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仕事も娯楽もあふれている都会に比べて、地方には何もない。私は地方に住んでいたころ、そんなふうに思っていたことがありました。
けれども、地元の人が当たり前だと感じているものこそ、まちを変える大きなきっかけになるのかもしれません。
千葉県南房総市。
房総半島の先端にある人口4万人ほどのこの地域は、海と山に囲まれ、食も豊か。
ここには、そんな”当たり前”がたくさん眠っていると思います。

職種は2つ。
まずは、市内の観光をつかさどる事務局のスタッフ。事務局といっても、机の上で事務作業をこなすだけのイメージとは大きく異なります。
市内を見渡して、埋もれている資源を掘り起こし、国内外へ広く発信する。
さらにそれらの資源を組み合わせて、新しいレジャーや商品、事業の企画にもチャレンジしていきます。
そしてもう一つが、ヘルスツーリズムを担当するスタッフ。南房総の自然を活かして、健康になってもらう旅行づくりに取り組むのが、主な役割です。
こちらはすでに市が先導して取り組んでいるけれど、まだまだブラッシュアップしていけそうです。
東京駅からバスに乗り、高速道路を海沿いに下り1時間半。南房総市の道の駅・とみうら枇杷倶楽部に到着する。

迎えてくれた市の観光プロモーション課の忍足(おしだり)さんにそのことをお話しすると、こう話してくれた。
「そうなんです。ここには海も山も、花も食べものも全部ある。でも僕たちだけでは、これらをまだうまく活かせていなくて」

たとえば、原岡桟橋(さんばし)。
昨年インスタグラムで話題になり、今では数多くの人が訪れる人気スポットとなった。それまでは地元住民しか知らない場所だったという。

「こんなふうに、お客さんと住民の間にはギャップがあるんです。このままだと、お客さんも住民も南房総のことを知らないまま、市全体がどんどん小さくなってしまう気がして」
どうにかしなければという思いから、行政と住民で新たな観光組織を立ち上げて、観光客を呼び込む準備を始めたのが10年ほど前のこと。
だけど結果として、うまくいかなかったという。
「情報を発信するにしても、新しい観光をつくるにしても、内輪では何を取り上げればよいのかわからなかったんです」
たとえば、当時の海の観光は海水浴をメインにしていた。
美しい海を活かした新しい観光の一つとして、ダイビングやシュノーケリングなど、マリンレジャーのブラッシュアップにも取り組みたかったけれど、そこまでは出来なかったそう。
「市町村合併したばかりだったこともあって、地域としてもうまくまとまりきれなかった。けれど、時代に取り残されてゆく不安はどんどん大きくなっていって。もう一度、なんとかしようと決めたんです」
そこで3年前に再編されたのが、観光協会、そして住民や地域おこし協力隊が一丸となって観光を推進する事務局。
観光マーケティングやプロモーション、そして商品開発など、幅広く取り組んでいる。
これまでのようにただ観光客を待つのではなく、来てもらうための組織だ。
そして、事務局の具体的な取り組みの第一歩として、ヘルスツーリズムを推進していくことに決まったのだそう。
「南房総は都会に近く、自然にも恵まれています。木陰を歩く森林浴ツアーなど自然そのものを活かしたものや、海を見ながらのヨガ。まだ始まったばかりなので、もっといろんな企画をしていきたいですね」

そんな組織の中心となっているのが、市内で民宿も営む観光協会長の堀江さん。
とても気さくな方で、話すうちにすっかり引き込まれてしまった。

「海水浴離れだ、どうしようって言っているうちに、民宿はどんどんなくなった。25年前には、もう50軒くらいになって、今も減り続けている。お客さんも、1年で10%ずつ減っていった」
このままでは、地域そのものがなくなってしまう。
そこで堀江さんが目をつけたのは、かつて観光産業として栄えた花畑だった。
「一面の花畑が、後継者不足でどんどん虫食い状態になってしまって。なんとかしたくても、外野から『花畑は大切だから、残してください』って言うだけじゃダメだと思ったんだよ」
「だから俺は、まず自分たちが花を使うところから始めようと思って。花の民宿・おもてなし宣言というのを考えて、他の民宿も巻き込んで、花を食べる観光をはじめたんだよね」

