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岡山県の東の端、人口1450人ほどの西粟倉村。2004年、平成の市町村合併が進む中、西粟倉村は合併しない道を選択する。
そんな地域で2009年10月に創業したのが株式会社西粟倉・森の学校。
地域の資源に根ざした仕事をつくろうと考え、村の95%を占める森に注目して、木材加工業をはじめることになる。
ネットで「製材機」と検索して探すような、手探りからのスタートだった。
その後、クギや接着剤は不要で、賃貸住宅などでも置くだけで無垢の床を楽しめる「ユカハリ・タイル」を開発。
そのほかにも、フローリング材や家具なども生まれ、会社の経営は軌道に乗っていく。
この10年で西粟倉に設立されたのは、森の学校も含めて40事業体以上になる。
そして今回、森の学校では、「観光型いちご農園」をオープンすることになった。今回はそのいちご農園に併設したカフェの店長候補を募集します。
なぜ木材加工業を主としてきた森の学校が「いちご」なのか。それに、なぜ西粟倉では次々と起業家が生まれるのか。
いろいろな疑問が解けていくような取材になりました。
用事を済ませて、瀬戸内海から内陸のほうへ車を進めていく。
次第に建物が少なくなり、西粟倉村に入ると、ほとんどが森に覆われているように感じた。その隙間に伸びる細長い平地に田畑や家が並んでいる。
一見すると、過疎化に苦しむ山村のように見えるけれど、次々と新しい事業が生まれ、移住者も集まっている。
その中心にいるのが西粟倉・森の学校。
木材加工工場の横に事務所があり、いちご農園を立ち上げようとしている羽田さんに話を伺った。
森の学校では営業部長を務めていて、趣味がトレイルランニングや罠猟師の31歳。
「学生のときに林業を専攻していたんです。林業に関わる仕事をしようっていうことだけは決めていたんですが、いわゆる働き方で言うと、県庁いくか、市役所いくか、ハウスメーカーいくかしかイメージがないときに、西粟倉・森の学校が10年前に立ち上がったんですよ」
すごい会社ができた!と感じ、すぐに西粟倉村にも訪れた。
「林業に関わりたいなと思いながらも、どういう仕事をしたらいいか分からないときに、田舎で正々堂々稼ぐんだって言っている森の学校はすごく輝いて見えて」
「こういう人たちと一緒に仕事したいなあって、ずっと思いながら学生時代を過ごしましたね」
在学中や卒業のタイミングで入社を誘われたものの、まずは力をつけようと考える。
その後、新卒で木材商社に入社することになる。
「牧さんから食事に誘われることがあって。そのあと入社3ヶ月で会社を辞めて、森の学校で働くことになりました」
牧さんは西粟倉・森の学校の代表。
「すでに2度断っていたんです。これが最後のチャンスだと思いました」
働いてみると、びっくりするようなこともあった。
「もっと、ちゃんとした会社だと思っていました。結構、中ズタズタなんだなあみたいなのは、入ってみて思いました」
「顧客管理、Excelでやってるのか!とか。みんな疲弊しながら、なんとか明日の売り上げをつくっているみたいな感じだったので。わりと大変そうなんだなっていうのは入ってみてヒシヒシと感じましたね」
一方で、自分の力を活かせる可能性も感じられた。
「ベンチャーなので、手挙げたらやれるという環境だったので。自分で新しいお客さんを探しに行くとか、この仕事僕やりますとか、なんかわりとそういうのは、どんどんどんどん仕事が回ってくる」
「前職のときは、結構いちいち上長の許可を取らないとできないことばっかりで。ハンコ何個押すんや、みたいな話も多かったんですけど。まあ、この会社は別にそんなの要らないので」
一番うれしかったのは、自分が売っているものを確かに感じられることだった。
商社で働いているときは数字でしか感じられなかったものが、すぐ隣の工場で製品をつくっているところを見ることができた。
自分が販売しているものの実感があった。
それにしても、なぜ森の学校で「いちご」を販売することになったのだろう。
その疑問を投げかけると、羽田さんはこんな話をしてくれた。
「3ヵ月に1回くらいずっと経営合宿をやっていて、そのときにいつも話しているんですけど。新しい事業をどうつくるかっていう話が、まあ当たり前のように話題に出る」
「ずっと木材にこだわって10年やってきたんですけど、そもそも本当に木材にこだわる必要はあるのかっていう問いはずっとあって。いろんな事業に挑戦しようっていう話が過去にもあって」
住宅を建てるとか、キクラゲや椎茸を栽培しようとか。いろいろなプランが考えられてきた。
「社長がこんなことやったらどう?とか、あんなことやったらどう?とか、いろんなチャンスを振るなかで、『じゃあ、俺やります』って、なかなか言えないと思っていて」
機会はあったけど、踏ん切りがつかなかった。
「そうです、そうです。行動できないことに、ずっと後悔があって」
「このままじゃ自分も会社もだめだなって。もっとこう、深い勝負をしなきゃだめだなって思ったときに、なんかいちご面白そうだなって思って」
ただ、なんで「いちご」なんでしょう。ほかにもいろいろな機会があっただろうし、基本は木材加工業の会社ですよね。
「そうなんです。木材と比較して、というのが1番の理由で」
比較して?
