仕事百貨の編集って?(前編)

日本仕事百貨の編集は、まず人の話を聞くところからはじまります。

とはいえ、「こう聞くべし!」という明確なノウハウやマニュアルはもうけていません。質問の仕方、間合いの置き方は、編集者一人ひとりの個性が出るところでもあります。

そのニュアンスを言葉で説明するのはなかなか難しい。そこで普段「話を聞く」ことを仕事にしているふたりに、「いつもどういうふうに聞いているの?」と尋ねてみました。

応えてくれたのは、日本仕事百貨の編集者の稲本くんと、場の編集者という肩書きで、毎晩いろんなゲストを迎えるトークイベント「しごとバー」の司会をしている今井さんです。

今井:稲本さんは、取材で気をつけていることってありますか?

稲本:僕は、話を聞くことが好きなんです。傾聴というか、相手の話したいことを話してもらえたらいいなという気持ちで取材をしていて。相手の声のトーンや様子から、この人は何を感じながら話しているんだろうっていうことを気にかけるようにしています。

今井:私は、今でこそ結構落ち着いたんですけど、無言の時間は不安というか、空白を埋めなきゃいけない…!っていう恐怖心みたいなものがあるんですよね。だから、ずっと質問をしちゃう。相槌とかも過剰なところがあって、高校のころとか授業中もすごい「うんうん」って頷いていた。

稲本:いい生徒ではありますよね。

今井:最近は「私は聞くのが仕事だから、話さなくてもいいんだ」って、静かに待てるようになってきました。一方でこの仕事ではしゃべることを求められるときもあるので、あえて変なことを言おうと思うこともあります。

稲本:変なこと?

今井:イベントだと特に、「えー、それって実際どうなんですか?」「それってどういう意味ですか?」って、素人代表の気持ちで質問したりとか。「地域おこし協力隊」とかそれぞれのジャンルの専門用語は、その人たちにとっては馴染みのあるキーワードだけど知らない人も多いから。

稲本:しごとバーはいろんなお客さんが来るから、知らないお客さんもいるっていう前提で、今井さんは話を聞いている。それって、編集者が読者目線で記事を書くっていうのにも似ているかもしれない。

今井:実際は、単純に私が知らないだけっていうこともあるんですけど(笑)。稲本さんは、自分が「知らない」っていうことが恥ずかしい、って思いはあるんですか?

稲本:割とわかんないことは聞いていますよ。こっちが気兼ねするほど、話している人は気にしてないことも多くて。

今井:じゃあ、たとえば取材先の会社で「この社長さんワンマン系だな」と感じたときって、言ったりします?

稲本:「普段もこんな雰囲気なんですか?」みたいな…? 僕は直接その社長には言えないかなあ。

今井:私は触れられたくなさそうなことも、あえて本人がいるときに言っちゃうかも。ちょっと冗談っぽいテンションで「実際どうなんですか〜?」って。もしかしたらやりすぎていることもあるかもしれないけど、第三者じゃないと言えないこともあるから。

稲本:たしかに、イベントで今井さんが話しているのを聞いていても、「ぶっ込んでるな」って、思うことはある。それがすごく自然で、僕はうらやましい。

今井:私は感じたことを率直に言っちゃうタイプだけど、稲本さんは、透明になって寄り添うタイプですよね。「わかりますよ」って。私には真似できないな。

稲本:僕も今井さんみたいにはできないですよ。今井さんって今こうやって話していても、イベントのときと変わらないですよね。質問する相手に興味を持っているんだなって伝わってくるというか。

今井:稲本さんは、こういう取材っぽい場面になるとスイッチが入りますよね。声がいつもと違う。いつも小さいけど、今は普通に聞こえるもん、声(笑)。

稲本:…。いかに僕が、普段のコミュニケーションにおいて手を抜いているかっていうことですね(笑)。

私たちが、毎日当たり前のように行なっている「話を聞く」ということ。

自分の感想や質問を素直に伝えて、また反応があって… キャッチボールのように話を聞く人もいれば、相手のペースにまかせてじっくり身を委ねる人もいる。

そういえば、自分はどんなふうに話を聞いているんだろう? 少し客観的になって、あらためて考えてみても面白いかもしれません。

ゼミでは、まず「聞く」ことに取り組みます。

イメージどおりに聞けなかったり、新たな発見があったり。普段あまり意識しないからこそ、思ってもみなかった気づきや学びに出会えると思います。

(聞き書き:高橋佑香子)