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田舎で自分のやりたい仕事を見つけるのは難しい。そんな声をよく耳にします。
地方で暮らしたくても、地元に帰りたくても、やっぱり仕事がネックだと。
ただそれは、少ない選択肢の中から選ぶから難しいのであって、自分で選択肢をつくればもっと広がりが生まれるかもしれません。
新潟県長岡市。
日本三大花火の一つ「長岡花火」でこの町を知っている人も多いと思います。
田園風景が広がる米どころでもあり、県内最多の日本酒蔵元数を誇り、「柿の種」などの米菓も豊富な地域。
そんな長岡市の中でも、今回の舞台となるのは栃尾地域です。
その昔、養蚕と機織りが盛んで、全国でも有数の繊維産地だった栃尾は、今は名物の「栃尾のあぶらげ」という厚さ3センチほどの分厚い油揚げが全国的に知られ、最近は首都圏の居酒屋やスーパーでも見かけることがあります。
油揚げのほかにも、実は日本酒やワイン、農産物など、美味しいものが栃尾にはたくさんある。食品以外の工業製品、工芸品、地域のアーティストたちの作品など、もっと魅力的なものが地域に眠っているかもしれない。
そんな思いから、今年立ち上がった栃尾プロダクトプロモーション(以下、TPP)では、まだ知られていない地域物産を発掘してPRや販売をすることで、栃尾の地域ブランドの向上を目指しています。
その活動を通じて自分の生業をつくる、地域おこし協力隊の募集です。
東京駅から上越新幹線に乗り、約1時間半で長岡駅に到着。
車に乗り換え30分ほど走らせると、栃尾が見えてくる。
TPPのメンバーの人たちにお会いするために、栃尾の中心部にあるカフェ&ワインスタンド「葡萄の杜」を訪ねた。
最初に話を伺ったのは、代表の大竹さん。今回募集する隊員の世話役として日々サポートしてくれる。
大竹さんは栃尾に生まれ育ち、高校卒業後は上京してデザインの仕事を20年ほど続けていた。
栃尾に帰ってきたのは今から5年ほど前。
デザイナー・イラストレーターとして活動するかたわら、葡萄の杜の店主として店を切り盛りしたり、地ワインをつくったり、子どものお絵描き教室を開いたり。
ほかにも地域の様々なイベントやプロジェクトの企画・運営・PRに携わるなど、活動の幅はとても広い。
「地域の人たちからは具体的な相談というよりも、いいアイディアない?と言われることがよくありますね。ありがたいことに、いろんな方からお話をいただけています」
たとえば、地域の商工会から相談があったときのこと。PR事業の予算が余り、そのお金を使って何かできないかという話だった。
「話をするうちに、ポスターをつくりたいと。けど、観光地の写真を背景に筆字で栃尾と書くような、そういうポスターはありふれていて誰も覚えてくれないから、普通にやってもあまり意味がない。予算的にもカメラマンを使う余裕はありませんでした。」
そこで大竹さんが考えたのは、一般的なポスターのサイズよりもずっと大きなA0の紙に、後光のような放射線状のデザインを施したポスター。その前に立って写真を撮るとまるで神様のようになる、という仕掛け。
秋葉信仰発祥の地である栃尾には、開祖の秋葉三尺坊周国が生きたまま神様になったという伝承があり、このデザインを考えたのだそう。
「大きな宣伝費をかけなくても、写真をSNSに投稿することでお客さんが勝手に宣伝してくれる。それと、ちょっと目新しいことをするとメディアが取り上げてくれるので、印刷したポスターの枚数分以上の効果があります」
「一生懸命やっていれば、またお仕事をいただける。ここではそうやって仕事を回しています。田舎は仕事の数が少ないので、自分で仕事をつくる必要があるんです」
大竹さんはとちお農園株式会社の代表も務め、農園でブドウを栽培し、国産ワインとして全国的にもめずらしいケルナー種のブドウを使用した地ワインを生産している。
もともと大竹さんのお父さんが、知人や地域の有志の方々と10年以上前にはじめた事業なのだそう。当初は自分たちで育てた葡萄を使ったワインを楽しもうという形だったので、生産本数は少なく、収益もあまり出ていなかった。
きちんと携わる人がいない限り、地域に根付いたものにはならない。そう考えた大竹さんが2年ほど前から事業を引き継ぎ、さらにワインの購入や飲食ができるカフェ&ワインスタンド「葡萄の杜」をオープンした。
「先人のみなさんが栃尾でワインをはじめたのは、町に貢献したいっていう思いもあったと聞いています。今ある特産品や産業だけでずっと地域を盛り上げていけるとは思っていなかったようですし、私も同じ危機感を持っています」
「だからワインだけじゃなくて、何か地域の良さをアピールしていくことをやっていきたいと思って。それで新たに知り合いと一緒にTPPを立ち上げました」
葡萄の杜を活動拠点として、地域物産を販売・PRしていく。
ただ、大竹さんは今ある様々な仕事で手一杯。葡萄の杜の運営もままならないほど忙しいそう。
地域おこし協力隊の人にはTPPの中心人物として活動するだけでなく、大竹さんとともに葡萄の杜の「店主」として日々の営業を勉強してもらいたいという。
大竹さんは、いずれお店を引き継いでもらってもいいと考えている。
