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奈良に302年続く老舗、中川政七商店。『奈良晒』と呼ばれる、奈良特産の高級麻織物の卸問屋からはじまり、時代の波を乗り越えながら、ものづくりを続けてきた会社です。
13代社長の中川政七さんは、就任当初から「14代は中川家以外に継いでもらう」と話していました。
そして今年。日本仕事百貨を通じて7年前に入社した千石あやさんが 14代社長に就任し、新体制を支える仲間を一挙に迎えることになりました。

日本の工芸を元気にするため、変化をいとわず進み続ける中川政七商店。
この記事では、中川政七商店のお店に並ぶ商品のデザイナーと、より俯瞰した視点で世界観を伝えていくアートディレクター兼グラフィックデザイナーを募集します。

とはいえ、商品企画や品質管理など、商品が生まれてから廃番になるまで見届けるのが商品課の仕事。たとえデザイン経験がなくても、中川政七商店のものづくりに並々ならぬ興味があるという方は、ぜひ続けて読んでみてください。
奈良本社の食堂で話を聞いたのは、商品本部部長の鈴木さん。

新体制に向けた今の気持ちは、「いよいよこれからだなってワクワクしつつも、ピリッと引き締まっているところ」だという。
「千石が社長になり、社内に向けて発信した最初のメッセージが『いいものをつくって、世の中に届ける』というものでした」
いいものをつくって、世の中に届ける。
「はい。自分たちが誇れるものづくりにもう一度向き合い、あらためてものづくりの足腰を強くするんだ、ということです。それで言うと、わたしたちは“いいものをつくる”部隊ということになりますね」
先代の掲げた「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、激しい変化の時代を駆け抜けてきた中川政七商店。
会社としてどうありたいか、何を目指すかについては、この10年の間に現場レベルまで浸透してきた実感があるという。
ただ、ものづくりに向き合う姿勢や、何が“いいもの”なのかについて、実はこれまであまり言語化してこなかった。
そこで新たに掲げたのが、「ものづくりの心得」。
「3つあって。1つめは、ものとして丁寧であること。2つめが、使い手にとって気が利いていること。最後に、つくり手が誇りを持てることです」

たとえば、その「ものづくりの心得」を象徴するような商品ってありますか?
そう尋ねると、鈴木さんは使い込まれた様子の3枚のふきんを持ってきてくれた。
「この『花ふきん』には、奈良の特産品である蚊帳生地を使っていて。目が粗いので吸水性がよく、広げて干せばすぐに乾きます。一つひとつの色には草花の名前がついていて、店頭に並ぶ様子もきれいなんです」

使うほど手に馴染むので、まるで育てるような楽しさも感じられる。
また、花ふきんの縫製は、すべて職人による手縫いなのだとか。
そこにも理由がある。
「実は一度、機械を導入することも検討したんですよ。そうしたらなんと、機械のほうが時間がかかることがわかって。熟練の職人さんの手仕事は、本当に速いし丁寧で丈夫、仕上がりも美しいんです」

だんだんとみなさんの考える“いいもの”が何かわかってきた。ものとして丁寧で、使い手にとって気が利いていて、つくり手が誇りを持てるもの。
それって“人に伝えたくなる”もの、とも言えそうです。
「本当にそうだと思います。つくっているものに“語り”の部分がなければ、世の中に伝えられない。そうでないと、話をでっち上げなきゃいけなくなっちゃう。そうですね。語れるものありき、なんですよね」
そんな話をしていると、あることを思い出した様子の鈴木さん。
「うちの母は、栗の渋皮煮が得意で。唯一のスペシャリテなんです(笑)」
「何十年も使い続けている鍋で煮るんですけど、母はこれじゃなきゃ、あの渋皮煮はできない!って言うんです。そういうことに、すごく憧れるんですよね」
そういうこと、とは?
「ものと一緒に歳を重ねていくこと。それって、豊かなことだなって。だからうちのお店に来てくださった方にも、そういった“暮らしの相棒”を見つけてもらいたいですし、わたしたちは選ばれるものをつくっていきたいなと思っています」

バラエティー豊かでありながら、全体に1枚のベールをまとっているというか。すべての商品に共通する空気感を感じるのは、これまで鈴木さんが話してくれたような姿勢が根っこにあったからなのかもしれない。
今回募集するのは、そんなあり方に共感しながら、手を動かして商品をつくっていけるデザイナー。
とはいえ、意匠を考えて形にする、というだけの仕事ではないという。
「どんなものをつくろうかという商品企画から、デザインや量産できる仕様設計をし、加工先さんを探して交渉。商品ができたら、その品質管理や在庫管理、商品としての役目を終えてやがて廃番になるまで。すべての過程を担うのが商品課の役割です」
その過程では、産地の職人さんとやりとりする機会もあるし、社内の商品企画会議でプレゼンをするようなこともある。

