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もう一度泊まりたいホテルって、どんなホテルだろう。
料理が美味しかった、お風呂が気持ちよかった、眺めがよかった。
いろいろ思いつくなかで、僕自身がもう一度泊まりたいと感じるのは、その場にいるオーナーや旅人など、“人”がいいなと思ったホテルです。
宮城県仙台市。今年の夏、ここで新しいホテルがオープンします。
その名も「OF HOTEL」。居心地の良さはもちろんのこと、まだ知られていない東北の魅力を集め発信できるような場所として、新しいホテルの在り方を目指しています。
事業主は、ビルやマンション管理事業を展開する大和ライフネクスト株式会社。運営は、仙台を中心にリノベーション事業を行なっている、株式会社N’s Create.の関連会社が担当します。
今回募集するのは、ホテルの運営を担うゼネラルマネージャーとマネージャー、フロントスタッフです。
売上や予約の管理、接客といった基本業務に加え、イベントの企画やSNSでの発信など、それぞれの強みを活かしてホテルを盛り上げていきます。宿泊業界での経験は必要ありません。
東北の魅力を発信したい人、さまざまな人を巻き込んで、東北を盛り上げていきたい人。そんな人にとっては、きっと面白い仕事だと思います。
4月、雨の日。羽田から仙台空港まで飛行機で約1時間、持ってきた本を読んでいたらあっという間に到着した。空港から電車に乗り換えて、仙台駅へ。
駅から傘をさして北に歩くこと5分ほど、OF HOTELのサインが描かれた、細長くて真っ白な建物を見つけた。
10階建てのホテルの入口前には、仮設の柵があってまだ工事中のよう。どんな空間が広がっているのかワクワクするけれど、勝手に入っていいものか。柵の前で悩んでいると、たまたま通りかかった関係者の方が案内をしてくれた。
打ちっぱなしのコンクリートを活かしてデザインされた空間は、不要な情報が削ぎ落とされていて、建物の雰囲気をダイレクトに感じられる。
スタッフの方に出迎えてもらい、エレベーターで2階へ。大きなウッドテーブルで待っていると皆さんがやってきた。
まず話を聞いたのは、株式会社N’s Create.代表の丹野さん。今回OF HOTELの運営を担う関連会社でも代表を務める。
N’s Create.の設立は2014年。
もともと歴史や骨董品が好きで、アンティーク家具の仕入れ・販売をしていた丹野さんが、現会長と意気投合して一緒にリノベーション部門を立ち上げたのが、会社のはじまり。
現在はリノベーション事業を中心に、店舗や住宅のリニューアルや古くなったビルの再生・運営を手がけている。
「11年前に震災があったとき、身近にあるものの大事さにあらためて気づいて。東北で暮らす人たちや街のために、できることを模索してきました」
「震災によって、働く場所を求めてくる人や震災復興に携わる人、いろんな人が仙台に集まったんですね」
それまでは空き家も多く、中古マンションも売れ残っている状態だった仙台。震災の影響によって状況は一転、年々地価があがっていく。結果として街は活気づき、経済もよくなっていったそう。
「それが、ここ数年はコロナの影響もあって、人の出入りも減ってしまったんです。ようやく本格的に地方創生をやらないとまずいなって雰囲気になってきました」
これまでN’s Create.が手がけてきたのは、建物の良さを最大限引き出せるようなリノベーション。ただ、あくまでその建物だけで完結していた。
建物単体ではなく、その場所を起点に地域に開けた場所をつくっていきたい。そう考えていたときに、ここのビルオーナーから相談をもらう。
内容は、ビジネスホテルとして運営していたビルを利活用してほしいというもの。仙台を盛り上げる場所をつくりたいと考えていた丹野さんにとって、またとない機会だった。
「住宅や店舗のリノベーションは経験していたんですけど、ホテルは初めてで。そこで相談させてもらったのがu.company株式会社代表の内山さんでした」
そう言って紹介してもらったのは、今回のプロジェクトでプロデューサーを務める内山さん。
一般社団法人リノベーション協議会の会長を務め、普段は東京でu.companyのほかにもいくつかの会社を経営している。遊休不動産を活用したビジネススキームの構築や経営コンサルティングなど、建物や空間にとどまらず幅広く活動をしている方。
N’s Create.のコンサルティングも手がけており、今回のプロジェクトに関わることになった。
「仙台って出張で来る人が多い街なんです。それも面白いんだけど、その内訳が意外で。実は、東北から訪れている人が全体の7割もいるんですよ」
7割も、ですか?
