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「リノベーションしたゲストハウスもあり、地域の畑でつくる食材を使ったレストランもある。小さい規模でも、まちの資源を残しつつ新しい活動がいっぱい生まれて、それが面としてつながっていったら面白くないですか?」これは、田辺市役所・鍋屋さんの言葉です。
世界遺産「熊野古道」の入り口として巡礼者を迎える和歌山県・田辺市。

今回募集するのは、その活動を一緒になって加速させていく地域おこし協力隊。
具体的には、市街地におけるリノベーションまちづくりに取り組む人、山間の地域でそばの栽培から販売までを担う人、熊野古道「滝尻王子」がある地域で見晴台や茶屋を活用した取り組みをしていく人の3職種です。
詳しく話を伺うため、市街地と龍神地区を訪ねました。
羽田空港を飛び立った飛行機は、1時間ほどで南紀白浜空港に到着した。
空港まで迎えに来てくれた田辺市役所の鍋屋さんと、市街地へと向かう。
市街地には、味光路という200軒ほどの飲食店が軒を連ねるエリアがあったり、イルカと触れ合える扇ヶ浜海水浴場があったり。闘鶏神社は、昨年、世界遺産に追加登録された。
田辺市にはいろんな要素が詰まっている。

田辺市の空き家率は18.9%と、全国平均よりも割合が高くなっているそう。
市としてもリノベーションによるまちづくりを普及させようと、リノベーションセミナーを開催するなど、これまで積極的に活動を仕掛けてきた。
リノベーションセミナーでは、地域内外から参加した人たちがチームとなり、まちに存在する遊休不動産を対象に事業プランを練り上げ、不動産のオーナーに提案した。
ただ、なかなか事業化には結びつかず、模索する日々が続いていた。
けれども、蒔いた種は確実に芽を出しつつある。
それを象徴するのが、「theCUE」という場所。

この場所をつくったのが、LLPタモリ舎の5人。
LLPタモリ舎は、建築関係の仕事に強みをもったメンバーが集まり、昨年10月に設立された。
ゲストハウスの一室で、代表の中村さんに話を伺う。

「もともとリノベーションには興味があったんです。空き家が増えつづける一方で、新築需要は減っていく。自分たち大工も、何か新しい仕事をつくっていかなあかんなと考えていました」
「リノベーションセミナーに参加して、強い刺激を受けました。参加メンバーのなかでは僕が一番若かったし、なんかせなあかんやろうなって思ったんです」
そのとき、ゲストハウスを運営するオーナーと出会ったこともあり、空き物件を活用する事業の実現に向けて、中村さんはのめり込んでいく。
すると、田辺のまちにかつての賑わいを取り戻そうという想いをもった同志も集まった。
メンバーとともに地域の課題を見つめるなかで、田辺市の抱える2つの課題解決に向けたプロジェクトをはじめる。
課題の1つ目は、空き家がどんどん増えていること。2つ目は宿泊施設が整っていないために、観光客が街に滞在する需要をうまく取り込めていないこと。
これらの課題を解決するために空き家を再生させて、ゲストハウスをつくることになった。
「ゲストハウスは観光客の方に泊まってもらって、シェアハウスは田辺で何かしたいという目標をもった子に定住してもらって。カフェバーには地元の人たちにも訪れてもらう」
「いろんな人が交わって話をすることで、面白いアイデアを生み出したり、何かをはじてみようと思うきっかけになる場所にしたいなと思いました」
交わりを生む。それはtheCUEをつくる過程にも一貫して表れている。
地域の人や市役所の人たちも一緒になってDIYをしたり、掃除ワークショップを行なったり。まちの人たちを巻き込みながらこの場所をつくっていった。

「玄関扉に使われている木材は、もともと梁に使われていたもので、ノミや釘の跡がついていたんです。それを70歳近い建具屋のおっちゃんに、扉としてつくりかえてもらって。『こんなんで建具つくるのはじめてや!』って言いながらも、出来上がりを見て『なかなかええ感じやなぁ』って言ってくれました(笑)」

現在シェアハウスに住み、管理人を務める西山さんも、theCUEを一緒につくっていった一人。
イルカのトレーナーを目指して、夏のあいだ栃木県から扇ヶ浜に訪れていた。田辺のまちが好きになり、今年の3月に移住してきたそう。

