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腰をすえて
ガラスと向き合う
鴨川沿いの工房で

山口硝子製作所は、ガラス製品の加工・製造を専門とする会社。

新しい薬の研究や、食品の品質検査といった、科学的な研究や検査に使われる、理化学用ガラス器具をつくっています。

mm単位で、精巧なつくりが求められる、複雑なかたち。

ガスバーナーを使って、ガラスを引き伸ばしたり、曲げたり、くっつけたり。機械では難しい複雑な形状を、一つひとつ手作業でつくり上げています。

今回は、このガラス加工に携わる職人を募集します。経験は必要ありません。

伝統的な技術を大切にしながらも、デジタル技術を取り入れたり、一人ひとりの働きやすさを追求したりと、無理なく働ける環境をつくってきました。

基礎を学ぶためのマニュアルや育成環境も整っているため、職人と聞いてイメージするよりも、飛び込みやすい印象。

ものづくりに興味がある人も、「京都でのんびり暮らしたい」という人にも、門戸が開かれています。

 

京都駅から乗り換えをして、三条京阪駅に向かう。

出口を出ると、すぐそばに鴨川が流れている。川沿いの通りを一本入った住宅街に、山口硝子製作所はひっそりと佇んでいる。

取材は、およそ2年ぶり。奥の工房から、代表の山口信乃介さんが迎えてくれた。

奥にある作業場へと案内されながら、これまでの記事で、新しく2人が入社してくれたことを教えてくれた。

広い空間に机が並んでいて、頭上から換気ダクトが、それぞれの作業台の熱気を吸い上げるように垂れ下がっている。

作業場全体には、ガスバーナーの燃える低い音が響く。職人さんたちが、ガラス管を手に、集中して作業を進めている。

お久しぶりの職人さんに挨拶をしていると、山口さんが自身のスマートフォンを構え、作業中の職人さんにカメラを向けている。

「マニュアル用の動画を撮っているんです。技術を教えるには、動画がわかりやすいですから」

ガラス加工の業界では、職人の経験や感覚に頼る部分が大きく、アナログな体質が残りやすいのが実情。

山口さんが10年以上かけて取り組んできたのが、職人の手しごとを守るだけでなく、それを支えるデジタルの仕組み。

「僕らが最も大事にしているのは、誰もが安心して技術を習得し、品質を安定させること。そのために、デジタルをできる限り活用しています」

山口硝子製作所では、技術指導や品質管理に関する情報を、社員一人ひとりに支給したiPad一台に集約している。

まず見せてくれたのが、外観検査基準書。

つくった製品の品質を誰もが同じものさしで判断できるようにするための、ルールブックのようなもの。

過去の不良品を徹底的に分析し、“カケ”や“クラック”といった一つひとつの不良に名称をつけ、「ここまでは良品、これ以上は不良品」という客観的な基準を決めた。

「不良品が一度でも出たら、もう出さんように、原因をひとつずつ潰していく。検査中に見つけた新しい傷や、判断が難しいことが出てくるたびに、その対策や詳細について情報を更新するんです」

iPadをスクロールすると、製品の仕様や作業での注意点がすべて記載されていて、その下には過去の不良事例の拡大写真が並んでいる。

「たとえばこの基準書は、これまでに86回も更新していますね。いかんせん、製品の種類が多いので。紙で管理していたら更新も大変だし、図面の読み間違いも起こる」

さらに作業マニュアルもすぐに参照できるようになっており、iPadで撮影された動画なども豊富に用意されている。

「品質も安定するし、不良品が出ることも少なくなりました」

次に見せてくれたのが、生産管理システム。作業の割り当てや進捗、時間をデジタルで管理している。

製品ごとの作業スケジュールがカレンダー形式で示され、その日の自分の作業、納期、目標時間が一目でわかるようになっている。

「安定したものづくりができる会社は重宝されるし、存在意義もあるやろうなと思って、僕らにできることに向き合ってきた。結果的に、新規の引き合いが増えています」

「デジタル化を進めたことで、ここ数年は残業が大きく減ったり、不良が出る件数がぐんと下がったり、従業員の育成が確実なものになったり。社内にも、前向きな変化が大きいんですよね」

最近では、「安心して過ごせる環境づくり」をスローガンとして掲げ、さらに社内改革を進めているという。

「以前より、作業に集中するだけでなく、雑談などを許容する雰囲気も出てきました。社員がどう感じているか、ぜひ現場の声を直接聞いていってください」

 

