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株式会社友美堂は兵庫・姫路にある工務店。新築やリノベーション、古民家や町家再生など、幅広く手がけています。
大切にしているのは、施主、職人、設計士と関係を築きながら住まいをつくること。夫婦2人と専属の大工3人で営んでいることもあり、年間の施工数は4〜5件ほどです。
設立から11年。これからは、培ってきた技術を伝えて残していきたい。今回はここで、多能工になる大工を募集します。
いろんな職人の仕事をそばで見ながら、経験を積んでいきます。未経験でも一から学びたいという気持ちがあれば、飛び込んでみてほしいです。
東京から新幹線で約3時間、姫路駅に到着。北口を出ると、真っ直ぐ先に姫路城が見える。
お城に続くビルやアーケード街。昔はここに町家が並んでいたのか。
主に住宅の新築とリノベーションを手掛けている友美堂。今回は、最近依頼が増えているという町家改修の現場に向かう。
駅から車で10分ほどの、姫路城のすぐそばにある小倉屋(こくらや)。築250年、元金物屋さんだった町家は、7月の竣工に向けて工事中。カフェを併設したコミュニティスペースになる予定なんだそう。
中に入ると、広い空間に、金槌を打つ音と、大工さん同士が会話している声。威勢のいい音が響いている。
「町家の改修を引き受けるときは、ゾッとするんです(笑)。この壁も最初はボロボロで、ほんまにできるんやろうかって。耐震上、改修をしないほうがいいこともあるので。どのくらいの手間がかかるのかじっくり考えてから取り掛かります」
そう話すのは、友美堂の代表、相谷(あいたに)友彦さん。主に現場監督を務めながら、大工もしている。
友美堂は、「お客さんと一緒につくっていく工務店」。
この町家の改修は、「姫路・町家再生塾」という団体からの依頼。友彦さんは8年前から、団体の大工として町家再生に取り組んでいる。
「基本的にはお客さんの要望を聞いてつくっていく。ただ、耐震性とかデザインとか、こうすればええんちゃいます?って、こちらから伝えることもあります」
「たとえばこの町家は、入り口付近が店舗で。奥にいくほど数寄屋づくりになるように建てられています。柱や梁に丸太が使われていたり、建築用語でいう真行草(しんぎょうそう)の順でつくられていたり。もとのつくりを再現するように改修していているところです」
お客さんの希望は叶えつつ、予算内に収めるためにはどんな材を使うのがいいだろう。自分で考えて提案したり、仕事を通じて興味のある材に触れたりできるのが楽しい、と友彦さん。
大学を卒業後、実家の工務店に就職。大工として腕を試したいと、別の建設会社や大手の会社に転職し、大工のほか設計士、現場監督としての経験も積んでいった。
「最後に勤めていた会社は、入社して2週間で辞めたいって思ったんです。現場監督の仕事もやってきましたけど、やっぱり自分でノミを叩きたいなって。それで友美堂をつくりました」
はじめは、アパートと戸建ての新築・リフォームの下請け仕事ばかり。個人事業主として2年、会社を設立して4年ほどすると、直接依頼してくれる人も増えた。
友美堂が手がけた建物を見て、「大工さんを紹介してほしい」と依頼が来ることもある。
小倉屋に携わっている大工は8人。それぞれに別で仕事を持っている親方さんが多い。古い技術や建築に触れたいからと、わざわざ手伝いに来てくれたんだそう。
「一軒建てるのに、施主と設計士と工務店の3つの目で見ることを大切にしていて。設計は、基本的に別の人にお願いしとるんです。設計士さんと話すと、デザインとか流行とか新しいことが知れるんですよね。目に入るものすべてが勉強になります」
「ずっと成長」、「ずっと勉強」。そう何度も話す友彦さん。
「僕は多能工やと思ってるんです。自分でなんでもできる、その自由さが好きなんです。口だけで教えられたことは、忘れる。自分で見て試したことは覚えとるんです。これから入る人も、いろんな人の仕事を見て、学んで、面白がってほしいなと思いますね」
ひとつの技術に特化して腕を磨く道もあるけれど、なんでも自分でやってみると、家の全体感が掴みやすくなる。いろんな職人と関わりながら仕事をするうちに、視野も知識の幅も広くなっていく。
それぞれの空間に合わせたメンバーで仕事を進めることで、お客さんの望みを叶える住まいづくりができているのだと思う。
「雨漏りしたら、屋根屋さんじゃなくてまずは友美堂に依頼が来る。そんなふうに建てて終わりじゃなくて、その家のお抱え大工でいたいと思いますね」
友美堂では新築やリノベーションも扱う。新しく入る人は、友彦さんや専属の大工さんに一つひとつ、ついていきながら学ぶ。住宅にまつわるさまざまな現場を経験できることは、大工としての幅を広げられると思う。
これから加わる人は、何から始めることになるんでしょう。
「未経験だったらノミの手入れから。できんことは、いきなりやらせませんよ。これやってみいひんかって言ったり、その人がやりたいことがあったら教えます」
これから加わってくれる人は、まずは大工の基本を覚えるところから。さまざまな大工技術を磨いていってもいいし、経験を積むなかで、友彦さんのようにいずれは現場監督もできるようになることを目指してもいい。
「飽き性な人がいいかもしれんですね。毎日やることが違うんですよ。職人の手仕事に興味があるとか、好きな人が来てくれるとうれしいですね」