「我々はワインの販売代と不動産の維持費をもらえればいいので、毎月の家賃もいらない。今は週3日の営業なので、営業日を増やせばある程度やっていけると思うんです。もちろんそれ相応の努力は必要ですよ」
「あと、今はワインの醸造を外部に委託しているけど、いずれはとちお農園で醸造所をつくりたいと思っていて。もし興味があるならそっちで頑張ってもらってもいいです。来てくれる人のために、我々が責任を持って任期終了後の選択肢を用意しておこうと思っています」
栃尾へ来て最初の仕事は、葡萄の杜1階に物販スペースを設けるための改装作業。これまで大竹さんが仲間に手を貸してもらいながら、DIYでお店をつくり上げてきたように、自分の思う形にしてほしいという。
改装作業が終われば、今度は取り扱うものをセレクトし、店舗営業と並行して地域物産を販売・PRしていく。
「地域のよさをアピールするプロジェクトなので、単にいいものっていうよりは、文化的なところを前面に出していけたらなと思っています」
「たとえばアベさんのお米。合鴨農法とか無農薬で育てているんですよ」
アベさんとは、TPPメンバーの藤﨑さんのこと。
隣町の小千谷市出身で、結婚して栃尾へ婿入りしたことから、よく「アベさん」と旧姓で呼ばれている。
「一之貝という集落で田んぼをやめる人が出て、やりたいっていう人を探してくれと言われていたんです。でもなかなか見つからなくて、一之貝へ行くたびに、どうだ?いるか?と言われて。それがだんだん、アベさんどう?って(笑)」
一之貝は美しい棚田風景が残る人口300人ほどの小さな集落で、このあたりでもとくに米がうまいと評判。
アベさんは1反半ほどの田んぼを借り、昨年は合鴨農法で、今年は手作業でお米を育てたそう。
「そういう活動は多分に文化的要素を含んでいて、コミュニティ事業に近いものがあると思うんですよ」と大竹さん。
なるほど、それなら、たとえば料理上手なおばあさんを見つけて、梅干しやフキ味噌を販売するのも文化的で面白いかもしれない。
アベさんは栃尾のコミュニティ支援に携わる団体に勤めていて、とても顔が広いので、彼が地元の人を紹介してくれる。
自分で食品加工の免許を取るか外部に委託すれば、お店で商品開発を請け負うことができるだろうし、そこから大竹さんと協力してパッケージデザインしたり、プロモーションにイベントやワークショップを開いたり、様々な仕事を生み出すことができると思う。
そのうち相談事がいろいろと舞い込んでくるかもしれない。将来的には地域の人たちから頼られる存在になり、それをしっかりビジネスにつなげられたらいいのだろうな。
ただそのためには、ときにはボランティアで働かなくてはならないこともある、と大竹さんは言う。
「なるべくタダ働きしないようにしてますけど、やっぱり田舎あるあるで。こんなことをやるために自分は来たんじゃないって思っちゃったら、何やってもダメです。与えられたものだけをやっていこうって考えの人も、続かないと思う。自分からガツガツいかないと得られるものは少ないです。都市部よりはるかに消費の少ない場所でビジネスすることの困難さを実感すると思います。」
「器用だとか、能力が高いだとか、そんなのはどうでもいいんです。栃尾に来てくれたら、腹を割って話したいですね」
大竹さんの話を一緒に聞いていた大橋さんも、何ができるのか可能性を一緒に探していきたい、と話していた。
大橋さんもTPPメンバーのひとりで、普段は栃尾で革のハンドメイド作品をつくる作家さん。
アメリカのシェリダン地方発祥の「レザーカービング」という技法を使って、革に様々な模様を描く作品が人気で、新潟県内を中心に口コミで評判が広がっているそう。
大橋さんのように、作家やハンドメイドでものをつくる人が、栃尾には意外と多いという。
「栃尾って機織りの町で、昔はどの家庭にも足踏みミシンがありました。だからみんな何でもサラっとつくっちゃうというか、そういう感覚が当たり前にあるんだと思います」
最後に話を伺った島田さんは、まさにそんな感覚の持ち主だと思う。
彼女もアベさんや大橋さんと同じTPPメンバーのひとりで、大竹さんとは同級生なのだそう。
長年、自動車部品を扱う会社を夫婦で経営し、8年前に地域にあるものを活かして何かできないかと新たに食品加工部門を立ち上げた。長岡の伝統野菜を使った「かぐら南蛮味噌」などの瓶詰め商品を生産・販売している。
本業の自動車部品関連の事業は今年で終わり、来年からは食品加工部門一本でいく予定だという。
「私、本当はね、最終的に障害者雇用をしたいの。畑からやって、障害を持つ人がひとりで生きていけるだけの対価を払えるようにしたい。この子を残して死ねないっていうような親御さんがいっぱいいるんですよ」
「でも夢が大きすぎて全然追いつかないなぁ」
そう呟く島田さんに、「そうかな。まずは小さいところから。お酒を売るよりはずっと支援が得られそうですよ(笑)」と大竹さん。
「うん、そうだよね。まあ、言わないと夢って叶わないから」
「またあいつバカやってるって言われるけど、一歩ずつでもやっていこうかな。それで、やってみたあとでやめたっていいじゃないですか。やらないよりはね」
このメンバーの輪の中にいると、不思議と何かをはじめたくなる気持ちが湧き起こってきます。
大竹さんや島田さんが話していたように、まずは小さなことからはじめてください。
(2018/11/19 取材 森田曜光)