「新しい仕事の担当になると、次はどんな人と会えるのかなって。それが毎回の楽しみなんです」
デザイナーの榎本さんは、そう話す。

前職は東京のデザイン会社でプロダクトデザインのアシスタントを経験。中途で中川政七商店に入社し、オリジナル商品のデザインや、漫画家安野モヨコさんの作品『オチビサン』とのコラボレーション企画などを担当してきた。
現在はキッチン周りの器や掃除道具、食品など、幅広くものづくりを手がけている。
「ちょっと、ものを持ってきてもいいですか?」と榎本さん。
バックヤードから抱えてきた大きなダンボール箱から取り出されたのは、スープボウルだ。制作の過程で生まれたサンプルの数々も並ぶ。

相談を持ちかけたのは、伊賀焼の職人さん。中川政七商店では、もともと伊賀焼の土鍋を扱っていた。
大きさや形など、3Dプリンターでサンプルをつくり、検討していく。
いろいろ考えた末に、ヨーロッパ由来のスープボウルの形にたどり着いたそう。
ところが。
「社内のファーストチェックという会議があって。企画中の商品をずらっと並べて、ざっくばらんに意見を募るんです。そのときに、小売の担当者から指摘があって」
指摘を受けたのは、取っ手の形状について。
輪っか状の取っ手がついたスープボウルは、たしかに見た目はいいけれど、直火であたためた際に果たして持ちやすいのか。ミトンや分厚い布で掴むことを考えるなら、別の形がいいのではないか、というものだった。
「ハッと目の醒めるような経験でした。ひとりでつくっていると『この形がいい』と思い込んでしまうんですが、小売の担当は普段お客さまと接しているので、お客さまは実際にこの商品をどのように使うのか、どうやってご提案しようか、という視点から商品を見ている。その指摘がなければ、この形はつくれなかったです」

部署をまたいで意見を言い合える場があることも、それを素直に受け止められる榎本さんも、すごいなと思う。自分のスタイルって、簡単に曲げられないことのほうが多いから。
「プレゼントを選ぶような感じに近いかもしれないですね。好きな人に見繕うというか。ドキドキしながら(笑)」
「そうすると、自分だけじゃなく周りの人にも考えが及ぶんです。個人の好き嫌いにかかわらず、深掘りできるというか。どんなものでも、自分ごととして引き寄せて考えられるようになるんです」

ワンクール3ヶ月。商品カテゴリごとに課が分かれていて、その中で担当が割り振られ、複数の商品を同時に担当する。
働いていて、大変なことってなんでしょう。
「仕事の範囲も、内容も、常に自分の持っている力より少し高いレベルで求められます。それをポジティブに受け止められないと、難しい環境かもしれません」
先ほどのスープボウルのサンプルは、3Dプリンターを使って出力したもの。実は最近導入したばかりで、今まさに試行錯誤しながらものづくりに取り入れているところだそう。
「扱うもの、大事にしていきたいことは変わりません。その代わり、それを達成するための仕組みや組織のあり方はフレキシブルに変わっていきます」と鈴木さん。
「榎本のように、変化を前向きに捉えられる人がいいと思いますね。経験やスキルも大切ですが、ものづくりの心得に共感できるとか、ものが好きといったスタンスを重視したいと思っています」
グラフィックやプロダクトデザイン、生産管理や商品企画など、中川政七商店のものづくりは幅広い。
加えて、店頭に設置するタブロイド紙「ことつて」やポスター、動画の制作などさまざまな方法で中川政七商店の発信を総合的にデザイン・ディレクションする、アートディレクター兼グラフィックデザイナーも募集中とのこと。
ここで一緒にものづくりがしたい!と思ったら、何ができるか明確でなくとも、飛び込んでみるのもいいかもしれない。

「これまでの取引先さんの数を数えてみたんです。そうしたら、全国で860社ありまして」
「全国津々浦々の、心あるつくり手さんたちと一緒にものづくりができることが一番の醍醐味かなと、個人的には思っています。つくり手さんと対話をしながら、仕事のことを超えて、人生観が広がっていく感覚を味わったりして。チームで取り組むものづくりを楽しいと思える人に来てほしいですね」
(2018/6/12 取材 中川晃輔)
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