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事務、営業、企画、マーケティング、ブランディング、コンサルティング…。
今回紹介するのは、ここに挙げたもの全部に関わる仕事。
酒蔵のパートナーとして、日本酒の「酒造り以外」のすべてに関わると言っても過言ではありません。
日本全国の酒蔵と商品開発やブランディングに取り組み、国内外の取引先へ卸している、株式会社アイコーポレーション。
東京駅構内にある「東京駅酒造場」など、都内に7店舗を構える「はせがわ酒店」のグループ会社です。
今回募集するのは総合職。基本の受発注事務からはじまり、輸出やデザインなど、得意分野を軸にさまざまな仕事に関わることができます。あわせて、事務業務に特化したアルバイトスタッフも募集します。
酒蔵と一体となって、おいしいお酒を日本全国、世界へと届けていくこの仕事。
お酒が飲めない人でも大丈夫だそう。日本の伝統文化を発信することに関心があるなら、ぜひ読み進めてみてください。
取材に訪れたのは、東京タワーのふもと、芝公園駅。散歩している人や、梅の写真を撮っている人たちがいて、穏やかな雰囲気。
駅から5分ほど歩いたオフィス街にあるハセガワビルへ。アイコーポレーションと、はせがわ酒店が入居する自社ビルだ。
8階にあるアイコーポレーションのオフィスでは、スタッフさんがパソコンに向かって作業中。奥にある会議室には、日本酒の瓶がディスプレイされている。
話を聞いたのは、アイコーポレーションとはせがわ酒店で専務を務める髙木さん。
あくまで裏方に徹したいとのことで、手元のみを撮影させてもらう。気さくにいろいろな話を聞かせてくれる方。
「東京で売ってくれませんかとか、知り合いの蔵の力になってくださいとか。お声がけいただいて、一緒につくってきた商品ばかりです」
母体であるはせがわ酒店は、1960年の創業。仕入れたお酒を販売するだけでなく、蔵元とともに商品を開発したり、それをほかの酒販店に提案したり。酒屋の範囲を超えた事業を展開してきた。
日本酒業界の発展のため、より多くの酒販店にアプローチしたい。そんな背景から、卸売・輸出に特化して生まれた会社がアイコーポレーションだ。
「うちは川上から川下まですべてやる、メーカー機能を持った酒屋と言ってもいい。たとえば、いいお米を入手できたら、どの蔵にどんな味わいの日本酒を造ってもらうか、一から決めることもできます」
お酒の味わい設計や価格設定、ラベルのデザイン、売り出し方。蔵元と一から相談して生み出したお酒は、季節限定品なども含めてこれまで約500種。
「私たちは製造できないので、蔵元に気持ちよく造ってもらうことは非常に大切です。一緒に大きくなろうという想いで長年やってきました」
蔵元が「こういうお酒を造ろう」という提案に協力してくれるのは、しっかりとした売り先があるから。
はせがわ酒店での販売が確約されている安心感に加え、アイコーポレーションが卸すのは全国約100の特約店と、長年の付き合いのある海外の取引先。お酒の魅力をしっかりと理解し、消費者に届けてくれるところだけを選んでいる。
自社で倉庫は持たず、商品はすべて蔵から直送。日々の密接なコミュニケーションがあるからできること。
「ブランドをつくるには、販売力が欠かせません。いい場所にお店があれば、蔵元も『あの店に自分たちのお酒を置いてもらいたい』という気持ちになって、一緒にがんばってくれるんです」
酒販店に限らず、鉄道会社や大使館も卸先。そのほか、日系航空会社の国内線・国際線のファーストクラスやラウンジで提供されるお酒もアイコーポレーションが手がけているそう。
髙木さんは、ワールドカップやオリンピックなどの国際イベントに合わせて、蔵元と現地に出向き、日本酒バーなどのイベントも開催。今ではアメリカやアジア各国を中心に、輸出先は20カ国にのぼる。
アイコーポレーションの日本酒産業への貢献が、想像以上に大きいことがわかる。
「はせがわ酒店は、江東区の商店街にある、小さな酒屋からのスタートでした。そこでお客さまとお話していたとき、『前回薦めてもらったお酒がすごくおいしかったよ、ありがとう』と言ってもらえて。それが一番うれしかったことを覚えています」
「以降の仕事は、ずっとその延長線上。日本中、世界中の人がおいしいと言ってくれるお酒を造って、たくさんの人に飲んでもらいたいと思っています」
「この前ちょうど会ってきたんですよ」と紹介してくれたのが、取引先のひとつである、今西酒造株式会社の代表・今西さん。オンラインで話を聞かせてもらう。
「奈良県三輪の地で約360年酒造りをしてきて、私で14代目になります」
先代が亡くなり、13年前に異業種から家業を継いだ今西さん。当時は今にもつぶれてしまいそうな状況だったという。
はせがわ酒店・アイコーポレーションと出会ってから、変化が生まれていく。
「全国の著名な酒蔵に連れて行ってもらい、おいしい酒造りの方法を学ばせていただきました。設備投資のアドバイスや、新商品の開発のサポートまで力を借りて。一から一緒につくりあげたのが、『みむろ杉』と『今西』というブランドです」
商品の完成後は、はせがわ酒店が全社を挙げて店舗で販売、アイコーポレーションでは国内向けの卸売と海外向けに輸出をスタート。
