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建築オタクとコワーキング

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「設計事務所で働く人は、多かれ少なかれ『建築オタク』だと思います。デートで美術館に行っても、まず出てくるのが美術館設計者の名前。そして窓際に行き、手すりの造形に美学を見出したり、ぼそぼそ言いながら壁をスリスリしたり(笑)」

「今回は、ちょっとでもそんな要素を持った方に来てほしいんです」

そう話すのは、建築家の熊木英雄さん。


埼玉・戸田。

このまちに、「川岸倉庫」という一風変わった空間があります。

P1650271 倉庫のなかに、三角屋根の建物。熊木英雄さんの設計事務所「オーガニックデザイン」は、このなかに事務所を構えています。

外観からして変わっていますが、さらに面白いのは、コワーキングスペースを運営しているということ。

今回は、設計事務所のスタッフと設計アシスタントを募集します。アシスタントに関しては、建築学部系で学んできた方であれば、新卒でも歓迎だそう。

東京やロンドンの設計事務所で空港や企業の本社ビルなどの設計にも携わってきた英雄さんは、なぜ戸田市で独立したのか。

設計事務所がコワーキングスペースとともにある意味は?

そして何より「建築オタク」な方に、ぜひ続けて読んでほしいです。


埼京線の戸田公園駅から10分ほど歩くと見えてくる川岸倉庫。

なかに入ると、居心地のよさそうなシェアスペースが現れる。

P1650403 木製のパーテーションは、もともと倉庫で使われていたパレットを利用。胸ぐらいまでの高さしかないから、空間全体がゆるやかにつながっているような印象を受ける。

ブース会員は、フォトグラファーやグラフィックデザイナー、ワークショップコーディネーターに経営コンサルタントなど、多種多様な働き方をしている7名の方々。業種は違えど、近い価値観を持った方ばかりだという。

奥のミーティングルームで話を聞いたのは、代表の熊木英雄さん。

P1650311 31歳まで日本の建築アトリエ事務所で働き、渡欧。

400〜500人が働くイギリスの建築事務所「Foster+Partners」でヒースロー空港の設計やパリのオフィスプロジェクトにも関わる。

その後、当時スタッフ17名の設計事務所「FUTURESYSTEMS」からオファーをもらい、さらに2年ほど働いたそう。

DSC_0056 会社の規模も、文化も異なる環境で働いてきた英雄さん。イギリスで過ごした5年間の収穫は、設計に関する学びにとどまらなかったという。

「徹夜の日もありましたけど、普段は早く仕事が終わった人から、行きつけのパブに集まって飲んだり。会社のスタッフでありながら、家族みたいな感じで」

「そんな深いつながりを持って働けたのは、自分にとってスキルを身につける以上にエキサイティングなことでした」

プライベートもなくがむしゃらに働いた20代と、先端的なデザインや柔軟なワークスタイルに触れたイギリスでの5年間。

これらの経験を経て日本で独立した英雄さんは、2014年10月に川岸倉庫を設立した。

DSC_1081 でも、なぜこの場所に?

「これはひとつのチャレンジなんです」と英雄さん。

「仕事の集まる都心にオフィスを構えるという考え方は、資本主義上、当然と言えます。その一方で、場所を問わず成功している先人もいる。であれば、ここでも豊かな生き方ができるんじゃないか?と思って」

戸田市はいわゆるベッドタウン。都心へのアクセスはいいものの、通勤電車はひどく混雑する。

「郊外にオフィスを構えれば、満員電車で無駄に体力を消耗することもないですし、家賃も安く済みます。結果的に豊かな時間が増えたと感じています」

さらに、コワーキングスペースの存在は、設計事務所の仕事にもいい影響を生みはじめている。

「『個』の技術や魅力を持った7名のみなさんが集まってくださって。朝来て『おはよう』とか、『ちょっと2時間出て戻ってきます』とか。同じ社内のスタッフではないけれど、みなさん言ってくれるんですよね」

月に一回は「川岸倉庫営業戦略会議」という名の交流会を開催。料理やお酒を楽しみながら、会員のみなさんが直近どんな仕事をしていて、どんなことにチャレンジしていきたいのかなど、互いにざっくばらんに話す場を設けている。

IMG_3595 「会員の方が持ち込んでくれた案件をもとに『ぼくが図面描こうか』『工務店はあそこに頼もう』と話しているうちに、“チーム川岸倉庫”ができたりして。実際に今、あるイベントのブースデザインを進めているんです」

地元の大学生レガッタチームがミーティングに使ってくれたり、地場産業である印刷業者の集まりが行われたり、イギリス時代の同僚が来て講義をしてくれたり。

他分野の仲間に日々刺激を受けながら、地域にも開かれた設計事務所の形ができつつあるようだ。

「郊外のまちでいかにビジネスとして成り立たせるか。我々も試行錯誤しながら取り組んでいるので、将来ローカルで独立を考えている方なら、一緒に学べることは多いかもしれません」

今回募集する人は、コワーキングスペースの運営にも携わりつつ、メインは設計事務所での業務を行う。

図面や模型を作成したり、オーガニックデザインの取り組みを広報したり。全国から設計事務所を集めた都内の展示会や地方イベントに同行して、設営を手伝ったりすることもある。

