求人 NEW

北海道からも
お客さんが訪れる
岐阜の小さな指輪店

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ジュエリーを販売する仕事です。

ただ、想像していたものとはまったく違いました。

人通りのほとんどない地方都市の一角に、お客さんが遠方からも集まる。これまで42都道府県からお客さんがいらっしゃったそう。

とことん納得していただくまで寄り添い、じっくり接客するスタイル。購入に至らなくても、伝えた知識が役立てば良いと考える。するとお客さんは購入したいとまた訪れてくれる。

毎年、年賀状も届くような関係が生まれ、口コミで新しいお客さんにもつながっていく。口コミだから、お店のことをよく理解して来店される方が多い。

商売にはいろいろな形があります。圧倒的なカリスマ性やブランドで人を引きつけるもの。規模や立地を競ったりして集客するもの。

ビジュトリーヨシダは、目の前の人にとことん向き合うお店だと思いました。

一人ひとりと向き合うから、じわじわと広がっていく。それは代表の試行錯誤の結果とも言えます。吉田さんの半生を読むような気持ちで、ぜひ読んでください。

 

名古屋駅から在来線に乗り換えて岐阜駅で下車する。駅前のバスターミナルで14番乗り場を探す。バスがやってくると乗車したのは、自分以外に二人だけ。

ここから1時間。バスは関市に到着した。

バス停からさらに徒歩10分。「昔は街道沿いで、お店もあったのかな?」と思わせるような、寂れた家が並ぶ場所にぽつんとお店があった。

最初の正直な感想は「ここで指輪の販売をするってどういうこと?」というもの。

自分だったら、ここで商売することは想像できない。

とはいえ、辺鄙な場所にあっても行列ができるお店が世の中にはある。近くで取れた山菜の天ぷらがおいしい蕎麦屋。全国各地から人が訪れる眺望の良いカフェ。もしくは今はインターネットで商売することだってできる。

その場所だからこそできる仕事。もしくはどこでもできる仕事。

ビジュトリーヨシダはどちらでもなかった。

 

中に入って挨拶をしてから、代表の吉田さんに質問する。

なぜここで商売をされているんですか?

「それは… 生まれたのがここなんです」

生まれが関市?

「そうなんです。その後、大阪へ引っ越しました。人生に影響を与えたのが東京での7年間でした」

東京の大学に体育推薦で進学した。そこでオリンピックに出るような一流のアスリートたちとの間に大きな差を感じてしまう。

「ただ、超一流の人たちといると、それなりに育っていくんですよ。どこに身を置くかが大切だと思いました」

「本当は音楽がやりたくて。まだバブルの時期でしたけど、月給8万円で下積みをしながら、東京にいたんです。けど父親が病気で倒れたので、関市に戻ってきました」

待っていたのは親の介護と借金。

そこで今の場所にあった父親のお店を母と続けることに。宝石も扱うディスカウントの雑貨商店だった。

それから経験したことのない日々が10年以上続く。慣れない仕事に、介護の毎日。

生き残るには商売のやり方も変えなければならない。薄利多売の業態をやめて、価値ある逸品を集めた専門店を目指すことにした。

ただ、無理がたたって、全身麻痺を発症。最悪なら心停止と告知されるようなことがあったものの、奇跡的に回復した。

「復活して経営者養成講座を卒業して名古屋駅地下に新店舗をオープンしました。ただ、それが大失敗で。巨額の負債だけが残りました」

「法的清算を勧められましたが、逃げるのは嫌だと断りました。運が良かったのは、この関市の店舗は順調だったこと。やり直すならオンリーワンを目指そうと、結婚指輪と婚約指輪専門に絞りこみ、現在に至ります」

 

ビジュトリーヨシダでは、主にNIWAKAのブライダルリングを専門に販売している。

NIWAKAは京都で生まれたジュエリーブランドで、近年は欧米でも高く評価されている。

NIWAKAと出会ったきっかけはなんだったのですか。

「業界の先輩の一言でした」

一言?

「NIWAKAは面白いし、何より丈夫だよ。最初は今ほど知名度の高くありませんでしたので、売れないかもしれないけど、俺は好きだ!という話でした」

「あと岐阜って、ジュエリーを壊してしまう地域性だったんですよ」

え?ちょっとよくわからないですが、どういうことでしょう。

「よくわからないですよね(笑)。ライフスタイルが違うんですよね。通勤で車を運転します。休日も2、3時間ドライブする。そうすると普通の指輪は歪みます」

へえ、歪むものなんですね。

「歪むものなんですよ。ナカムラさんのも外してもらったらわかると思いますよ」

(ん…!? 本当だ)

