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毎日が忙しいと、ついつい目の前のことで一杯になりがち。
仕事や今後のことについて考えたり、大きな決断をするためには、環境を変えて一呼吸置いてみるのもいいかもしれません。
地方での暮らしや仕事に興味がある。今の環境から一度離れてみたい。次の一歩を踏み出すきっかけを見つけたい。
新潟県三条市にある『しただ塾』は、そんな思いを持つ人たちに向けた滞在型の職業訓練プログラムです。
「アウトドア」と「観光」をテーマに約3ヶ月間、座学や経営者講話、フィールドワークや企業実習など、さまざまなカリキュラムを通じて地域の仕事と暮らしを体感します。
過去に受講した塾生は、そのままこの地に残る人もいたり、地元に帰る人もいたり。ここで学んだことを活かして観光の仕事に就く人もいれば、まったく新たなスタートを切る人もいるそう。
みんなそれぞれに“きっかけ”を得ているようです。
東京駅から燕三条駅へは、上越新幹線に乗って約2時間。
燕三条駅からは車に乗り換えて、青々とした田んぼの風景を横目に40分ほど走らせる。
しばらくすると、三条市の中でも山間に位置する下田(しただ)地区に到着。旧荒沢小学校の姿が見えてきた。
ここは、農業を核とした人財育成と場づくり事業を推進するNPO法人ソーシャルファームさんじょうの活動拠点。
三条市の地域おこし協力隊も常駐し、サッカー教室や整体施術、学校を飛び出して棚田の再生プロジェクトに取り組んだりと、多様な活動を展開している。
しただ塾はソーシャルファームさんじょうによって運営されていて、塾生もこの校舎に通うことになる。
最初に話を伺ったのは、しただ塾事務局スタッフの末宗さん。
末宗さんは元しただ塾生。昨年末に下田へやって来た。
今年3月に卒業したあとは、地域おこし協力隊としてしただ塾の運営を中心に活動している。
以前は、東京にある交通計画のコンサルティングを行う会社に勤めていた。
「仕事は好きでした。けど専門性が高すぎて、自分で勉強しようにも忙しくて時間が取れなくて、付いていけなくなってしまったんですね。それで一旦離れようって思ったときに、日本仕事百貨のしただ塾の募集記事を読みました」
「新潟には行ったことがなかったけど、いずれは地方で働きたいなと考えていたし、25歳になる節目の年だと思って応募してみました」
しただ塾では、朝9時から午後4時頃まで約6時間のカリキュラムが組み込まれている。
その内容は接客マナー講習やアウトドア・観光に関する座学のほか、テント設営の実習、地域資源を活用した観光企画の提案、スノーピークをはじめとした地元アウトドア企業への見学、さらには道の駅や温浴施設での職場体験など幅広い。
昨年は、下田に流れる五十嵐川沿いにある碑(いしぶみ)を使った提案を行ったそう。
碑とは、田舎で見かける道祖神やお地蔵さんのようなもの。
「昔、このあたりは洪水が多かったそうです。それで慰霊とか安全祈願、水位の目印や道標としても機能するように、碑がたくさん道に置いてあって」
塾生それぞれにアイデアを出し合い、碑をモチーフにしたファッションショーやご当地アイドルなど、様々な提案がされたそう。
末宗さんは、どんな提案を?
「人形焼です。授業中に人形焼をつくってみたらどうだろうって呟いたら、たまたま同席していた協力隊の人がそれ面白いじゃん!と言ってくれて」
「その後、道の駅でお菓子づくりしている方のところに相談に行って、いろいろアドバイスもいただいたので、実際の商品化に向けて検討しているところです」
しただ塾に来て一番思い出に残っていることを聞いてみると、意外にも「雪かき」という答えが返ってきた。
「しんどかった思い出ですけど(笑)30年ぶりの大雪でひと晩に50㎝も積もったんですよ」
除雪作業も雪の中の運転も、慣れてないとなかなか大変だと思う。
「そうですね。人によっては嫌になるかも」
末宗さんはどうでした?
「途中から開き直ってました。下田に住んでいる人はずっと雪と戦ってきているのに、ひょっこりやって来た私なんかが悪態つくのは失礼だと思ったし、自分が望む完璧な場所なんてどこへ行ったってないでしょうし」
それでも雪が降ると外へ出かけづらく、雪国ならではの閉塞感を感じることがあったという。
そんなとき、近くにある喫茶店を見つけた。
「商店の古い倉庫を2年くらいかけて改装したお店で、海外製の古いプレーヤーと大きなスピーカーがあって、レコードが流れているんです」
「みんなに愛されているお店で、そこのマスターとお茶しに地元の人がよく来るんですよ。私もマスターと仲良くなって、レコード整理のお手伝いをしたり、毎週通うようになって」
今ではすっかりレコードが趣味のひとつになったそう。
田舎は不便なこともあるし、遊ぶ場所も少ないかもしれない。けど、自分で探せば楽しい場所が見つかるということを、ここで学んだ。
「下田では伸び伸びと過ごすことができて、ずっと東京でくすぶってなくてよかったっていう思いがあります。いま仕事とかで悩んでいる人にも同じように感じてほしいなと思って」
「お試しで自分の環境を変えられる機会ってそうないと思うんです。合わなければ辞めることもできるし、卒業したあとも地域に残りなさいと強制されるわけではないので」
次に話を伺ったのは、末宗さんと同期生の橋本さん。
「とくに目的がなくても、下田に来てのんびりするだけでもいいと思うんです」
出身地は三条市のお隣の見附市。小学校3年生から高校卒業までは下田地区で暮らしていた。
いわば地元民でもある橋本さん。どうしてしただ塾に参加したのだろう?
