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良理道具の案内人

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

東京・合羽橋。

調理道具屋が並ぶ問屋街の中ほどに、料理道具屋の釜浅商店はあります。

釜浅商店が扱うのは、“良理”道具。

“良い道具には良い理(ことわり)がある”というコンセプト通り、鍋や庖丁、フライパンなど、長年つくり、使い続けられてきた道具が並びます。

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取材を終えて思うのは、釜浅商店の道具は、その理を伝える人がいてこそ良理道具として光っているのかもしれないということ。

今回は、そんな良理道具を案内し、伝えていく人を募集します。

田原町駅を出て10分ほど歩くと、合羽橋商店街が見えてくる。

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下町の雰囲気がただよう通りを歩いていくと、ひときわ洗練されたのれんのお店を見つけた。

創業109年の料理道具屋、釜浅商店だ。

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のれんをくぐると、商品を手に取りながらスタッフと話すお客さんの姿が見える。

迎えてくれたのは、4代目店主の熊澤大介さん。

早速、話を聞いてみます。

「浅草にある釜屋だから、釜浅商店。創業以来、ずっとこの場所で料理道具屋を営んでいます」

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熊澤さんも、お店で働くお父さんの背中を見ながら育ったという。

「ずっと、うちって面白い仕事をしているなって思っていてね。3代目の親父は、仕入れたものを売るのはもちろん、他のお店で断られた難しい注文も、『面白いからやってみよう!』と受けていたんですよ」

ただ商品を売るだけではなく、問屋さんや職人さんと一緒に新しい商品もつくってみる。

お店は、合羽橋の中でも特別な存在だったといいます。

「僕はもともと中目黒のインテリアショップで働いていて。けれどそんな親父の仕事ぶりを見ていたし、テレビ番組『料理の鉄人』の人気もあって、料理をつくることが格好いいというイメージが世の中に広がっていった。やっぱりうちは、いろんな可能性を秘めている店だと思ったんだよね」

それでも、30歳でお店を継いだときには危機感もあった。

「飲食店を開くときは、合羽橋ですべて揃うと言われていたのに、ホームセンターやネットショッピングでこと足りるようになって、だんだんとお客さんが減っていったんです」

もともと合羽橋は、プロが調理道具を揃えるための問屋街。

バブル以降、飲食店の景気が回復しないなか、客足も遠のいていったという。

一方で、だんだんと増えてきたのが一般のお客さんだった。

「スカイツリーができて、メディアでも合羽橋が取り上げられるようになって。でもせっかく来てもらっても、一般の方にとっては、まだまだ入りにくい店だった」

当時の店内は、商品が天井まで積まれたレイアウト。はじめての人には入りづらく見づらかった。

「基本的にはプロ向けの店なんだけれど、やっぱりそれだけじゃいけない。一般の方もこれだけ来てくれているのなら、その人たちにも喜んでもらえるような店にしないといけないと思って」

そうして6年前に、リブランディングに踏み切る。

店内の棚を取り替え、お客さんが手に取りやすいような目線の高さに。

通路にもゆとりをもたせて、商品の並べ方も見やすいように工夫もした。お店のロゴや、名刺のデザインまで一新したそう。

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そのときに生まれた言葉が、“良理道具”だった。

「道具というのは、一つで何役もできるという器用なものではないけれど、それぞれの特性に合わせて使えば右に出るものはない。長年つくり続けられているものには、形や素材、一つひとつに理由があるんだよね」

たとえば庖丁の刃は、繊維を切りやすくするために曲線を描きながら先へいくほど鋭く尖る。これも、長い時間をかけて現在のかたちになっていった。

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「そういった料理道具を、良い理を持つ『良理道具』と言いかえて。値段は張るかもしれないけれど、いいものを手に入れて、手入れしながら自分だけの道具に育てていく。そういったことを伝えていく店でありたい」

「だからうちは、便利なキッチンツールは置いていない。一方で手仕事がすべていいとも考えていないよ。機械でつくったものでもそこに理があれば取り入れたい。だって、使うための道具だもんね」

釜浅商店が大切にする“良い理”。

今では、道具だけではなく働き方の指針にもなっているといいます。

「商品を仕入れるときにも、『これは良理道具といえるだろうか』と考えるし、『いまの自分の仕事は良理と言えるか』と立ち止まる。皆がその感覚を共有できているんだよね」

良理道具を伝える人にも話を聞いてみます。

庖丁フロアのマネージャーの内田さんは、日本仕事百貨を見て入社した一人。

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以前働いていた人材会社で、どのような仕事があるかを調べているときに釜浅商店を知ったといいます。

「正直、それまで料理に惹かれたことはなかったんです。けれど釜浅の記事が、なぜかすごく引っかかって。考え方に芯が通っていて、すごく面白いと思ったんですよね」

実際に働いてみて、驚いたことがあったそう。

「庖丁は、すぐ駄目になる消耗品ではありません。長く使える道具だから、お店は頻繁に訪れる場所じゃないと思っていて。けれど釜浅には一般の方からプロの方まで毎日たくさんのお客さんに来ていただくんです」

それだけではなく、庖丁への思い入れを教えてくれる方がとても多いそう。

「去年、古い庖丁を直してほしいというお客さんがいらっしゃいました。聞くと、70年前に購入してから、ずっと使ってらっしゃったそうなんです」

「その庖丁は直せなかったのですが、庖丁への思い入れをお聞きしながら、新しい一本を選びました。道具を通してその方の歴史を見たようで、すごく印象に残っているんです」

愛着を持って使う道具を、釜浅商店で選ぶ。

こういう時間が生まれるのは、もちろん良い道具を扱っているというのもあるけれど、スタッフの日々の接客の積み重ねでもあると思う。

「なかには何度も買いに来てくださるお客さんや、スタッフ宛にお礼の手紙をいただくこともあります。とても励みになりますね」

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さらに、内田さんからはこんな言葉も。

「いま、これまで誰も手がけたことのないような庖丁をつくっているんです」

誰も手がけたことのない庖丁?

