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黙々と、一定に
「おいしい」を守る

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

“おいしいものを届けることが一番”。

東京・晴海にある「タイコウ」は、創業61年目を迎える、かつお節専門の問屋です。

生産者から直接かつお節を仕入れ、小売店や料理店に届ける一次問屋。ほかにも、スーパーで見かけるような、削り節の製造も手掛ける。

日本の食文化であるかつお節を、日々丁寧につくり続けています。

今回募集するのは、削り節の製造スタッフ。かつお節を削り、包装して発送するまでを担います。

一人前になるまでには時間がかかりますが、安定した暮らしを送りながら、職人のすぐ近くで学ぶことができる。伝統を守る仕事に関わって生きていきたい人にとっては、おもしろい機会だと思います。

 

勝どき駅を降りて、5分ほど歩く。かつて築地市場で賑わった名残が漂うこのエリアは、東京の下町らしい温かさもある。

勝どきと晴海をつなぐ橋を渡ってすぐの場所にあるのが「東京鰹節センター」。年季の入った建物の一階をぐるっと囲うように、かつお節の問屋さんが並ぶ。

タイコウの工場を見つけ扉を開けると、いっぱいに広がるかつお節の香り。積み上がった段ボールがビシッと揃い、整頓された空間。

迎えてくれたのが、代表の大塚さん。

「先日SNSでうちの求人について書いたら、7人からお問合せがあって。ただ、『日本仕事百貨に掲載するから、読んでいただいてから応募を決めてください』って、一旦保留にしているんです」

「それは、私たちの仕事のよいところはもちろん、大変なことも全部伝えたいから。お互いにとっていいご縁になるように、ギャップが生まれることは避けたい。そのうえで、一緒に働きたいと思っているんです」

おだやかで丁寧な話しぶり、真摯な姿勢だ。

大塚さんは、創業61年を迎えるタイコウの3代目。それまでの代表と血縁関係はなく、タイコウの伝統技術を守りたいと、自ら後継者として名乗りを上げた。

それまでの経歴は、とてもユニークだ。

もともとは動物看護師として働いたあと、料理人の道へ進むことに。築地の割烹で修業をはじめ、その後「D&DEPARTMENT」が運営する「d47食堂」で働いていた。

タイコウを知るきっかけは、前代表・稲葉さんの出汁とり教室に参加したこと。

「ここのかつお節でとった出汁が、口に入れた瞬間、笑っちゃうぐらいに美味しかった。『なんだこれ!?』って。ここのかつお節はすごい… と感動したことを、今でも覚えています」

「そこからタイコウに通ううちに、後継者がいないと知って。かつお節と出汁の文化を絶やしたくないと、そのまま無理を言って弟子入りさせてもらいました」

2018年に入社し、見習いを務めながら、2024年に3代目代表を引き継いだ。

タイコウのかつお節は、ほぼ全量が鹿児島県近海で一本釣りされたかつおを使用。加工は枕崎市の職人一家に託されている。

根本にあるのは、「素材を超える加工・料理方法は無い」という考え。

近海で漁獲することで、新鮮な状態で加工場に運ぶことができる。加えて一本釣りは、かつおの体の傷やストレスを最小限に抑えられるという利点もある。

新鮮かつおを丁寧に加工するというこだわりから、最高品質のかつお節がつくられる。

「最近では、コストや効率が重視されて、手間のかかる伝統的なかつお節づくりの技術は衰退している。近海一本釣りのかつおに可能な限り限定しているのは、おそらく日本でタイコウだけなんです」

さらに、漁師や職人がかつお節づくりに思い切り専念してもらえるよう、公平かつ適切な価格で取引することを大切にしている。

「食品だから、一番最初に“おいしい”を届けたい。そのために、素材選びから製造方法まで、一切妥協しません」

「正直、よそと比べれば、私たちのかつお節の値段は高いです。それは、おいしい食品を次世代につなぐためのこだわりと、そのための手間や時間が反映されているからなんです」

たとえば、タイコウの代表的な商品である「本枯節」。

木の皮のように見えるのは、あえてつけられたカビ。数ヶ月にわたる発酵と天日干しを何度も繰り返すことで、深い旨味が出るのだそう。

一方で、カビつけなど熟成させる工程を省いたものは「荒節」と呼ばれる。表面が黒く、削ればふわっとした花かつおになる、スーパーの棚でもなじみの存在だ。

箱詰めされたものは一見、どれも同じように見えるけれど、元々は生きたかつお。個体差や製造方法によって、一本一本の仕上がり、味わいは異なるんだそう。

「かつおの鮮度、どんな状態で釣られたか、燻製の火入れは適切だったか、カビ付けの温度や湿度。そして最終的に、このかつお節からどんな出汁が取れるかまで。かつお節を見たときに、すべて手にとるようにわかります」

「関東や関西といったエリアでも出汁の味は変わるし、料理人さんによって求める味も違う。節を見ただけで出汁の味がわかるから、それぞれに合わせて、かつお節を選別してお届けすることができるんです」

かつお節の状態を見極めるのが、大塚さんが担う目利きの仕事。

今回の製造職では、そこまでの技術は求めない。まずは、安定した量と品質のかつお節を届ける仕事が中心だ。

 

