求人 NEW

小さなDoから

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

今から5年前、シャッターを下ろしつつあった商店街の一角に、ある人が一軒の空き家を借りました。

そこで何をやったか。

朝7時から1時間だけ、シャッターを開けて滞在する。ただそれだけ。

それでも、いざはじめてみると仲間が集まってくる。一緒に朝ごはんを食べたり、半径100mまでしか届かないコミュニティFMを放送したり。

次第に町内外の人を巻き込んだ活動も増えていって、この空き家「nanoda」の取り組みは、さまざまなメディアで取り上げられるようになっていきました。

「ある人」とは、長野県塩尻市役所の職員である山田崇さん。

山田さんはこんなふうに話してくれました。

「PDCAのPをなくしてるだけなんです。ちっちゃなDoからやる。そうすると必ずCheckが入るんですよ。お前ら何やってるんだって。で、Aは謝る(笑)。Apologizeです。そこでようやく、次はこうしようっていうPlanが生まれる。これを高速で回していくことが必要なんですよね」
小さなDoの連続が人を惹きつけ、町の雰囲気まで変えていく。塩尻市は今、とても面白いフィールドだと思います。

今回募集するのは、そんな塩尻に新たに誕生する松本広域圏イノベーションプラザ、通称「スナバ」のコミュニティマネージャー。

立ち上げからの2年間は、東京・目黒で起業家のコミュニティを運営してきた株式会社Hub Tokyoも半常駐。塩尻というフィールドで市民起業家の支援やコミュニティづくりを目指し、ともに試行錯誤を重ねます。

さらに信州大学などの教育機関や業務連携を交わしている企業など、産官学の協力体制も。

至れり尽くせりのようですが、決して楽な仕事ではありません。特に立ち上げ期は、試行錯誤を繰り返す日々になると思います。

失敗を恐れず、小さなDoを積み重ねていく人を募集します。


新宿駅から特急あずさに乗ること2時間半。一度も乗り換えることなく塩尻駅に到着する。

長野県の中心に位置するこの駅は、二大都市である長野、松本方面のほか4方向に路線が伸びており、1日におよそ9000人が利用するそうだ。

改札を出たところで、塩尻市役所シティプロモーション課の山田さんが待っていてくれた。

車で移動しつつ、塩尻という土地についていろいろ聞いてみる。

「塩尻はですね、かつて北と南から運んできた塩が尽きる最終地点で。ソルトエンドっていう意味で塩尻なんです」

また、江戸と京都を結ぶ中山道の69ある宿場町のうち、ほぼ真ん中である34番目の奈良井宿が存在するのも塩尻だそう。

「この2つの条件から、塩尻はもともとイノベーションの生まれやすい土地だったんです」

どういうことでしょう?

「当時の塩って、今以上に価値の高いものだったはずです。途中で売り切れちゃうと困るから、塩と交換できるだけの価値あるものをつくる必要があった」

塩尻名産のワインはそのひとつ。

塩尻の環境は米づくりに適さず、かつては年貢もおさめられないほどだった。

そこで発想を転換し、ぶどうをつくり、醸造。流通を可能にし、今や世界でも認められる塩尻ワインは、100年前のイノベーションだと山田さんは話す。

「それに中山道の真ん中といえば、交通の要衝。いろんな人の声を聞いて新しいものを生み出したり、日本中で起こっていることに対して敏感な土地でした」

イノベーションという言葉には、先端的なテクノロジーによって課題を解決するようなイメージがなんとなくある。

でも実はそうではなく、従来なかった切り口を見出すことや、いろんな人の声を集めて新しいものをつくることもイノベーションだと言える。

5月にオープンするスナバ。

ここもまた、さまざまな人が訪れるイノベーションの現場になっていくと思う。


続いて話を聞いたのは、塩尻市役所地方創生推進課課長の古畑さん。

スナバがまだ完成前ということもあり、塩尻市市民交流センター「えんぱーく」を訪ねた。

もともと商工課に所属していた古畑さんは、民間企業と接する機会が多く、行政のあり方に疑問を抱くことがあったそう。

そんななか、5年前に山田さんが職員向けの勉強会をはじめた。

「おれだけじゃないんだ、ってわかった瞬間でした。行政の抱える課題は、一担当課だけでは解決できない。自分も含め、組織の人たちのマインドを少しずつ変えていかなきゃいけないと思ったんです」

担当課の壁、行政と民間の壁、市内外の壁。

スナバは、さまざまな壁を超えてみんなでつくりあげる場にしていきたいと古畑さん。

「1階のコワーキングスペースは、地域で事業を行う市民起業家が育つ場所でもあります。市内外からやってくる多様な人たちに、ここをベースキャンプとして使ってもらいたい。2、3階は貸しオフィスなので、起業したばかりの方や第二の拠点を塩尻に構えたいという方に使っていただく予定です」

行政はどのように関わっていくのでしょうか。

「常駐できるかはわからないですけど、我々職員も常に誰かはその場にいるようにしていきます。さらに、利用者に対して塩尻の行政課題を隠すことなく見せるようなコーナーを設け、外部の企業の方のリソースとのかけ合わせでソリューションを生むようなことも考えています」

