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いいものは海を越えて

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奈良に302年続く老舗、中川政七商店

『奈良晒』と呼ばれる、奈良特産の高級麻織物の卸問屋からはじまり、時代の波を乗り越えながら、ものづくりを続けてきた会社です。

13代社長の中川政七さんは、就任当初から「14代は中川家以外に継いでもらう」と話していました。

そして今年。日本仕事百貨を通じて7年前に入社した千石あやさんが 14代社長に就任し、新体制を支える仲間を一挙に迎えることになりました。




日本の工芸を元気にするため、変化をいとわず進み続ける中川政七商店。

この記事では、海外戦略プロジェクトのスタッフを募集します。

これまで海外には進出しないというスタンスを貫いてきた中川政七商店。302年の歴史でも例がない、未知の領域に一歩踏み出すことになります。

海外への出店や卸、現地の工芸メーカーとのものづくりやコンサルティングなど。まだ決まっていないことも多いなかで、ともに試行錯誤しながら活路を見出していく人を求めています。


奈良本社で話を聞いたのは、14代社長の千石さん。

2011年に、日本仕事百貨の記事を読んで入社。

小売課のスーパーバイザーや生産管理課、社長秘書、商品企画課の課長や自社ブランド「遊 中川」のブランドマネージャー、その後はブランドマネジメント室の室長を務めるなど、さまざまな役割を経験してきた。

今回新たに仲間を募集するのが、海外事業。千石さんにとっても、会社としても、はじめての取り組みとなる。

「秘書時代、前社長の中川の取材にはいつも同行していました。そこでだいたい聞かれるんです、『海外進出についてはどうお考えですか?』と。そういうとき、中川は『興味がないです』の一言で終わらせることが多くて」

それは、なぜだったんでしょう。

「日本の工芸を元気にする!と掲げている以上、まずは目の前の工芸メーカーさんと向き合うことを大切にしてきましたし、コンサルティング案件も年間3〜5本が限界。日本国内でやることがまだまだあるから今は考えない、というのが理由でした」

とくに明文化はしていなかったものの、社内では“海外進出は行わない”というスタンスが暗黙のうちに定着していた。

ただ、千石さんは海外への展開について、環境さえ整えば可能性はあると考えていたそう。

「わたしたちって、暮らしのなかでいろんなものをチョイスしているじゃないですか。家具だったり、文房具だったり、雑貨も、食べるものもそう。〇〇製だからというより、“いいものだから”選んでるな、っていう感覚が個人的にあって」

いいものだから。

「日本のいいものを届けるとき、そんなに海外を大仰に捉える必要があるのかな?って」

海外進出を実現するためには、輸出入の体制を整えたり、新たに投資をしたりといったハードルがないわけではない。

ただ、そのハードルを一つひとつ越えられるのなら、中川政七商店のつくる“日本のいいもの”が世界に受け入れられない理由もとくに見当たらなかった。

「これはちょっと、きれいごとすぎるかもしれないですけど、売り上げのためだけではあまりテンションがあがらないし、うちらしくない。中川政七商店は利益よりもビジョンが上位概念にある会社なので」

「日本の工芸を元気にする!」というビジョンが、利益よりも先にある。

「そうですね。日本の市場が縮小しているとか、数字的な現実問題もありますけど、それよりもビジョンに即していて、わたしたちが今やるべきことだと思えたからこそやりたい!という気持ちのほうが強かったです」

海外進出については、幹部陣を集めた合宿の場で話し合って決めた。

「いろんな意見が出るかと思いきや、すんなり決まって。中川も『そうだね!』という感じで、あっという間に決まりました(笑)」

5年10年がかりのプロジェクトの決断を、数日間の合宿で下す。このスピード感も中川政七商店らしさのひとつだと思う。

「問題は、どこに展開するか、です」

5年前、研修でイタリアの国際家具見本市ミラノサローネを訪ねたときのこと。

現地のつくり手やバイヤーと話すうちに、日本同様、ヨーロッパでも工芸の衰退が進んでいるという現状が見えてきた。

「古くから続くヨーロッパの職人はリスペクトされているし、守られてもいる。それでも、現代の生活にそぐわないという理由で、仕事として成立しないことがたくさんある、って話を耳にして」

ヨーロッパに限った現象ではない。それは今まさに、世界中で進行していることだった。

日本の工芸を元気にしてきた中川政七商店が、今度は世界の工芸を元気にする。

その舞台にどこを選ぶか。

「わたしたちのつくっているものの多くは、道具です。道具って、その土地の暮らしのなかで生まれるもの。環境が変われば、使う道具も変わりますよね」

たとえば日本では、汁物はお椀を口の近くまで持ち上げて飲む。ヨーロッパでは、スプーンですくい上げて飲む。

海外の食材を取り入れたり、日本食が海外で人気になったり。国内外で食文化は多様化しているけれど、土地に根ざした生活様式や習慣は、容易には変わらない。

「昔からあるものを活かし、現代の生活に寄り添う形に改良を加える。わたしたちのものづくりは、基本的にはそういうつくり方をしているんです」

「そうなると、まずは食べることとか寝ること、暮らすことが似ているエリアじゃないと成立しない。そんな経緯もあって、アジア地域に限定した海外進出を計画しています」

第一歩目は、中国へ。

中国において、正式な認定を受けた伝統工芸の数は2000を超える。日本国内では220ほどなので、およそ10倍。それに、まだ見ぬ素材や技術が眠っている可能性もある。

先日、会長の中川さんが上海で講演する機会があり、そこに同席した千石さん。

チケットは3時間で完売。翻訳された中川さんの著書を事前に読み込み、具体的な質問を投げかける人も多かったという。

「わたしたちが思っている以上に、日本の工芸業界と同じようなことが中国でも起きていて。その立て直しというか、本質的なコンサルティングをできる人が渇望されていたんです」

