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自分がものづくりをしない方法で、産地で働くとしたら?
一度でも考えたことのある人に、紹介したい仕事があります。
福井県・鯖江市。
「めがねのまちさばえ」として知られ、日本製メガネフレームの約9割をつくっている鯖江。メガネのほかにも繊維、漆器など7つの産業が密集する、ものづくりのまちとして知られています。
株式会社キッソオは、メガネの材料であるアセテートを中心に、メガネ製造に必要な部品や機械を取り扱うメガネ商社です。アセテートとは、綿花から作られた天然由来のプラスチックのこと。
また、「KISSO」というブランド名でアクセサリーも手掛けています。アセテートを貼りあわせて柄を生み出し、削りだすことでつくられるリングやペンダントなどを販売しています。
今回は、キッソオで働く営業スタッフを募集します。
主な業務はアセテートなどメガネの材料の調達ですが、メガネブランドとともに企画するところから携わります。
メガネができる手前から商品ができるまで。職人の手仕事以外の部分を整え、職人の技術と産業の発展を支えていく仕事です。
ものづくりに興味があって、その過程やよさを知って伝えてみたい。つくり手を支える仕事に関わりたい人にはぴったりだと思います。
福井駅に到着すると、ティラノサウルスなどの実物大の恐竜モニュメントに出迎えられる。
路面電車のように道の中心を走る、福井鉄道に乗る。駅と駅との距離が300メートルくらいで、1分ほどで着く区間もある。
キッソオの本社は、鳥羽中駅を降りて10分ほど歩いた場所にある。社屋の前には、KISSOのアクセサリーが並ぶショップが。
窓越しに商品を眺めていると、「ようこそ」と代表の吉川さんが出迎えてくれた。
どんな質問にもスラスラ、ポンポンと答えが返ってくる。メガネのことはお任せあれ!と、話す姿から伝わってくるような人。
キッソオは、素材や加工機械など、メガネをつくるときに必要な材料を扱う商社。
吉川さんのお父さんが1995年に創業。ただ、90年代の後半から、中国でメガネを生産する大手のメーカーが台頭してきたことなどが原因で、鯖江のメガネ工場は次々に倒産。おのずと、材料商社であるキッソオへの注文も減っていく。
「メガネの市場が縮小すれば、材料を扱う僕らや加工を行なう工場にも影響が出てしまう。そんな状況をなんとかしようと、2009年に鯖江の仲間たちと ”ギフト組” を立ち上げました」
「ギフト組は、鯖江のメガネづくりに携わる仲間とつくった勉強会のことです。このメンバーでギフトショーに出展したことから名づけました」
目的は、メガネの材料や技術を用いて、メガネとは異なる分野の商品を自分たちでつくり、販売する力を育むこと。
吉川さんは、耳かきや靴べらなどといった雑貨を中心に、さまざまな商品開発に取り組んでいった。
「ただ、雑貨はアイデアと鯖江の職人技術があればつくれてしまう。真似されたら生き残れないと気づいて」
「だから、僕らの強みを最大限に活かせるものに絞って、クオリティを高めていくことにしたんです」
それが、のちのKISSOとなるアクセサリーだった。
リング、ブレスレッド、ピアスなど。カラフルでいろんな模様が装飾されている。手に取ると軽くて付け心地もいい。
キッソオの強み。それは、大きく2つ。
ひとつは、色鮮やかな柄のアセテート板を輸入できること。
キッソオは、イタリアでアセテート版をつくる「MAZZUCCHELLI(マツケリ)社」の日本での販売店。長いビジネス関係の中で培われた、鮮やかな色柄をオリジナルで独自に開発するノウハウがある。
日本のメガネで人気のカラーは、ファッションに馴染みやすい黒か茶色かグレー。そのほかの鮮やかな色は、アクセサリーとの相性がとても良い。
もうひとつは、アセテート板を貼り合わせる技術。
KISSOのアクセサリーは、カラフルなアセテート板を貼り合わせたブロックを削ってつくられていて、重なり合う色柄が美しい。
今では、 会社の売り上げのうち4割を占めるアクセサリー部門。メガネの材料と肩を並べるほどに成長した。
メガネ産業の商社として、職人がつくる一歩手前の工程を整えるのが、キッソオの役割。
「僕らは、自分たちのことを黒子のような存在だと思っています」
職人とは異なる、けれどその人たちのほど近く。メガネづくりの根幹を支える仕事は、たしかに黒子のよう。
それは、今回の募集の背景にある思いにもつながっている。
「『RENEW』や『めがねフェス』という鯖江の大きなイベントに参加した人で、メガネ職人に憧れを持つ人は多い。けれど、職人さんのまわりで働くことへの興味はまだ広がっていないと感じていて」
今回募集するのは、メガネの材料の営業。基本となるアセテートから始め、金属や製作用の機械なども扱っていく。
「メガネは大好き。けれど、黙々とものづくりをするというより、いろんな人とコミュニケーション取るのが得意!という人にこそ、知ってもらいたい仕事だと思っています」
日々、どんなふうに働いていくんだろう。営業の平本さんに、話を聞くことに。
色鮮やかなアセテート版が並ぶ、倉庫に連れて行ってくれた。
キッソオが創業した年に入社して、今年で30年目の大ベテラン。
もともと建築士をしていたという平本さん。メガネの世界に入るきっかけとなったのは、前職の会社の代表から、メガネのデザインを頼まれたこと。
「図面は書けたので、自分でもできるだろうと思いつつ描いてみたんですが。これが、描けないんですよ」