「木のことが嫌いな人ってほとんどいません。ほとんどの人が好きなんだけど、買いますか?という話になったときに、そもそも家を買うタイミングでもなければ、なかなか届かない」
そうですね。日常的に買うものではない。
「悔しいなあ、もっと多くの人に届けたいなと思ったときに、食べものがやりたかったんです」
たしかに食べものなら、どんな人も毎日お世話になっている。
「そうなんです。それに、いちごってめちゃくちゃ訴求力があるなあと思っていて」
調べてみると、いちごは日本人の好きな果物ランキングで36年間1位だった。さらに中国地方は生産量の少ない地域。つまり近隣にライバルが少ないということ。
もう1つ大きな理由は杉や檜の皮を再利用できること。
一般的ないちご栽培では、ヤシ殻を砕いたものを土の代わりに使っていることが多い。これを杉や檜の皮で代用できることがわかった。
「皮ってあんまり有効利用する価値がなくて、まあ燃やすかチップにするかしかなかったんです」
「森の学校のコンセプトは、地域にあるものを、人の手を組み合わせて、新しい価値を生んでいく、価値を最大限にすることを目指しています。今まで使えなかった皮を使って、おいしいいちごをつくるための土にできることがわかったら自分のなかでピンときたんです」
決め手になったのは、西粟倉村にもっと多くの人を呼べるのではないかと思ったこと。
「これまで田舎でつくって都会で売るみたいなビジネスモデルだったんですけど、お客さんに来てもらうための動線を、いちごだったらつくれるんじゃないかなと思えたのが、1番面白いなと思ったところですね」
トマト、椎茸、きゅうり。
いろいろな作物と比較して、2時間かけても訪れたいものってなんだろう。
いちごだったら訪れたいと思えるかもしれない。
いろいろなことがつながって、パズルのピースのようにピタリとはまり、工場のとなりに観光型のいちご農園をつくる絵を描けた。
「いちご狩りをしたお客さんが、カフェとか物販スペースで、ものを買ったりとかコーヒーを飲んだりとか、いちごを使ったお菓子を食べられたり、端材を買って、そのままDIYで、ものもつくったりできたり」
なるほど。いちご狩りのついでに、いろいろなことをしてもらいたい。
「そうです。いちご狩りって、食べたら終わりじゃないですか。正直30分も食べられなくて、15分とかで終わっちゃうんですよ」
「じゃあこの後どうする?ってなって、ほかの地域に行っちゃうみたいなことが往々にしてあるなかで、なんか、ここに来たら半日時間つぶせる、みたいな場所をつくりたい」
最後にどんな人と一緒に働きたいか聞いてみる。
「うちの会社、30人弱でやっているんですけど、半分以上女性なんです。ほとんどが結婚してこの地域に住んでいるとか、子どもを育てている、30代、40代のおかあちゃんたち」
「そんな自分たちと、上手く一緒に働ける人が良いですね」
経験とかはあったほうが良いですか?
「そうですね。カフェをどう運営するのかとか、どんなメニューを提供するのかという部分は本当に素人なので、そんな経験がある人に来てもらえるといいなあと思います」
たとえば、飲食店のマネジメントができて、商品の開発もできるような方が良いのかもしれない。
ただ、経験がなくても、ここは西粟倉村だ。まずやってみようと思う意志があれば大丈夫な気もする。
会社として経験がないような事業でも果敢にチャレンジしていくことに本当にびっくりする。
木材加工の事業を立ち上げるときも手探りだったそうで、製材機もあとから振り返ると、自分たちのやりたいことに対して、あまり適切ではない機械を最初に購入してしまったそうだ。
だからといって失敗しても良いわけじゃないだろうけど、チャレンジすることを評価するような会社なのかもしれない。
「あと隣の家に醤油借りに行ける人だと、なんかいいかなって思います」
醤油を借りに行ける人?
「1450人しかいない村なので、すごく人と人との距離が近いです。東京でマンションに住んでいて、上にだれが住んでいるか分からないみたいな話じゃなくて、集落にいる人全員知っている、というのが大前提で」
「いろんなじいじゃんばあちゃんもいますし、ちっちゃい子もいるんですけど、そういう人たちとコミュニケーションとろうと思ったら、ある種の図々しさっていうか、無遠慮さがあったほうが、なんか上手くいくのかなあって思いますね」
西粟倉村は本当に面白い。いろいろな人が集まってきます。
いちご農園や食に興味があるのはもちろん、自分の仕事をつくってみたい人にも良いかもしれません。
なぜならまわりに起業する人が多いと、自分もやってみたい、自分にもできるんじゃないかと思えるものだから。
もちろん、いきなり自由に仕事をつくることは難しいと思います。まずは求められたことを一つひとつ形にしてください。そうしていけば、きっと羽田さんのようにチャンスがやってくると思いました。
(2020/9/17 取材 ナカムラケンタ)
※撮影時はマスクを外していただいております。