次に話を聞いたのは、入社8年目の坂部さん。

高校を卒業して、30歳まで同業他社でガラス加工の職人として働いていた。たまたまテレビで山口硝子製作所の紹介を見たのがきっかけで、2018年に入社することに。

目を保護するためのサングラスをかけ、ちょうど作業中のところ。

見せてくれたのは、一本のガラス製品。

「これは工場排水などに含まれる、微量な物質を分析するための部品なんです」

「一見するとシンプルなつくりですが、細い管を枝のようにくっつけるのは、どうしても人の手でしかできない」

さっそく、加工の工程を見せてもらうことに。

まず、ガスバーナーの炎をガラス管の先端部分にピンポイントで当てて熱する。

ガラスがマシュマロのようにやわらかく溶けたところで、金属の棒を使って、正確な位置に丸い穴を開ける。

その穴に、細いガラス管を合わせ、炎で溶かしてくっつける。

このとき、くっつく部分に気泡や歪みが入らないよう、ガラスの溶け具合を一瞬で見極め、絶妙な力加減で二つのガラスをひとつにまとめる。

くっつけた部品を、坂部さんはすぐに規格の型に当てて、形や角度を確認。少しでも角度が足りないと、ふたたびバーナーで熱を加え、ミリ単位で修正。

作業台には火力のことなる2つのバーナーがあり、それを何度も行き来しながら、火を当てる場所や熱の入れ方を調整する。

10分ほどで、ひとつの製品が出来上がった。

この日つくっていた部品は、300種類ほどある製品の中でもとくに難易度が高いもの。

実は、1年ほど前に新しい分析機器向けのガラス部品の発注が入った際、この部品の試作段階から、坂部さんが任されたんだそう。

「1年ぐらいかけて、何度もサンプルをつくって。ようやく製品ができ、売り上げになって、会社に貢献できた。とても、うれしかったですね」

製品のなかには、単純な作業であれば半日ほどでつくれるようになるものもあるけれど、難しいものは、失敗と改善を繰り返しながら、習得までに1、2週間かかることもある。

「失敗しないとうまくはならないし、どこに気をつければよいかもわからない。いまでも失敗を重ねて、自分なりに改善点を見つけて、新しい技術を身につけています」

「もっと技術を高めないといけないですし、後輩に教えていかないといけない」と謙虚に語る坂部さん。

それを象徴するような、一冊のノートを見せてくれた。

試作品はもちろん、ほかの製品の作業工程も、イラストとあわせて丁寧に書かれている。

「自分が分かれば、きっとほかの人もわかるだろうと、自分なりの手順をノートに書いていて。万が一僕が病気で休んだりしても、ほかの職人さんが同じ品質で製品をつくれるようにしておきたいという思いもあります」

ノートの内容は、iPadのマニュアルにも反映されているという。

「前の会社にいたころは、見て覚えろという厳しいスタイルでした。上手にできなかったらひどく怒られて、とても苦労したんです。自分のいやな経験を、ほかの人には絶対にしてほしくない。社内での教育に役立っているのであれば、ほんまにうれしいですね」

 

最後に話を聞いたのは、今年の7月に入社したばかりの髙田さん。

作業場の一角で、ガラス管をくっつける作業を習得中の髙田さんを、先輩の田村さんが見守っている。

作業が落ち着いたところで、髙田さんに入社経緯を聞く。

京都の大学を卒業後、社内システムの運用保守の仕事をしていた髙田さん。働き方へのギャップを感じ、転職を考え始めた昨年末、日本仕事百貨で山口硝子の求人を目にした。

「特定の職種にこだわっていたわけではなく、職人という仕事に漠然とした興味があって。京都で、長く続けられる仕事を探していたこともありました」

「惹かれたのは、山口硝子のつくる製品の価値。一般的な工芸品とは違い、山口硝子の製品は、装置の中で正確に機能することが目的です。見た目の美しさではなく、その機能や品質の裏に、職人さんの技術があるところが、すごく良いなと感じました」

入社してみて、いかがですか。

「職人の仕事というイメージからすると、環境が整っているなと感じました。マニュアルも見やすく、先輩もやさしい。なんでも相談に乗ってくれるのが助かっています」

新しく加わる人が最初に任されるのは、長いガラス管を寸法に合わせて切り揃える切断と、ガラスの切り口や縁をなめらかに整える研磨の作業。

また、製造後の検品も重要な仕事。

「1センチちょっとの小さな部品を900個。基準をしっかりと守って一つひとつ確認していくので、検品で1日が終わることもある。検品を通して、集中力や守るべき品質の基準が身につくんです」

基礎的な作業を経て慣れてきたら、バーナーを使った加工へとステップアップ。どの作業も、必ず先輩がまず見本を見せてから、ひたすら実践して覚えていくという流れ。

となりで聞いていた先輩の田村さんがつづけてくれる。

「基礎的な作業は、未経験からでもできますし、安心して大丈夫です。ただ、慣れてきてから任されるようになる、火を使う加工作業は大変です」

「微妙な火加減や、丸みをもたせるなど、理論や数値で説明できない、どうしても感覚に頼らざるを得ない部分が出てくる。そこをどうやって身につけてもらうかが、教える側としても一番難しいところなんです」

田村さん自身、どのように覚えていったのでしょうか。

「僕は、あえて失敗してみました。そして『なぜダメだったのか』を徹底的に分析する。そこから改善するための仮説を立てて、実践で試す。この繰り返しこそ、成長していくための道だと思います」

「自分の考えたことが、成果にしっかりと表れる瞬間は、本当にうれしい。失敗は自分を責めるためのものではなく、次に成功するためのデータとして見る。そんなふうに客観的に反省できると、技術も磨かれていくはずです」

 

すぐに結果が出なくても、焦らずに、じっくりと。

京都のおだやかな鴨川沿いで、ガラスと向き合う。

ここでは、そんな働き方ができそうです。

(2025/10/16 取材 田辺宏太)

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