいと思いました」
儲かる工場。
「いいものをつくることは当たり前だと思うんです。その上で、数をつくって収益を上げて、みんなでいい飯を食う。そうすることで、もっといいものをつくれるし、技術や伝統も次の世代につなげられるんです」
そのために必要なことは、なんでしょう。
「お客さまに評価してもらえるものを、突き詰めることです。僕らの商品は嗜好品です。値段以上の価値があると思ってもらえないと、買っていただけないんですよ」
たしかに、今は100円でもグラスが買える。松徳硝子の商品は1000円から数万円と、決して安いものではない。
「頑張って手でつくったから1500円です、というのでは通用しない。僕らは、機械ではできないことをとことん追求していきたい」
「松徳のグラスで飲むと酒がうまいとか、やっぱり機械のグラスとは違うとか。壊れてしまっても、また買いたいと思っていただけるものをつくる。それが目標ですね」
社長からは、名指揮官と呼ばれる齊藤さん。先頭に立って社員をぐいぐい引っ張っているように見えたけれど、実はそうではないという。
「みんなに任せることにしたんです。今では僕が一週間海外にいても、普通に会社が回るんですよ。それくらい、うちの社員は自分で考えるのがうまいんですよね」
販売チームの三浦さんは、そんな齊藤さんの言葉どおりの人。
経験のないところからはじめて、今ではチームリーダーを任されている。
販売チームの主な仕事は、グラスの検査や出荷の管理。実際に、グラス検査の様子を見せてもらう。
タオルを持って、グラスを回す。光に当てながら、ガラス生地の状態を確認し、かたちの仕上がり、厚さや重みを拭きながら確かめる。不良項目が見つかれば、割って壊す。
集中力と感性が必要な作業だ。検査に通ったグラスがそのままお客さんに届くから、気は抜けない。
ミスがないよう注意していても、最初は失敗してしまうこともあったそう。
「私が検査したグラスが、クレームと一緒に返ってきてしまったんです。見ると、小さな白い異物が入っていて。それは絶対に出荷してはいけないものでしたが、私は気づくことができなかった」
「それからはもっと神経をつかって見るようになりました。迷ったときは、まずチームのみんなにも聞く。そのあと、役員に判断してもらう仕組みもできました」
グラスは、原料となるガラスの状態によって出来上がりが変わる。一つとして同じものはないから、「お客さまに納得してもらえるもの」を念頭に、一つひとつ丁寧に検査していく。
さらに販売チームの仕事は、これだけではありません。
ガラス器を詰める木箱の発注に、在庫の整理やオンラインショップの管理。セールを開催するときには、売り場づくりや品揃えの提案も自分たちで行う。
毎日いろんな仕事をしている三浦さん。仕事をするなかで、どんなことに気をつけているのでしょうか。
「時間を組み立てるというのかな。たとえば仕事がたくさんあって忙しいときでも、商品の包装はないがしろにはできないですよね。違うところで時間を縮めていかないといけない」
自分で時間をつくっていくということでしょうか。
「そうですね。毎日の梱包も、これだというサイズを予測して箱を用意します。そうやって考えながら経験を積んでいくと、闇雲にいくつも箱を持ってきて試すことはないので、空いた時間でいろんな作業ができます」
「小さな工夫の積み重ねですね。うまくいったものは他の人にも伝わるように表にして、皆の目に入るところに置いてみたりもしました。みんなで工夫すればもっと仕事がしやすくなります」
セールのときも、そうした工夫は欠かせない。
あるときは、商品を箱に入れたまま置くのではなく、宝探しのようにランダムに置いてみたことも。
結果的に、いつもよりもぐっと商品が売れるようになったそう。
お客さんの反応や、商品の特徴に常に気を配りながら自分なりに考えているからこそできることだと思う。
「ほかにも、何度も来てくれるお客さんが飽きないように少しずつ品揃えを変えてみたり。アウトレットであれば、売値も自分たちで考えます」
