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学生時代、部活や自分の夢に向かって熱中している友人のことが羨ましかった。
部活や、受験、将来の夢。
たくさんの選択肢がある中で、何をしたいか分からずに、焦りや不安を抱えていた人も少なくないと思います。
そんな学生たちに向けて、オンラインで無料の1on1をしているOtonatachi(オトナタチ一般社団法人)。
親でも先生でも、友達でもない。そんな大人との対話を通じて、学生が自分と素直に向き合える時間を提供しています。
今回は、1on1を担当するメンターを募集します。1on1などの経験は問いません。あわせて、認知を拡大していくための広報、マーケティング担当も募集します。
だれかの大切な気づきに立ち会える仕事。人に興味があって、話を聴くことが好きな人は読んでみてください。
東京・清澄白河にある、日本仕事百貨のオフィスビル「リトルトーキョー」の3階。
現在のOtonatachiの業務はリモートワークが中心。週に数回のミーティングは、渋谷のシェアオフィスなどを利用しているということで、今回はリトルトーキョーで話を聞くことに。
「あー、僕もこの本好きです」
興味深そうに本棚を眺めているのは、代表の長谷川さん。
誰かの人生を変えた本を集めた本棚で、さまざまな本が紹介文と一緒に並んでいる。
「僕が選ぶなら、エーリヒ・フロムの『自由からの逃走』かなあ」
「自由になると、不安で、孤独で、自由を捨てたくなっちゃうっていう話なんです。それでもやっぱり、自由でいたいよねって言っているのがOtonatachiなので」
どこに住むか、何を学ぶか。どんな仕事に就いて、誰と暮らすのか。なにごとも自分で選択できる今の社会。
それって幸せなことだけど、「自分は何をしたいのか」を問われ続ける環境に、苦しさを感じることもある。
そんなとき、支えになるのは自分自身を知るということ。
自分にとって何が大切かを知ることで、選ぶべき道が自然と見えてくる。
Otonatachiが提唱する1on1は、そんな「自分を知る」ための手段。学生たちが進路や部活、家族のことなど、好きなテーマについて話しながら、自己理解を深め、それに基づいて行動を最適化する手伝いをしている。
「本当にちょっとした質問でいいんです。どう思ってるの? とか、じゃあ次どうする?とか。自分の考えを言葉にするきっかけがあるだけで、気づけることは沢山ある」
もともとは、デジタルアートなどを手掛ける「チームラボ」で働いていた長谷川さん。
学生向けの1on1をはじめるきっかけはなんだったのでしょう。
「チームラボで採用面接を担当していて。毎年何百人もの学生や社会人の面接をするなかで、たくさんの人が『やりたいことを見つけて熱中したい』って思っているのに、やりたいことがわからず悩んでいることを知ったんです」
「これって、すごくもったいないと思って」
ちょうどそのころ、チームラボの社員として都内の高校で講演をする機会があった。
「学生の話を聞けるチャンスだと思って。学園祭とかも見学して、生徒や先生の話を聞くなかで『やりたいことをやれていない』っていう課題があると知りました。採用で感じていた課題は、学校現場でも同じなんだって」
長谷川さんから学校に提案する形で、探究学習の授業を担当することに。
2018年から「やりたいことを追求する」をテーマに、希望した約50人の生徒を対象にワークショップと1on1を始めた。
高校での授業と、チームラボでの仕事を並行していた長谷川さん。
独立したのは、ある気づきがきっかけだった。
「ここに写っている方なんですけど」と、女の子の写真を見せてくれる。
「授業をするなかで彼女が、『私ってこれまでに1度も失敗したことがなかったのかも』っていう話しをしてくれたんです」
「内容がなんであれ、僕にとってはその気づきに立ち会えて、貢献できたことへの感動が大きすぎて」
その頃はちょうど、チームラボでプロジェクトマネージャーとして関わってきた『teamLab Borderless』(東京・お台場)というアートミュージアムがオープンした時期。
「入社してからずっと関わっていたプロジェクトが、大成功して。何百万人もの来場者が来てくれました。でも、僕にとっては、授業で彼女の気づきに立ち会えたことの方がうれしかった」
「それで、独立しなきゃって思いました」
2019年から、Otonatachiに絞って活動を始める。
以来、高校生から大学院生まで、計200人ほどの学生が活用。2000回以上の1on1をしてきた。
費用は無料。運営費はすべて寄付で成り立っている。
「1on1にかかる費用を価格転嫁すると、かなり高額になるんです。それを親や学校が払うとなると、お金を払ってくれる人たちの意向に影響を受けてしまう。そういうものから独立して、純粋に学生のための1on1ができるように、完全無料にしています」
これまでは、長谷川さんを中心にボランティアがメンターを担ってきた。けれど、今後はより多くの学生に使ってもらえるよう、専属のメンターを増やしていきたい。
「やりたいことがわからないとか、悩んでいる学生って少なくないと思っていて。そういう学生が、いつでも1on1にアクセスできる状態をつくりたいんです」
長谷川さんは一般社団法人とは別に、企業の人事支援をおこなう合同会社も運営。今後は社会人向けに有料の1on1も始める予定で、それら収益を専属メンターの給与などに充てるそう。
新しく入る人も、学生への1on1を中心に、経験などに応じて合同会社の事業にも関わってほしい。
1on1はどんな時間になるんでしょう。
