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東京の下町情緒が色濃く残る、根津。
「まちの学び舎 ねづくりや」は、このまちに根付いた飲食店です。
夜の営業がはじまる前には、近所の子どもたちがふらっと立ち寄って遊んだり、地域の人たちが集まってお祭りの打ち合わせをしたり。
最近では、全国の自治体と連携して、それぞれの土地の食や魅力を伝えるイベントを月に2回ほど開催。地方と根津の人々をつなぐ拠点となっています。

今回は、2つの職種を募集します。
一つ目は、料理人。日々の飲食店の営業に加え、地方との連携イベントのためのメニュー開発など。さまざまな地域の食材や食文化と触れ合える仕事です。
二つ目は、地域連携イベントの企画スタッフ。地方の魅力をどう伝えるかを、自治体の人たちと話し合いながら決めていきます。
どちらも経験は求めません。
アルバイトもいれて10人ほどで、平均年齢が20代後半の若いチーム。軽やかに面白がりながら、自分たちの仕事の幅を広げています。
ねづくりやへは、根津駅から徒歩4分。
路地裏の商店街には、昔ながらの古道具屋さんや小料理屋さん。その合間には、新しいカフェや隠れ家的なお花屋さんが店を構える。

歩いていると、近所のおばあさんから「暑いねえ」と声をかけられた。
このまちに迎え入れてもらえたようで、なんだか温かい気持ちになる。
ねづくりやにつくと、店の前で代表の鶴元さんが迎えてくれた。

鶴元さんは九州の出身。大学時代に根津のまちに移り住み、9年になるんだそう。
「20歳くらいのときに、根津に惚れ込んで。ここに根付いて暮らしていきたいと思うようになりました」
ねづくりやの始まりは、この場所に建っていた旧タバコ屋さん。
2019年、美大で建築を学んでいた鶴元さんがリノベーションをして、シェアハウスに。学生4人での生活を始めた。
「玄関も鍵をつけずに開けっぱなしにしていたので、地元の子どもたちの遊び場みたいになっていって。学校帰りに遊びに来たり、裏庭で一緒に野菜を育てたり」
「ただ住むだけだと面白くないから、いろんな商いもしました。僕たちが大学に行っている間は2階を撮影場所として貸し出して。築100年くらいの味がある建築だったんで、たくさんの人が面白がってくれて。芸術家の村上隆さんも使ってくれたんですよ」
その収益をもとに、1階の居間でジェラート屋さんをオープン。ほかにもラジオの放送や、茶道教室など。地域に根付きながら、少しずつ活動を広げていった。

そんな中、老朽化により空き家が解体され、マンションに建て替わることに。
「せっかくつくった場所がなくなっちゃうのは寂しくて。もうやめようかなって悩んだんです。けど、建物が無くなってもこの土地の人たちはいなくならない。新しいマンションが建つまでの2ヶ月間、空き地になった場所で毎日イベントをやり続けました」
ワークショップやキッチンカーを呼んで、イベントを企画。1日で300人が来るほどの盛り上がりに。鶴元さんたちの活動を見た大家さんが、マンションの1階にねづくりやの入れる店舗をつくってくれることになった。
住まいから飲食店へとかたちを変えて、2022年に再スタートを切ったのが、今のねづくりや。夜の飲食店営業を軸に、地域に開かれた交流の拠点となっている。

「まちの魅力って、植物でいう根っこみたいなものだと思うんです」
「人のつながりとか、思い出とか、文化とか。ぱっと見でわかりやすいものじゃないかもしれないけど、そういうまちの土台をちゃんと知れる店でありたいと思っています」
メニューには、10年前に閉店した商店街のお弁当屋さんのレシピを受け継いだおばんざいや、近所の味噌屋さんの味噌を使ったなめろうなど。この地域に根ざしたものも多く取り入れている。
ほかにも、地域のお祭りを企画したり、高齢者が集まって交流する場所を提供したり。
「ねづくりやは、ザ・飲食店ではなくて。飲食店という基盤を活かしながら、活動を広げていきたいと思っています」
そのなかの大きな一つが、昨年から力を入れている自治体と連携したフェア。自治体から依頼を受け、毎月1〜2回、その土地の食や観光の魅力を伝えるイベントを企画している。
「自分が九州出身だったので、九州の食べ物を出してみたら、地域の子どもたちが興味を持って。このまちの人たちが、日本のいろんな地域を知るきっかけをつくれたらと思ったのが始まりなんです」
色々な自治体の東京事務所を周り、企画提案。1年間で20以上の自治体との関係性が生まれ、地域連携フェアを開催するように。
フェアでは、その土地の名産品を使ったメニューを提供。名産品の販売や、自治体の人にも来てもらい、観光案内や、ふるさと納税などのPRもしている。

「毎回60人以上が集まる人気のイベントで。飲食店なので、お客さんたちが食やお酒を楽しみながら何時間も楽しんでくれる。当日は自治体の人も参加してお客さんと話すことで『旅行でいってみようかな』とか『この地域の食材を買ってみよう』っていう流れも生まれています」
さらに最近では、フェアをきっかけにつながった自治体の担当者から相談を受け、郷土料理を残していくための取り組みや、地方の食材の販路拡大のためのイベントなど、新しい事業にもつながっている。
「まずは動いてみることを大事にしていて。悩んでやらないよりも、動いてから修正していけばいい」
「新しく入る人も、経験はなくてもよくて。地域の活性化に興味があるとか、いろんな地域の食材を知りたいっていう人には合っていると思う。いろんな自治体との接点も生まれるので、将来別の地域でねづくりやのような店をやりたいと思っている人もいいと思います」
イベントのためのメニュー開発や、調理を担っているのが店長の金光さん。ねづくりやがシェアハウスだったころからのメンバーだ。
金光さんが8月に店を卒業して地元の九州に帰るため、今回新しく人を募集することになった。