そうした日々の仕事ぶりが評価されて、いまでは新しいガラス器の設計を頼まれることもある。
販売チームのみんなでアイデアを出しあった商品は、今では会社を代表するブランドにまで成長している。
仕事の大小に関わらず、大切にしているのは小さなことから自分の頭で考えて試してみること。
「もちろんうまくいくことばかりではないです。汗をかきながら大量の段ボール箱を運んだり、冬は寒いなかひたすら検品をしたり。体力勝負の面もあります」
「でも、こうして自分たちで考えて行動したことが、少しずつ効率化につながって、売り上げにも貢献している。忙しいけど、やっぱり楽しいし、うれしいですね」
最後に話を聞いたのは、工場長の小田さん。
今では工場全体をまとめている小田さんも、見習いを経て吹きガラス職人として6年間働いていた。
職人には、はじめどんなイメージを持っていましたか。
「雷親父という印象ですね。失敗したら怒鳴られたり殴られたりするのかな、ちょっと怖いなって思ってました(笑)」
「でも入ってみると全然そういうことはなくて。もちろん仕事への姿勢は厳しいけれど、失敗しても考えるチャンスをくれる人たちでした」
職人見習いは、まず先輩の補助作業からはじまる。いざ働いてみると、驚いたこともあったそう。
「すごく器用な職人が一人で完成させるイメージだったんです。でも、実際はそうじゃなくて、みんなが連携して一つのグラスをつくっていく」
「たったひとりの失敗でも、グラスは完成しないんです。補助作業であっても、ミスはできないというプレッシャーはすごくありましたね」
小さな作業も気を抜けない。最初は先輩の動きをまねるだけで精一杯だったという。
「そうやって補助作業をかさねるうちに、少しずつガラスを吹く時間をもらえるようになります。その短い時間を、どうやったらうまく使えるかいつも考えていましたね」
もっと上達したいという思いから、空いた時間に親方や先輩に練習を見てもらったり、特別にガラスを溶かしてもらい技術を教わったりもしたそう。
そうした姿が評価されて、31歳で工場長に任命された。
工場長となってからも、自分から行動する姿勢は変わらない。
「最近、グラスに同じような傷がついてしまうことが続いたんです。それまでは責任者だけで会議をしていたんですが、今回は職人全員に集まってもらうことにして。『この傷、どこでついているか思い当たらないか?』って聞きました」
その場ではわからなかったけれど、次の日の仕事中に「もしかしたらここかもしれない」という声がふと出てきた。
「試してみると、本当にそこで傷がついていました。みんなで納得すればそのあとの作業もスムーズにできる。そこはすごく大切にしていきたいですね」
松徳硝子は、20代や30代の若い職人も多い。聞くと、もともと技術力やセンスを持っていた人ばかりではないそう。
「もちろん特別なセンスを持った人もいます。でもそれよりも、どうやったら上達するかを真剣に考えて、試すことのほうが大事だと思っていて」
「うまくいかなかったときに『なんでだろう?』って考えて、やり方を変えてみる。初心者でも熟練でも、そういう人がいい職人になれるんじゃないかな」
粘り強く考えて、手を動かすことを楽しめる人に合った会社だと思う。
最後に、小田さんにどういう人と一緒に働きたいか聞いてみました。
「グラスには、たくさんの苦労や喜びがつまっています。職人も販売チームも、長い時間がかかってもいいから自分の腕を磨きたいと思える人と、一緒に苦労をしていきたいですね」
松徳硝子で働くみなさんは、どうすればもっといいものをつくれるのか、いい仕事をできるのかを自然に考え、工夫しているように思います。
だからこそ、社内にいい空気が生まれているんだろうな。
そんな社員のみなさんを見守る齊藤さんも、うれしそうにこう話してくれました。
「気持ちのいい工場ですね。職人も販売チームも、社員42人みんなが工夫して頑張ってくれてる。やっぱりうちは、ここからまだまだ伸びていけるんですよ」
松徳硝子は、いいものの先を見つめています。
(2017/6/9 遠藤真利奈)