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「僕らが空き家を借りて活用することで、小さくとも地元でビジネスが興る。地域の生活文化を継承しながら、町がゆるやかに維持・発展していく。そうなってはじめて、地域に貢献できるのかなと思います」たとえば、旅行者が地元の人たちの案内で町歩きをする。
何気ない時間の過ごし方だけど、町を訪れる人たちは地域の人と同じ目線で穏やかに町を楽しめる。地域に暮らす人も、訪れる人たちとのふれあいから新しい発見を得たり、町を誇りに思うこともあるかもしれない。

株式会社ちいおりアライアンスは、地方の美しい風景や伝統的な生活様式を持続可能なものとして残していこうと考えている会社です。
空き家となっている古民家を活用した宿泊事業を軸として、イベントやワークショップなどを企画。交流を生み、収益と町の賑わいを同時につくっていきます。
香川県に生まれた新たな拠点へ、話を聞きに行ってきました。
高松空港から目的地のJR宇多津(うたづ)駅までは、バスで40分ほど。
駅前にはマンションやチェーンのドラックストアが並ぶ。その町並みも、15分ほど歩くと雰囲気が変わってきた。

ここに、ちいおりアライアンスが運営する宿、「古街の家」があります。
待っていてくれたのは、宇多津事務所で働く村松さんです。

とはいえ、若い世代は古街エリアを出てしまい、古い建物を維持するのは難しい。
この風景をなんとか残したいと、町が空き家を買い取り整備することに。その改修プロデュースの依頼が、ちいおりアライアンスの役員の一人であるアレックス・カーさんのもとに舞い込んだ。
こうして古街エリア活性化の基幹事業としてはじまったのが「古街の家」。2棟の町家を改修し、それぞれ1棟貸しのスタイルで宿として運営している。
そもそもちいおりアライアンスの前身“NPO法人篪庵トラスト”は、アレックスさんが徳島県三好市の祖谷という地域に古民家を購入したことがきっかけだった。
「日本の地方の美しさを残したい。伝統文化に根ざした環境にやさしいコミュニティーをつくりたい」という思いから、山奥の落合集落にある8軒の改修プロデュースに携わり、現在宿泊施設「桃源郷祖谷の山里」として運営している。

伝統的なものを活かしながら残すとは、具体的にどういうことなのでしょう。
「たとえば、襖や障子などの建具は、日本家屋の特徴的な部分です。アレックスも当然それはわかっていますが、外せるところは全部外して。欄間や梁は残すんですが、敷居をなくしてフラットにしています」
なぜ建具を外すんですか?
「日本家屋は、つくりは面白くても生活すると不便なところもあります。たとえば町家はなかなか光が入ってこないし、木造なので寒い。そういうマイナス要因は割り切って、現代の快適性を入れることで家を生かしていこうという考えなんです」

「アレックスに教わった、『見立て』というお茶の世界の言葉があります。たとえば古くて欠けているお茶碗があったとして。食器ですけども、それを花器として使う。もとの用途とは違う使い方をする、ということです」
「大きいことでいえば、民家だった建物を宿泊施設やカフェにするのも見立てになる。こういうことが、伝統や歴史の発展的な継承かなと思いますし、アレックスのメッセージとして受け止めています」
古いものの良さを活かしながら、使い続けられる生活の道具とする。そうすることで、歴史的なものや情緒的なものも、日常に残していくことができる。
以前は、地元の静岡で釘などを使わずに板を組み立てていく指物家具職人の見習いをしていたという村松さん。
後継者がおらず、商売として続けていくことの難しさを肌で感じていたという。
「なくなったらやっぱりさみしい。伝統は残しながら、今に生きるビジネスにできたらいいのに、という思いがありました」
そんなときに、テレビ番組でアレックスさんと古民家活用事業について知った。
考えに共感し、祖谷を訪ねた。働き始めて今年で8年目になる。
「今でもなぜ残す、伝えるということが必要なのか、僕もわからないですよ。正解はないと思っていて」
「でも先人が培ってきた文化を、今生きている自分も楽しませてもらって、学びもある。それがまた後世に残り発展していく。携わっていて楽しいし、すごく意義があることかなと思うんです」
普段の仕事内容についても教えてもらう。
朝は8時半に事務所へ。宿は11時にチェックアウトなので、メール対応など朝の事務作業を終えたあとはご近所のおばちゃんたちと一緒に宿を清掃。次のお客さんを迎え入れる準備をする。