「買い物に来たり、出張で訪れていたり。観光目的ではなく、暮らしや仕事の延長線上にある街として賑わっていたんです」
加えて東北全体を見てみると、震災以降、東北の魅力を深掘りして新たな価値を生み出すクリエイターも増えてきていた。一方で、仙台にあるホテルのほとんどがチェーンのビジネスホテルだったことに気づく。
「感度の高いクリエイティブワーカーが魅力を感じる場所が必要だと思いました。ビジネスホテルって窓際に机と椅子があって、あとはベッドだけみたいな。部屋以外に居場所がないことがほとんどで」
たしかに、テレビを見るか外に出るか、くらいしか選択肢がない気がします。
「どれだけデザインのいいホテルでも、それでは一回泊まっただけで終わってしまうと思うんです。そうじゃなくて、また訪れたいと思ってもらえる場所にするために、泊まる人の居場所をつくる。その上で、東北の魅力が伝わるような工夫を凝らす。それがポイントだと思いますね」
たとえば、秋田出身の建築家、納谷新さんにホテルの設計を依頼したり、山形で無垢の家具をつくっている家具工房モクの家具を起用したり。
エントランスには東北ゆかりの十和田石や秋保石を配置。ほかにも仙台出身のデジタルクリエイティブカンパニーWOWとコラボした演出も進めているとのこと。
「一人部屋は狭いながらしっかりとしたデスクがあって、作業もできるように。もう少し広い部屋だと6人ぐらい泊まれて、旅行者がみんなでわいわい楽しめる部屋も考えています」
部屋ごとにコンセプトを変えて、さまざまな層の人が泊まれるように。元の建物の良さも活かしつつ、そこにしっかりとデザインを加えていく。
もともと駐車場だった地下は、仙台の和食居酒屋がテナントとして入ることになっている。ここも、東北のお酒や仙台ならではの食を楽しめるような場所にしていきたい。
「たとえば、仙台から少し離れたところでワイナリーをされている方がいて。数年後には地元の葡萄でつくることを目標に、新しいチャレンジをしているんです。そういったお酒もお店では提供していこうと考えています」
ほかにも、東北各地でつくられた面白いものを販売するスペースをつくったり、フリースペースを展示会に使ってもらったりなど。
泊まるだけの場所を飛び越えて、東北の人と一緒につくりあげていく宿にしたい。その共創の精神は、働くスタッフそれぞれにも持ってほしいものなのだそう。
「ホテルの稼働率って、通年で見ると80%ぐらいなんです。その余った20%をどう使うかというのが大事で」
たとえば仙台には、せんだいメディアテークという公共施設があり、年に数回アートイベントが開かれている。
「そこには多くのアーティストが展示の1ヶ月くらい前から集まって創作活動をするんですが、泊まる場所を確保するのがキャパ的にも予算的にも大変だというのを聞いて」
「それなら、ここのホテルでもイベントに合わせた特別展をお願いして、その代わりに宿泊料金を低くして泊まってもらうとか。東北のためになる活動だったら、そういうこともいいんじゃないかと。この場所を自由に使ってもらうことで、さらに面白いプレイヤーも集まると思います」
単純なビジネスホテルのスタッフではないと思う。
具体的にどんなふうに働くことになるのか。続けてマネージャーの成富さんに話を聞く。穏やかな口調で、相談しやすそうな雰囲気の方。
「まだ私も入ったばかりなので、ほんとにこれからって感じですね。私自身は、ホテル業界で14年間マネジメントをしてきておりまして、運営体制やホテルの収益管理など、一通り経験しているので、そこは新しく入る人も安心して入ってきてほしいです」
アートと音楽が好きで、26歳まで音楽活動をやっていたという成富さん。今回のプロジェクトのことを知ったきっかけは、OF HOTELのSNSだった。
「小さい頃から渡辺篤史さんの『建もの探訪』が好きだったんですね。そこで印象に残っていたのが、このホテルのデザインをされた納谷さん。それで今回のプロジェクトのことも知って」
「前の職場では、たとえば音楽や食のイベントをしてみたいって思っても、なかなか形にできないことが多かったんです。OF HOTELでは逆にそういった企画が求められるっていうのが面白いなと思って参画しました」
成富さんはマネージャーとして、価格設定やスタッフの育成などを主に担当する予定。音楽のことにも詳しいので、仙台のアーティストを巻き込んだイベントなども一緒につくることができるかもしれない。
また外に目を向ける余白を業務量的にもつくるため、日々の予約管理などは、可能な限りIT化を進めているところなのだそう。
宿の余白をどういうふうに使っていくか。一つの答えがあるわけではないので、日々働きながら、人と関わりながら、トライアンドエラーで柔軟に対応していく姿勢が必要なんだろうな。
最後に話を聞いたのは、フロントスタッフの佐藤さん。まだ入って数日とのことだけれど、ホテルへの意気込み熱く、笑顔でハキハキと話す姿が印象的。
「もともと、沖縄にある外資系の大きなホテルでフロントスタッフをしていました。お客さまの喜ぶ顔が見たいという一心で働いていたんですけど、客室数が300以上あるホテルだと、お客さま一人ひとりの顔がわからないっていうことがあって」
「もちろん求められるサービスには一生懸命取り組むけど、それだけだと自分自身が楽しめていないのかなと思ったんです。外からいろんな刺激を得たいし、そこから自分でなにか新しいことをつくっていきたい。OF HOTELのプロジェクトを見つけたとき、わたしはここに呼ばれてる!と思って、飛び込みました」
フロントスタッフ業務については、佐藤さんが中心になって引っ張っていくことになる。こちらは未経験の人でも、ぜひ応募してみてほしいとのことなので、佐藤さんに学びながら、宿を盛り上げていってほしい。
取材を通して感じたのは、このホテルの「寛容さ」。
設計、家具、料理などさまざまな東北の要素を受け入れ、調和させている。それに、部屋ごとにコンセプトを変えて、一人でも複数でも、ビジネスマンも旅行者も、どんな人が訪れても満足できるようにつくられている。
その寛容さはきっと、働く人にも言えること。いろんなバッググランドを持った人が集まり、共創することで、さらに面白い場所になっていくのだと思います。
一人で全部できる必要はありません。何かひとつ心惹かれる部分があったら、ぜひ飛び込んでみてほしいと思います。
(2022/4/4 取材 杉本丞)
※取材時は、マスクを外していただきました。