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生き様ベーカリー

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

仕事というより、生き様。

そんなふうに働いている人の姿は尊くて、何よりかっこいい。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「しげくに屋55ベーカリー」は、高円寺にある小さなパン屋さん。

こだわりの材料とオリジナルの製法でつくるパンはとてもおいしいと評判で、遠くからわざわざ買いに来る人がいるほどです。

ただ、経営が安定してきたのは創業18年の中でここ数年のことなんだとか。以前は吉祥寺や八王子にお店があったことを知っている人もいると思います。

これまで何度か移転を経験し、閉店を考えることもあったそう。

それでもオーナーの青木さん夫妻は諦めず、ただひたすら「昨日よりおいしいパン」を目指して、パンを焼き続けてきました。

「簡単に諦めるのって、その先の楽しい未来を捨てるようなもんだよ。生きてくうえで私たちが大事だと思っていることも、一緒に教えてあげられたらいいな」

ふたりにとって、パンは商いというより、生き方そのもの。

そんなしげくに屋55ベーカリーに共感し、一緒に働きたいと言ってくれる人を求めています。製造と販売を中心に担う人の募集です。

 
東京・高円寺駅の北口から歩いて3分ほど。

飲食店が立ち並ぶ賑やかな通りを進んでいくと、「55」の文字が目印のしげくに屋55ベーカリーに到着する。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 営業日は忙しくて手が回らないとのことだったので、お休みの日におじゃますることに。

お店の中に入ると、オーナーの青木哲夫さんと啓恵さん、スタッフの宮坂さんが迎えてくれた。

まずは哲夫さんに話を伺う。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「パン屋をはじめて18年くらいですかね。その間、すごく売り上げが厳しいときがあったけど、今ここへ来てようやく食べられるようになったかな」

パンづくりの世界へ飛び込んだのは、社会人になったとき。手に職をつけようと、実家近くのパン屋さんで働いてみることにしたのだとか。

けど最初は、パン屋という仕事があまりしっくりこなかったそう。

「自分でつくったパンはおいしいっちゃおいしいんだけど、こんなもんかなって」

しばらくして、休日にパン屋巡りをするように。別のパン屋で啓恵さんと出会ってからも、毎週のようにふたりでパン屋巡りに出かけた。

その中で、今でも忘れられない衝撃的なパンとの出会いがあった。

「今でも思い出すと鳥肌が立つんだけど、なんだこれは!っていうバゲットとクロワッサンがあったんです。今じゃみんな真似してどこにでもある感じだけど、当時はすごくおいしくて特別だった」

「そのとき、『俺ってパンなめてたな』と思って。それからかな、一生懸命になりはじめたのは」

そのバゲットとクロワッサンは、哲夫さんたちだけでなく、パン業界全体に衝撃を与えるものだったそう。だから、みんなこぞってそのパンを真似しはじめた。

哲夫さんたちも、そのパンに負けないくらいのものをつくろうと、八王子で独立。

ただ、偏屈なのか、意地なのか。他店と同じように有名店のレシピを真似るのではなく、独自のやり方でおいしいパンを目指した。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「はじめから教科書に書いてないようなことをやっていました。それこそ小学生が実験するみたいに、冷凍庫で冷やした小麦粉でつくったらどうなるんだろうとか。それがダメでも、じゃあ次は焼き具合をかえてみようとか」

業界的にはありえないことでも、かかる手間もコストも、哲夫さんたちには関係なかった。

パンに香ばしさをつけるためにゴマ油を入れてみたり、水の代わりにコンソメスープを使ってみたり。ときには日本料理など別ジャンルの調理法をパンづくりに活かせないかと、通信の料理講座で勉強することもあったという。

「そういうことやっていると、だんだん化学とか生物みたいな話になってきて。酵母菌が死滅すると、チーズっぽい香りが出てくるんですよ。だから、生きてる酵母菌と死滅した酵母菌の割合をうまく調整したりして」

もちろん材料にもこだわる。多いときは30種類もの粉を使っていた。たとえ同じ品種の小麦粉でも、製粉会社の製粉の仕方によって性質が異なるのだという。

研究発表を繰り返すように、新商品を週に何個もつくり続けてきた。

「とにかく今日より明日おいしいものをつくろうって。よくパン屋さんは『お客さんの笑顔を見たい』って言うけど、僕はお客さんの笑顔よりも、ただうまいパンをつくりたかったんです。それは今でも変わらない」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA ところが、最初は思うようにパンが売れなかった。

お店の立地のせいなのか、はたまた自分たちの舌がおかしいのか。移転するたびに自信をなくし、廃業を考えることもあったという。

そんなある日、青山の国連大学前で開催されているファーマーズマーケットが出店者を募集していることを知り、参加してみることに。

それが、大きな転機となった。

「びっくりしたんですけど、すごく売れたんです。今までのお店では見なかったような多様なお客さんたちが来てくれて、それこそ有名なシェフが毎週のようにうちの山型のパンを買ってくれたりした。そこではじめて自信がつきました」

