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熱海の手前、小田原のすぐ先

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真鶴町を知っていますか?

神奈川県の南西部、相模湾に向けてちょこんと突き出た、人口7400人ほどの小さな町です。

ここには、ほかの町にない独自の条例があります。それが「美の条例」。

古くから残る景観やコミュニティ、それらを構成する要素とその調和など、さまざまな角度から真鶴町に根づく「美」を捉えて明文化したもので、1994年から施行されています。

これにもとづき、真鶴町は昔ながらのまちなみを今も守り続けているそう。

とはいえ、課題がないわけでもありません。高齢化率は神奈川県内で最も高く、人口減少も進行中。元気な高齢者も多いものの、このままでは町を未来へとつないでいけなくなってしまいます。

そこで、町の主導で2年前から取り組みはじめたのが、サテライトオフィスの誘致でした。

サテライトオフィスとは、企業・団体の本部とは別に設置する第二第三の拠点のこと。豊かな暮らしと仕事の両立を目指したり、環境を変えることでインスピレーションを高めたり、さまざまな目的でサテライトオフィスを構える組織が増えています。

今回募集するのは、こうしたサテライトオフィスの誘致に専属で向き合うコンシェルジュです。

任期はひとまず1年間。経験や真鶴町とのつながりはなくても大丈夫。

徳島県美波町に17社のサテライトオフィスを誘致してきた実績を持つ、株式会社あわえとの協力体制もあります。

何よりもまず、この町を知るところからはじまる仕事だと思います。


東京駅から熱海行きの東海道線に乗る。

なんだか、ちょっとした旅行に向かう気分だ。

電車に揺られること1時間40分で真鶴駅へ到着。新幹線に乗れば1時間ちょっとで着くし、地図上での距離感よりアクセスはいいように感じる。

駅から徒歩10分ほどに位置する「コミュニティ真鶴」という施設で、真鶴町役場企画調整課の卜部さんに話を聞いた。

卜部さんはもともと大阪出身。東京の大学で地方自治を勉強していたとき、新聞の社説で美の条例のことを知ったのだそう。

「その記事がこれです。『小さな町の大きな挑戦』。こんなまちづくり条例を独自につくるなんて、かなり実験的な試みだなあと思って。自分で言うのもおかしいですが、真鶴町に憧れて役場に入ったという変わり者です(笑)」

条例に合わせてつくられた「美の基準」という冊子をぱらぱらとめくってみる。

「西洋風とか和風とか、何か様式美を定めているわけじゃないんですよ。全体を通して言っているのは、“人間らしい町をつくっていこう”ということなんです」

バブル期にリゾート法が制定され、全国各地で急速に開発が進むなかで、真鶴町はこれを拒否。

この土地にもともとあった美しさに焦点を当て、美の条例をつくった。

「東京方面から電車に乗ってくると、小田原を過ぎて3駅、13分で一気に落差のある風景が広がります」

「今、残してきた風景に価値が生まれているんです」

たとえば、3年前にはじまった「クリエイターズキャンプ」。普段は都会で活動しているプロのミュージシャンや映像作家、プログラマーなどが集まり、週末の3日間を使って集中的に制作を行う合宿型のイベントだ。

ほかにも、月に一度港を開放して開く朝市「なぶら市」や、3Dプリンターやレーザーカッターを備えたものづくりの拠点「真鶴テックラボ」がオープンするなど、さまざまな取り組みがはじまっている。

「面白いのは、活動の主体が移住者に限らないところです。テックラボも地元にUターンした若手がはじめていたり、地元の酒屋さんや干物屋さんが移住者を迎え入れる飲み会を開いていたり。地元の方も移住者も、一緒になって盛り上げています」


「あまり人見知りしないタイプのほうがいいと思いますね」

そう話すのは、卜部さんとともにサテライトオフィス誘致を担当してきた企画調整課の石井さん。

「真鶴の人はみなさん、話すと良い方なんですけど、少し言葉が荒くて(笑)。物怖じせずに懐に入っていけるような人だといいですよね」

石井さん自身、実は人見知りしがちなタイプなんだとか。

おいしいお酒と食べものが好きで、飲み歩くうちに少しずつ打ち解けられるようになっていったそう。

「不動産屋さんと一緒に飲んでいたら『オフィス用にいい物件がないか気にしとくね』って言ってくれたり、休みの日も歩いていると『石井ちゃん!今日どうしたのよ』って気軽に声かけてもらえたり。わたしはそういう距離感がうれしいし、いいなと思います」

だいぶ町の雰囲気が掴めてきたところで、具体的なコンシェルジュの仕事についても聞いてみる。

「ひとつは、マッチングイベントを通した誘致活動ですね。サテライトオフィスに関心のある企業さんを集めたイベントを、これまでに3回東京で開きました」

イベントの場では、町のいいところはもちろん、課題もプレゼンするそう。

真鶴町は若年女性の人口がとくに減っており、地場産業である漁業と石材業も衰退の傾向にある。また、空き家の利活用も課題のひとつだ。

そうした課題をあえて開示することで、その解決に力を活かせる企業を募り、要望があれば現地を案内する。

たとえば、デザインやテクノロジー分野の会社には真鶴テックラボのようなものづくりの拠点を紹介したり、地場産業とのかけ合わせで何か実現できないか、漁業や石材業の企業と出会う機会をつくる。美の条例と親和性のあるまちづくり会社ならば、町を一緒に歩きつつ、空き家の活用方法を考える。

