求人 NEW

石の屋根を葺く

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

自然からいただいたものを自然へ還す。

そうした循環は、エコと言われるずっと前から、当たり前に存在していた。

今は、環境に負荷をかけずにものづくりをすることが、ずいぶん難しくなってしまったけれど。

kmagai1 昔ながらの手法で、自然のサイクルを生かしながら屋根をつくっている会社があります。

茅葺き屋根、天然スレート葺き屋根を専門に、文化財から新築まで全国の建造物を手がけている熊谷産業です。

今回募集するのは、天然の堆積岩である「天然スレート」で屋根を葺く職人さん。そして、経理・総務・広報を務める経理管理本部スタッフです。

イギリスを開拓した古代ローマ人によってはじまったとされる天然スレート葺き。

この技術が日本へ伝わってきたのは、明治時代のこと。

東京駅の丸の内駅舎をはじめ、北海道庁旧本庁舎、法務省旧本館など、明治・大正期に建てられた洋風建築の屋根材として広まりました。

kumagai2 この技術を受け継ぎながら、未来に発展していく人を求めています。

職場は屋根の上。晴れの日は仕事、雨が降ったら休みのお天気仕事。

もしかして、この仕事をはじめたら、今までと180度生活が変わるという人もいるのかもしれません。

まずはどんな仕事なのか、イメージしてみてほしいと思います。

kuma3 仙台駅からバスに乗り、石巻市北上地区へ。やがて追波湾に注ぐ北上川のほとりに出る。

車窓からは、瓦屋根とはまた違う表情の、鱗のように黒い石を重ねた屋根が多く見られる。実は、これが天然スレートの屋根。

岩手から宮城にまたがる三陸沿岸は、かつて、日本で唯一天然スレートの原料である堆積岩が採れる場所だった。

「今から130年前に、ベックマンというお雇い技術者がドイツからやってきて、左官、屋根職人など、建築分野の優秀な人をドイツへ連れていったの。スレートは、そのとき、篠崎源次郎という人が習得して帰ってきた。屋根の材料がとれる場所を日本で探して、江戸から硯(すずり)の産地だった雄勝と、鉱山が栄えていた登米に行き着いたんだよね。」

熊谷産業の社長である熊谷さんが、そう教えてくれる。

熊谷産業は、登米のとなり石巻の、北上川河口付近にある。

SONY DSC 本社は、屋根ではなく壁に茅葺きを施したモダンなデザイン。天然スレートの瓦模様もあしらわれている。

一面新緑の水田で囲まれたこの景色からは想像しがたいけれど、ここは3年前の東日本大震災の際に、大きな被害を被った地域。

ひとつの集落がほぼ丸ごと流されてしまった。熊谷産業の会社も倉庫も、すべて失った。

けれど熊谷さんは、同じ場所にまた会社を建てた。

また津波がきたらどうする?という声もあったけれど、壊れたらまた建て直して、何度でもこの場所でやりなおせばいいと思っている。

「自然に勝つなんて思ってないですから。」と熊谷さん。

「屋根職人は、雨が降ったら休みの、百姓みたいな仕事です。自然には敵わないですよね。」

SONY DSC 自然の素晴らしさだけではなく、怖さもちゃんと知っている。だからこそ隣り合わせに生きられる。

「僕は、山と川に囲まれた石巻で育って、あまり学校にも行かず、犬2匹をつれて、山のなかで魚を釣ったり山菜をとったりして過ごしてきたんです。魚捕るには、風みて凪みて。大事なことは、ぜんぶ自然に教えてもらいました。」

風が吹けば葉が落ちる。虫が死んで土に還る。

そんな自然のサイクルを当たり前に感じながら育った熊谷さんにとって、いまの世の中に流通しているものの多くは、不自然に感じられる。

「大企業がエコというキャッチフレーズでやっていることは、実はエコじゃない。石油を使って人工的に建材をつくっている。僕らは、スレートは砕石して挽けば土に還る。茅は堆肥になる。環境に負荷をかけないんですよね。」