作業場から「ガガガガガ・・・」と削り器の音が響いてきた。午後の作業がはじまるとのことで、見せてもらうことに。

現在製造を担当しているのは、2人のスタッフ。10年以上働いているベテランだ。

一人が削った削り節を、もう一人が袋詰めしてガスを充填。ケースに詰めて梱包する。

作業自体はとてもシンプルだけれど、無駄がなく流れるような手つきで、20袋詰められた段ボールがあっという間に出来上がっていく。

作業が落ち着いたところで、製造について話を聞くことに。

手前に座る三浦さんは、前代表と長い知り合いで、30年ほど前に誘われてタイコウに入社。

奥の小谷松(おやまつ)さんは、19歳のときに家業であるかつお節の世界へ。前に働いていたかつお節の問屋さんが事業を畳むのを機に、およそ10年前にタイコウへと加わった。

「人と会って喋ったり営業かけたりするのがあんまり得意じゃないんで。黙々とやるこの仕事が向いているのかな」と、小谷松さん。

今年中に小谷松さんが引退を予定しているそうで、後継者を募集することになった。

性格は真逆だという2人。話すのは苦手という小谷松さんの意図を汲みながら、三浦さんが話をしてくれる。

「2人で仕事を役割分担しているんです。僕は長年タイコウで働いてきたデータがあるんで、生産管理のポジション。年末や長期休暇の前後など、注文の波を予測して、一日一日の製造工程を調整したり。注文の予測を立てて計画を立てる」

「かつお節づくりにおいては小谷松のほうが経験豊富なので、節を削ったり、品質を見たりと、技術的なことは彼に任せています」

一日の仕事は、梱包資材の準備や、削り機の刃を合わせるなどの製造準備からはじまる。

製造がはじまれば、削り節をつくる人と、ガスを充填して梱包する人にわかれてひたすら作業。ほかにも原料となる節を洗ったり、重量を計算したり、いろんな仕事はあるけれど、どれもさほど難しくない、とのこと。

「作業の難しさというより、同じ動作をひたすら繰り返すのが大変。正直、飽きますよ。とにかく一つひとつを慣れるまでつづけるしかない。黙々と、一定のリズムで作業を繰り返すことが性に合う人のほうが絶対いいです」

素材となるかつおは月に1、2度のペースで、20から40箱程度届く。一箱の重さはなんと、20キロを超える。

トラックから降ろして、台車に乗せる。それを倉庫まで運び、7〜8段に積み上げる。

「持ち方にはコツがいります。ぎっくり腰になることもあるし、はっきり言ってしんどいですよ」

持たせてもらうと、腕はもちろん、腰への負荷がすごそうだ。

「あとは汚れ仕事なんで、できれば近隣から来られる方。仕事着はかつお節の匂いがつくから、家族の洗濯物と一緒に洗えないし。更衣室でシャワーを浴びることはできるけれど、みんな自転車で通える距離に住んでいる。食品製造と聞いてイメージするより、町工場の汚れ仕事に近いんですよ」

仕事の大変さも隠さず、すべて教えてくれる。

作業の理由や根拠を明確にしてから説明をしてくれる三浦さん。話はとてもわかりやすくて、理解できるまで付き添ってくれると思う。

「僕が担当する削りの工程は、危険な場面もあるから、ときに厳しく言うこともあります」と、小谷松さん。

「削り節をつくる工程は、下手したら指が飛ぶ仕事です。怪我をしないためにも、細心の注意が必要。強く言う場面はあるんだけども、怒ってるとかではなくて、未然に怪我を防ぐため。俺もそうやって教えてもらってきたんで」

職人気質で、キリリとした緊張感を持つ小谷松さんだけれど、優しさあっての言葉なんだと感じる。

作業がはじまるのは8時半。スムーズに作業に取り組めるよう、小谷松さんは1時間ほど早く出社して、資材を準備しているんだそう。

そのおかげで、16時にはすべての作業が終わる。繁忙期でも、残業はほぼないという。

ふたたび三浦さんがつづける。

「慣れないうちは、もう少し時間はかかると思います。どうやったら早く帰れるか、二人で工夫してきたので、新しく入る人とも考えられたら」

「やることやって、正々堂々さっさと帰る。1分1秒でも長く会社にいちゃいけません。お日様が沈む前に帰る。とにかくメリハリが大事、それが僕らのスタンスです」

身体を使う作業だけでなく、梱包資材の管理や発注もある。身体も頭も両方使う仕事だ。

「どんなに賢い人間でも、慣れるまでに3週間。で、覚えたと言えるまでに2年。自分で考えて動けるのは、もっと先のこと。流れのなかでいろんな仕事を覚えていくから、与えられた仕事だけ、という人間は続かないです」

「人間だから、必ず失敗するんだよね。僕らはそこは気にしない。大事なのは、それをいかに減らしていくかだから。そのすべを覚えるために、ちゃんと教えます。経験がなくても、やる気がある方が来てくれるとうれしいです」

厳しい面も多いけれど、やることさえきちんとやれば、自分の時間もとれる。安定した環境を求める人にはとっては、健康的に働ける場所だと思う。

この仕事を、つづけられる理由ってなんでしょう?

「この仕事は、お客さんに感謝されますよ。うちの商品おいしいんで、絶対ね。後にも先にも、それしかないです」

「おいしいからまた買いたいって言葉を聞くことは、いくらでもあります。『おいしかった』『やっぱりタイコウさんのかつお節じゃないとダメだよね』って言われれば、やっぱり働きがいがあるじゃないですか」

「僕が言うのもおこがましいんだけど」と笑う三浦さん。温かな人柄が伝わってくる。

 

ここでの仕事は、厳しさはあるけれど、日本の伝統的なかつお節づくりの技術を守ることにたしかにつながっている。

「おいしい」を支えたい。地道に黙々と、一日一日を重ねていきたい。

そんな気持ちに共感する人なら、気持ちよく働ける場所だと思います。

(2025/02/26 取材 田辺宏太)

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