なにか違いがあるんでしょうか。
「建築の図面は直線が多く、寸法的に割り切れる。ところがメガネって、きれいな丸じゃなく、人の顔のパーツに沿うようにつくられているので、上手に描くことができなかったんです」
「それが、ものすごく悔しくて。メガネのことをもっと知りたいと思い、メガネの世界に入ろうと思いました」
営業は、鯖江のメガネ工場から材料の注文を受けたら、準備して納品するまでが基本的な流れ。
「ただ、僕らが営業に行くお客さまは、メーカーではなくメガネブランドなんですね」
「つくりたい商品とその色を決めるのは、ブランドなので。できあがったデザインに応じて、必要な材料をブランドがメーカーに注文する。メーカーはそれに応じて、僕らに材料の注文をするんですよ」
毎年、輸入元であるマツケリ社は、年に2回フランスとイタリアで開かれるメガネの展示会に合わせて、200〜250種類もの新色を発表する。
営業は、展示会で発表された新色新柄のサンプルを持って、メガネブランドのデザイナーを訪問。
「デザイナーさんに対して、『どういうメガネをつくりたいですか?』と問いを投げる。どんな商品がつくりたいか、こだわりに耳を傾ける。それから、さまざまな色柄を提案していきます」
ときには、デザイナーと一緒にアセテート板の色柄を1から考えることも。
取引しているデザイナーは、100人以上。東京や大阪だけでなく、海外へ出張し世界各国のデザイナーと関わる機会もある。
「これから入る人も、まずは仕事を覚えることが第一ですが、いずれは海外出張へもどんどんと挑戦していってほしいです」
「世界的なメガネのトップデザイナーと一緒に仕事ができる環境は、とても刺激的ですよ」
営業は、平本さん含め4人。全員何十年と経験してきたベテラン勢で、「これからは若い世代にスキルを託していきたい」と話す。
今はアセテートや金属、機械、などと商材ごとに分担しているけれど、いずれはキッソオが手がけるメガネの商材すべてを営業できるようになってほしい。
「まずはアセテートから。メガネのつくりにおける基本なので。その人の希望に合わせて、扱う商材を広げていきます」
これから入る人は、まずは平本さんからメガネやその材料に関する基礎知識、お客さんの特徴について説明を受ける。少しずつ担当を任せてもらい、実践しながら覚えていく。
「何にも知らない、まっさらなほうがいいです。素直に成功や失敗から学ぼうという姿勢があれば、経験は求めません」
「誰でも、最初は必ず失敗するんです。必要なことはアドバイスしますが、まずはやってみる。自分で成功体験を積み重ねて、自信をつけていってほしいですね。自分が仕事を面白いと思わなかったら、続かないし伸びないですから」
平本さんの思う、面白みってなんでしょう?
「わたしは、マツケリ社のつくるアセテートの美しさに触れて、どんどんとメガネの世界にのめり込んでいきました」
「マツケリ社のアセテートの美しさを、日本でも広げていきたい。その想いが、仕事の一番のモチベーションです。メガネやアクセサリーなど、さまざまなかたちに応用して、広く愛されてほしいですね」
今年4月に入社した曽根さんも、裏方として職人の仕事を支えるひとり。
KISSOのインハウスデザイナーとして働きつつ、オンラインサイトの管理や、RENEWとの連携など商品を発信する役割をさまざま担っている。
新しく入る人にとって、一番身近な先輩になる。
武蔵野美術大学に在学中、アートやデザインを、社会や人々のよりよい暮らしに還元するための勉強していた曽根さん。
昨年末、就職に悩んでいたところ、RENEWのボランティアスタッフに参加することに。
「そこではじめて鯖江を訪れて、吉川と知り合って。ファンコミュニティづくりや、鯖江を盛りあげるための場の提供をしたいという話を聞いたんです」
「素直におもしろそう!と思いましたし、これまでの経験を活かせると思ったんですよね」
鯖江では、RENEWのほかにも、「めがねフェス」や「SDGsフェス」といった、ものづくりに触れられるイベントがどんどん立ち上がっている。曽根さんも、社内外でイベントの企画に携わるひとり。
最近は、「さばえまつり」というイベントの準備を進めているんだそう。
鯖江市にある公園を会場に、飲食ブースや、アーティストによるパフォーマンス、廃材から楽器をつくるワークショップなど、多彩なコンテンツを用意。
「キッソオとしては、ものづくりに関わるさまざまなコンテンツを体験できるテーマパークを構想しています」
それが、「KISSO LAND」。
去年改装したばかりの本社で、アセテートの貼り合わせや切削などを行なう工房を見学できたり、アクセサリーづくりを体験したり。
メガネだけではなくアクセサリーもつくるキッソオだからこそ伝えられる、ものづくりのおもしろさ。
どう表現すれば伝わるだろう? 黒子たちが考え実行してきたからこそ、いまの鯖江という産地があるんだと思う。
新しく入る人も、営業の仕事をベースとしつつ、産地と人をつなぐようなアイデアがあればどんどん提案してほしい。
「わたしも、中心メンバーのひとりとして進めていきます。これから入る人も、わくわくするようなアイデアがあれば、一緒に考えていきたいですね」
鯖江がものづくりのまちとして知られている理由。
職人はもちろん、つくり手ではない人たちの存在もとても大きいと感じました。黒子のひとりとなって鯖江に関わりたい人は、ぜひ話をしてみてください。
(2024/09/26 取材 田辺宏太)