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「服だけ売ろうとしても売れないんだ。服の後ろにはいつも、石見銀山で営むわたしたちの暮らしがある。そして生業は、その証のためにあるんだ。」石見銀山を訪れたときに聞いたこの言葉は、印象深く心に残っています。
もしも、「仕事」を「生業」にしたいと思う人がいたら、ぜひ続きを読んでください。きっとヒントがあると思います。
日本最大の銀山、石見銀山のふもとに、大吉さんと登美さんという夫婦が2人ではじめた「群言堂(ぐんげんどう)」というブランドがあります。素材や製法にこだわった服づくりと販売をしているお店です。
今回は、全国24店舗の直営店から、服を通して石見銀山の生き方を伝えていく販売スタッフと、石見銀山の本社で働くパタンナーを募集します。
群言堂で売っている服はすべてオリジナルデザイン。どれも天然素材を用いて、肌触りや色合いを大事にしながらつくられている。
最新の高速織機ではなくあえて古い織機を使い、その空気まで織るように紡がれた服たち。羽織ってみると、分厚くみえるものもふわっと軽い。肩や背中が楽になる。
中国の古書のなかには『服薬』という言葉があって、『衣服は大薬なり』と書かれているそうだ。大吉さんと登美さんは、その言葉を知る前からずっと、わたしたちの服は体を楽に心を元気にする、と言い続けてきた。
もともと服飾を勉強してきたわけじゃない。流通を熟知していたわけじゃない。かといって、思いつきではじめたビジネスでもない。
いちばん最初にあったのは、「こんな風に生きていきたい」という暮らしのイメージだった。そのイメージの中で、どんな服装で過ごしたら気持ちがいいだろう?と発想を広げた先に、「群言堂」というブランドができていった。
25年の歳月をかけて少しずつ、店舗は全国へと広がり、東京には今7店舗ある。
話を伺うため、西荻窪に2年前にオープンした「Re:gendo(りげんどう)」へ伺った。
ここは、大吉さんが「東京でうちの雰囲気を味わうなら一番」と言うイチオシの店舗。
石見銀山の大工、職人さんたちが勢揃いでやってきて、古民家を改装してつくった建物のなかには、服と雑貨を売るショップと食事を楽しめるレストランが併設されている。
店に入ると、統括部長の福里さんが迎えてくれた。
福里さんは、東京を拠点に店舗開拓などを担っている。まっすぐ目を見て、まっすぐな声で話す方。ゆったりと落ち着いた口調が、少し大吉さんと似ている。
前職は、百貨店のマネージャーだった。あるとき、群言堂を導入することになり、大吉さんと話をするようになる。
そのうちに「この人とだったら、あとの人生半分、違う生き方ができるんじゃないか」と思うようになった。そして、会社を辞めて石見銀山へ行ってしまったそうだ。
「夫婦2人で、石見銀山という場所で、自分たちの暮らしとものづくりを続けてきた。そこには、物真似でもなんでもない、真実の世界があると思っている。うちの商品には一点一点に想いが詰まっているから、それを我々が全国のお客さんに代弁し伝えていかなければ。ただ物を売るだけの仕事ではないんだよな。」
だからこそ、そこで働く”人”がなによりも大切だと、福里さんは考えている。
ここで、2人のスタッフの方を紹介していただいた。
1人は、普段は「そごう千葉店」で店長をしている進藤さん。進藤さんは、前回の仕事百貨の求人を見て、今年5月に入社した。
半年で店長になったというから、接客のエキスパートを想像していたのだけれど、前職は事務職だったそうだ。
どうして群言堂で働くことになったのだろう。
「わたしは、もともと西洋に興味があって、パリに留学していたんです。でも、いざ向こうで生活をしてみると、日本のことを聞かれても全然答えられなくて。自分は日本のことを知らないのかも、と思いはじめました。」
生活用品や洋服など、使いづらいと感じることもあった。今まで当たり前に思っていた日本の製品の良さに、改めて気がついた。
「海外に行って、逆に日本のことをもっと知りたいと、興味のスイッチが切り替わったんです。」
日本に戻り、働きながら仕事を探していたところ、群言堂の求人を見つけた。ここで働きたい!とすぐにエントリーし、面接を経て働くことになった。
働いてみて、どうですか?
「お客様に、いいところで働けて良かったわね、と言っていただけるんです。素敵なものに囲まれて幸せねって。目の保養に来たわ、とお店に遊びにきてくれるお客様もいます。そういう気持ちにさせてもらえる場所にわたしも参加できているというのは嬉しいですね。」
大変だと感じることはありますか?