今では蔵全体の生産量は約15倍、オーダーに生産が間に合わないほどの人気ぶりだそう。
出荷先との納期や数量の調整、輸出書類の作成などは、アイコーポレーションがあいだに入り一手に引き受けている。
「そういった部分をお任せできるから、自分たちは酒蔵として、おいしいものを造ることに専念できる」
「ただ、今の時代、単においしいだけでは埋もれてしまいます。製造元の自分たちと同じ熱量で、お客さまに販売してくださることは、とてもありがたいと思っています」
黎明期からの付き合いだからこその信頼関係がある。取引先というより、身内のような感覚が近いという。
「ここ三輪は、酒造りの発祥と言われる聖地で、酒の神様が宿る神社もある。ただ、まだ一般に知られていないのが現状です。僕らは酒造りを通じて、酒の聖地としての三輪を発信して、地域を盛り上げていきたい」
「我々のようにこだわりを持ってつくっている日本酒は、海外でも需要が伸びつつある。いつか世界中の日本酒好きに三輪を訪れてほしいと思っているんです」
蔵元の想いを継いで、お酒の魅力を発信していくのが、アイコーポレーションの役割。
新しく入る人の身近な先輩となるのが、杉山さん。
もともとはせがわ酒店に新卒で入社。留学のため退職し、7年前にアイコーポレーションのスタッフとして戻ってきた。
「私たちの仕事は、蔵元さんがいないと成り立たない。彼らのお手伝いをしているという気持ちを忘れないようにしています」
「デジタルに弱い方も多いので、いかに蔵の負担を減らせるか、いつも考えていますね。書類はサインをもらえばいい状態にするし、輸出先からの問い合わせもこちらで調整してから連絡する。裏方であり、調整役であり、事務でも営業でもある。一言では表せない仕事です」
杉山さんは、アメリカやベトナムへの輸出業務を中心に、国内向けの受発注管理や経理業務、採用などにも関わっている。
社員3名、アルバイト2名の小さなチームのため、日々の仕事に追われてしまうのが現状。より成長していくために、新たなメンバーを募集することになった。
まずはどんな仕事からやっていくんでしょう?
「卸先のお客さまと商品を覚える必要があるので、基本となる国内向けの受発注業務からはじめていただきます。蔵元さんとも日々接するので、名前を覚えてもらって関係性をつくることも大切です」
お酒の銘柄と、どの蔵元が造っているか。卸先の酒販店の営業日や、指定の納品場所。細々と覚えることはたくさんある。
「商品や取引先のことがわかるようになったあと、どの仕事をメインにするかは本人次第。やりたいことやご経験を加味して決めていければと思います」
英語が得意なら貿易事務かもしれないし、営業としての卸先へのアプローチを担うかもしれない。経験次第では経理業務やラベルのデザインなど、可能性は多岐にわたっている。
「自分がなんの仕事をするかわからないと、少し心配になりますよね。でも、やりたいことがあったら、やれる環境なので。不安よりも前向きな心持ちでいてくれたらうれしいです」
少数精鋭なので、お互いの仕事を把握しあいながら、全員が複数業務に関わっている。
定例の会議は設けず、その都度相談をベースに小さな会議を行なっているような状況。
決まりきっていない部分がある一方で、蔵元さんに失礼のないコミュニケーションや、ミスのない書類作成など、当たり前のことを当たり前にできるスキルも求められる。
最初からすべてを完璧にやることは、むずかしいですよね。
「そうだと思います。わたしも失敗したことがありました」と杉山さん。
まだ社歴の浅いころ、商品開発から流通まで関わり、アメリカで発売したお酒が思うように売れず、残念ながら撤退したことがあった。
「今思えば、なぜこの商品をつくったのかという想いや戦略が、販売する人まで伝わっていなかった。お酒って味だけで売るものではなくて、背景にあるストーリーを聞いて、応援したいと購入してくださることが多いんです」
「今だったらもっとできるのに、という悔しさもあります。起点となる熱量がとても大事なんだとわかった貴重な経験でした」
卸先に商品を紹介するときには、味わいの特徴のほかに蔵元の想いやどんな料理と合わせてほしいかなど、より丁寧に伝えるようになったそう。
蔵元の熱量が、最後にお酒を手に取る人たちまで途切れず伝わるように、力を尽くしていく。
はせがわ酒店の時代も含めると、社歴は10年以上。杉山さんの原動力はなんなのだろう。
「杜氏の世界って、40代までは若手で、80歳を超える方もいらっしゃる。そんななかで、みなさんが生き残りをかけて試行錯誤しているのは、純粋にすごいことだと思います。文化を継いでいくことやそれを支えることが、自分は好きなんだろうなと」
「今はまだ日本酒を知らなくても、これから好きになってもらえればいい。飲めない人も実は業界には多いんですよ。ひとつの文化を世界に発信することに情熱とやる気を持てる方、日本酒との出会いのきっかけをつくっていきたいと思える方と働けたらうれしいです」
一言では表せない、ちょっと複雑な仕事。でも、その根底にあるのは、「おいしいお酒を広めていきたい」という真っ直ぐな想い。
この仕事に、どんな自分の強みを掛け算していけそうか、想像してみてください。
おもしろそうな予感がしたら、日本酒の可能性をさらにひろげる力になれると思います。
(2025/02/21取材 増田早紀)