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カフェという公共

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

校庭で遊ぶ子どもたちの声が聞こえる隣で、昔ながらの面影を残して佇む建物。

役場外観 かつては村役場として、その後は地域の人たちが集う場として。

岐阜県・美濃加茂市にある旧伊深村(いぶかむら)役場庁舎は、思い出を添えながら、まちと共に80年の歳月を重ねてきました。

3年前に耐震上の問題で閉鎖されてから、時が止まったままだったこの場所が、今、カフェに生まれ変わろうとしています。

目指すのは、住民やまちを訪れる人がつながり、まちに賑わいをもたらしていくような拠点。

公共施設を活用することもあり、市や住民の方、建築家の方など、いろんな人が関わっている事業です。

求められるのは、周囲の声に耳を傾けつつ、まちの中にはない新しい視点で、カフェという場所からコミュニティを育むことだと思いました。

地域に根ざすカフェを運営していく人を募集します。



名古屋から電車を乗り継いで40分ほど。最寄り駅である美濃太田駅に到着した。

駅で迎えてくれたのは、市役所まちづくり課の渡辺さん。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA まず話していただいたのが、美濃加茂市のこと。

岐阜県南部に位置していて、昭和29年に8つの町村が合併、今の美濃加茂市の形になった。

木曽川 人々の暮らしを支える木曽川や、宿場町として栄えた中山道太田宿、平安時代からの製法でつくられる干し柿「堂上蜂屋柿」を生産している地域があったり、梨園が広がる地域があったり。

それぞれの地域ごとに独自の文化が残っている。

これから向かう伊深地域は、人口1200人ほどのまち。規模としては小さいけれど、歴史あるお寺やお宮が多く、また、自然も豊かなところだ。

伊深田んぼ そんな地域の中心部に、旧伊深村役場庁舎はある。

「建てられたのは、昭和11年。西洋建築の古典的意匠を残した、広さ125㎡ほどのかわいらしい建物です。以前は地域の方が集まる場・サークル活動の場として活用されていました」

けれども、3年前から耐震の問題で立ち入り禁止となってしまっていた。

施設の今後について議論されるなか、転機が訪れる。

昨年、国の登録有形文化財に登録されたのだ。

また、著名な建築家である古谷誠章教授との出会いもあり、外観は残したまま内部を改修して今後も活用しようと、事業が動き出した。

ソフト面では、地域の人たちと共に、どんな場所になってほしいかを考えるワークショップを行なった。

WS 「そのなかで、地域にはカフェがないからほしいよねとか、以前のように人が集って何かできる場所があるといいよねという、まちの人たちの意見があって」

「資料館のような形ではなく、地域内外の人々に気軽に立ち寄ってもらうことで、交流や賑わいが生まれていくような施設になってほしい。伊深を、美濃加茂を知ってもらうきっかけの場にしていきたいですね」 

来年4月のオープンに向け、現在、古谷教授と市が中心となって基本設計を進めている。

そんなふうに話が進みつつあるなかに、今回募集する人は加わることになります。大変そうに感じるかもしれません。

「ただ、公共のものだということにとらわれてほしくはありません。まちの外から見た視点で、この場所をカフェとしてどう活かしていくかを考え、自由に展開してもらうことにむしろ期待しています」

まちの人たちも、地域にカフェが生まれることに期待を膨らませている。

自分が通いたいと思うカフェ、自分が住みたいと思うまちを想像しながら、アイデアを形にしていくことが求められると思います。



ところで、伊深はどんな地域なのだろう。

伊深地域に到着し、伊深まちづくり協議会のお二人に話を聞かせてもらった。

まず話してくれたのは、副会長の福田さん。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「伊深には、江戸時代に創建された正眼寺をはじめ、歴史的・文化的なものが多く残っています。でも、そういう場所があることを知られていないことが多くて」

「まちの資源を活かしながら、地域内外の人たちに伊深のことを知ってもらう機会をつくることが大切だと思うんです」

福田さんたちの活動の一つに、「ふるまい御膳」というものがある。

季節の食材を活かした、伊深に昔から伝わるおもてなしの料理を、イベントの際にふるまっている。

ふるまい御膳 1月の凧つくり・凧揚げイベントでは、伊深産の小豆を煮て、つきたてのおもちを入れたぜんざいを。9月のお月見会では、昔からこの地域でお月見の日に食べるという団子汁をふるまった。

「そのとき、団子汁のつくり方の講習会も行なったら、他地域から参加した人にも人気で。活動が発展して、“伊深ごはん研究会”というものまで発足することになりました」

「そんなふうに、消えゆく食文化を通じて伊深のよさが残っていけばいいなと思っているんです。もし、カフェの営業の邪魔にならなければ、ふるまい御膳なども一緒にやっていけたらいいですね」