「1年前に『お客さまの前で使うと、パッと映えるような庖丁をつくりたい』という板前さんがいらっしゃいました。カウンターで魚の切り身を引くときに、お客さんがあっと驚くような柳刃庖丁が欲しい、ということです」

釜浅商店には、オーダーメイドの商品を求めるお客さんも多く訪れるのだそう。

特に料理人の方は、道具を身体で使っているため感覚で話すことも多い。お客さんのイメージに近い庖丁を一本ずつ手に取ってもらい、丁寧に確かめながら図面を描く。

そうして出来上がったイメージを、問屋さんを通して職人さんにつくってもらう。

「一般的な柳刃包丁の刃渡りは33cm程度まで。ですが今回は42cmの庖丁をつくってもらうことになりました」

「それだけ長いと、厚みがなければ刃が割れやすくなってしまいます。でも厚い刃ではスッと刺身を切れません。今回のような庖丁は、職人さんも今までつくったことがないそうなんですよ」

これまで経験のない難しいものづくりに挑戦できるのも、日頃から職人さんとの関わりを大切にしているからこそ。

釜浅商店では年に3回ほど、産地の職人さんを必ず訪ねているという。

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直接顔をあわせることを欠かさないから、職人さんも釜浅商店のスタッフがどんな想いで道具を販売しているかを知ってくれている。

だからこそ、信頼関係が築けているのかもしれない。

それに、実際に工場を訪れてわかることがあるといいます。

「知識として聞くのと、実際に職人さんが作業しているのを見るのとではまったく違うんです。工場の熱気や、職人さんの真剣な横顔。それを知ってからは、販売する者としての責任を感じるようになりました」

「だからもっと道具を使ってみたいし、見てみたい。もっと道具を知りたいんです」

その思いは、ここで働くスタッフ全員が持っている。

最近では、店内で扱っている商品を使って店舗の屋上でバーベキューをしたそう。

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「スタッフ皆で、どの炭で焼いた肉が美味しいだろう、どうして味が変わるんだろう、どうしてこの道具はこの形をしているんだろう、なんて話をずっとしたんです(笑)本当に楽しい時間でした」

日常のなかでも、自分が販売する道具に興味をもっている方ばかり。

だからこそスタッフには生きた知識や経験があるし、お客さんも信頼して来てくれているのかもしれない。

最後にお話を聞いたのは、販売スタッフの森川さん。この方の日常のなかにも道具があります。

「体調を崩して食を見直したことがきっかけで、いつか料理を仕事にしたいと思うようになったんです。そうしてたどり着いたのが釜浅商店。料理に関わる仕事は、飲食店だけじゃないんですよ」

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そう楽しそうに話す森川さんは、毎日家族4人分の料理をつくるほどの料理好き。

愛用しているのも、釜浅商店のフライパンなのだそう。

「料理をするたびに、道具の良さを知るんです。鉄のフライパンだったら、熱伝導がいいからブロックのお肉も高温でおいしく焼ける、とか。これもお客さんにお伝えできるな、と(笑)」

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日常の延長に、仕事があるんだな。

一方で、大変なところもあるといいます。

「スピードが大事です。ピーク時には、お店がお客さんでいっぱいになります。どんなときも一人ひとり丁寧に接客したいので、どうやったら効率よく仕事を進められるか常に考えながらフロアに立っていますね」

販売スタッフだから接客だけしていればいい、と線引きはしない。

ときにはイベントの企画といった仕事もあるし、店内の清掃に品出し、検品に発送など、地道な作業や体力仕事もある。

「小さな会社ですから、海外でイベントを行うときには皆で協力して商品を200箱詰めるような力仕事もあります。残ったスタッフでいつも通りお店が回るよう、お互いのフォローは欠かせません」

それに年々、外国からのお客さんも増えているのだとか。

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丁寧に説明して道具を販売することは、プロの方でも一般の方でも、外国のお客さんでも変わらないから、スタッフも外国語の勉強は欠かさない。

「海外からの紹介やリピーターもすごく多いんですよ。お店もどんどん広がっていって、自分も新しいことに挑戦できる予感がしています」

最後に、店主の熊澤さんが印象的なエピソードを教えてくれました。

「この間、パリのレストランに寄ったときに、厨房から若い料理人が出てきてね。うちで買った庖丁を持って、『これ、釜浅で買ったんだ!』ってうれしそうに見せてくれて」

「釜浅が一番大切にしている良理というマインドをきちんと伝えられているんだなって。愛着を持って道具を使ってもらう、その最初のポイントになれているのならうれしいよね」

その理を伝える人がいるからこそ、釜浅商店の道具は光るのだと思います。

(2017/8/21 遠藤真利奈)