コントリビューター西村佳哲さんインタビュー
「いま、あらためて振り返る」
コントリビューターになっていただく、リビングワールド代表の西村佳哲さんと日本仕事百貨の代表ナカムラケンタが、南青山のカフェでコーヒーを飲みながらお話しました。
プロフィール
―西村さんが日本仕事百貨を知ってくださったのはいつごろですか。
ぼくが1番最初に知ったのは、森ビルの黒田哲二さんから話を聞いたとき。
―黒田さんはリトルトーキョーでもお世話になっていますよ。まちづくりという視点で、企画・運営されていらっしゃいますよね。
うん。あるプロジェクトで彼と一緒に関わっていたときに、「西村さんが書いていた『自分の仕事をつくる』という本の、次の展開を形にしている感じのサイトがありますよ」って話してくれたんです。見てみたら、確かにこういうふうな関わり方ってあるなあ、って。
ぼくが『自分の仕事をつくる』を書いたときには、自分の仕事をつくっていったりどういうふうにやっていこうか、っていうほうに関心があったんです。だから次の展開としては、自分がどんな会社をつくるか、どんなふうに管理したり環境を整えたりしていくかということが理想でした。でも彼の話を聞いたりサイトを見たりして、自分の仕事をつくっている人たちを紹介するという関わり方もあるなあ、と思えて。
自分としては、仕事百貨を親戚筋として捉えています。ぼくはおじさんぐらいかな。仕事百貨がやっていることに違和感はなかったし、確かに今回のコントリビューターのような関わり方もあるな、と素直に思えたんです。
でも、問題が。
―問題?
うん。ぼくが本を書くときには「ライター」として書くのではなく、「著者」として書いているんです。自分の主観をちゃんと考慮しているし、"西村"の文章を書いてきているんだよね。ライターとして書いていない、って言うと語弊があるかもしれないけど、頼まれたことはなんでも書けるわけじゃないんです。
自分が関心を持てることについて書きたいと思うんです。自分の文章は下手くそだとは思っていないけど、上手だとは全然思っていないです。漢字もよく知らないし、ボキャブラリーも豊富じゃないし。
著者として書いているけれども、1冊丸ごと自分だけの言葉で書こうとしたら、無理なんじゃないかな。そんなふうに思うところがあるくらい、ライティングっていう能力に関して、自信はないんです。
―なるほど、ぼくも同じかもしれません。「著者」というとどちらかと言えば自分の言葉で、「ライター」は他人の言葉で編集するというイメージがあります。でも西村さんは、そのどちらでもないと思うんです。自分の言葉もあるし、相手の言葉をそのまま書いているわけでもない。なんというか、相手がまだ言語化できていないところまでファシリテートしている感じですよね。
インタビューのワークショップでは、「どんな人に対しても関心は持てる」って言い切っているんです。そのときにはその人がどんな風に生きているかっていう大きなくくりで見ているので。
―その人自身にフォーカスするインタビューと仕事にフォーカスするインタビューでは、何か変わってくるんでしょうか。
どんな風に生きているか、っていうレベルだったら誰にでも関心が持てるんです。でも、その会社がどんな事業をやっているか、何を志しているかっていうレベルだと、自分の関心や思考が合わないと聞けないっていうことが起きてしまうかなと。そういう意味では求人記事を書くことは挑戦なので、やってみないとわからない部分が大きいです。楽しみですね。
―西村さんに聞きたいことがあります。日本仕事百貨を全体的に見て、どう思いますか。
最初に読んでいたころの印象とずいぶん変わってきたな、と思います。より立体感が増したなということ。
社長さんだけにお話を聞くのではなく、そこで働いている人やその街に住んでいる人にもお話を聞くとか、やっていることは前と同じなんだけど、ひとつひとつの厚みが増してきているような気がします。褒め過ぎかもしれないけど、オーガニックになったのかな、と思います。
―オーガニック?
