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入口はこんなところに

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

世の中にはいろいろな障壁がある。それは自分が認識しているものもあれば、存在にも気がつかずに、当たり前のように今ある状況を受け入れていることもある。

MIRU DESIGNの青木さんは、自分の仕事のことを「クリエイティブ産業の潤滑油」と話します。クリエイティブ産業は、あらゆるモノやコトを創造し、その価値を伝え届けることが求められている。けれども、それが届いていないことも多い。

そんな状況に一石を投じるために青木さんたちがはじめようとしているのが”DESIGNART”というプロジェクト。デザイナートと読みます。

desingnart01 これは機能と美を兼ね備え、日常生活に寄り添い感動を与えてくれるモノやコトを新たに定義した言葉であり、その素晴らしさを発信、共有していくための活動そのもの。

その発表の場として今秋の10月16日(月)から一週間、東京の街をメイン会場に、世界中からデザイン、アート、ファッション、食、テクノロジーなどを集めて開催されるデザイン&アートフェスティバルが開催されます。

これはまさにクリエイティブ産業の潤滑油となって、業界の垣根を越えたり、業界の常識が当たり前だと思っている人々の意識を変える機会になるはず。

そして、もうひとつ大きな役割がクリエイティブな仕事に関わりたい、と思う人への入口にもなること。

今回はまさに業界への門戸を開く募集になると思います。内容としては、10月16日から開催される、このフェスティバルへ参加するボランティアスタッフの募集です。

ボランティアだと思って侮るなかれ。こういう機会からはじまることがたくさんあると思います。



外苑前駅から歩いて数分。青山通りから一歩入ったところに、青木さんの会社、 MIRU DESIGNがある。

事務所に入ると、みなさんが迎えてくれた。

さてさて、青木さん。デザイナートって一体なんでしょう?

「感動のある暮らしをテーマにやっていく、活動体にしていきたいと思っていて。これまでも年に1回のイベントはあったんですが、それだけにするのではなく、年に数回シンポジウムを開催したり、ずっと活動していける状況をつくりたくて」

desingnart02 「あと名前はデザインとアートを組み合わせたものなのだけれど、デザインにもアートにもそれぞれに文脈があって。問題解決したり、相手に寄り添った提案をするのがデザイン。かたや、アートはアーティストの独創性を引き出すようなもの。それぞれ文脈は違うんですけど、その中間が最近、注目されていると思っていて」

たしかにデザインとアートの境界はなくなってきている。アートが問題解決の手段になることもあるし、どちらとも区別できないプロジェクトも増えているように思う。

とはいえ、それを表現する言葉は今までなかった。一部では、すでにデザイナートという言葉が使われているものの、たとえば「コンテンポラリーデザイン」という言い方もあった。

desingnart03 何か新しい概念が必要になっている。

「たとえば、民藝運動もそうですし、その価値がわかっていないものに対して、新しく定義する。そうすることで伝わるものがあると思っていて」

「伝えて届ける、ということが日本にはまだまだ足りないと思います。とてもいいものが多いのですけど。ものをつくることで満足しちゃっているのかもしれない。伝える力は、これからの時代、必要不可欠なものだと思います」

なるほど。

ところで、テーマにある、感動のある暮らしって、どういうことでしょう。デザインとアート、そして暮らし。つながりそうで、よくわからない気もします。

「今って、ファッションとかグラフィックとか、いろんなものがライフスタイルというくくりで一緒になってきているじゃないですか。食事もそうだし、建築もそう。そうやって分かれちゃった状況をつないでいきたくて」

「もちろん、今までにもこういう考え方はあったんですよ。でも最近、すごい弱まった気がして」

弱まった?

「たとえば、デザインイベントを開催しても、メインの会場は盛り上がっているけど、街とつながる、というものが希薄になっている気がして。東京って、世界一の文化集積地だと思うのに。ものすごく集積しているのにもったいない」

desingnart04 「あとデザイナートで実現したいことは産業化ですよ」

産業化。

「たとえば、今までは展示されているものって見るだけだったんですよ。自分とは関係ないものだった。でもそれが買えるとしたらどうだろう。参加している人にとっても、当事者になるようなことが起きると思うんです」

「なんというか… 買おうと思えば買えるということがわかると、ものに対する集中の度合いが変わってくる」

たしかに、アートというと、今までは「見るもの」と考えている人が多かったかもしれない。アートは美術館で見るものであり、自分の日常とは関係ないもの。

青木さんは街のあちこちでデザイナートを展示し、すべてのものに値段をつけようと考えている。

desingnart05 さらに「見るもの」から「買えるもの」にするため、ローンまで一緒に提案しようとしている。

そうやってアートやデザインを取り巻く意識を変化させようと考えている。

たしかに工夫して買えるようにすることで、安いものしか売れない状況を変えられるかもしれない。飽きたら捨ててしまうんじゃなくて、一生大切にできるものを買うほうがスマートな気もする。