カウンターには、別れを惜しむ金光さんへのメッセージが書かれている。
「常連さんや、シェアハウス時代からうちに遊びに来ていた近所の子が、書いてくれたんです。当時は小学生だったのに、今はもう高校生」
「地元の人たちは、根津を東京の『村』っていうんですよね。人もあったかいし、みんな知り合い。自分もこのまちへの愛着がすごくある」
ねづくりやが大切にしてきた、人と人とのつながり。
ただ美味しいものを出すだけではなく、来てくれたお客さんと会話をしながら、関係性を紡いできた。
「料理をきっかけに、お客さん同士の会話が生まれて、人と人とがつながるのが好きなんです。だから料理を出すときは『今日はどこからきたんですか』とか『この料理、実は近所の弁当屋さんから教えてもらったもので』とか、必ずお客さんと話すようにしています」
ねづくりやには、スタッフとの会話を楽しみにくる常連さんも多い。料理を出すだけではなく、人との交流が好きな人にとってはぴったりだと思う。

料理人の主な仕事は、日々の飲食営業で提供するメニュー開発と調理、さらに自治体との連携フェアのためのレシピ開発など。
「通常の営業に並行して、フェアのメニューを考えなきゃいけない大変さもあるけど、いろんな地域の料理や味を学べるのも面白いんです。たとえば、鹿児島の『ガネ』って知ってますか?」
「さつまいもとか玉ねぎのかき揚げみたいな料理なんですけど、食べたことないから下味をどれくらいつけたらいいかもわからない。毎回、ネットで調べたり、その土地出身のお客さんからアドバイスをもらいながら、味を想像してメニューを考えています」
1つのフェアで提供するメニューは10品ほど。自治体の人や、生産者さんと相談しながら使う食材や料理を決めていく。
東京では見かけない魚や、めずらしい郷土料理など。いろんな食文化に触れながら、創造性を発揮できるのは面白そう。

「長崎県雲仙のフェアをしたときに、地元の名物の『たこ野郎』というタコのすり身のかまぼこを使うことになって。どうやって食べるのがいいか、生産者さんに電話をしたらすごく丁寧に教えてくれたんです」
「タコの値段が高騰しているなかで、唯一生産を続けている生産者さん。国産のタコを使って、一つひとつ手づくりしていると話してくれて。熱い想いも料理と一緒に届けられるのが面白さだと思います」
地方連携フェアの企画を担当しているのが、千葉さん。
もともと学校のカメラマンをしていて、高校の同級生だった鶴元さんの誘いで1年前にねづくりやに入社した。

「企画は、ネットでその地域のことを調べるところから。フェアの目玉になりそうな食材や、販売できそうな特産品などをまとめて、それをもとに自治体の担当者さんと話し合いながら内容を決めていきます」
「行政の方々も結構フランクに話をしてくれる。一緒に面白がりながら、アイディアを出し合っています」
新しく入る人は、まずは千葉さんと企画会議に参加して進め方を学び、少しずつ自分で企画を担当できるようになっていってほしい。
ねづくりやで企画しているフェアでは、その土地の食材を使ったメニューやお酒を出すだけでなく、魚の解体ショーや、生産者によるワークショップなどのイベントを開催することも。
1つのフェアにつき、準備期間は1ヶ月ほど。地方連携の担当者は、どうしたら魅力が伝わるかを考えながら自治体の人と会議をして内容を決めていく。
「島根県津和野町のフェアをしたときは、わさび農家さんに実際にお店に来てもらって。メニューとして、わさび丼とか、イノシシステーキを出して、それに添えるわさびのすりおろし方を実演してもらいました。農家さんの知識がすごいので、お客さんもすごく喜んでくれて」

「イベントをして終わりじゃなくて、その地域を知ることで、実際に観光に行ったり、その地域に愛着を持ってもらったりするまでの流れをつくり出していきたい。飲食店というよりは、コミュニティースペース兼飲食店だと思っているんです」
イベントを通じて、新しい相談を受けることも。津和野町からは、まちが高齢化していく中で郷土料理を残していきたいという相談を受け、この夏現地に視察に行った。
「一度イベントをして終わりではなくて、関係性が続いていくことでその地域への理解も深まる。関係する人たちが増えてきて、自分の知らなかった世界を知れるのが一番の面白さだと思います」
「イベント自体、必ずこれをやらなきゃいけないっていう型があるわけじゃないんです。地域が盛り上がりそうな楽しいことなら、まずはやってみて調整していけばいい。一緒にいろんなアイディアを出しながら、変化を楽しめる人が来てくれるとうれしいです」
根津も、全国の地方のまちも。
どんな地域もそこに住む人たちの想いや、文化、歴史がある。
そういったまちの根っこをしっかり見つめて、伝えていくのが、ねづくりやの役割だと感じました。
(2025/7/25 取材 高井瞳 )