「入ってすぐ、いちばんびっくりしたのが、洋服にそれぞれ草花の名前がついていたりすることです。名前をはじめ、全ての服にひとつひとつこだわりがあるので、素材の特性やお手入れ方法を覚えるのは、大変なことかもしれません。」
同じ素材でも、色違いや形違いがある。柄や縫い方にも工夫がある。
たとえば、定番商品のひとつに、「マンガン絣」という新潟県に伝わる伝統の染色方法でつくられたものがある。
今では全国でたった一軒でしかつくられていない希少な技術で、お客さんに「今年はどんな柄?」とよく聞かれる人気商品でもある。
今年のデザインは、遠目からみるとシンプルだけれど、よくみると左右違う柄が染められていて、表情の違いが楽しめる。
そんな風に、素材からデザイン、製造までさかのぼっていくと、いくらでも伝えられることは見つかる。
「でも、最初から全部完璧に覚えなきゃ!と思わなくても大丈夫だと思います。わたしも、まず人気商品や定番商品を教えてもらって、細かい部分は日々の仕事のなかで覚えていっているところです。お客様の方が詳しいことも多いので、逆に教えていただくこともあるんですよ。」
次に、楽しいことも聞いてみた。
「お客様とお話するのももちろん楽しいですが、一緒に働く人も色々なところから集まっているから面白いです。年代も、わたしと同世代からお孫さんのいる年配の方まで様々だし、前は全然違う道を歩んでいたという方も多いです。そうした方々と同じフィールドで働けるのは、刺激になります。」
続けて、こんな話をしてくれた。
「群言堂って、名前や雰囲気からして、年配の方のブランドかも、と思う方もいるかもしれません。でも、若い人にとっても、発見があったり面白いものが詰まっているところだと思います。」
「たとえば、わたし、今までいつもマグカップを使っていて、湯のみを使ったことがほとんどなかったんです。ここで働くようになって、茶瓶とか器とか、今まで馴染みのなかったものに触れる機会が増えました。」
それは、日本のものやものづくりをもっと知りたいと思っている進藤さんにとって貴重な体験になっている。
「古いというよりも、逆に新しいんですよね。おばあちゃんには懐かしく、わたしたちにとっては新しい。そんな風にいい感じに交差するのではないかなと思っています。もしも応募を考えている人は、近くにお店があったら覗いてみてほしいです。きっと、イメージが変わると思います。」
もうひとり、紹介したい人がいます。8月からここ、Re:gendoの店長を務めている大池さんです。
もともと飲食店のキッチンで働いていたという大池さん。友人づてに群言堂のことを知り、興味を持ちはじめた。
「群言堂の著書に、『群言堂の根のある暮らし』という本があるのですが、そこに、これから食についてもやっていきたいと書かれていて。それを読んで、ここで働きたいです、と手紙を書いて送ったんです。」
その後、電話がきて働くことに。とはいえ、飲食ではなく接客スタッフとしての採用だった。
接客業には苦手意識があったという大池さん。
アパレルというと、売り上げ目標やノルマがあるイメージだったけれど、働いてみたら、そういうのは一切なかったのだそう。
「わたしたちがいちばん大切にしているのは、お店の空間と空気なんです。」
空間と空気。
「はい。売り上げが下がったということでは怒られないのですが、お店に飾った花が枯れていたり、埃がたまっていたり、そういったしつらえがちゃんとできていないと、注意されてしまいます。」
群言堂の店舗には、季節の草花が生けてあったり、骨董や暮らしの道具が飾られていたり、水槽にメダカが泳いでいたりと、それぞれお客さんに空間を味わってもらうための工夫がある。
その空間を美しく維持するのも、スタッフの大事な仕事。
「いつも”マイ雑巾”を持って、水拭きで雑巾がけをしています。花などの生ものも、萎れてしまったらすぐに新しいものを生けます。そんなふうに、いつも空気を綺麗に保つように心がけているんです。」
隣で話を聞いていた福里さんが口を開く。
「”空気が淀む”という言い方があるでしょう。店員が暇を持て余して雑談しているような店は、間違いなく空気が淀んでいる。うちでは、なるべく暇があれば掃除をするように伝えています。常に新鮮な空気が動いているお店には、お客様が入ってくる。空気というのを、人は感じるものなんだよ。」
わざわざお店に足を運んでもらうからこそ、伝わるものがある。そのために、まずはどこにも負けない空間をこしらえてお迎えすること。
そのやり方は、十人十色かもしれない。例えば、笑顔が素敵というのもひとつ。細かい気配りというのもひとつ。空気や空間は、人がつくっていくもの。
「うちはとくに決まったマニュアルなどはないんです。だから、それまでかっちりした会社で働いてきた人にとっては、戸惑うこともあるかもしれません。でも、逆に考えれば自由ということだと思うんです。ゆくゆくは、自分がこうしたいなと思う企画も、できる可能性があると思います。」と、大池さん。
最後に、福里さんに、どんな人にきてほしいか聞いてみた。
「真剣な子!不器用でも下手くそでも何でもいい。手を抜かないで、コツコツやる子。そうじゃなかったら、なに面倒なことやってるの?って思うかもしれない。だけど、我々のやっていることを理解してもらえたら、こんなに素晴らしいことはないよね。」
「真剣に立ち向かってきてくれれば、こちらも真剣に活躍できる場を用意するつもりでいますから。人生において意味のある職場を提供したいと思ってる。」
福里さん自身も、群言堂に出会って人生が変わったひとり。ただ物を売るだけではない仕事だからこそ、そこに自分の生活や人生が重なってくるのかもしれない。
もしも、群言堂と、自分のなかの何かが重なりそうだと思った人は、ここで働くことを考えてみてください。近くにお店があるならば、一度訪ねてみてほしいです。
(2013/12/9 笠原ナナコ)