なんとなく、いい化学反応が起きる場になっていきそうな予感がある一方で、じゃあそれって具体的にどういうことなんだろう?という疑問も浮かぶ。


この疑問に応えてくれたのが、地方創生推進課の主任を務める北野さんだ。

北野さんが紹介してくれたのは、3年前にはじめた「MICHIKARA」という官民協働プログラム。

空き家問題や伝統工芸の存続など、塩尻の抱えるいくつかの課題を取り上げ、市内外からの参加者は興味のあるテーマごとに分かれてディスカッション。

2泊3日の現地合宿では、フィールドワークや地域住民への取材を重ね、最終日に各チームから市長へのプレゼンまで行う。

たとえば、小学生たちが空き家を掃除しつつ、オーナーさんにインタビューするプログラム。オーナーさんの心理的ハードルを解消し、空き家問題を前に進めるとともに、町と子どもたちとの新たな接点を生み出す総合学習につながるとして、これまでに何度か開催されてきた。

また、新体育館の建設を進めるにあたって、塩尻をホームタウンとするJリーグチーム「松本山雅」とのコラボレーションを含めたさまざまなプロジェクトが進行中だ。

規模はさまざまだけれど、いずれも外部からのアイデアやリソースと塩尻の人・町がうまく関わりながら動き出している。

スナバは、こうした大小さまざまなイノベーションが日々生まれるような場を目指しているという。

「提案して終わり、では意味がないんです」と古畑さん。

「提案を次年度の予算編成や施策に反映できるようにしてはじめて意味がある。MICHIKARAの場合は、それを北野が進めています」

「山田がネットワークを広げて、いろんな人をスナバに呼び込む。コミュニティマネージャーは人同士をつなげたり、支援することでイノベーションが生まれるきっかけをつくる。我々職員は、それを行政に落とし込んでいく。それぞれのチームワークが大事なんですよね」

官民の壁を超えて人をつなげ、支援する。そして、イノベーションが生まれるきっかけをつくる。

それって具体的にはどんな仕事なのだろう。


塩尻をあとにし、株式会社Hub Tokyoが運営する東京・目黒のコミュニティスペースImpact HUB Tokyo(以下、IHT)へ。
コミュニティマネージャーとして、塩尻で一緒に働くことになる岩井さんを訪ねた。

IoTの起業家チームや建築家、ゲノムビジネスやEコマースなど、多様な専門分野やバックグラウンドを持った人同士が関わり合い、イノベーションが生まれる場となっているIHT。

そんなコミュニティを5年前から築き上げてきた岩井さんのノウハウは、スナバを運営していくうえでも活かせる場面がたくさんあると思う。

週に3、4日は塩尻、残りは東京という感じで行き来する働き方を考えているという。

「人をつなげたり、コミュニティを混ぜ合わせるような仕事ですけど、わたしは全部やりすぎないことを意識していて」

やりすぎない。

「依存する関係性を生みたくないんです。むしろ、自然なコミュニケーションが発生しやすい空気を醸成しておくことのほうが大事だと思います」

Impact HUB Tokyoでは、基本的にルールで縛ることをしないという。
会話がしやすい空間は、コミュニケーションが活発になりがち。一方でそれは、集中したい人にとって妨げにもなる。

「たとえばそういうときは、ご飯会に誘います。お互いのやっている事業だったり、どんなフェーズにいるかを話し合う。それだけで解決することも多いんです」

また、日々のコミュニティ運営にとどまらない仕事もある。

IHTでは、2013年の7月から起業家育成プログラム「Team360」を実施。これまでに約90名の卒業生を輩出してきた。

さらに昨年の1月からは、世界的な環境保全団体であるWWFジャパンとの共催で持続可能な水産業に特化した起業家育成プログラム「OCEANチャレンジ」を開始。

岩井さんはこれらのプログラムにおいて、参加者たちの伴走をするだけでなく、外部の専門家を巻き込んだプログラムの設計やファシリテーションなども行なっているそうだ。

いずれも講師からの講義を受けるスタイルではなく、起業家たち自身が切磋琢磨していくチーム・ラーニングの考え方にもとづいて進めているから、プログラム終了後も続く継続的な関係性ができているのだそう。

こうして“起業”や“イノベーションの創出”は、IHTになくてはならない要素のひとつになってきている。

スナバにおいても、市民起業家の人たちが成長したり事業を加速していくためのプログラムに取り組んでいくという。

イノベーションの土壌が育まれてきた塩尻だからこそ、実現できることもあると思う。

「わたしたちは、語るだけじゃなく、行動する人たちを応援するコミュニティでありたいと思っています」

「塩尻には、商店の2代目やIターンで事業をはじめた人も多い。それに、市役所のみなさんも前のめりな方ばかりで熱いんですよね。骨を埋めるまでいかないにしても、わたしもがっつり入り込んでいきたいなと思っています」

今回は地域おこし協力隊としての雇用のため、任期は最大3年。さらに、立ち上げから2年後にはImpact HUB Tokyoのサポートも終了する予定です。
そのため、週3日の勤務以外は、生業をつくっていくための時間として自ら過ごし方を考えていくことができるそう。

スナバを訪れる多様なメンバーとともに何かプロジェクトを立ち上げてもいいし、町に出て地域コミュニティとのつながりを深めてもいい。そこから起業することだってありえる。

コミュニティマネージャーとして支えるだけでなく、自ら挑戦することで、まわりに刺激を与えるような人が求められているのかもしれません。

小さなDoの積み重ねから、いくらでも可能性を広げていけると思います。

Impact HUB Tokyoのコミュ二ティマネージャーも募集中。そちらの記事もあわせて読んでみてください。
(2018/2/4 取材 中川晃輔)