「もしかしたら、空き物件を持っている人が見て、うちの家も貸してみようかなと思ってくれるかもしれない。この場所に感化されて新しい動きが出てくる、そのはじまりを見ている気がしますね」
これから加わる協力隊は、受入団体である南紀みらい株式会社に所属して、リノベーションまちづくりに取り組んでいく。
まちを巡って空き物件の掘り起こしをしたり、情報をデータベース化したり。その情報をもとに、移住者や起業希望者と物件とのマッチングを行っていく。
マッチングできたら、空き家・空き店舗を活用して事業をはじめてもらい、賑わいを生むことが最初の目標だそう。
ゆくゆくは、中心市街地エリアで事業に取り組む人たち同士をつなぐことで、面的なまちづくりにしていく構想もあるといいます。
市街地をあとにして、次に向かったのは山間にある龍神地区。
ここでも、地域のなかからまちおこしの活動が生まれているよう。
そばづくりを担っていく協力隊は、「NPO法人ええとこねっと龍神村」に所属する。
立ち上げの経緯について話してくれたのは、29年前にIターンでこの地域にやってきた理事・竹内さん。
きっかけは、12年前に行われた市町村合併だったという。

自分たちの暮らす地域を守ろうとNPO法人を立ち上げた。
これまでに、都市部の就農希望者の受け入れ態勢を整え、高齢化によって増え続けている農村部の耕作放棄地問題を解決していく「食・職を耕す龍神村プロジェクト」などを行なってきた。
現在メンバーは21名。Iターンでやってきた人も多いし、家具職人もいれば芸術家がいたりと、多種多様な人たちが集まっている。
そんな、ええとこねっと龍神村が昨年から取り組みはじめたのが、そばづくり。
もともとこの地域でそばをつくっていたわけではないというのに、どうしてそばだったのだろう。
「そばは水やりの必要がなく、稲作に比べて比較的栽培しやすい。耕作放棄地を活かせるんじゃないかと思って」
「今は僕らが種まきから耕作まで全部やっているけど、本来は地域の人が育てて、育てたものを我々が確実に買い取る。そうやって地域を活性化していこうというのが目的で、そばはその手段なんです」
現在、竹内さんたちとそばづくりに取り組むのが、地域おこし協力隊の川野さん。
都会よりも静かな田舎で暮らしたいと、昨年12月、19歳でこの地域にやってきた。

そばづくりの仕事はどうですか。
「夏に種まきをして、11月ごろ収穫します。冬は肥料をまいたりして土づくりをします。今もどんどん新しい畑をつくるため、地域のあちこちを移動することが多いです。そこは大変に感じるかもしれません」
そばの製造は、廃校だった中学校を改装した施設で行っている。
つくっているそばには特徴がある。龍神温泉とともに「日本三美人の湯」として知られる出雲・湯の川温泉と群馬・川中温泉と絡めて、出雲のそば粉と群馬の小麦粉、そして龍神のそば粉の3つをブレンドしているのだ。
川野さんは経験がないなか、先輩移住者に教わりながら、粉の比率や水分量、粉の引き具合、生地を機械でプレスする回数などを何度も試していった。

自分にできることを増やそうと、今後は狩猟免許も取得していく考えだ。
さらに、地域の人とも積極的に関わっていきたいと話す。
「まずは地域の人からいろんな話を聞いて、すべて吸収するつもりで勉強しようと思っています。そのためにも、地域のイベントや行事には足を運んでいます」
そんな川野さんの思いを地域の人たちも受け止めていて、歓迎会や誕生日会を開いてくれたのだとか。あたたかく迎えてもらっている様子が伝わってくる。
「すぐに地域に馴染めるようにするさかい!」
明るくそう話すのは、ええとこねっと龍神村の理事長・後藤さん。

今後の大きな目標は、そば専門店をつくること。
地域で採れる里芋を練り込んだそば生地を開発してもいいかもしれないと、目を輝かせて話してくれた。
「人口は減ってもしょうがない。けどな、どれだけ人間らしく生きていけるかということが大事なことだろうなって。若い子が持続的に働けるようにお手伝いしていくことが、僕らのこれからの課題です」
まちが抱える課題は、解決していくまでに長い時間がかかると思います。
でも、いま田辺市で根をはりつつあることは、きっと未来に実りをもたらしてくれる。

(2017/07/12 後藤響子)