出店を繰り返すうちに、お客さんとのつながりも生まれた。

はじめは、クラブでパンを売ってくれないかという相談。興味本位で話に乗ってみたら、お客さんたちは暗闇で何のパンかも分からない状況でも、口々に「おいしい!」と楽しんでくれた。

それからも結婚式場やレセプションパーティーなど、お店を飛び出ていろんな場所で自分たちのパンを売ってみた。

「そういうところにしげくに屋のパンがあるっていうのは、すごくワクワクしたし、面白かったです。そのへんからほかのパン屋さんとは変わってきた感じがあって、どうやったら“パンある風景”がつくれるのかを考えるようになりました」

shigekuniya55_06 実は哲夫さん、ファーマーズマーケットでダメだったら、もうお店を閉めようと考えていたのだそう。

それが今や常連の多い人気店となり、経営も安定化させることができた。

「今でも八王子にお店があったころから通ってくれるお客さんがいるんです。その人が言ってくれたのが『あなた方のすごいところは諦めなかったことだよね』って。その一言が、ものすごくうれしくって」

「そういうのを聞くとやっててよかったと思うし、自分は間違ってなかったと思うし。諦めなかったから、今があるんだって」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 最近は、地元のカレー屋さんとコラボしてカレーパンやチャイクリームパンをつくるなど、面白い動きが次々と生まれている。

自分たちで小麦を育てるところからやってみようと、長野県佐久市で小麦の栽培もはじめた。

「昔うちにいたスタッフが長野の地元に戻って農家になって、しばらくその子に小麦をつくってもらっていたんです。今は種まきとか製粉とかも一緒にやることにして。パンに合わせるチーズとか生ハムもあったらいいなって、生ハムもつくっているんですよ」

「いつか長野でお店を出したいと思っています。チーズづくりのワークショップやったり、都内からツアーでお客さん呼んだりして。やりたいことはいっぱいですね。いろいろ模索しながら、パン屋を面白く、かっこよくしていきたいです」

shigekuniya55_08 ただ、最近は人手不足のために、やりたいことがなかなかできていない。

たとえば、哲夫さんだけだとどうしてもパンの味の系統が一緒になるため、スタッフの人にもどんどん試作をしてほしいそう。

長時間働く日が続いてしまうのも、何とかしたい。

「人が増えて、みんなに余裕ができれば、こんなパンつくりたかったんだとか、長野でもっとこんなことやりたいとか、いろんなことが少しずつできていく気がして」

「パンづくりだけだったら、変な話ほかのパン屋さんでもできると思うので。ゆくゆくはパン以外でも、しげくに屋しかできないことをやれたらと思っています。そういうのに興味を持って、一緒にやってくれる人に来てほしいです」

 
今回募集する人は、パンづくりを中心に、販売などお店に関わることすべてを担当することになる。

小規模なお店だから、たとえばイベントひとつにしても、スタッフ総出で準備を進めるのだという。

「昨年に世田谷パン祭りに出店して、僕は大きなイベントがはじめてだったんですけど、うちのお店の列が一番長かったんですよ。こんなたくさんの人が自分たちのパンを食べてくれるんだって、うれしくて感動して。すごく疲れましたけど達成感があって、また今年もやりたい、味わいたいなって思っています」

そう話すのは、スタッフの宮坂さん。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 宮坂さんは入社してもうすぐ3年が経つ。

以前はチェーン店のパン屋さんで働いていて、哲夫さんたちがつくるバゲットのおいしさに衝撃を受け、転職を決めたのだという。

「入ったばかりのころは、前に働いていたパン屋と製造方法とかが全然違うのに戸惑いました。焼き方は違うし、スライスしたアーモンドを乗せるにしても、一枚一枚すごく丁寧にやるんです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「それと、お客さん目線でパンをつくるってことをよく言われます。いま店頭にどんなパンが並んでいて、何が足りないのか。常にまわりを見て考えながら仕事しなきゃいけない」

哲夫さんも啓恵さんも、仕事に関してとても厳しいという。

けど、ちゃんと自分の頑張りを見ていてくれる。

宮坂さんは長野県出身ということもあって、将来の長野店の店長候補として期待してくれているのだという。

「ちょっと前までは、自分はダメだとか、もう疲れたとか思っていたんですけど。今は働いていてすごく楽しい。ふたりにしっかり認めてもらえるようになりたいって思っています」

そんな宮坂さんの話を隣で聞いていた、啓恵さん。

最後にこう話してくれた。

「楽しいことをやるには相当の努力が必要で、相当な努力をするのって本当に厳しいですよ。だから、ただ大変だなと思うだけの人は続かないです。うちで働くなら、その先にあるものを見てもらいたい」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「古い考え方かもしれないけど、自分たちが苦労して、諦めないで、そしたらこれだけ人生が楽しくなったっていうことを教えてあげたいし、そういうふうになってもらいたい。それだけのものは返ってくるから」

 
後日、撮影のために再訪したとき、パンを食べさせてもらいました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 知り合いから「あそこのパンはおいしい!」と聞いていたけど、今まで食べたパンの中で一番と言えるくらい、本当においしい。

想いだけじゃない、実力でも多くの人を惹きつける、ほかにないパン屋さんだと思います。

(2018/8/15 森田曜光)