町の抱える課題や資源と、誘致企業や団体の組み合わせをよく考えながらコーディネートしていく。

オフィスを構えるための物件探しや、地元の人材とのマッチングも大事な仕事。

「いきなり外から企業がやってきたら、最初は身元もわからないから怪しまれちゃいますよね。コンシェルジュが同行していれば不動産屋さんの協力も得やすいですし、人を雇用するにも信用は生まれやすくなると思います」

コンシェルジュ自身も最初はある意味よそ者なのだけど、役場のみなさんはフランクな方も多く、いろんな面でサポートしてくれると思う。

不動産や行政制度に関する知識、経験などがなくても問題ないそうだ。

ちなみに、すでに誘致している会社はあるんでしょうか。

「そうですね。昨年は21件の問い合わせがあり、そのうち1社の話が進んでいます」と卜部さん。

その会社は在宅勤務が可能で、女性を積極的に雇用しているそう。

そこで卜部さんは、町内の幼稚園に協力を求めた。

「空いた時間でできる仕事を見つけたいお母さんがいるんじゃないかと思って。それで、その会社の社長と一緒に、幼稚園のお誕生日会の日にお邪魔したんです。子どもたちがワイワイ遊びまわるなか、社長も心くじけずに説明してくれて、その日は終わりました」

とはいえ、子どもの面倒をみながら必死なお母さんたちを前に、ほとんど手応えはなかった。

肩を落として帰ると、後日2人のお母さんから連絡があったという。

「あのときはちゃんと聞けなかったから、もう1回話を聞きたい、って連絡をいただいて。別日にあらためて説明する場を設けられたんです」

コンシェルジュの仕事は、接点をつくって終わりではない。その企業や団体が真鶴に溶け込み、根づいていけるように伴走する仕事だ。

「うちの町って、移住やサテライトオフィスに関して補助金を出していないんですね。自分でお金を出してでも来たい!という方をどれだけ呼べるか。その代わり、わたしたちはどれだけ一緒に汗をかけるか。シンプルに、そこに注力したいと思っています」

夏には貴船祭りという大きなお祭りがあったり、芝刈りのような地域の仕事もある。そのような機会を通じて、誘致した企業・団体と町をつなげるのもひとつの役割だ。

具体的なノウハウは、サテライトオフィス誘致の先輩である株式会社あわえからも吸収してほしい。

あわえのフィールドは徳島県美波町。真鶴町と同じ港町で、人口7000人弱と似た環境ながら、過去に17社のサテライトオフィスを誘致してきた実績がある。

採用された人は、まず最初にあわえの研修を受けることになる。

ただ、1年間という任期の短さが気にかかります。

「これを次のステップへの準備期間と捉えてほしいんです」

次のステップ。

「たとえば、コンシェルジュとして独立したり、この仕事で生まれたつながりを活かして起業するという形も考えられますよね。あるいは、誘致した企業に自ら入社したり」

「いずれにしても、ひとりでぽつんと孤立するような形にはさせませんから。わたしたちも一緒に、意味ある1年間をつくっていきたいと思っています」


最後に訪れたのは、真鶴の中心商店街にある「くらしかる真鶴」。

1〜2週間のお試し暮らしが体験できる施設で、真鶴町への移住に関心を持った人たちが次々にやってくる。

一階の土間は、シャッターを開ければ通りからなかの様子がよく見える。壁の塗装や障子の張り替えは、参加者を募ってDIYしたそう。

コンシェルジュはこの土間をオフィスとして使うことになる。

この施設を管理・運営しているのが、川口さん。

真鶴出版という屋号で出版の仕事をするかたわら、1日1組限定のゲストハウスも運営している。

「もともと地方で暮らすことは考えていました。食べものがおいしくて、空気がきれいで、人がやさしいところを探していたんですけど、結構どの地域も当てはまる。それなら、一番縁を感じたところに行こうと思いました」

知り合いの写真家さんに真鶴を勧められたのが、ちょうどお試し移住のはじまるタイミング。

実際に住んでみて、やっぱりこの町が気に入っているそうだ。

「町がコンパクトで、距離感も近いんです。灯油屋さんにLINEで追加の注文をしたり、体調悪いときに病院の事務員の方にFacebookで連絡できたり(笑)。そういうネットワークのありがたさは感じますね」

この日は、川口さんの所属する消防団の出初式。

仕事との両立は大変そうだけれど、充実感も漂っているように感じた。

川口さんは、どんな人が真鶴のコンシェルジュに向いていると思いますか。

「ハイブリッドな人ですかね」

ハイブリッドな人?

「都会的な会話もできれば、ローカルな会話もできる人。全然論理的じゃなかったり、時間の感覚がゆるかったりするけれど、面白い人が地元にはいっぱいいて。そのどちらの感覚も楽しめる人がいいと思います」

たしかに、コンシェルジュは町の外と内をつなぐ“顔”のような役目になるから、いろんな視点を持っている人だといいのかもしれない。

取材後、石井さんの運転で真鶴半島をぐるっと一周してもらった。

海へと続く斜面に家の明かりがぽつぽつと灯る光景は、とてもきれいでした。

普通の、美しいまちなみが広がる真鶴。この町へと誘うコンシェルジュになりませんか。

(2018/1/16 取材 中川晃輔)

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