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手を動かして考えて
また手を動かして考えて

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身体を使う仕事も好きです。時間が過ぎるのも早いし、形になる喜びもある。分担作業をしていると、まるでチームスポーツのようにも感じられます。

小野キャストはロストワックス精密鋳造の専門工場です。

鋳造とは、ドロドロになった金属を型に流し込み、冷やすことで形をつくります。

とくにロストワックス精密鋳造とは、蝋(ワックス)でつくりたい形をつくり、それを型にいれて焼き固める方法です。熱でワックスはロスト、つまり溶けてなくなることで金属を流しこむ空洞をつくるので、ロストワックスと呼ぶそうです。

それぞれの工程の担当がバトンをパスするように働いています。手を動かす、身体を使う仕事が好きな方はぜひ読んでください。



東武東上線のみずほ台駅から歩いて10分少々。畑も広がるのんびりした場所に、小野キャストの事務所兼工場がある。

八百屋さんの隣の扉を開けると、中には見たこともないような機械類が並んでいる。金属を溶かしているからなのか、中は少し暖かい。

2階にあがると、それぞれの机で作業するみなさん。

集中している方もいれば、和気あいあいと話している方も。それぞれのペースで働いている。

まずは代表の小野さんに話を聞く。

「金属を溶かして型に流す、鋳物と呼ばれている仕事をしています。特にアクセサリーとか宝飾品を専門に扱わせていただいています」

小野キャストが得意とするのが、ロストワックス精密鋳造。どういうものなのか、実際の工程を見せてもらいながら教えてもらった。

最初に指輪など、お客さんから原型をお預かりする。それを柔らかいシリコンで挟み込む。しばらくすると固まってゴム型となるので、そこへワックスを注入して指輪の形とする。

ワックスでできた指輪を必要な数だけつくり、ワックスの棒に溶かして溶着していくと、まるで木のような形になるので「ツリー」と呼んでいる。

ツリーを丸い筒にいれて、まわりを石膏のような真っ白な粉と水を混ぜたもので埋める。それを窯で焼き上げると、粉と水は固まって硬くなり、ワックスは溶けてなくなる。

ワックスがなくなって生まれた空洞に金属を流し込む。しばらくすると金属が冷えて固まるので、高圧の水で洗い流すと金属部分だけが残る。最後に指輪部分だけニッパーで切り落とす。

磨いたり、石を留めたり、仕上げの工程は、別の会社が担当して指輪が完成する。



一連の工程を見せていただいてから、なぜこの仕事をはじめたのか小野さんに聞いた。

「はじめは歯科技工士を目指していたんです。今の仕事と同じで、銀歯も金属を溶かして型に流し込んで詰め物をつくるんですけども、学生のころから指輪とかアクセサリーとかもつくっていましたね」

学校を卒業してから、歯科技工の会社に勤める。

2年半働いたあと、イベント設営の会社に転職することに。アルバイトからはじめて、社員にもなった。

「ただ、自分としては本当にやりたいことではなかったので」

本当にやりたいこと。

「そうですね。自分のためになっているとも感じなかった」

「ちょうどアクセサリーをつくる仕事が募集していたんです。結婚しているんですけど『30歳までは自由にやっていいよ』といわれていたんですよね」

イベントの仕事を辞めて、転職することを決意する。

「ものをつくること自体が恐らく好きなので。まるで別の仕事だったんですけど、入ってみてあらためて楽しいなっていうのは感じましたね」

一つひとつ形も違うし、歯科技工と比べて使用する金属量が多いことにもワクワクした。

しばらく働いたあと、小野キャストを創業する。

「最初は会社を大きくするつもりはありませんでした。お客さんの要望に対してお断りせず、なるべく対応できるようにしていたら、人も増えていって」

「要望に応えるためには、色々な知識や技術が必要になってくるんです。考えて解決したことで得た技術や知識が蓄えられて、また新たなお客さんの要望に応えられる」

この仕事の面白さってどういうところでしょう。

「色々考えさせられるのが面白いのかな。今でも悩みが尽きないというか」

「解決していくことで、自分や会社が成長できるところが楽しいところであり、ここまで続けられる理由なんじゃないかな」

できるかぎりお客さんの要望に応えていたら、駆け込み寺のようにいろいろな相談がやってきた。

難しい相談であればあるほど悩みは尽きない。けれども、それを解決する面白さがあり、蓄積していった経験が次の仕事につながっていく。

「少しデザインが変わると、前と同じようにやっても何かしら問題が出てくることがあるんです」

「ほとんどの金属は温度を上げれば膨張して、温度が下がってくると収縮する。その膨張と収縮の調整、金属を流し込む道の太さ、長さ。あとは取り付ける位置を工夫しないと良いものができないんですよね」

小野キャストで制作したアクセサリーは、仕上げの工程のため、次の会社に送られていく。

そのときに製品の良し悪しがはっきりするそうだ。

たとえば、良いものなら5分で磨きが終わるのに、10分、15分かかったりする。

その違いはどこにあるのだろう。

「金属を型に流し込むと、先に固まるところと、後から固まるところがでてくるんですよ。先に固まったところは動かない。ただ、金属は冷めてくると収縮する。収縮するというのは引っ張るイメージ。固まっていないところが引っ張られるわけです」

