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小値賀へダイブ

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ふと頭をよぎっても、実行してこなかった夢が誰しもあると思います。

たとえば、離島でダイビングショップを経営してみたい。

そんなふうに考えたことがある方は、ぜひこの記事を読み進めてほしいです。

長崎・小値賀町

五島列島の北部に浮かぶ17の島で構成された、長崎県でもっとも小さい自治体。

かつてはクジラ漁や海外貿易の要衝として栄えたこの町で、観光ダイビングの実現に向けた取り組みがはじまっています。

そこで今回は、地域おこし協力隊として観光ダイビングの体制づくりや海中のスポット調査、島内での関係性構築などを進めながら、ゆくゆくは独立してダイビングショップを経営していく人を募集します。

インストラクターの資格が必要なので、ハードルは高いかもしれません。

ただ、行政のバックアップを得ながら、ダイビングスポットとしてはまだほとんど開拓されていない場所で独立を目指せる、またとないチャンスだと思います。

また、農業や漁業に関わる地域おこし協力隊、さらには今年の世界遺産の暫定リストに挙げられている野崎島のビジターセンターの管理運営スタッフも募集中です。

少しだけ寒さの残る、冬の終わりの小値賀島を訪ねました。


17の島からなる小値賀町で一番大きな小値賀島へは、福岡・博多港発のフェリーに5時間乗るか、長崎・佐世保港発の高速船で1時間半、もしくはフェリーで3時間かけて向かう。

今回は佐世保港から17時発のフェリーに乗って出発。船内のテレビには、平昌オリンピック女子カーリングチームの表彰式の様子が映し出されている。

夜便のため、島に到着するころにはあたりは真っ暗だった。東京で知り合い、1年前に小値賀島へと移住した長谷川さん夫妻が迎えに来てくれることに。

一晩お世話になり、翌朝は日の出とともに気持ちよく目が覚めた。

車で役場まで送ってもらう途中、一軒の古民家の前で車が停まる。

長谷川さんは、有志のワークショップ形式でこの古民家のリノベーションを進めているところだという。

「小値賀って古民家がたくさん残っていて。使われないまま放置されているものもあるんだよね」

そんな環境に注目したのが、東洋文化研究者のアレックス・カーさん。築100年以上の古民家に宿泊できる古民家ステイや古民家レストランなどをプロデュースし、観光資源として利活用してきた。

最近は古民家ステイをきっかけに小値賀を知る人も多いかもしれない。

古民家が注目される以前から、キャンプや民泊など、観光に力を入れてきた小値賀町。

ただ、これだけ美しい海に囲まれた環境ながら、観光ダイビングは打ち出してこなかった。

それは一体なぜだろう?


小値賀町役場の水産係長である黒崎さんに話を聞いた。

「このあたりで密漁が発生していた時期があって。ダイビング=密漁というイメージが地元の漁業関係者の間にはあったんですよ」

また、ガンガゼと呼ばれるウニの一種が大量に繁殖し、藻類をものすごいスピードで食べていくため、磯焼けという海の砂漠化現象が近年進行している。

その影響で、かつて年間40〜50トンもあったアワビの漁獲量が減少。ダイビングに対して過剰に拒否反応を示す漁業関係者が増える一因となってしまったそうだ。

そんな状況のなか、2年前に水産係長となった黒崎さんが向かったのは、外部への視察だった。

「漁協や町、民間企業が共同で観光ダイビングの事業モデルをつくりあげた、和歌山県すさみ町を訪ねました」

すさみ町でも、当初は密漁に対する懸念の声もあったという。

とはいえ、後継者不足や漁獲量の減少で、漁協もこのままでは存続していけない。

そこで、間に民間企業を入れながら、ダイビングスポットまでの移動に漁師の船をチャーターできるような仕組みを構築。観光ダイビングで得た収益の一部を漁協や漁師に還元することで、お互いに利益を得られるように体制を整えていった。

さらに、観光ダイビングをはじめたことで別の効果も生まれたという。

「密漁の数が減ったんですよね。ダイバーによって海が常時監視されているような状態になったんです」

この視察を受けて、小値賀町でも観光ダイビングの事業化が前向きに進みはじめた。

今回募集する人は、この事業化に向けた体制づくりから関わることになる。

まずは町内の海の中がどのような状態か、実際に潜って調べるスポット調査を行う。この調査は、佐世保にあるダイビングショップと連携し、昨年からすでにはじまっているそう。

「17の島、それぞれに違っていて面白いんですよ」

「西の平島や美良島のほうは海底がゴツゴツしていて迫力があるし、沖縄の海のように透明度が高い。赤島はイソギンチャクなどのソフト系の見どころが多いですね。小値賀島の隣の斑島には洞窟があって、探検もできます」

こうやって実際に潜りながら、少しずつ小値賀の海のことを知っていく。

それと同時に、町外のダイバーから意見を募るため、実際に島を訪ねてもらってのモニタリングも実施する。逆に、全国各地のダイビングショップに営業に行ったり、場合によっては研修を受けたりできるよう、遠征費も予算に組み込まれているそうだ。

漁とダイビングのエリア分けや潜れる時間帯など、漁協との事務的な調整も必要になってくる。黒崎さんとともに、初年度はいろんな人との関係性を築いていくことになると思う。