ほかにも、地域にある史跡や景色豊かなスポットを散策する「伊深めぐり」など、地域内外の人にまちを知ってもらうための機会を自分たちでつくっている。

福田さんは個人としても、30年以上「伊深親子文庫」という子どもと大人が読書を楽しむためのサークル活動を続けてきたそう。

そのなかで、気づいたことがあった。

「いま伊深に残っているものは、それまで住んできた人たちが、いいものを立派に伝えてきたからだと感じていて」

「それを、私たちの代でなくしてしまうのはもったいない。私も若いころには気づかなかったけれど、ずっと伊深に住んで年を重ねてきたことでやっと気づいたので。今はわからなくても、残しておけば、いつか若い人たちも価値に気づいていくんじゃないかな」

まちにある価値を地道に伝えて知ってもらうこと。これからできるカフェでも、それは大切なことだと思う。

今回募集する人に求められる役割は、日々のカフェの運営に加え、人と人、人とまちにつながりを生み出していくこと。

地元の食材を使ったワークショップをひらいたり、お店の中だけでなく地域の行事の際には屋外出店したり。自由な発想で、形にしていってほしいという。

とはいえ、日々お店を運営して、さらにまちづくり活動も両立して行なっていくのは大変です。

それを踏まえて、市からは業務委託料が毎月支払われる。お店の売り上げは運営者が受け取るかたちで、働き方もその人の裁量に委ねられます。


どんな人に来てほしいかと尋ねると、会長の小林さんが答えてくれた。

小林さん 「旧役場庁舎が閉鎖される前は、地域の行事ごとにまちの人が飲食をともにしたり、住民がサークル活動を行なったりする場でもありました」

「そうやって人々が使っていたから今も残っている。僕らはまちに愛着をもった町民を増やしたいと思っています。一緒にまちづくりをしていけるような人だとうれしいですね」

お二人の話を聞いて感じたことは、まずこの場所を知ってもらうことが大切だということ。

そのために、体験を通して、また来たいと思うようなきっかけをつくる。継続して訪れてもらうことで、記憶に残る場所にしていく。

そうやってつながりが生まれていったら、この場所はカフェとして、次世代まで続いていくのかもしれない。



実際に美濃加茂市へ移住してカフェをはじめた方もいるということで、話を聞かせてもらった。

都竹(つづく)祐樹さん・ひろみさんご夫婦は、6年前に岐阜市から移住し、「みのかも文化の森」という施設内でカフェを運営している。

bee cafe外観 もともと祐樹さんのお父さんはレストランを経営していて、一緒に働いていたという。

独立を考えて場所を探していたときに、文化の森での求人を見つけた。

「最初は正直、人の入りがあるのか不安なところもありました。でも、まずやってみようと応募して。家賃も安く設備も整っていたので、はじめてやる僕らには負担が少なく助かりました」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA とはいえ、はじめの1年は大変なことも多かったという。

平日は施設を訪れるお客さん自体の数が少なかったり、値段設定が難しかったり。厨房が狭いために設備を追加できないこともあって、やりたいことが増えても融通が利かない面もあった。

そうしたなかでも、ここだからできることに取り組んできた。

たとえば、施設の学芸員さんたちと、企画展にちなんだ限定メニューを毎回考案しているという。

光るもの展 「そういうメニューを楽しみに来てくれる人も多かったですね。施設の方とコミュニケーションし合えたことで、施設内で採れる桑の実や栗も自由に使わせてもらったりして。アイデアが広がったし、かたちにしやすくなりました」

来てくれるお客さんとの会話も大切にして、徐々に口コミが広がっていった。

お店を続けて今年で6年目。

ここでの経験を活かす次の場として、祐樹さんたちが出会ったのが、三和(みわ)という地域。一年半前に引っ越したそう。

住んでみていかがですか?

「田舎やなぁと思いました。でも、不便ではないですね。蛍が出るほど川もきれいだし。朝も気持ちいい。子どもたちものびのび過ごしているみたいです」

妻のひろみさんは、地域で暮らしていくなかで、まちの人との関わりを大事に考えていると話す。

ひろみさん カフェを営業していると土日に休むことは難しいけれど、二人は小学校のPTAや自治会に、祐樹さんは消防団に参加しているそう。

それを機に、まちの人も声をかけてくれるようになって、地元の農家さんが自慢の食材の話をしてくれたり、なかには文化の森のカフェに足を運んでくれるようになった人もいるとか。

「そういうのがうれしいですね。どんな人か知らないうちは、まちの人も自分たちも不安です。まずは、会話を重ねていくことで、まちに溶けこんでいくことが必要なのかな」

お二人の話を聞いていると、何よりも「会話」の大切さを感じる。

新しいお店をどんな場所にしていこうと考えているんだろう。

すると祐樹さんが答えてくれた。

「三和にはこれといったお店がないんですね。そこにお店をひらくことで、一人で来ても誰かと会話できたり、楽しい時間を過ごしてもらえたらいいなと思います。人が動くことでまちが少しずつ変わるような場所にしていきたいですね」



公共施設を活用し、いろんな人が関わってできるカフェ。だからこそ、大変に感じることもあるかもしれない一方で、やり方次第では強みにすることもできると思います。

模型-1 まずはこの場所を訪れて、いろんな人と会話してみてください。

それが、このまちに欠かせないカフェをつくる、最初の一歩だと思います。

(2017/08/01 後藤響子)