そう。有機的。ディティールがあるということ。
―それはうれしいな。
一問一答で求人票に書いてくださいっていう無機的なものではなく、それとは違う状態にあるもの。スパッと切れないというか、切ったあとの断面のザラザラがわかるような感触があるというのかな。それが媒体として成長しているんだな、と。
あと、デザインはリニューアルするんじゃなかったっけ。
―来春か、6周年になる8月までにはやりたいです。まずスマートフォン対応をしないといけないなと思っていますし。そうやって機能をもっと洗練させていきたいですけど、デザインなどにアナログな感じは残したいんです。全体としてはストレスにならないように、スッと読んでいけるように。西村さんはどう思いますか。
今の日本仕事百貨のサイト構成は、R不動産に似てるじゃん。
―そうですね。東京R不動産の林さんにはサイトのデザインはもちろん、いろいろなことに相談乗ってもらっています。
もっと自分たちのものにしていってもいいんじゃないかな。
―自分たちのもの。
こないだ神山に行ってね。改善センターの入口に、グリーンバレーのことを取り上げている冊子が届いていて。読んでみたら、『ユーザビリティの悪いウェブサイト』っていう書き出しで。ざっくり言うと『イン神山』がわかりにくい、って書いてあったんです。
―「イン神山」は西村さんの仕事ですよね。
そう。でも『ユーザビリティのあるウェブサイト』って、ページの構成の仕方と情報の使い方はどれも一緒になってしまう。結局、モニターのサイズによって、ほとんど統一されているんです。
僕らは知りたいことがあれば、多少わかりにくくても見ます。だから、ユーザビリティとかはあまり重視しすぎないで、自分たちのやりたいようにしたらいいんじゃないかなと思います。
―そのためには、見えない「読者」を想像するよりも、「自分たち」が今後どうしたいか、ということのほうが大切なのかもしれませんね。とくに日本仕事百貨の場合は、アクセス数を増やすことだけを目的にしないようにしています。
もしかしたら、逆インタビューになっちゃうかもしれないけど、ケンタさんが自分たちだけで書くんじゃなくて、コントリビューターを入れる状況をつくろうと思った理由はなに?
―自分ひとりではじめたころから、少しずつですけどスタッフが増えているんですね。そこで感じてきたのが、ぼくの目線だけの文章だったら面白くないということ。
「ほかのエディターだったらここをこうやって書くのか!」ということが発見できて、とても面白いんです。今回、いろいろな人に参加してもらいたいと考えたのも、そんな新しい視点を入れたいと思ったからなんです。もちろん誰でもいいというわけじゃないんですけどね。心を許せるというか、僕らの根っこに共感してくれている人とやりたいと思っています。
仕事百貨で働いている人は基本的に全員取材に行って記事を書いているので、ぼくはよく言われるんですよ。ケンタはまだ取材に行っているのか、って。(笑) 経営者なんだから現場を離れるのが一般的なんでしょうけど。でも、ぼくは行きたくて行っている。
いろんな人に会えるし。
―そう。ぼく自身もやりたいし。それと同じように、ぼくらを待ってくれている人たちのところにもいろいろな人が取材に行ったほうが、多様性に富んだ日本仕事百貨になって面白いんじゃないかな、と思います。
ケンタさんが書いているのは違和感ないし、書いていることが一種の健全さになっていると思うな。
―ありがとうございます。「コントリビューター」として、最初の取材、最初の文章。どうぞ、よろしくお願いします。
世の中には、まだ見ぬおもしろい仕事や楽しい仕事がたくさんあります。日本仕事百貨が一度に紹介できる数は多くないかもしれませんが、これからもぼくらは地道に足を運び、目で捉え、耳を傾け、その会社の持つ雰囲気を言葉を紡いで紹介していきます。
ありのまま。大変なことだって聞くし、楽しいことももちろん聞く。それを全部含めた上で記事に載せていきます。そうしないと企業と人とのマッチングがうまくいかないと思うから。
生きるように働く人の仕事探し、というコンセプトはぶらさないまま、このサイトに共感してくださっているコントリビューターに関わっていただいて、よりよいものをつくっていきたいと思います。
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日本仕事百貨のエディターとは別に、コントリビューターのみなさんが求人記事を担当することができます。
一人ひとり、いろいろな仕事をしている方々です。それぞれの視点を交えながら、仕事を伝えていきます。