次に話を聞いたのは、設計士の山田さん。
姫路で建築設計事務所を営んでいて、友美堂が手がける案件の設計もときおり担っている。姫路・町家再生塾の代表で、小倉屋の設計を担当した方。
「大工さんでありながら工務店をしている人と仕事をするようにしていて。自分の手でつくっている人とそうでない人では、出来上がりが違うんです」
「相谷さんはまさにそう。友美堂以前の修行時代にしっかり技術を積み重ねてきてはることを知っているので、安心して仕事ができるんです」
山田さんは、友彦さんが建築会社で働いていたころからの付き合い。友美堂ができた際、町家再生塾の話を持ちかけたのは山田さんだった。
「現地調査に行くと、お客さんからこの建物を残すためにはどうすればいいかと助言を求められることがあります。そういうときは、相谷さんと行って。どのくらいの費用が必要なのか、改修すると逆に危険になるからやめておいたほうがいいとか、実際に見ていろいろ教えてくれるんです」
設計の知識も経験もある友彦さん。お客さんの立場にも立ちつつ、設計士、大工の目からも建物を捉えていく。さまざまな視点を行き来できるからこそ、誰でも納得のいくものができるんだろうな。
新たに大工となる人も、友彦さんが現場でどんな話をしているか、聞くだけでもいい経験になると思う。
「相谷さんは大工の仕事が好きだけど、知識だけ持っていてもあかんとわかってはる。勉強されているのもわかるし、職人さんとずっと話しておられますよ」
「あと、友美堂さんが手がけているのは古民家再生ばかりでない。けれど、技術を活かした建築っていうのはどれでも一緒やと思うんです。大工さんだけじゃなくて、左官屋さん、庭師さんとかいろんな職人さんの良さが伝わる家をつくっている人だと思います」
続いて、小倉屋の施主の塩本さんにも話を聞く。
「友彦さんは、潰してしまったほうが早いってよく言っているんですけど(笑)。これまでの経験や町家を何度も改修しているから、知恵を絞って粘り強く取り組んでいただいていて。本当に大工仕事が好きなんだなと伝わってきます」
「とくに根継ぎといって、柱を入れ替えているときの顔つきはいつもと全然違うんです。ピリピリして、話しかけられないくらい集中していて。相当考えてはるんやな、と。そのときの相谷さんの顔が最高なんですよ」
根継ぎとは、柱の腐った箇所を新しい材に取り替えて補強すること。
250年以上前に建てられた小倉屋の柱は、シロアリに喰われているうえに、取り替える際には柱を浮かせるため、ちょっとでも間違えると倒壊する恐れもあった。
新築をつくるときとは違って、壁をはがしてみないとわからなかったり、予定通りに進まなかったり。
それでも、真新しい柱に取り替えるのではなく、伝統的な工具を使ったつくり方に倣い、安全面にも配慮しながら活かせる部分は残していく。それは、長い時間をかけて培われてきた技術そのものを継いでいきたい、という想いがあるから。
「自宅の新築も友彦さんにお願いして。お客さんが来ると、いまだに木とかイグサの匂いがするねって言われるんです。ちゃんとした材を使って、気持ちのいい空間をつくってくれているんだなって感じます」
丁寧に話し合いを重ねてつくる家は、手間はかかるけど、お客さんにとっても語りたくなる家になっていく。
「お客さまの最初の打ち合わせやお引き渡しのときは、一緒に立ち会っています。新しく家を建てるって人生のなかでも大きなこと。緊張したりいろんな思いがあったりしますよね。少しでもリラックスしてもらいながら話せるよう、心掛けています」
そう話すのは、友彦さんの妻さおりさん。友美堂の経理や事務を担っている。
聞き上手で、つい話してしまいたくなるような方。
もともと設計士の仕事もしていたさおりさん。お客さんと友彦さんの間をうまくつないだり、大工さんの話を聞いたり、会社の成長をそばで見守り続けてきた。
「これまで手がけた家のお客さまとは竣工後に関係が続くことも多くて。以前、新築の施工をさせていただいたご家族がいて。今度、息子さんの家も建てることになったんです」
「ずっと信頼される工務店でありたいと思っていますね」
少人数精鋭で営む友美堂。
関わる大工さんは年齢も経験も積んだベテランの方がほとんど。一緒に仕事をするなかで、意見がぶつかったり、コミュニケーションに悩んだりすることもあるかもしれない。
それでも、互いに納得がいくまで、きちんと言葉を交わす。その積み重ねで、満足のいく家づくりができるんだと思う。
「今回来てくださる方とも、受け継がれてきた技術や想いを一緒に紡いでいきたいと思っています」
「ただ、一般的な大工仕事とはイメージが違うかもしれません」と、さおりさん。
年間の施工数は少ないけれど、同時並行で案件が進むこともあるため、毎日向かう現場が違う。現場ごとに専属の大工以外の大工さんもいるため、毎回新しい技術を見て学ぶ機会は多い。
「友美堂の大工仕事は、ずっと同じことをし続けるわけではないので、いろんな考え方やものの見方があるといいなと思っていて。今回来てくださる方との新たな出会いで、面白い化学反応が起こったらいいなとワクワクしています」
新築から町家のリノベーションなど、多岐の仕事にチャレンジできる多能工な大工仕事。
いい意味で、飽き性でも楽しめる仕事だと思います。
小倉屋は7月にオープン予定です。ここで一歩を踏み出したいと感じたなら、まずは大工の手仕事を見にいってみてください。
(2024/05/27 取材 大津恵理子)