引っ張られるので隙間が生まれる。割れてしまうこともあるし、スポンジ状になってしまうこともある。そうなると、後の工程で挽回する必要がある。

粉に水をいれて焼き固める鋳型も同じ。

湿度によって水分量も変わってくるから、昨日できたことが今日、うまくいかないこともある。同じメーカーの同じ材料でも、生産ロットが変わることで微妙に成分が変化して仕上がりが変わることもある。

なんだかパン屋さんの取材をしているように感じた。

「思っていた仮説に対して、予想通りの結果が出たら面白い。でも昨日まで同じような工程でつくってきたものが、突然おかしくなることもある」

「不良が出ることは、仕方のないことだと思っています。ただ、おかしくなった原因は必ずある」

うまくいかなくても、直ちに担当者が責められることはない。

それよりも、不良が出たあとにどう対応するか。みんなで考えて、試行錯誤しながら解決していく。

「この仕事はコツコツ作業できる人は向いていると思います。それに工夫しながら考えられる力も必要かと」

「自分の作業のあとに次の作業があるわけで、協調性も必要ですね。自分のところだけ考えてやっていると、全体の流れが上手くいかないので」



コツコツ作業できることと、考えて働くこと。そのどちらも楽しんでいるように感じられるのが田中さん。

金属を流し込む部分となるワックスでできた棒に、指輪などの形をしたワックスを溶かしてつなげてツリーにしていくのが主な役割。

この仕事に出会ったときのことを思い出してもらった。

「3年前に埼玉に引っ越してきて。ちょうど求人を探していたら、ここがあったんです。もともと小さいころから物つくったりするのが好きな根暗な子だったので、ぴったりだと思って。あとは彫金をずっとやっていたので、結構近いなって」

自分のことを「部屋の隅っこで一人、お裁縫しているタイプ」と話されるけど、そんな印象もなく会話は弾む。

ただ、仕事中の様子を見たら、仕事にどっぷりと没入しているようだった。黙々と手を動かしているのが合っている方なのかもしれない。

「働きはじめて2、3日くらいして、社長に『どう?仕事?』と聞かれたんです。私が『楽しいです』って言ったら、『え?楽しいの?』みたいに、ちょっとびっくりされました。はじめの頃は単調な作業が多いので」

田中さんには合っている仕事だと思うんですけど、それでも大変なところってありますか?

「時間に追われるところはありますね」

「納期があって、その日に間に合わせないといけないことが結構あるんですよ。運動会みたい」

運動会みたいになって印象に残っている日はありますか。

「年末の大掃除の前日でしたね。いっぱい注文が来て。これを大掃除の日に渡してほしいということで」

「パートさんも、ものすごいスピードでやってくれて。鋳型からでてきたツリー状のものをニッパーでパチパチ切り落とすのは、普段担当しないんですけど、その日はみんな大掃除だから私も手伝って切り落としたんです。もう何百個って。それが間に合ったときは、ちょっとうれしかったです」

社長の小野さんのことはどう思いますか?

「なんでも話せる社長ですね。要望とかも」

たとえば、どんな要望?

「夏に暑かったのでエアコン変えてもらったとか」

「あとは仕事のなかで、こういうふうにしたほうが良いんじゃないかって言えば、良いアイデアは採用してもらえます」

たとえば、商品の個数を確認して、次の工程にスムーズにつなげていくために、商品を載せるトレイに挟んでおくメモ。

これを改善する提案をしたこともあったそう。

「はじめは単調な作業が多いと思います。慣れてくれば、新しい仕事もできるようになって楽しくなってくるんですけど。あとはほかの人が見落としてしまったこともフォローできるようになりますよ」



あらためて、小野さんにも話を聞いてみる。

ずばり、この仕事の将来性について。積み重ねた経験が、役に立たなくなったら困るので。

「アクセサリーや宝飾業界は年々縮小傾向です」

なんと!たしかに以前よりアクセサリーをされる人は減っているように感じます。自分も結婚指輪くらいです。

「そうなんです。でも鋳造会社さんも減っている。納期を守り、技術を積み重ねることが強みになっています」

あと感じるのが、結婚指輪でも小さなブランドが増えていること。日本仕事百貨でも、そういう会社の求人は増えています。

大量生産よりも細やかなニーズに応えられる会社は伸びているように思います。

「そうですね。あとロストワックス精密鋳造って、複雑な形状ができることに強みがあるんですけど、温度を上げたり下げたり、という工程がいくつもあるので、精密機械のような寸法の調整は難しいところで。寸法精度を上げていけば、アクセサリー以外にも、もっと仕事は伸びていくと思います」

「アクセサリーというとイメージが良いかもしれませんけど、汚れることもあるし、窯の温度も最高で950度くらいになります」

きついこともあるなか、黙々と手を動かすのが9割。うまくいかないときは原因を探ったり、急ぎのときはみんなで工夫したり考えるのが1割。

ほとんどが作業している時間で、ときどき考える仕事だと思います。はじめは作業がほとんどかもしれません。

こんな仕事が性に合っている人って、結構いると思います。しかも本人は気づいていないことが多いように感じました。

(2021/4/6 取材、2023/2/14更新 ナカムラケンタ)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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