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「残したい風景」と聞いて思い浮かぶ光景はありますか。
学校の帰り道に通った商店街、まちに古くからある建物、棚田や里山の風景。
有名な場所を思い浮かべる人も、名もなき風景を思う人もいるかもしれません。どんな風景にもどこか、そこに暮らす人の営みがにじんでいる。
今回は、名もなき風景とそこにある人の営みに心を寄せて、価値を編み出す人たちの仕事を紹介します。

株式会社さとゆめは、「ふるさとの夢をかたちに」をミッションに地方創生に特化したコンサルティングや事業プロデュースを行う会社。
地域の指針となる計画・ビジョンなどの策定から、商品開発やホテルの立ち上げなど、事業をつくって地域に定着させるまで、とことん伴走します。
今回の舞台は、茨城県・大子町(だいごまち)。
日本三名瀑「袋田の滝」をはじめとする豊かな自然、古くから愛されてきた温泉郷、滋味に富む食に恵まれた町です。最近では、石蔵サウナや川沿いにバレルサウナ併設のキャンプ場ができたり、道の駅の拡張にともなう商店街の活性化が期待されていたりと、新しい流れがおきています。
このまちに築160年の古民家「吉成邸」を活用した宿が2026年にオープン予定。
開業準備からその後の運営、宿泊者に向けたプログラムを企画する運営マネージャーを募集します。
新しい営みをつくり、まちの人と一緒にここにしかない風景を守るような仕事。もちろん1人ではありません。さまざまなプロフェッショナルたちがサポートしてくれるので、宿泊業や事業の立ち上げの経験は問いません。
上野駅から特急、在来線と乗り継ぐこと3時間ほど。常陸大子駅(ひたちだいごえき)に着く。
さとゆめの方に送迎してもらい、車で20分。山間に茶畑がひろがり、「◯◯製茶」の看板をいくつも通りすぎる。
林を抜けると、立派な門構えが見える。ここが宿となる吉成邸。町内で医業を営む家系の住まいだったそう。

広々とした空の青とあたりの茶畑や山の緑、鳥の声、水のせせらぎが心地よい。
このまわりを散策するのは気持ちよさそうだな。
「どこか懐かしさを感じる風景と、ほっと一息つきたくなるような、ゆったりとした雰囲気がいいですよね」
そう話すのは、さとゆめの代表の嶋田さん。今回は都合がつかずオンラインでの取材だけれど、大子町には何年も通い、この事業に関わってきた。

さとゆめを創業して13年目。「700人の村がひとつのホテルに。」を掲げる山梨県小菅村の「NIPPONIA 小菅 源流の村」や、駅とその周辺地域をひとつのホテルとして見立てるJR東日本との共同事業「沿線まるごとホテル」など、数多くの事業を手がけてきた。
そんなさとゆめが、大子町に関わりはじめたのは8年前。
これまでに、吉成邸を活用したレストランやグランピングを期間限定でオープン。4年をかけて、大子町役場と連携しテスト営業を重ねてきた。
「いろんな地域からお声がけいただいているけれど、全ての地域で長く関係が続いているわけではなくて。大子町さんは、本気で地域を変えようと腰を据えて取り組んでいる。そして、そのパートナーとしてさとゆめを信頼してくれています」
「なので我々もそれに応えようと、大子町に『株式会社BOND(ボンド)』という会社をつくり、本格的に宿の開業に向け進んでいるところです」