「決まりはないけれど、僕の場合は最初の10分間は雑談をしながら、1ヶ月を振り返る。そこから40分は、学生が話したいテーマに沿って質問をしたり、深掘りしたりする時間。最後の10分でその日の会話を振り返ってもらっています」
質問や話の進め方はメンターによってさまざま。いろいろなスタイルがあるなかで、徹底して貫いているのは、教えない、評価しないということ。
「たとえば、期末テストの点がわるかったと言われても、良くないって決めつけずに、『どう思ってる?』って聞く」
「同じ時期にサッカーの大会があって、練習を優先したのかもしれない。それなら、自分の優先順位に従って動けたってことだし、本人もサッカーのほうが重要っていう価値観に気づけるきっかけにもなると思うんですよね」
自分の価値観と違う人の意見や行動を評価しないのは難しいこと。長谷川さん自身も1on1を始めたころは悩むことがあったそう。
「高校2年生の女の子の1on1を1年くらいしていて。文学が好きで、本もたくさん読んでいたし、細かい文章の機微を読解するのが得意な子だったんです」
「進路を考えるなかで、『自分は自分で人生の責任をとりたくない』って話してくれて。『親とか先生に頼っていれば、失敗しても人のせいにできる。私にとってはそれがすごく重要なんです』って」
当時の長谷川さんは、周囲の価値観に従うのなら、内省を促す1on1を続けても意味がないと感じてしまった。
「それがずっと心に残っていて。今は本当に彼女が望むなら、それがいいかわるいかは僕らが評価することではないと思える」
幸せのかたちに正解はないから、いろんな価値観や考え方があっていい。
決めつけたり、評価したりしないからこそ、常識や期待に惑わされず、気持ちに素直に向き合える1on1になる。
「評価しない姿勢は、メンターをやる上で一番重要だと思います。聴くとか問う技術は、この前提があってこそ。学生はこうあるべきだとか、自分の経験を伝えたいとか、そういう人は向いていない」
「たとえば、『この人は、自分に一生懸命勉強してほしいんだな』って学生が感じてしまったら、それ以外の選択肢について話せなくなるでしょう」
メンターの聴く姿勢や質問の仕方一つで、学生から引き出せる気づきは大きく変わる。
Otonatachiは、より良い1on1を探求するため、学生に同意を得た上で毎回1on1を録画。時にメンター同士で映像を見ながら、振り返りをして技術を磨いていく。
「いいメンターになるには、探究心が大事だと思う」と長谷川さん。
「自分も、何度も1on1をする中でいろんな気づきや工夫を繰り返していて。たとえば、雑談も大事な要素だってことに気づきました」。
雑談、ですか。
「意識せずに、ふと出た言葉がその人の核心だったりする。人が最も得意なことって、息をするようにできるものなんです」
料理が得意な人にとっては、手の込んだ料理を毎日つくるのは当たり前。自分にとっては当然だから気づけないことも、誰かに話し、問われることで、自分の好きなことや強みとして認識できるようになる。
「1on1の度に毎回1ページ分ノートにメモをしているんですけど、見返すとやっぱり面白いですよ」
そういって長谷川さんがノートを見せてくれる。
美術の道に進みたいと気づいた子や、おばあちゃんと過ごす時間を何より大切にしたいと気づいた子。ノートには、いろんな気づきが書き込まれている。
「自分のなかで神回とか、重要回っていうのをメモするようにしていて。その子にとって大きな気づきがあった回をそう呼んでいるんですけど、やっぱりそういう瞬間は面白い」
「最近、1on1の卒業生から話を聞く機会をつくっていて。当時の会話が、今につながっているっていう話を沢山してもらえるはうれしいですね」
隣で話を聞いたのは、フリーランスのデザイナーとして働く高橋さん。
Otonatachiの年次報告書などの作成を担当している。長谷川さんが「Otonatachiについて、僕が一番話をしている人のひとり」と、信頼を置く人。
「代表の亮祐さんは、良いものをつくるんだっていう探究心を大切にしている人ですね」
「1年目につくった年次報告書なんて、ものすごい回数のミーティングをしましたよ」と笑う高橋さん。
そういって冊子を見せてくれる。
「レイアウトやデザインは私が担当、文章は亮祐さんがメインの担当で。でも、フォントから言い回しまでたくさん話し合いました」
「デザイナーだからデザインだけして終わりではなくって。一緒につくりあげた感が半端ない。どのページを見ても、ここは自分がこう指摘して変わった部分だ、とか。思い出が詰まっています」
すると、隣で聞いていた長谷川さん。
「たしかに、『一緒につくる』っていうのは、すごくこだわっている部分かもしれない。報告書にしろ1on1にしろ、突き抜けたものをつくりたいし、突き抜けないと、本当の価値にならないだろうなと」
「だから、うちはフルリモートにはしないんです。良いものをつくるなら、やっぱり週に1回でも、直接会って話さないとだめだと思っています」
新しく働く人も、一緒にいいものをつくっていく。そういう探究心がある人に来てもらいたい。
フリーランスとしてOtonatachiに関わっている高橋さん。どうしてそこまで情熱を注げるんでしょうか。
「この取り組みにすごく共感しているから、かな。学生にとって、親でも、先生でも、友達でもない人だから話せることってあると思っていて。当時学生だった自分に受けさせてあげたいって、すごく思うんです」
「自分に一番素直になれるところ」
1on1を利用した学生からの言葉です。
常識に惑わされず、じっくり自分と向き合うことができる時間。
学生たちにそんな時間を提供できる、Otonatachiがいる社会っていいなと思いました。
(2024/2/19 取材 高井瞳)