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「もののよさって、触れたときに感じることができると思うんです。そこから、これはどうやってつくられているんだろう、自分はどういうものが好きなんだろうと思いをめぐらす。身近な雑貨をきっかけに、ものとの関わりを考える機会がもっと増えてもいんじゃないかなって」これはオールドファッション株式会社の間中さんの言葉です。
職人が手縫いしたリネンのハンカチ、薄手の織物生地でつくられたトランクスや天然繊維で編まれたソックス…。
いい生地を使って、身近な職人さんたちにつくってもらう。
どこかほっとする、そんなものづくりをしているのがオールドファッション株式会社です。
ハンカチ専門店の「H TOKYO」「swimmie」をはじめ、男性用トランクス専門ブランド「TOKYO TRUNKS」、メンズ靴下専門ブランド「SOC TOKYO」、竹と布でつくる房州うちわ「TOKYO UCHIWA」など、身近なものをプロデュースしてきました。
今回はそれぞれの専門店ではなく、「OLD-FASHIONED STORE(オールドファッションストア)」として新しくオープンする上野店のスタッフを募集します。
東京・世田谷区。オールドファッション株式会社ストアが一番はじめにスタートしたH TOKYO三宿(みしゅく)店があるのは、三軒茶屋駅と池尻大橋駅のちょうど真ん中あたり。駅から歩いて10分ほどのところです。
お店に入ると色々なハンカチが置かれていた。手前に並ぶのは、素材感がいい無地のもの、奥にはカラフルなプリントハンカチ。
カウンターにはミシンや色とりどりの糸があって、頼むとハンカチに刺繍もいれてくれる。
ものづくりの現場に入ったときのようなワクワク感がある。
お話を伺ったのは、オールドファッション株式会社代表の間中さんです。
「ぼくが『あったらいいな』って思ったものをつくっているので、ここにあるのは基本オリジナルのものばかりです」
まずハンカチをつくろうと思ったのはなぜですか?
「ハンカチを買おうと思って百貨店に行ってみると、ブランドで出されているものが多いですよね。それも素敵なんですけれど、ぼくは純粋に生地の質感やデザインの良さで選びたいなと思って」
間中さんの前職はバイヤーで、ハンカチを担当していたそう。
自分が本当にほしいと思うハンカチをつくりたいと思ったとき、取引先のハンカチの大手メーカーでは、決まったデザイン画から選ぶことしかできなかった。
「それなら自分でお店を持って、自分が本当にほしいものを身近な人とコツコツつくろうと思ったんです」
まずは生地屋さんを探すところから始まった。日本では前職で付き合いのあったところも含め兵庫の西脇や新規で静岡の浜松でいい生地を見つけた。海外ではイタリアやスイスからも。
縫製工場は横浜で見つけた縫製工場にお願いすることに。
「一番多いのは、横浜の工場です。工場といっても少人数で、家族と近くに住む内職さんでつくっているところが多いですよ」
戦後スカーフが輸入された横浜では、スカーフやハンカチの縫製、プリント工場などが栄えた。専業にしているところも多く、職人技と呼べる技術が残っている。
「ハンカチって4辺と隅を縫うだけみたいに思えるかもしれませんね。けれど、布なので固定しづらいですし、伸縮もします。正確に四角く縫うのって技術がいるんですよ」
オールドファッションのハンカチの多くは、端を千鳥(ちどり)という縫い方で縫っている。工程が増え、技術的にも難しくなるものの、カッターや縫製ミシンの仕様で中から糸が出にくいのだとか。
厚手の生地のときは、端を丸めて直線に縫う三巻(みつまき)という手法を使ったり。
「こうした技術をもった職人さんは高齢化して、どんどん減っています。日本で丁寧につくれば、工賃も高いです。でも、安くするために国外へ外注すればいいかというと、ちょっと違うなと思っていて」
「身近にいいものをつくれる人がいれば、まずその人と一緒につくりたいんです」
どうしてでしょう。
「接客にもつながることなんですけど、ぼくは顔を見て話すということが一番大事だなと思っていて。常に工場を訪ねて、ものづくりに対する想いや考え方を知る。それをまた、お客さんに直接伝えていくのがわれわれの使命だと思います」
顔を合わせて話せば、細かなニュアンスや言葉の裏にある思いも伝えられる。
たとえば、工場に縫いづらいものをお願いするとき。
以前「これは硬くて縫えません」という手紙と一緒に、生地がそのまま返ってきたことがあった。
「訪ねてみると、その理由が『きれいに縫えないからイヤなんです』って。やっぱり職人さんなのできれいに縫いたいんですね」
「それでも、手の空いたときにちょっと試してもらえませんか、ぼくたちはこんなものをつくりたいんですって想いを伝えると、しぶしぶ縫ってくれたりするんです」
