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キーマンは宿にいる

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

「この地域で何かを生み出していくための活動をしてもらいたいです。単なる宿の運営者ではなくて、まちのキーマンになる人を求めています」

過疎化する地域に眠る古民家を再生し、地域活性化のために古民家の利活用を柱にさまざまなにぎわいをつくってきた株式会社ちいおりアライアンス。

この秋、京都府亀岡市に誕生する、新たな宿泊施設をプロデュースすることになりました。

手掛けるのは城下町にある築90年の古民家。

宿泊を通して、ツーリズムや移住交流の促進によってまちの活性化に繋げていこうと亀岡市が整備を進めています。

今回募集する人には、それぞれ独立した入口のある3部屋から成り立つ施設の運営を一任したいと考えています。

契約中はちいおりアライアンスのスタッフとして働き、その後はちいおりアライアンスで仕事を続けることもできるし、場合によってはここを借りて独立することも。

ノウハウはすでにあるので、宿の運営経験は問いません。まちの拠点づくりをしてみたい。そんなふうに考えたことのある方には、またとない機会だと思います。

取材に訪れたのは8月の半ば。

京都駅を出発して、JR嵯峨野線を進んでいく。にぎわう京都市街から離れるごとに、夏の嵐山が近づいてくる。

京都駅から15分もしないうちに、車窓は美しい峡谷に変わった。

車内アナウンスによると、保津川くだりで有名な保津峡らしい。そこからあっという間に、農村の風景が広がる亀岡市に入る。

京都駅とのあまりの違いに、20分で到着できたのが嘘のような、不思議な感覚になった。

亀岡駅前に出ると、かつて明智光秀が築城した丹波亀山城の城址が迎えてくれる。その周囲をぐるりと囲う城下町。築100年ほどの立派な古民家がいくつもある一方で、空き家は増え続けている。

「都会へのアクセスの良さが裏目に出て、ベッドタウンとして完結してしまっているのが亀岡市なんです。でも市内にはいろいろ魅力があって、磨けばきっと光ると思っています」

亀岡市役所でお話してくれたのは、ちいおりアライアンス代表の井澤さん。

今回のプロジェクトは、亀岡市がちいおりアライアンスに協力を依頼してはじまったもの。

日本の古民家再生の第一人者であり、ここ亀岡市在住の東洋文化研究家アレックス・カーさんとともに、徳島で「篪庵」や「桃源郷祖谷の山里(東祖谷落合集落)」などの宿泊施設を運営するほか、全国で古民家利活用のプロデュースを手がけてきた。

「僕らは宿泊業を目指しているわけではないのです。その地域らしい暮らしを維持していくことで、空き家や人口減少の問題を解決したい。今回の施設はその拠点なんです」

宿泊施設が課題解決の拠点。

「まちづくりの拠点となる宿泊施設をつくることで、若者世代が帰ってきたくなるようなにぎわいを地域に生み出したいんです」

亀岡には、まちを横切る保津川に湯の花温泉、嵯峨野のトロッコ列車といった、世界中から観光客が集まる観光資源がいくつもある。

観光客は毎年多く訪れるものの、それは日帰りだったり、温泉など宿のなかで完結する観光でしかなく、どれも市内ににぎわいを生み出すものではないそうだ。

ちなみに、今回新たな施設をつくろうとしている城下町のあたりに宿はひとつもない。地域のにぎわいづくり、というと少し不安な気もする。

「そうですね。宿泊施設ができたからといって急に地域が変わるということはないと思います」

井澤さんはさらりとそう言ってのける。気負いがないのは、徳島県の祖谷(いや)で宿の運営をしてきた経験があるからかもしれない。

ご存知ない人もいるかもしれないけれど、祖谷は「日本のマチュピチュ」なんて呼ばれることもある超限界集落だ。

「最初のころは、祖谷でも『こんなところで宿なんてやってもうまくいかんで』とか『あんたのとこの客が迷ってうちに聞きに来る』ってよく地元のおじさんにぼやかれたりしてました(笑)」

「でも、長い時間をかけて少しずつ外から人が来るようになってきて。よそから来る人に慣れてきた地元の人たちが宿を手伝ってくれるようになった」

今では地域のお母さんたちに宿の清掃やお料理づくりをお願いしたり、お父さんたちにガイドツアーをやってもらうこともある。

「得意気に話すんですよ。宿泊客を自分の家に連れてってお茶を出したとか、祖谷ではこんな料理にして食べるんやって会話をしたりね」

はじめは消極的だった地元の人たちが徐々に地元に目を向け、あたり前だった風景や文化に自信を持ち始めている。

地元の見どころや歴史を聞くことからでもいい。新たな宿のスタッフも、まずは焦らず自分から地域の人との会話を楽しんでほしい。

「施設の中だけでにぎわっていても意味がない。それでは地域のものにはなりませんからね」

今回の宿は、それぞれ独立した入口を持つ3部屋から成り立っている。

それぞれの部屋は貸切なので、ドミトリーに比べて宿内でのコミュニケーションが生まれにくい。旅行者同士だけでなく、もっと地域の人と話したり、まちを歩いてみてほしいと考えている。

「最終的に目指しているのは、取り戻した地域の自信を次の世代にも引き継いでいくこと」

「そのために、ここに人が来たくなるような魅力的な事業を、きちんと続けていくことを大事にしてほしいんです」

井澤さんは、亀岡ならそれができると考えている。

「住宅地のすぐ近くに自然を抱えてるなんてすごく面白い。たとえば保津川の辺りを自転車でまわる濃いプライベートツアーとか、お金を生むような新しいサービスをつくれるといいですよね」