当初は、まず店舗の出店や卸での販売をはじめ、徐々に現地の工芸メーカーとのものづくりやコンサルティングへと幅を広げていく計画だった。

しかし、この講演での反応を受けて、販売や卸とコンサルティングを同時に進めていける確信を得たという。

「今回、現地でいろいろと確かめたい気持ちもあって同行したんです。実際に行ってみたら、わたしたちのものづくりが喜んでいただけるであろうことも、現地の工芸を元気にするためにお手伝いできることがたくさんあることもわかった」

「じゃあ早くやろうって。決めたら早いので」

とはいえ、海外進出は会社としてもはじめての取り組みとなる。

今のところ部署は設けず、社長の千石さん、コミュニケーション本部部長の緒方さん、小売部部長の吉岡さん、卸売課課長の高倉さんというメンバーのプロジェクトとして進行中。コンサルティングは会長の中川さんを中心に進める。

今回の募集では、どんな人に来てほしいですか。

「自分たちにとっても未知の領域なので、ある程度知見のある方。ほかの職種は未経験でも熱意さえあれば、と思ったりもするのですが、このプロジェクトに関しては経験やスキルが必要だと思っています」

今後の具体的な動きとしては、卸やポップアップショップなどを通じて感触を掴み、出店計画を進めていく。

その過程でアリババやTモールなどといったECへの展開や、工芸メーカーへのコンサルティングなど、多岐にわたる動きが並行して進んでいくことになる。

さらには、今後アジアのほかの国々への展開も考えられる。

だからこそ、英語や中国語スキルのほか、海外での法人立ち上げや店舗出店、貿易実務などの経験がある人を優先したいそう。

正直、ハードルは高い。

ただ、新しいことに挑戦するとき、担当者にどんどん裁量を委ねていくのが中川政七商店のスタイル。このプロジェクトを動かしていくために自身のスキルや経験が活かせそうであれば、これは大きなチャンスになると思う。


続いて話を聞いたのが、コミュニケーション本部部長の緒方さん。

今回のプロジェクトメンバーである彼はまさに、これまでの経験とスキルを最大限に活かす形で入社した方だ。

前職は東急ハンズのバイヤーからはじまり、Web担当に。

注文や在庫検索、ポイントカードなどの機能を搭載したスマートフォンアプリの開発や、全国の売り上げを集計・管理するPOSレジの開発など。インターネットの強みと実店舗の強みを掛け合わせ、買いもののわずらわしさを減らし、楽しみを増やすような仕組みづくりを手がけてきた。

その経験を踏まえ、現在は中川政七商店のオンラインショップとオフラインの直営店、両方におけるコミュニケーションを統括するような立場で働いている。

「面接のとき、今の会長の中川淳が出てきて。会って15分ぐらいですかね。ここしかない、と思ったんですよ」

ここしかない。

「一番衝撃だったのは、中川が業界全体を見て危機感を抱いていたこと。自社だけ伸びても仕方がない、と。それまでぼくは、業界全体に貢献するような視点は持っていなかったので、なんか恥ずかしいなと思って」

給与や雇用形態など、条件はとくに話さず入社を決めたそう。役職も、名刺を受け取ってはじめて知った。

「そういうことの優先順位を忘れさせるような何かがあった」と緒方さんは振り返る。

「そこで気づいたんです。自分は“何”がしたいかじゃなくて、“誰”と一緒に仕事したいかが重要なんだって」

今回の海外戦略プロジェクトに限って言えば、“何”の部分を無視することは難しい。けれども、それと同じくらい“誰”も大事にしたいという人が仲間に加わってほしい。

ここで「社長変わったけど、大丈夫(笑)?」と千石さん。

緒方さんが応える。

「入社までは中川さんしか知らなかったですけど、中川政七商店らしさが彼だけによって構成されているものじゃないということは、入ってすぐにわかったんですよ」

「みんな真摯で、真面目で、笑顔は忘れず。新しい企画書を持っていっても、重箱の隅を突くような人はいないですし、『なるほどね、とりあえずやってみようよ!』みたいな。302年の歴史あるスタートアップ企業だなって思います」

たしかに、中川政七商店は老舗ではあるのだけど、スタートアップ企業という表現も似合う気がする。

時代や環境など、あらゆる変化をいとわない姿勢がそう感じさせるのかもしれない。

8年前、千石さんが日本仕事百貨を通じて中川政七商店にエントリーした際のメールには、こんな一節があった。

“丁寧なものづくりを信条とし、びっくりするぐらいのお金持ちではないけれど、実は世界にファンがいる。そんな会社を探している”

「自分で言って、自分でそれをやろうっていうところに、巡り合わせの妙を感じますよね」と千石さん。

プロジェクトを進めるうちに、困難にも出くわすと思います。

それでもきっと、いいものは届く。そう信じて、海の向こうへと一歩踏み出す仲間を待っています。

(2018/6/12 取材 中川晃輔)


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