開始以来、10年以上継続している大成功プロジェクトだ。
それでも堀江さんは、「このままじゃいけない」と続けます。
「これまで俺は、自分の頭に思い浮かんだものをどんどんやってきた。でも俺の考えることや、やれることには限界があると思っていて」
どういうことでしょう。
「個人で頑張っていても、限界があると思うんだ。たとえば今の南房総は、皆で協力すれば100人呼び込めるところを、5人で満足しているような気がしていて」
「でもみんな、地元から人がいなくなるのを間近に見ている。真剣にやるべきときが来たと気づいているんだよ。だから今こそオール南房総で、スクラムを組んで取り組むべきだと思うんだよね」
今回募集する協力隊にも、そのスクラムに入ってほしいという。
「お互いの右腕になりたい。机の上だけじゃなくて、まずは一緒に足を動かして、汗をかきたいね。そしてここにあるものをつかって、商品やツアーをつくったり、俺らじゃ気づかない南房総を発信してほしい」
たとえば、民宿と漁業を組み合わせて、都会に住む子どもたちのための教育旅行をつくることも始めているそう。

「内から見たらわからない魅力を教えてほしいし、どうやったら人が来てくれるかを一緒に考えてほしい。正直、事務局の整備も、ヘルスツーリズムのブラッシュアップもまだまだだと思っている。新しく入って来る人には、『なんだ、こんなこともやっていないのか』って言われるかもしれないね(笑)」
「でも、俺らは本気。本当に小さなところから一緒に変えていきたいし、そうすることで南房総の未来も変えられると思うんだよね」
ここまで聞いていると、新たに入る協力隊は大変そうです。
すると堀江さんが一言。
「何でもかんでも協力隊が責任を持て、ということは決して言わないし、思ってもいないから安心してほしい。あくまで、南房総の大切な一人として一緒にやっていきたいんだよね」
実際に協力隊として働く方にも、お話を聞いてみます。
瀬戸川さんは、南房総市にとって初めての協力隊員。
半年前から、インバウンド観光のプロデューサーとして外国人観光客の誘致につとめている。

南房総には、どんな縁があったのでしょう。
「10年前、夏休みを1泊だけ取れたんです。ちょうどアクアラインも開通したし、試しに一度行ってみようと南房総まで車を走らせて。海岸で車を停めて、驚きました」
「都心からたった1時間で、こんなに素晴らしい海があるんだ、って。夕日で真っ赤に染まった海と、浜辺にビーチパラソルをさすおじいちゃんの姿に心を揺さぶられてしまって(笑)ああ、ここすごくいいなって心に響いたんです」
その風景が忘れられず、数ヶ月後には別荘を購入し、週末には南房総を訪れるという生活を続けていた。会社を引退した去年、協力隊に応募したという。
「東京からこんなに近くに、素晴らしい環境があるのに、それを活かしきれていない。もったいないんです。自分も南房総のためにやれることはないだろうか、と思って協力隊になりました」
実際に協力隊として活動していくなかで、気づいたこともあったそう。
「南房総は、まだコンテンツが弱いんです。観光後にどこが良かったかを聞かれても、なかなか思いつかないというアンケート結果もありました」
「それに、これから外国人観光客を呼ぼうとしても、英語の表記がそもそもなかったりする。これらを変えるためには、実際に観光客を連れて来てしまおうと考えたんです(笑)」
そこで始めたのが、サイクルツーリズム。
サイクルツーリズム協会を立ち上げ、まずは外国人観光客向けにツアーを組んだ。
「1日70キロくらい、山あいや海沿いをサイクリングして。途中、地元のレストランで美味しい海鮮を食べたり、民宿に泊まったりもしました。神社で火渡りの儀式もしたんですよ」
「参加してくれた方も、『東京からこんな近くに、こんな場所があるんだ』って驚いてくれました。まだまだ発展途上だけれど、やっぱりこの地域には人を惹きつける魅力があるんです」

新しく入る人も、まずは行動に移すところから始められたらいいかもしれない。
「南房総は、外部と内部の力がバランスよく組み合っています。地元の方も、なんとかしたいという気持ちを持っているから、気持ちよく協力してくれる。とても恵まれた地域だと思いますよ」
そう笑う瀬戸川さんの表情は、とても楽しそうでした。
最後に、印象的だった観光協会長の堀江さんの言葉を紹介します。
「とにかく、空回りしたっていいんだよ。失敗したとしても、俺らが守るから。だからまずはこの南房総の資源を使って、どんどん挑戦してほしい」
「それがその人自身の財産になって、協力隊の任期が終わったあともずっと関わっていけるとしたら、これ以上のことはないよね」
南房総では、協力隊も地元の人も一緒になって、新しい風を起こす準備が始まっていました。
(2017/7/12 遠藤真利奈)