取材をした時点では、設計を検討している段階で、これから宿泊人数や、場所の細かい使い方などを決めていく予定なのだそう。
「今回の宿は、吉成邸がある左貫(さぬき)集落を丸ごと楽しむような場所にしていきたい」と嶋田さん。
「集落は、地域の営みをつくる最も身近な単位なんです」
「行政の区画では見えてこない、土地の暮らしや生業、人のつながりが集落にはあります。その営みや文化を丁寧に編集し発信していくことで、知られていない地域の姿が見えてくる。有名な観光資源がなくても、魅力的な目的地になるんです」
左貫は大子町で特に茶園が多い地区。大子町のなかでも標高の高い奥地にあり、周囲を杉林に包まれながらも遠くの山並みを望める。山と、山からの清流に沿って広がる茶畑と田畑の風景が美しい場所。
村、町とひとまとめにせず、地域の文脈に寄り添う。そのための対話や関係性づくりは惜しまない。そういったプロセスを経てつくる施設だから、集落の人も運営に関わってくれる。
「行政区分だと見えない名もなき集落の、名もなき風景を残すってことにこだわって事業をつくっています。そのために、左貫や大子町に愛着を持って、語れる人が必要なんです」
新しく入る人は、まずは地域の人と話をするところから。左貫の人や暮らしを体感しながら少しずつこの集落の良さを見つけていってほしい。

宿の立ち上げや運営については、さとゆめでさまざまな宿泊施設の立ち上げに関わってきた、ホテルのサービス設計、クリエイティブディレクションといったプロフェッショナルのサポートを受けることができるから、未経験でも大丈夫。
分野ごとのプロフェッショナルと一緒に仕事ができるのは、新しく入る人にとても刺激になると思う。
吉成邸のクリエイティブディレクションを担当しているのが、グッドステップス代表の巽(たつみ)さん。
これまでに「NIPPONIA 小菅 源流の村」や「沿線まるごとホテル」など、さとゆめが手がける事業のクリエイティブディレクションからデザインの制作までを一貫して担当してきた。
新しく運営マネージャーになる人は、巽さんほかプロジェクトメンバーと2週に1回ほどオンラインをメインに打ち合わせをするなど、密にやり取りをしながら開業の準備を進めていく。この日もオンラインで話を聞く。

「コンセプト、場所の中心となる価値観の言語化から一緒に考えていきたいと思っています」
「1番長い時間をこの宿と過ごす運営マネージャーが、この宿のことが好きということってすごく大切で。さとゆめとして出したい地域や宿のブランディングとのバランスをとりつつ、実際に運営する方の意向をできるだけ取り入れたいと思っています」
巽さんは、この事業で実現させたいこと、好きなデザインのテイスト、テンションがあがるもの・ことといった運営マネージャー個人の好みもしっかりヒアリングをし、ウェブサイトや冊子などのクリエイティブにおとし込む。
施設のコンセプトづくりのほかにも、宿泊者向けの体験プログラムをつくるのが運営マネージャーの仕事のひとつ。
「大子町を伝えるキーワードに置いているのが、『お茶』。名もなき風景を残すという事業の価値観とも通じますが、のどかに続く茶園の風景と営みを守り残すため、大子町がお茶の産地だと覚えてもらうことを1つの軸としています」

大子町はお茶の北限の産地のひとつ。
寒暖差が大きい気候と、冬場の寒さに耐えるため、茶葉が厚く味に深みがでるのが特徴だそう。
「山間の集落のなかに茶畑が点在する風景が私は好きで、朝になると川から濃い霧が立ったり雲海が見られることもあるんです。こうした風景は大子町ならではだと思います」
ほかの産地のリサーチやお茶を使うお店やサービス、町内の茶農家を訪ねるフィールドワークなども行った巽さん。
ある茶農家の話をしてくれた。
「茶葉の収穫、製茶の工程は機械を使うことが多いなかで、その農家さんは手揉みという伝統的な製法をされていました。この製法は、茶摘み、蒸し、揉みといった工程を手作業でする製法です」
「そうすると葉っぱの形が残る。お湯を注ぐと、それがパッと開いて、香りと味も段違いなんです。蒸し具合や茶葉の揉み方は熟練の技術が必要で、揉みの作業だけでも6時間ほどかかります。そうやって手間暇をかけてつくる様子に感動して」
けれど、手揉み茶の良さや価値は発信する人も少ないためなかなか伝わりづらいのだそう。
「『自分は手間とは思わずにこの製法を続けているけれど、そこに価値を感じない人にはこのお茶を出したくない』とその方がおっしゃったんです。話し方自体は朗らかで、決して強い口調ではありませんでしたが、その言葉の奥にお茶づくりに対する確かな情熱のようなものを感じました」