チェックインが済むと、そこからはまたオフィスワーク。行政や地域の関係者との打合せなどに時間を充てる。
新しく入る人には、現在村松さんが一人で担当している宿泊施設の運営に携わってもらう。もちろんその先には、古街エリア全体の持続可能な活性化という大きなミッションがある。
「そのために、まずは古街の家のすぐそばにある事務所を少し整備しようと思っています。地域の人がふらっと来て話ができたり、講演会やワークショップを行ったり。アイデアが集まり、発信されていくような拠点にしたい」

施設運営以外の活動にも、積極的に参加してほしい。たとえばデザインや編集ができる人なら、そのスキルを活かしながら働くこともできるだろう。
「最近では、地元の有志達が空き家の掃除をはじめたり、商店を借りてイベントをしたり。小さな一歩かもしれませんが、大事な一歩を踏み出しています」
ゆるやかではあるけれど、確実に地域に根ざした活動がはじまっている。ちゃんと人と人が関わっている実感を得られる場所だと思います。
村松さんは、どんな人と働きたいですか。
「多様性を受け入れて柔軟に発想できる人がいいですね。小さなエリアですが、歴史があり、同時にリアルな生活の場なので、いろんな価値観があって当たり前なんです。郷に入っては郷に従いつつ、可能性を引き出す役割を一緒に担ってもらいたいです」
今回は、祖谷で働くスタッフも同時に募集します。祖谷で9つの宿泊棟の運営責任者をしている笹川さんにもお話を伺いました。

「毎日どこかの棟は利用されている状態ですね。土日は満室のことも多いですし、リピーターのお客さんも増えてきました」
さらに地域との関わりも深まってきている。
たとえば宿での食事は地元の飲食店に提供してもらったり、集落に住む人の家でお客さんが一緒にご飯をつくったり。そば打ち体験をすることもできる。

「地元の人たちにスポットライトが当たるようにしたいんです。僕らは外から人を呼んでくるけど、地域をつくっていくのは地元の人たちだから」
今でこそ順調にみえる宿の運営。ただ、地域でのつながりはそう簡単に生まれたわけじゃない。
「最初来たときは『いつまでいるの?』って言われたんです。まだ来て一週間くらいしか経ってないのに。とりあえず名前と顔を覚えてもらうまでは絶対いて、自分から関わっていこうとそのときに思いました」
どんなことをしたんですか?
「毎朝、まわりの家に挨拶しに行って。集落の集まりにも必ず行って、宴会では潰れたっていいから一緒に酒を飲んでましたね」
生活していく上でも不便なところがあったという。
たとえば、祖谷では沢から各家庭がホースで水を引く。一見、使い放題で良さそうだけど、台風がくると水が濁り、冬は凍って出なくなってしまうこともある。
「多少お金を払っても、きれいな水が飲めるのはなんて素晴らしいんだろうと思ったこともあります。でもそれは自分だけの問題じゃなくて、お互いさま。なので、ほかの家に水を分けてもらうこともあります」
「ある程度いれば馴染んでくるだろうと思ったし、不便なところにも不満はなかったんです。だから辛いとか…そういうのは全然、感じなかったですね」
新しく入る人も、笹川さんのように自分から関わりを生んでいけたらいい。とはいえ、同じような状況に陥ったら出て行ってしまう人もいる気がします。
「入り口が違うのかもしれませんね。仕事を求めてきて、生活ありきじゃなかったから」
生活ありきじゃない。
「田舎暮らしへの憧れとかはなくて。ここで自分は何ができるかということを考えて、そこから生活を広げていったような感じなんです」

そうやって目の前のことに精一杯取り組んでいたら、人は来ないと言われていた祖谷に、人が集まるようになった。その中で生まれたつながりを育ててきて、今の暮らしがある。
「僕らは大きなミッションを掲げていますけど、まちづくりの後継者集まれ!みたいな感じでは全然ない。ときには枕カバーをセットしながら、これがどう地域再生につながるんだろうと思うときもあります(笑)」
「だけど、ぱっと来て、全部ががらっと変わるようなものってやっぱりない。一つひとつ、地味だけど積み上げていった結果、何かが生まれている。まだまだ、祖谷でもちいおりでもできることはあると思うんですよ」
地域にハコをつくることは、今まで各地で行われてきた。
でも本当にその風景や営みを残すには、人と人のつながりや、人から人へ伝えることが必要だと思います。

そのなかに自分もいたいと感じたら、ぜひ応募してください。
(2017/10/19 並木仁美)