「正直に言うと、仕事をしたくなかったんですよ(笑)」
以前は愛知県にある自動車メーカーの工場で働いていて、愛知にはずっと住み続けるつもりだったそう。
「彼女がいて、結婚もしようと思っていたんだけど、別れちゃいまして。それでこっちに戻ってきたんです」
「そんなときしただ塾のことを知って。観光の仕事に就こうと考えていたわけでもないけど、昔は地元で働きたいと思っていた時期もあったし、これをきっかけにちょうどいいかなって」
末宗さんが話すには、橋本さんはしただ塾を経て一番変わった人らしい。
「自分でもすごく変わったなって」
どう変わったのですか?
「たとえば、今までは三条市で活動する地域おこし協力隊のことを、よその人が来て何を盛り上げるんだ?って冷めた目で見ていたんです。だけど、しただ塾に来てみたら、自分らみたいな地元の人間より頑張っている人ばかりで。まずそこで気持ちがガラッと変わりました」
「外から来てくれている人が頑張っているのに、自分が何もしないのは嫌で。地元の自分ならもっと頑張れるんじゃないかと思って、卒業後、4ヶ月は旅館で働いて、8月に協力隊に入りました」
橋本さんは農業をしていたおじいさんの影響を受け、これから農業をはじめようと考えているそう。
「昔は農業高校に通っていたけど、それは進学できるところがそこしかなかっただけで(笑)まさか自分が農業をやるとは想像してなかったです」
「周りの人からは『大変だよ』と言われるんですけどね。でも、やってみようって」
橋本さんの同期もいろいろなことをはじめている。
下田を流れる五十嵐川でラフティングガイドをする人。新潟市内のゲストハウスで働く人。女神湖でキャンプインストラクターをする人。栃木で仲居さんになった人。名古屋で起業した人。システムエンジニアになった人。
「しただ塾へ来る目的がぼんやりしていてもいいと思うんです。通っている間とか卒業後に見つかるかもしれない。自分もそうだったので」
もし卒業後も下田に残りたいと思ったら、どんなことができるだろう。
たとえば空き家となった古民家が下田にはいくつかあるので、それを活用するのも一つの手かもしれない。
最後に訪ねたのは、旧荒沢小学校から車で10分ほどの場所にある古民家『kamiyachi101』。
地域おこし協力隊の田中さんが運営している。
軽やかな雰囲気で、話していて心地のいい人。
出身は新潟市。以前は旅行代理店や広告会社で働いていた。
2年ほど前から三条市の地域おこし協力隊として活動中。古民家を改装し、住み開きの家として毎週月曜日に地域の方へ開放している。
「下田にいる人と外の人をつなぐ場所をつくって、そこに農業とか食を絡めたことをやりたいと思っているんです」
当初はここをゲストハウスにする予定だったそう。
ところがつい最近になって相続の問題で民泊は難しいことが判明。今後どのような業態にしていこうか模索している最中だという。
「暮らしの場として住んでいるだけではもったいない。もっと古民家の可能性を感じてもらいたいという想いもあって、フリースペースという形で開放することをはじめました」
食べものを持ち込んでゆっくりしてもらったり、仕事をしてもらったり。前を通りかかった地元のおばあちゃんや街中に住む友人など、毎回20人ほどが集まるという。
「チラシやSNSでみなさんに告知するときには、私がお手伝いしてほしいことも一緒に書くようにしています」
お手伝いしてほしいこと?
「たとえばこの家ってすごく広くて、掃除がすごく大変なんですよ。草刈りをしたい、木材で棚をつくりたいとかいろいろ書いておくと、それ手伝うよって人が集まってくれて」
「そんなふうに来てもらった人たちと、この家はどんな場所になったらいいかな?って話し合って、みんなで方向性を考えています」
下田の人たちは一緒に考えてくれるんですね。
「そうなんです。どこの田舎もそうかもしれないけど、下田は人が優しい。困っていたりすると、声をかけてくれる人が多いんですよ」
田中さんは、この家が人と人がつながる場になるのであれば、どんな業態になっても構わないそう。
もしこの家を活用したい人がいたら、ぜひ一緒にやりたいと話していた。
「去年の冬に東京の女の子ふたりが遊びに来てくれたときに、久々にこんなに笑ったとか、こんなにお腹いっぱいになったと言ってもらえて」
「それって下田にいると当たり前のことなんですよ。でも、そうじゃない人たちがいるんだなって気づかされて。今の働き方とか生活に違和感を感じている人は、一度下田に来てほしいな」
いろんな人に出会い話すことで、ひょんなことから新たな道が開けることもあると思います。
ソーシャルファームさんじょう代表の柴山さんからも、こんなメッセージをもらいました。
「下田へ来ることで、あなたの中にある小さな光が見えるかもしれません。それは、きっとダイヤの原石だと思います」
9月には東京でも説明会が開かれるので、引っかかるものがあったらまずはそこへ参加してみてください。
(2018/8/10 取材 森田曜光)