コラム

日本の99%を変える仕事

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日本仕事百貨に掲載している企業の多くは中小企業です。日本の99%以上も中小企業。

そんな中小企業を支援して成果をあげているのが、富士市産業支援センターf-Bizです。ここをモデルのひとつとして、2014年度から中小企業庁が「よろず支援拠点」という事業を展開しはじめました。これは各都道府県に一つずつ、中小企業・小規模事業者への産業支援を行う拠点を設置するというもの。

f-Bizについては日本仕事百貨でも紹介してきましたが、なぜうまくいっているのか、そしてなぜよろず支援拠点が必要なのか、f-Bizの小出さんとOka-Bizの秋元さんに深く話を聞いてみました。すると、中小企業の未来へのヒントが見えてきました。

-まずは小出さんにお話を伺います。f-Bizではどのような事業を行っているのですか?

小出 僕らが運営している富士市産業支援センターf-Bizは、2008年8月に富士市が設置した中小企業支援センターです。相談に来る中小企業・小規模事業者の悩みのほとんどが、「売上を上げたいけれど方法が分からない」というもの。どうやったら売上が上がるのかを同じ目線で考え、本人たちが気付いていないセールスポイントを見つけ出し、発信していく。それが僕らの仕事です。

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富士市はかつて輝かしいばかりの工業都市で、ものづくりで有名な浜松市とほぼ肩を並べるくらいの工業生産高を持っていたんです。ところが大企業が次々に撤退してしまったんですね。一方で地域の中にたくさんの中小企業、小規模事業者がいる。その支援をやり直すことで、まちの経済を再生させられないか、地域を元気にできないかっていうことを考えたんですね。

全国にはものすごい数の公の中小企業支援があるわけですよ。でもこれがひとつ大きな問題で。ハコは立派なんだけれども、相談に来る人はあまりいない。当然ながらそこから生まれる成果もあまりない。そういうことに気がついたんですね。それで、ハードじゃないだろうと。ソフトだねと。ソフトって何かというと結局人ですよ。だからアドバイスをする人間そのものが重要じゃないかと気がついた。そんなときに、たまたま富士市生まれの僕に声がかかった。

-たまたまだったんですか。

小出 当時静岡銀行から出向して、同じような仕事をやっていたんですよ。僕は銀行に26年間在籍してたんだけど、もともとM&Aのアドバイザー業務を担当していたんです。そんな僕に、41歳のときに銀行の経営者から突然「出向せよ」と指示が出て。f-Bizの前身のSOHOしずおかというプロジェクトの立ち上げと運営をやりなさいと。全く経験もないし関心もない。思い描いていたキャリアとはまったく違うわけです。

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危機感いっぱいでこの世界に入った。ただやっているうちに、今まで会ったこともないような生まれたての起業家の人たちと毎日会うわけですよ。銀行とは全く違う、極めて近いところで彼らの可能性や情熱、思いに触れる中で、仕事に対してそんなにモチベーションの高くなかったはずの僕にスイッチがパパンと入ったんですよ。価値観が全部転換した。そこで結構本気でやるようになったら、色んな成果も出はじめてきて。

結局、2年の約束だった出向が7年半に及んで。静岡市で2ヶ所の支援施設の立ち上げと運営、浜松市で1ヶ所の立ち上げと運営、計3ヶ所やったんですね。そんなときに富士市の話があったんです。それで2008年8月に富士市産業支援センターf-Bizがはじまった。

-どんなふうに相談にのっているのでしょう。成功した事例を教えてください。

小出 株式会社司技研という、自動車部品の金属加工をしている会社があって。長期に渡る経営不振で、経営的に極めて厳しい状況だった。決算書3期分が入った紙袋を両手に抱えて相談に来たんだけど、我々はそれを全く見ないんですね。じゃあ何をやるかというと、徹底的に話を聞くんです。そうすると、メインは金属加工業なんだけれども、ときどきプロトタイプをつくっているというんです。「急いでほしい」と依頼が来たら、一生懸命図面を引いて、一生懸命削って、3日で納品してるんだよって社長が言うわけです。

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そこで僕らは突っ込むんですよ。社長は普通のことと思ってあっさり言った「3日」、これってすごくない?と。そこで提案するんです。明日から新サービスをはじめることにしましょうと。3日で納品できる、それを抜き取って「試作特急サービス3DAY」って名前をつけたんですよ。手書きでいいからチラシをつくってくださいね、ウェブサイトにも載せて、営業やり直してくださいねと言うんです。そしたら本人たちの顔色変わりますよ。うなだれてやって来た2人が、出て行くときにはもう「頑張ります!」と。

その後どうなるかというと、直後の3ヵ月で新規の取引が50も取れた。さらに驚くのは翌年以降で、自動車メーカーから直接連絡が来て、電気自動車の試作部品やレーシングカーの特殊部品の仕事を受注したんです。売上は8割アップ、利益率は2.5倍ですよ。我々のアドバイスによってその会社が再生したんです。

でも大切なポイントがあって、それをやるにあたって一体いくらかかったかということ。設備はそのまま、技術もそのまま。新しくつくったのは手書きで書いたチラシをカラーコピー機で刷っただけの数万円。お金をかけていないんですよ。その一方で大切なものを使っている。それは何かというと、「知恵」なんです。真のセールスポイントをいかすっていう知恵なんですね。知恵をもって流れを変える。これがf-BizやOka-Bizがやっていることであり、よろず拠点もそうありたいと思っているんですよ。