新しく入るスタッフには、四国に拠点を置くちいおりアライアンスの運営ノウハウを踏襲してもらいつつ、亀岡に合った事業をつくっていくことが求められる。

その具体的な相談は、逐一亀岡市と連携しながら行っていくことになる。

このプロジェクトを担当するのが亀岡市役所ふるさと創生課。その課長が山内さんだ。

「今日は朝からうなぎ釣りに行ってきたんです。僕は生活のすぐそばにある亀岡の自然が好きでね。今の若い人たちにもそこで遊ぶ楽しさを教えてあげたいと思ってます」

四方を山に囲まれた亀岡は、美しい水と土に恵まれている。昔から「京の台所」と呼ばれるほど食が豊かな土地だ。

聖護院だいこんや賀茂なすなどに代表される京野菜のほかにも、地酒や亀岡牛と呼ばれるブランド牛。川魚もおいしい。

各部屋にキッチンがつくので、滞在するお客さんには亀岡らしい食材を仕入れて、調理してもらうのも楽しそうだ。

この日は山内さんたちが市内を案内してくれることに。まず宿泊施設となる古民家を案内してくれた。

築90年以上が経つこの古民家は、持ち主から市へ寄贈されたもの。8月の時点ではまだ改修前で、贅沢なつくりだけれどずいぶんと古びている。

「こういう築100年近くの建物が亀岡にはまだまだたくさんあります。でも老朽化にともなってどんどん取り壊されていて。亀岡の城下町らしい景観を維持していくのは難しいんです」

新しい施設は、内部は使い勝手よく一新しつつ、城下町の景観を崩さない和風建築の姿になる予定。

市の手続きの関係で工期を分けていて、完全に建物が完成するのは取材してから1年後、つまり今年の9月ごろになる。この宿をモデルに、景観を残す古民家リノベーションも進むといい。

住宅地のなかにあるものの、城下町の面影を残す造り酒屋や醤油蔵のほかにカフェがあったり、見せ方を工夫すれば十分に楽しめそうな所だと思う。

「通りをみてもらったら分かる通り、民家がいっぱいでしょ。夜中に大荷物のお客さんが家の前をうろうろするんちゃうんかとか、実際はかなり心配されています」

今まで宿ひとつなかった所だから、その心配は仕方ない気もします。

「我々としては地元の人に認めてもらえる場所にしなきゃいかんと思ってます。そのためには地元の人も何らかのかたちで運営に関わっていただくことが大事。そこはここに来られるスタッフの人次第だと思っています」

自らも城下町の辺りで育ったという山内さんいわく、この辺りはけして排他的な地域ではないとのこと。

秋には、城下町を中心とした亀岡祭と呼ばれる大きなお祭りが開かれる。地区ごとに異なる山鉾をみんなでひいて歩く様は「丹波の祇園祭」とうたわれることもあるほど華やかで、各地から集まった観光客で城下町周辺は一気に熱を帯びる。

この地区にも山鉾がある。スタッフがこういった地域行事に積極的に関わっていくことで、地域での存在感を増していけるといい。

何が生まれていくかは、そこで働く人次第というのがこの施設の面白いところ。

近くに事務所を構え、基本の事務仕事などはそこで行うとはいえ、事務所に留まる必要はない。

「運営スタッフは、おそらくほかの地域から来る人だと思います。よそから来る視点で、亀岡の魅力を発掘、提案してくれることも僕らは期待しているんです」

亀岡市は、この施設を、宿としてだけでなく移住を考える人のお試し移住の拠点にできればとも考えている。

たとえば、まちの人と宿泊客が交流できるワークショップやツアーを企画したり、移住経験者を呼んだセミナーを開いたり。

暮らしと近い場所にある宿ならではの発信ができれば、この場所の可能性はもっと広がるように思う。

仕事と同じくらい、暮らしも気になるところ。

山内さんと同じふるさと創生課の方で、一緒に案内してくれていた荒美さんが話してくれた。

「僕は市外からの視点も、住民の視点もどちらも理解しています。運営のことだけでなく生活のことも、不安なことがあれば、なんでも遠慮なく相談してください」

今回のプロジェクトでは、新たなスタッフの一番の相談役になってくれると思う。

出身は山口県。京都には大学進学を機に出てきて、亀岡市に住むようになって10年以上が経つ。

城下町を後にして、市内を一望できる高台へと案内してくれた。

一面に広がる田んぼが美しいこの場所は、運が良ければ雲海を拝むことができる。

盆地特有の風を活かしたパラグライダーも人気で、荒美さんも挑戦したことがあるそうだ。

「せっかく来ていただけるんやったら、亀岡らしい生活を楽しみたいというオープンな人に来てもらいたいですね」

「都会も自然も近いし、バランスのいいところです。地方で働くことに興味があって、でも一歩踏み出せないような方にもおすすめしたいです」

ちいおりアライアンスの施設ができることで亀岡がどうにぎわっていくかは、運営する人にかかっている。まさにキーマン。ひょっとすると、一任されることに不安を覚える人もいるかもしれない。

確認してみると、オープン前の1〜2ヶ月は四国にある宿で研修を受けられるとのこと。

オープン準備のときには、ちいおりアライアンスのスタッフが手伝いにきてくれるそうです。

全国で宿の企画や運営をしてきたちいおりアライアンスのノウハウを学びつつ、自分らしいサービスを考えていける、こんなチャンスはあまりないことだと思います。

興味があれば一度亀岡を訪れてみてください。どんなことができそうか、街を歩きながら想像してほしいです。

(2017/8/16 取材 遠藤沙紀)