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バイキングのように、仕事もいろんなものを気軽に試せたらいいのに。
興味があるものも、まったく考えたことがない選択肢も。いろんな仕事を「つまみ食い」して、自分の「やりたい」を探してみる。
人生に一度くらい、そんな時間があってもいいと思います。
今回募集するのは、山形県小国町の「おぐにマルチワークの事業協同組合(おぐマル)」でマルチワーカーとして働く人。
たとえば、春は旅館のスタッフをして、夏は田んぼの草刈り。秋にはお米を収穫し、冬はスキー場で働く。
おぐマルに所属し、町内のさまざまな事業者に派遣されて働きます。
派遣先での仕事が気に入れば、そのまま就職してもいいし、培った人脈や経験を活かして、新しい事業にチャレンジしてみてもいい。
自分に合う仕事を見つけたい人も、雪国の生活を体験してみたい人も。複数の仕事を組み合わせながら、自分の「やりたい」を見つめる時間になると思います。
東京から新幹線で米沢へ。
そこからさらに電車とバスに乗り西へ1時間半ほど。
山に囲まれたのどかな景色が気持ちがいい。
駅に着いたのは、待ち合わせの20分前。お昼を食べる時間がないから、道すがら見つけたお菓子屋さんに駆け込む。
名物「あけび最中」とシュークリームを買うと、「お仕事でいらしたんですか?」とお店の人が声をかけてくれる。
おぐマルを取材するんです。
「あー、吉田くんのところか!いつも、頑張ってくれてますよ」と笑顔で返ってきた。
まちの人に親しまれているんだなあ。そんなことを考えながら、糖分をチャージして、急いで駅の近くのコワーキングスペースへ。
地元の酒造の石蔵をリノベーションした場所で、味わい深い。
迎えてくれたのは、おぐマル事務局長の吉田さん。
7年前に地域おこし協力隊として東京から小国町へ移住。2020年におぐマルを立ち上げ、マルチワーカーのサポートや、受け入れ先の事業所の開拓をしている。
「小国はとても雪深いまち。冬になると畑仕事ができなくなるので、農家の人は除雪の仕事をしたり、スキー場で働いたり。昔からこのまちの人たちにとって、マルチワークは自然なことなんです」
マルチワークは、複数の仕事を組み合わせる働き方のこと。さまざまな事業者が集まって組合をつくり人を雇うことで、年間を通じて安定した雇用を生むことができるようになった。
2021年に設立したおぐマルは、町内の農家を中心に、旅館、工場や林業など19の事業者が派遣先として登録。20〜40代のマルチワーカー7人が所属している。
「3年ほどを目処に、ここで自分のやりたいことを探ってもらえれば。最初の1年はまず、3ヶ月ごとにさまざまな事業者を経験してもらいたいなと思っています」
働き方のモデルケースはつくってあるけれど、それぞれの希望やスキルに応じて派遣先を調整することもできる。
なかには、週3でマルチワークをしながらフリーランスでライター活動をしている人や、起業の準備時間としてマルチワークを活用している人もいるんだそう。
「やりたいことが見つかれば、派遣先に就職したり、独立してもいい。必ず小国に残ってほしいというわけではなくて、ここでの経験を活かしてほかの地域に行くのもいいと思っています」
設立から3年目となり、マルチワークの働き方もまちの人たちに浸透してきている。
「最初は、雨を理由に仕事を当日キャンセルする派遣先の農家さんも多くて。マルチワーカーにとっては、働けないとその分の収入が減ってしまう。こちらの事情なども詳しく説明して、雨が降ってもできる仕事を用意してもらうなど、地道に受け入れの体制を整えてきました」
「とはいえ、まだ派遣先の意識もバラバラで。マルチワーカーへの教育体制が整っていないところや、受け入れにそこまで積極的じゃないところもあります」
派遣先での仕事内容をマニュアルにまとめてみたり、事業者と話し合いをしたり。マルチワーカーという働き方を理解してもらって、働く側にとっても、受け入れる側にとっても気持ちのいい関係性をつくるために努力を積み重ねている。
「自分のキャリアを探求したい人ももちろん歓迎。でも、もしマルチワークという働き方を広めるために、力を貸してくれる人がいたら、とってもうれしいです」
おぐマルの立ち上げ当初から、マルチワーカーを受け入れているのが、きのこ農家の渡辺さん。
コワーキングスペースから車で5分ほど。工房の中に入ると、収穫したての椎茸の箱詰めで忙しそう。
「きのこって、面白いんですよ。ペットみたいな感じで、自分がどう手をかけるかによって、味や反応が変わってくる」
渡辺さんの工房では、きのこのもとになる菌床づくりから、培養、収穫まですべてを手掛けている。マルチワーカーは、菌床を移動させたり、収穫したりを手伝うことになる。
「けっこうな重労働。たとえば菌床の場所を移し替えるのにも、10キロくらいあるケースを棚から何度も上げ下げしたり。体力はかなりいると思います」
重いケースを上げ下げする作業は、スクワットにも似ている。仕事をしながら筋トレもできるから、体を鍛えたい人にとっては一石二鳥かもしれない。