はじめはしぶしぶでも、本気で試行錯誤を重ねてくれて、きれいに縫えるようになることも。
会って話すことができるから、こういうものづくりが実現できる。
「ものの成り立ちが見えると、関わり方も変わってくると思うんです。昔はものが壊れると、自分たちで手を動かしてなんとなくでも直してしまう、ものとの近さがあった」
「そういう感性をもう一度見直してみるのも、大事なことなんじゃないかなと思います」
自分たちの感性を大切にする。それはほかのスタッフも同じです。
「わたしは布がすごく好きなんです」と話す谷口さんは、美大でテキスタイルを専攻していた方。
街を歩いて布製品を探していたとき、H TOKYOを見つけた谷口さん。インターン、バイトを経て、半年前にスタッフになった。
「ここはいろんな織りやプリントのハンカチたくさんあって、布好きとしてはたまらないお店です(笑)」
「接客では、そういった生地のよさや職人さんの技術を伝えることを心がけています」
あるとき「このくらいの予算でハンカチを探している」という方がお店にいらっしゃった。ただ、話を聞いていると、リネンが好きな方だとわかった。
予算から少し高くなってしまうけれど、いい生地があることを思い出す。
「そのリネンは、先染めと呼ばれる方法で織られたものです。糸を染めてから織るから、深い色味が出て、色落ちもしにくい。しかも、職人さんが一つひとつ手縫いしているんですよ」
そんなふうにお客さんに紹介しながら触ってもらうと、気に入って買っていただけたという。
「値段が高いと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、それだけの価値はあるし、長く使えるものだと思います」
「ただ、商業施設の中にあるお店の場合、営業時間内にたくさんのお客さまがいらっしゃいます。短い時間の中でどう伝えるかは、今も探っている感じです」
会社内では、ものづくりや接客に関する「ハンカチ研究会」という研修もある。工場見学をしたり、職人さんとコミュニケーションがとれる機会もあるそう。
「スタッフにはものづくりが好きな人も多いです。お休みの日に帽子やアクセサリーを制作したり。わたしもプリントの柄を描いたりしています」
仕事と好きなことが重なっている。だからお店にも、楽しげな空気があるのかもしれません。
続けて、H TOKYO三宿店店長の岡崎伊都子(いとこ)さんにもお話を聞きました。
岡崎さんは、入社して7年目。前回の日本仕事百貨の募集でH TOKYOを知ったそう。
「前職ではインハウスのデザイナーをしていました。ずっとパソコンに対峙していたので、もう少し人と話せる環境にいきたいなと思って」
「とにかくお店に行ってみようと思って来てみたら、とてもいい距離感で接客してもらって。ここなら、と思って応募したんです」
今は、お客さんとお話する時間が一番好きなのだとか。
「うちの商品は、たいていポケットのなかにあったり、常に表には出ません。でもだからこそその人の違う面を表現できるのかなと思うんです」
「たとえば、トランクスを選んでいるお客さまが『派手かな』と悩んでいたら、いいと思いますよ、と背中を押したり、結婚記念日にハンカチに刺繍を入れて贈りたいという方にはメッセージを一緒に考えたり。その人のことを一緒になって考えられることが楽しいんです」
そんなエピソードからも、お客さんと過ごす時間を大切にしていることがうかがえる。
今回募集する上野店の店長さんも、岡崎さんのように接客しながらお店づくりを担っていく。
とくに経験は問わないそう。岡崎さんも、一から覚えていったといいます。
「品物の管理をしたり、売上を見たり。やっぱりお店である以上売らないといけないので、どうやったら買ってもらえるのかというところは考えてきましたね」
たとえば、ディスプレイ。実は岡崎さん、ディスプレイがとても苦手だったそう。
「最初はうまくできなくていじけることもあったけど、先輩やほかの店舗さんを見たり聞いたりしながら真似してみました」
「そしたら、こまめに変えたほうがお客さんが楽しんでくれるということが分かったんです。立ち止まって見てくれたりすると、その反応に『やった!』って。仕事が自分ごとになって、より楽しくなりました」
お店の売り上げ目標やディスプレイも、スタッフと共有しながらつくる。だから、「分からなかったりできなかったら、自分一人で悩まないで訊いてほしい」といいます。
「わたしも失敗したとき、マネージャーに『いとちゃんがどうやったらできるか、一緒に考えよう』って言ってもらいました。もののつくり方もそうですけど、スタッフ同士もコミュニケーションできることがこの会社のいいところだと思います」
オールドファッションという言葉は、直訳すると「時代遅れの」という意味になるそうです。
少し前の時代には当たり前だった、ものづくりや関わり方。忘れかけていた大事なものが、ここにはあるように思いました。
(2017/7/18 倉島友香)