「宿の宿泊者に向けたプログラムでは、こういったつくり手の姿も知ってお茶を味わえるプログラムができればいいなと思っています」
お茶の飲み比べや、焙煎体験など、宿内だけでなく集落をフィールドにしたプログラムが考えられると思う。
ほかにも町には、りんごや米、野菜もこだわりを持ったつくり手がいる。まずは、自分から地元の人たちと交流してみることで、さまざまな企画の種が生まれそう。
「地域に対するリスペクトがあり、そしてほどよくわがままな方が現場に入ってくれるとうれしいです。地域が主役でありつつ、自分の野望を叶えるというかここで一旗揚げる気持ちで来てほしい」
「運営マネージャーが起点となることで宿から地域が動いていくと思うんです。まだ大子町をよく知らなくても、100点満点でなくても、地域に貢献したいとか良さを伝えたいという気持ちがあればそれで十分です」
最後に話を聞いたのは、大子町で活動しているさとゆめの石原さん。

吉成邸を活用した期間限定のレストランなど営業を現場で担ってきた。宿が本格的に立ち上がるタイミングで今回募集する運営マネージャーにバトンを渡し、サポートに回ることに。
「大子町には、お茶のほかにも奥久慈しゃも、橅豚(ぶなぶた)、寒暖差を活かした甘みのつよい米や野菜がある。お茶とは逆で、りんごの産地の南限ともいわれているんです」
「お茶農家の方だけ見ても、様々な考え方、つくり方をする農家さんがいます。お茶を入口にそのほかも徐々に伝えていけたらと思っています」
石原さんは吉成邸のテスト営業以外にも、「りんご花さんぽ」というりんごのお花見イベントを企画。県の補助金の獲得からりんご園との調整、広報、イベントのコンテンツ企画を行った。
「町内のりんご園に立ち寄ったときに、りんごの花がきれいだと聞いて。町全体で40ものりんご園があるのでりんご狩りの時期以外にも人が来るきっかけにできないかと考えました」
「来てくれた方の反応もよく、なにより参加してくれた6つのりんご園の方の反応がよかったんです。来てくれた人との会話や、りんごができるまでの景色として関心を持つ人に出会えて、普段以上にやる気がでたと話されている方もいました」

石原さんが動き、りんご園とのつながりができ、実を結んだ企画。企画段階では関心を持つ人も、あらためて聞いてみると「初回は様子を見たい」と参加までに至らないことも。やってみると想像以上の調整が必要だったり、コミュニケーションをこまめにとったりする大切さも感じた。
「地域の人たちとの関係づくりは欠かせません。些細なことかもしれませんが、顔を出すとか、なにかイベントをするときに挨拶にいくとか」
「せっかくこの町にいるのだから、ネットで拾える情報だけじゃなくて、自分で話を聞いて、体験しながら魅力を言葉にしていってほしいです」
石原さんがつくったりんご園とのつながりを活かしたプログラムを拡張してもいいし、自分で気になる事業者や個人とプログラムをつくってもいい。
ヒントは町のなかや実際に運営する人のやってみたいことのなかにきっとある。
最後に印象に残った嶋田さんの話を紹介します。
「自分が地域に関わっていて、ほんとうに面白いと思うのは、まったく知られていなかった町とか村に注目が集まって、どんどん面白い人が入ってきて盛り上がるダイナミズムがうまれること」
「今いろんな動きが大子町に集まってきている。僕らもその1つ。地域内でいろんなことが勝手に起こり、世の中に発信されていくと、地域が醸し出すオーラみたいなものが変わってくるんです」
地域を軸に、自分のやりたいことも叶えるような野心がある人を待っています。
(2025/07/03 取材 荻谷有花)