「今は通年で2人のマルチワーカーに来てもらっていて。体を動かすのが楽しいって人もいるし、きのこの成長を見るのがおもしろいって人もいますね。写真を撮って観察している人もいますよ」
「あとは、自分が結構喋るタイプなので、一緒に話すのが楽しいって言ってくれる人もいます」
渡辺さんは、マルチワーカーの悩みを聞いたり、アドバイスしたりすることも多い。頼れるお兄さんのような存在だ。
「今、うちで働いてくれている子はサカナクションのファンで。ライブの日は必ず休むってことにしたら?と話していたんです。せっかく自由に働き方を考えられるんだから、面白い働き方をどんどん試せばいいと思う」
「生業って、本来は自由なんですよ。生きるためにすることなんだから、休みも、どう働くかも自分で考えればいい。固定概念にとらわれず、しっくりくるスタイルを模索してほしいですね」
商工会や農協などに広く人脈を持つ渡辺さん。仕事中の雑談がきっかけで、新しい取り組みに広がることも。
「マルチワーカーのひとりに、自作のスパイスカレーを事業にしたいという子がいて。彼のカレーをレトルトにして道の駅で出そうという話が進んでいます」
「小国の名物にもできるし、自作のカレーも広めることができる。地域の食材を入れれば、ふるさとの納税の返礼品にもなるし、面白そうだと思って」
マルチワーカーの得意なことや、やりたいことを形にすることで、地域にとってもいい効果が生まれる。そんな取り組みが生まれはじめている。
「マルチワーカーは、単純な作業員じゃない。わざわざ小国に来てくれる人たちなので、その人のやりたいことやいいところを伸ばせるように、協力してできることがあれば力になりたいと思っています」
渡辺さんはどんな人と働きたいですか?
「どんな人が来てくれてもうれしいですね。やりたいことがある人にとっては、働いて地域の人とつながりをつくりながら準備ができるいい機会。単純に何していいかわかんないって言う人も、いろんな仕事ができるから面白いんじゃないかな」
実際にマルチワークをしている人は、どう感じているんだろう。
マルチワークを始めてちょうど1年になる富山さんに話を聞く。神奈川県から移住してきた方。
旅館や飲食店、工場などさまざまな場所での仕事を経験。今は事務局の中心メンバーとして、後輩のマルチワーカーが働きやすい環境をつくるために奔走している。
「元々は、施工管理の仕事をしていて。転職するタイミングで、大学の友だちからおぐマルに誘われたんです」
「自分は、やりたいことも特になくて。とりあえず、いろんな経験をしたいって思っていたので、マルチワークがぴったりでした。雪国にも一度は住んでみたかったので、小国町に移住を決めました」
実際の暮らしはどうですか?
「人のあたたかさが抜群です。シェアハウスの大家さんが本当にやさしい人で。いつも美味しい料理を山盛りつくって差し入れてくれるんです。ほかにも、地元のおっちゃんから『時間あるだろ、寄ってけ』って急に声をかけられて、家にお邪魔してお茶をすることになったり。都会だと、なかなかできない経験だなって思います」
「大変なところを挙げるなら、中心部以外の家に住むと、カメムシがすごいです。自分は小国町でも田舎のほうに住んでるので、1日に100匹くらい出ることがあって」
100匹!自然の力、恐るべしですね。
「まちの中心部に住めばそんなことはないので、安心してください(笑)。自分の場合は、大好きな大家さんと離れたくないので、虫を掃除機で吸いながら住み続けていますよ」
住まい探しは、おぐマルで支援してくれる。マルチワーカーが集まるシェアハウスから5LDKの一軒家まで。いろんな選択肢があるから、自分のスタイルにあった住まいを選ぶことができる。
ほかにも、プライベートで夏祭りに参加したり、一緒に山菜採りや釣りに行ったり、伝統的な狩猟法であるマタギの資格を取るサポートをしてくれたり。
新しくくる人が小国での暮らしを楽しめるように事務局長の吉田さんや富山さんがしっかりサポートしてくれるから、知り合いがいなくても安心して移住できると思う。
いろいろな選択肢を経験し、自分の「やりたい」に向き合ってきたなかで、富山さんが今、興味をもっているのは整体の仕事。
「マルチワークのメンバーと一緒に筋トレをしていたときに、体の動かし方をアドバイスしたら『ありがとう』って言ってもらえて。単純なんですけどそれがすごくうれしかったんです。体のことを色々と人に教えられるようになりたいなと思いました」
「マルチワーカー同士は年も近いし、自分と同じようにキャリアを考えている人が多い。そういう意味では、すごく相談しやすいです」
マルチワークをしながらシェアハウスを経営している人や、勉強して不動産の国家試験を取った人など。やりたいことを模索して、チャレンジしている人たちに囲まれた環境だから、受ける刺激も多いと思う。
「仕事や暮らし、いろんなことを経験しながら、やりたいことを見つけられる。自分にとっては、すごくいい時間だなと思っています」
一度きりの人生。
いろんなことを経験して、自分の心がどう反応するかを考えてみるのもいいと思います。
自分の「やりたい」にじっくり向き合う時間をつくってみてください。
(2024/9/17 取材 高井瞳)