「華奢なものだと折れてしまうんですよ。特に多発するのが夏。岐阜県には海がないから、川に行くんですよ。すると、河原でぼこぼこ岩に当たっちゃう」

「アフターフォローもするんですけど、何度も壊れてしまったらね」

そうですね。何度も直すようなことになったら恐縮してしまうし、そもそもつけるのをやめてしまうかもしれません。

「そういうときにNIWAKAの指輪が丈夫だよっていうのを思い出したんですよね」

 

とはいえ、簡単にNIWAKAを取り扱いできるわけではなかった。

立地が悪いながらも、実績が認められて取引に至ったそう。NIWAKAというブランドと取引できたことは大きかった。

ただ、ここにお客さんが集まる理由はそれだけじゃない気がする。

すると「今、一番大切にしているのが人間力」という話になった。

「人間って、自分のことであっても理解することは難しいんですよね。他者であればなおさらです」

「たとえば、二人で指輪を選ぶときにお互い『シンプルなのが良い』と言っても、人によってニュアンスが違うんですよね。一方が何にもないつるつるのデザインと思っていたら、もう一人は石が一つついているくらいのことをイメージしているかもしれない。お二人の通訳になる必要があって」

言葉にしても、イメージしているものが一致しているとは限らない。そのニュアンスを調整することが大切なんだという。

そんなコミュニケーションの力を磨いていく。そのための勉強もした。やればやるほど成長を実感できた。

「あと、以前はカリスマ販売員を目指していたこともあるんですよ」

人間力を大切にするのと、カリスマ店員って、少し違いがあるようにも感じます。

「そうなんです」

後者はお客さんがついてくる感じだけど、前者はお客さんたちと一緒に歩いているような。

それにカリスマ性って、強力だけど色あせることもある気がします。人間力はどちらかと言えば、積み上がっていくものでしょうか。

「そうなんです。こんな場所でやっていくには、お客様のことを理解して、二人に一つの答えを見つけてもらうサポーターにまわったほうが断然いいんです」

 

取材していると、突然お店の扉が開く。ちょっとお客さんが早くいらっしゃったらしい。

横で接客を見ることにした。

ゆっくりと急がないコミュニケーション。ほかのお店で買うことになっても役立つような知識を惜しげもなく説明する。

気がついたら2時間近くたっていた。自分は指輪を販売する仕事をしていないけれども勉強になる。どんな仕事にも通じる、大切な姿勢。

東京へは終電で帰られればよいか。だんだんと引き込まれていった。

しばらく接客が続いたあとにコーヒーブレイク。

吉田さんはそっと二人から離れる。コーヒーを飲みながら、二人は本音で話し合いはじめる。これも気遣いなのか。

まさに人間力。ここで商売ができる理由が少しだけ見えた気がした。

「自分はこの仕事のおかげで、悔いのない人生が送れているように思います。ジュエリーの仕事って、選ばれた人がやるものだと先輩に言われたことがあります。宝石は磨かれるものですが、この仕事は人間を磨くものだって」

「昔は、言葉の意味がよくわからなかったですね。今は人として成長できているかなと思います。幸せを育てる仕事ですし、自分自身が育つ仕事ですから」

良い仕事ですね。

この仕事の大変なところってなんでしょう。

「終わる時間が読めないところですね。営業時間外のご来店もあり、接客に入るとどうしても終わりが読めない」

なるほど。

あとここで働いて人間力を身につけたら、みんな1級ジュエリーコーディネーターになれそうですね。

「そうですね。1級ジュエリーコーディネーターを取得して支店を立ち上げてほしいです。あえて大都会から離れた場所で」

そのための募集なんですね。

「そのためにも、この職場は学校みたいにしたくて」

経営者の中には「うちの会社を学校のように思わないでほしい」という方もいらっしゃるんですよ。つまり、学ぶだけ学んで辞めてしまうのは辛い、ということなんだと思います。

「学校でいいですよ。働きながら学べる。ですから毎年資格にチャレンジすることになります。1級を目指すジュエリーコーディネーターの資格はもちろんですが、コミュニケーション能力やブライダル協会でも1級や講師の資格を取得することになります。それを支援したいです」

支援してくれるんですね。

「はい。仕事を通して人間力を磨いてもらって、世の中の役に立つ人になってもらえたら」

 

吉田さんは1級ジュエリーコディネーターの資格を持っている。全国で合格者は42名しかいない狭き門だ。土日は接客でいっぱいだけれど、平日は来客もそれほど多いわけではないから勉強の時間にもなるとのこと。

最後に、車の運転免許証は必要なんじゃないかと感じました。

コンビニも点在しているようなエリアだけど、名古屋にも自然豊かな場所にも1時間ほどで行ける場所。週休3日あるし、車が貸与されるそうので気分転換になるかもしれません。

(2020/10/15・2021/9/22 取材 ナカムラケンタ)  

※撮影時にはマスクを外していただいております

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