「地元のつながりを大事にしつつ、閉じこもっていても営業にならないという現実も見えてきたので。住宅でもレストランでも、全国各地でいろいろやっていますね」

とここで、模型のあるエリアに案内してくれた英雄さん。

P1650332 計画中のとある住宅の模型を見ながら話を聞く。

「敷地のすぐ近くに歴史的なお堀があって、その桜の風景を生活に取り込みたいと要望をいただいて。さらに聞いていくと、お父さんは自転車を修理できる場所がほしい。お母さんは、お子さんが庭で遊んでいるときにアイコンタクトがとれるようにしたい。アイデアや想いがいろいろ出てくるんです」

「最終的に、一つひとつの部屋が壁で仕切られている機能的なプランと、ひとつの天井の下で暮らしていることが感じられるスキップフロアのプラン、2案をご提案しました。このように複数の選択肢をご用意して、お客さまに選んでいただくのが我々のスタイルですね」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 話を聞き、相手の本当に求めているものを一緒に考えて、整理し、プランとして提案する。

「これだ!っていうひとつの作風は、持たないようにしているんですね。まずは150%相手の話を聞く。そのうえで、単純に具現化するのではなく、自分の知識や経験を加えることでどうしたらより良くなるのかを考えます」

それは、国内外でさまざまな設計や働き方を経験してきた英雄さんならではのスタイルかもしれない。

現在のスタッフは代表の英雄さんと、経理や総務を担当する妻の倫子さん、あとふたりを加えた4人体制。

一緒に働く人としても、近い距離感で、日々意見を交わしながら成長できると思う。

P1650396 「図面や模型を作成したことのある方なら、技術的にはまず大丈夫です。あとは建築オタクというか」

建築オタク。

「建築が好きだという気持ちは、勉強して身につくものではないと思うので。我々のスタイルに共感してくれる、建築好きな方に来てほしいですね」

コワーキングや働き方に関する考えもそうだけれど、第一に設計・建築に対する考え方に共感し、英雄さんとともに働きたいという気持ちがある人なら、とてもいい経験が積める環境じゃないかな。


一通りお話を聞いたあと、「利用者のみなさんにもお話聞いてみましょうか」と英雄さん。

Webアプリの開発やHPの制作をしている清水さん(写真左)、フリーのフォトグラファーとして活動している近藤さん(写真右)というおふたりを紹介してくれた。

P1650360 まずは清水さんから。

なぜここを利用しようと思ったんですか。

「戸田には15年以上住んでまして。たまたまFacebookでオープン準備されてるという情報を見かけて、来てみたんです。そしたら、雰囲気がすごい良くて。空間も明るいし、パーテーションも木の香りがしたり。オープン前にもかかわらず、無理言ってお願いしちゃいました(笑)」

最古参の清水さん。このご縁がきっかけで、オーガニックデザインのHPも制作することに。

「仕事につながることも結構ありますね。普段はWordPressでサイトをつくっていて、そのフロント部分をブース会員のグラフィックデザイナーの方に担当していただいたり」

ほかにも、WordPressの基礎を教える勉強会を開いたり、外部との専門的なやりとりでわからないことがあればちょっとした相談ができたり。それぞれ異なる専門性がうまく活かされているそう。

IMG_4961 こうしたイベントの設営や日常的な清掃などのオフィス環境整備、利用者同士をつなげたりするのも、新しく入る人の仕事になる。

「わたしがWordPressの勉強会をはじめたのも、『やってみませんか?』と声をかけていただいたからなので。そうやってきっかけをつくっていただけると、新たに交流が広がっていく。それこそコワーキングの醍醐味ですし、いろいろと企画を考えられる人がいると面白いかな、と思いますね」

隣で聞いていた近藤さんにも、どんな人に来てほしいか聞いてみる。

「そうですねえ、変態な人がいいですね」

変態な人(笑)。

「みなさん変わってるんですよ。ぼくも含めて。そういう人たちとも近い感覚で話ができて、かつイベントだったりの企画力も必要。圧倒的なコミュニケーション能力で、うまくまとめてくれる人がいいんじゃないかなと思います」

HPのメンバー紹介を見ても、たしかにみなさん個性が強そう。

設計事務所の仕事と両立するのは大変なことかもしれないけれど、裏を返せば身近に異なる世界を生きる人たちがいるということ。さまざまな化学反応を期待しながら、楽しんで運営できる人に向いていそうだ。

「今までまったく接点のなかったような人たちが身近にいて、挨拶しながら入ってこれて、月に一回は同じテーブルを囲みながらちょっと深い話ができる。それだけでも、ぼくにとってはすごいプラスになっているので。ぼくは今後もここを利用したいですね」

P1650343 話し終えたおふたりがブースに戻っていくと、英雄さんが一言。

「ああいう仲間がいるだけでね、毎日が楽しくなるんですよ」

設計事務所とコワーキングスペース。

目に見える形で相乗効果を生むには、まだ時間がかかるかもしれません。

けれども、日々刺激を与え合ったり、ときには協働する機会が生まれたり。そこに広がる空間はとても心地よく、これからローカルで独立を考える人に向けて、ひとつの道を示しているようにも感じました。

広い世界を見ながら建築を突き詰めたい方は、ぜひ。

(2017/7/4 中川晃輔)