-知恵を出せるのは、生まれ持った才能があるからなのでしょうか。

小出 僕はそんなことはないと思ってる。ただ、明らかに適正があると思っているんですよ。よろず支援拠点で働く人には何が大切かというと、高いビジネスセンスを有すること、コミュニケーション能力が高いこと、情熱を持っていること。この3点が重要なんですね。

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ビジネスセンスが高いというのは、天性のひらめきじゃない。まず圧倒的な情報量を持っていることなんですよ。人が見逃してしまうような情報に気がつけること。これはある意味資質かもしれないね。そして掴んだ情報をもとに自分で調べるんですよ。そうすると、情報が生きた知識に転換される。生きた知識の集積から知恵が生まれるんです。

それから情熱というのは、相談に来る人のことを自分ごとにできて、なんとしてもこの人をハッピーにしたい、成功させるぞ、と本気で思えることなんだよね。他人のことを自分のことのように心配し、執着できること。あるいは、自分が担当したよろずプロジェクトを絶対成功させると。そういうことを含めて情熱と言っているんです。

-続いて秋元さんにお話を伺います。Oka-Bizはf-Bizをモデルにしてつくられましたが、この業界に後から入ってきてどんな難しさを感じますか?

秋元 f-Bizをモデルにしているので、目指すところの高さにはシビれました(笑)小出さんのところに10年くらい通い弟子状態でいろいろ見させていただいたけれども、組織の立ち上げのノウハウは見ていないんですよね。そんな中でつくっていくのは、難しかったけど面白かったですよ。センターの立ち上げは、起業と同じ感覚がありました。

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もうひとつ難しいなと思ったのは、僕は診断士も会計士も税理士も資格を持っていない。かつ設立当時33歳で、岡崎の出身でもない。周りの人からすれば、「なんだかよく分からない」若造なんですよ。「まぁ、お手並み拝見」みたいな。はじめは試されている感じがすごくありました。

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当初の来訪相談件数の目標は月に50件だったんですよ。地縁もない中で正直、1ヶ月目は市役所・商工会議所の協力もあって70~80件の方に相談にお越しいただきました。ただ、じっくりお話を伺ってディスカッションしていくうちに「ここ、いいじゃん。また相談に来てもいい?」となって。2ヵ月目以降はリピートで来てくれるようになったんですよ。f-BizもOka-Bizも相談件数が多いのですが、それって結局リピート率とクチコミの多さだと思うんです。満足しなかったらリピートしないし、人に伝えたくもならないですよね。

小出さんの話をお伺いしていつも思うのは、素直に、自然に考えるということ。ひねるとか、こうしなきゃだめだよねというよりも、普通に考えたらこうだよね、という提案をしているんです。自分だったらどうしたら買うんだろうという消費者目線なんですよね。

-今後、この業界にどのようなことを期待していますか?

秋元 中小企業支援って、もしかすると大企業などを対象としたものよりずっとチャレンジングなのかもしれないと思います。だって、人もいない・お金もない・余裕もない、そんな状況で、知恵をだして流れを変えていけるか。小出さんのお取り組みは、結果を出していくコンサルティングであり、当事者の意欲を引き出すコーチングでも在ると思います。これまで公的産業支援には無縁だったビジネスパーソンにこそ飛び込んでほしいし、地域産業支援は究極の地域活性化じゃないかな、って思うんです。

小出 僕はプロフェッショナルの世界にしたいんですよ。だから、従来の公の産業支援に比べて破格に高い、1200万円という年収を提示してもらったんです。これではじめてプロの処遇だと言えると思うんですよ。優秀な人に、年収が低くても頑張ってくれという世界もあるかもしれないけれど、それじゃ続かない。善意に頼っちゃだめなんです。その代わり、本当のプロに入ってきてもらう。

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若い人たち、あるいは働くということに強い問題意識を持っている優秀な人たちに関心を持ってもらった上で、よろずプロジェクトにトライしてもらいたい。今までは資格と経験重視だったから、そういう門戸が開かれていなかったんですよ。ただし、これは大変ですよ。生半可なことじゃ結果は出ない。結果出してなんぼですよ。だけど絶対に夢があるしロマンがある。かつ地域にとってとても重要な仕事なんです。

秋元 若くても、適性があるとか情熱をもっている人なら、よろずプロジェクトにトライしてみたら、と思います。もちろん新たなチャレンジだし、期待が大きがゆえの困難も多い。でも、それすら楽しめる情熱があれば、きっと大丈夫です。

よろず支援拠点「コーディネーター募集」
 対談の冒頭でご紹介した“よろず支援拠点”とは、中小企業・小規模事業者の売上拡大や資金繰り等の経営相談に対応するため、中小企業庁が全国に整備しているワンストップ相談窓口。
 このうち、群馬県、静岡県、福岡県の3拠点について、地域の支援機関と連携しながら相談者が抱える課題を分析し、アドバイス等の最適な手法を選択し支援を行う「コーディネーター」を募集しています。
 経営支援に関する優れた知識・経験・実績・資質や熱意、優れたコミュニケーション能力等を有している方は、是非下記サイトを参照の上、ご応募下さい。

《応募方法・詳細内容は、下記のサイトを参照》
(群馬・静岡)
http://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/chusho/
27fy_onestopshien_coordinator_koubo.html

(福岡)
http://www.kyushu.meti.go.jp/support/1502/
150209_2.html

《本事業についてはよろず支援拠点全国本部のサイトを参照》
http://www.smrj.go.jp/yorozu/087938.html