さらに家具など、リユース市場も活性化している。インターネットでも個人が自由に売り買いできる機会も増えている。本当にいいものだったら、もし必要なくなっても売ることもできる。売り先があるから、安心して買うこともできるかもしれない。

暮らしのすべてのものをローンでは買えないけど、ずっと横に置いておきたいものが2つ、3つあるのはいいかもしれない。

「そうやって買えるような状況をつくっていく。さらに大切なのは感動だと思うんです」

「たとえば、マイケル・マリオットがデザインしている、工事現場用の黄色いバケツのランプがあるんですけど、これを50個くらい並べてインスタレーションにしたら、結構売れたんですよね。あとは伊勢丹で開催した鳩時計コレクションのときもそう。6万円する鳩時計がたくさん売れちゃった」

desingnart06 それはなんでなんでしょう。

「やっぱり感動があったんですよ」

感動があると違うんだ。

「魂が込められているし、伝わるんでしょうね。だからデザイナートでは、感動をつくって、値段を表示し、それを買えるような仕組みまでつくろうと思っているんです」

たしかにファッションショーでも、新作をすぐに買うことができるようになっている。

「どうせ、買えないんでしょ」という既成概念を崩すことで、安いものだったり、トレンドに左右されたものだけじゃない需要も生み出すことができるかもしれない。

そうすることで中長期的にクリエイティブ産業全体がよりよくなっていけばいい。



そんな青木さんの話を横で聞いていたのが池田さん。デザイナートの実行委員長を務める方。

まさに池田さんも「値段」に対する大きな壁を感じていた一人だったそう。

まずはどうして実行委員長になったのか聞いてみる。

「もともと北欧関係の輸入代理店で営業として働いていたんです。だからインテリアとかデザイン、ファッション、アートに興味がありました」

desingnart07 「仕事で実感したのが、世界にはすごいいいものがたくさんあること。ただ、営業目線で考えると、この値段だと売れないな、ということが肌感覚でわかってしまう。実際にバイヤーさんやお店の方に話しても『うちでは難しいな』ということがあって」

そんな思いを抱えながら、7年働いた会社を辞めて、ロンドンに行くことに。

振り返って感じたことは「売るというよりもつなぐことが大切なんじゃないか」というもの。

「結局、自分はものが好きなんですけど、人も好きだったなと思って。デザイナーさんに会って話を聞いてみると、こんな思いでつくったんだ!と感動することがある。そうやって受け止めたものを、できるだけこぼれ落ちないように、そのまま商品とともにお店の人に届けることが大切だと思ったんです」

ロンドンに行ってから7ヶ月近く経ったときに、青木さんから「いつ帰ってくるの?」と連絡があった。そして、実行委員長をやらないか、と誘われる。

「青木さんがもともとデザインタイドの実行委員長をやっていたのは、もちろん知っていて。どんな仕事なのか、よくわかっていなかったんですけど、やらせてください、とお伝えしたんです」

desingnart09 青木さんもまた、28歳のときに大きなデザインイベントの実行委員長をする機会があった。それがきっかけとなって、業界で活躍するようになったことは誰の目にも明らかなことだと思う。

今回、募集するボランティアスタッフにも同じことが言えるはず。

なぜならクリエイティブな業界だからこそ、人の縁で仕事に発展していくことが多いから。それはクリエイティブな仕事の性質上、当然のことかもしれない。

たとえば、機能が保証された商品に値札がついていたら、その値段で買えばいい。けれどもクリエイティブな仕事というのは、定量的な機能を保証することもできないし、はじめから値段があるわけでもない。

だからこそ一緒に仕事をした経験や実績というものが次の仕事につながっていく。

ぼく自身も、もともとは建築家を目指していた。

けれども、最初の仕事はどうやって生まれるのか疑問に思っていたし、いつも「どうしてあの人たちばかり仕事があるのだろう?どうしてあの人たちはいつも同じメンバーでプロジェクトをしているのだろう?」と途方にくれていた。

ここには、そのはじめの一歩があるように思う。

もちろん、このボランティアですべて変わるとは限らないけど、青木さん曰く、過去のデザインイベントでもボランティアをすることでチャンスを手に入れていった人も多いとのこと。

desingnart10 それは縁ができるだけじゃなくて、いろんなことを学べる機会だからなんだと思う。

とはいえ、ボランティアスタッフだからと言って、簡単なものではない。たくさんの方とやりとりすることもあるだろうし、当日は予測できないことも起きるはず。「なんでボランティアなのに…」と思うこともあるかもしれない。

でもそれは裏を返せば、いろいろな人との出会いにつながるだろうし、なかなか経験できないことでもあると思います。



最後に青木さん。

「ぼくもたくさんの先輩方からいろんなことを受け継ぎました。街に育てられた自負がある。それを次世代の人たちに引き継いでいきたいし、街に返していきたい。ぼくも池田くんと同じで、人が好きです」

desingnart11 クリエイティブ業界を知る入口は、こんなところにあると思います。

学生さんも社会人の方も、ぜひまずは問い合わせてください。

(2017/8/18 ナカムラケンタ)