「いきなり来ていただいても、島のこと、この海域のことがわからないと思うので。1年間活動しながら、その人が独立しやすいような体制を築いていければと考えています」

平成30年度は地域おこし協力隊として活動したのち、早ければ31年度の開業を目指したいと黒崎さん。協力隊の任期は最大3年なので、2年目以降も協力隊として活動することはできるけれど、ある程度スピード感をもって取り組める人が求められている。

「独立後は、国の漁村振興交付金も活用できます。人件費や店舗の賃借料、施設の整備費などが幅広く対象で、年間1200万円を上限に予算の4分の3は交付金でまかなえる。たとえば1000万円の予算を組むとしたら、持ち出しは実質250万円になります」

この交付金は平成33年度まで継続して活用できるため、独立から3年以内に黒字化できれば、その後の経営も見通しが立つ。もちろん、交付金に頼らないという選択肢もあると思う。


黒崎さんの話を聞いていると、2年前から入念に準備を重ね、実現に向けて丁寧に道筋をつけてこられたことがよくわかる。

けれども実際のところ、これだけ短い時間で新たにダイビングショップを立ち上げるって、かなり大変なことなんじゃないだろうか。

そんな感想を伝えると、黒崎さんはある人を紹介してくれた。

役場から車で5分ほどのところにあるお店「やぼ新」の料理人である坂井さんだ。

小値賀出身の坂井さん。

「ちっちゃいころから海は身近な存在でした。親おらんでも泳ぎに行ってたし、小学生のときは海開き前に全裸で泳いでたら、同級生の女の子に見つかったり(笑)。海水浴場じゃなくても、島の子たちは防波堤からよく飛び込んでましたね」

福岡の専門学校でダイビングインストラクターの資格をとり、卒業後は沖縄のダイビングショップで働いていたそう。

ダイビングショップの朝は早い。午前6時ごろから動き出し、道具の準備を整えてお客さんを迎えに行く。8時に港へ着き、スポットへ船を走らせて9時からダイビング。お店に戻るのは15〜16時ごろで、その後お客さんを宿まで送る。

「1日でマックス8本潜ったこともあります。1本がだいたい40分ぐらい。それに送迎や営業もするから、潜るだけじゃないんです。体力は必要だと思いますよ」

潜ったあと、お客さんとご飯に行ったり、遊びに出かけることもある。

一つひとつのことが次のリピートにつながっていくから、とくに繁忙期になる夏は仕事と生活の境目が曖昧になっていくかもしれない。

そんなダイビングの醍醐味って、坂井さんはどんなところだと思います?

「海のことがだんだんわかってくるのは面白いですよね。カメがいるポイントとかも、『運がよければ見れますかね〜。見れたらいいことありますよ』って言いながら、だいたい見れるってわかってたり。ははは(笑)!」

「でもぼくは、ダイビングは趣味のほうがいいなと思って。仕事にするなら、中途半端な気持ちではやれんと思います」

3年ほどで退職したあと、料理の道へ。今は実家の「やぼ新」を継いで料理人をしている。

実は坂井さんのほかにも、小値賀にはライセンスを持っていながらまったく違う仕事をしている人たちが一定数いるという。

ショップができれば、島外に限らず島のなかでもダイバーたちのコミュニティができあがっていくことも想像できる。

「沖縄で一緒にダイビングをやってた先輩も、小値賀にショップができたら行きたいって。古民家ステイとかと一緒にツアーを組めば、来たい人は結構いるんじゃないですかね」

実際のところ、小値賀でさまざまな観光事業を展開しているNPO法人「おぢかアイランドツーリズム協会」とともにツアー化の計画も進めているという。

冬場は海の透明度が高い一方で、海がしける可能性も高くなる。万が一海に入れないとしても、通年でどのように楽しんでもらうことができるか。地域の飲食店とも連携しながら、ダイビングの枠を超えて観光を考えていける人がいいと思う。

「海がしけた日は、うちの店の寄せ鍋を古民家まで持っていくこともできますし。海のなかだけじゃなく、小値賀を楽しんでもらうような仕事になるんじゃないですかね」


帰り道、1週間前にできたばかりのパン屋さんに立ち寄った。

元協力隊の小島さんがはじめたお店だった。

「協力隊のときには、島の農産物を使った商品開発をしていました。パンなら、具材を乗せたり、包んだり、練りこんだり。バリエーション豊かにできると思って」

もともと島巡りが好きで、島を元気にしたい!という気持ちから小値賀にやってきたという小島さん。

「でも来てみて、今さらおこす必要なくない?と思いました。それは移住者というよりも、地元のおじちゃんおばちゃんががんばってるから。小値賀をよくしたいっていう一体感があるんです」

「だからこそ、自分のことばかりじゃなく、島のことを考えてくれる人がいいですね」

きっかけは、ダイビングがたまらなく好きだとか、ごく個人的なことでもいいかもしれません。

ただ、その先に小値賀のこれからを一緒に考えられる人。ダイビングを通して、小値賀の魅力をまるごと発信していきたい!という人なら、このチャレンジをより楽しめるんじゃないかと思います。

小値賀の海に、人に、飛び込んでいってください。

(2018/2/26 取材 中川晃輔)