いま、熊谷さんは会社から少し離れた場所に、資材や道具を置く倉庫を建設している。

その建物に使われる木材の一部は、自分たちで切り、馬に乗せて運び出しているそうだ。

トラックを使わないことで、無駄に山を破壊せず、CO2の排出を防ぐことができる。

それから、茅葺き屋根の原料となる茅の雑穀と、家畜の糞尿を混ぜ合わせ、発生したメタンガスをエネルギーに変えることができないか?ということも思案している。

SONY DSC 「小さくてもいいから、自分たちで循環させていきたいなって。そういう考え方や技術を発信する方法を、ずっと考えているんです。」

天然スレートも、熊谷さんの提案する小さな循環のひとつ。

震災で、多くの石の屋根の家が流され、雄勝の採石場と石切り場も閉鎖されてしまった。

石が枯渇したわけではないけれど、需要の減少とともに採掘する人がいなくなり、ついに国内で石が採れる場所はひとつもなくなってしまった。

今は、スペインやカナダから石を仕入れながら、天然スレート葺きを続けている。

スレートの需要を増やし、日本産のスレートを復活させることが、熊谷産業の目標。

震災後には、工学院大学と協同で、仮説ではなく恒久住宅としての「復興住宅」を建設した。その屋根も、天然スレート葺きでできている。

kumagai7 スレートの屋根には、伝統だけではなく、現代の建築や街並みに合った特性もたくさんある。

たとえば、土に還る素材であること。防火性、防水性、耐霜性に優れていること。それから、瓦や新建材には出せない表情。

「やがては民間のお客さんを開拓して、新しいスレートの使い方を提案していきたいんです。地元にある素材、地元にある技術を使って、全国に発信していきたい。」

職人は、その大事な役目を担う存在だと思う。

職人さんにも話を聞いてみた。

まず最初に話を伺ったのは、ベテラン職人の岡崎さん。

kumagai8 岡崎さんは、お父さんの仕事を継いで屋根の仕事をはじめた。いままでに、全国各地の様々な屋根を手がけてきた。

「バブル前は、ゴルフ場とか新築の屋根をけっこうやったけれど、いまは、明治後半から大正はじめにかけて建てられた文化財の修復が主な仕事かな。」

完成された姿からはイメージしにくいけれど、実際にどうやって屋根を葺いていくのだろう。

「新築の場合は、だいたい設計段階の屋根の形を見て、サイズや枚数を決める。ただ、スレートそのものを知る設計者はあまりいないもんだから、職人同士で相談して設定していくことが多いんだね。」

石の形、サイズ、重なる部分のサイズ、面ごとに並べる枚数を順に決めていく。

それが決まれば、次は石の加工。大きな板状のスレートを、手作業で切り出していく。

角を落として丸くすることもあれば、三角や四角もある。「釘止め」の場合は、ドリルで釘穴を空ける。

これはとても地道な作業で、ときには何週間も同じ作業が続くこともある。

加工が終わると、その石を現地へ持っていき、屋根に印をつけて並べていく。

kuma4 施工方法は2つ。「釘止め」と、針金のような金属にスレートをひっかける「フック工法」がある。行程はちがうけれど、仕上がりは同じように見えるそうだ。

「文化財はだいたい同じ造りだから、それをマスターすればあとはだいたいできる。でも、屋根の形によっては、作業は難しくなるね。屋根そのものに合わせていく感じかな。まぁ、やってみないと分かんないけどね。」

一人前になるまで、どのくらいかかりますか?

「うーん。それは自分で感じることなのであって…。わたしは意識したことなかったなぁ。とにかく屋根上がって、職人と一緒に屋根葺いて、そのうち自然に一人前になった。」

「仕事に一生懸命、真面目にぶつかっていくしかない。そうすれば初めて、仕事そのものに仕事を教えられるっていうかね。そんな瞬間がくるんだね。」

kumagai9 岡崎さんは、どんな人と一緒に働きたいですか?

「昔、石巻の裁判所も天然スレートだったの。なんかね、落ち着きながらも、洋風な建物で。魅力、あるんだなぁ。どう表現したらいいのかね。ほかの屋根材ではちょっと見られないような感じ。」

「天然スレートの魅力は、眺めてみて感じるものだから。一度見てみれば、やってみたい人も出てくると思う。とにかく、そういう古いものに惹かれている人がいい。好きじゃないと、ものは長持ちしないからね。」

スタッフの竹嶋さんも、もともと古いもの、昔ながらのものに惹かれていたひとり。

こちらの質問に、意味を確かめながら、ひとつひとつ真剣に答えてくれる。

たぶん、仕事に対してもそうなのかもしれない。熊谷さんが、右腕のような存在だと言っていた。

SONY DSC 出身は愛知の岡崎市。福井の大学を卒業後、世界を旅し、その後はプロの書家として活動していた。

熊谷さんとは、3年前の6月に、アラブ首長国連邦で出会った。その縁で、去年9月から熊谷産業の仕事を手伝うことになった。

「本社を見たとき、壁が茅葺きで、びっくりしました。歴史が培ってきたものを、続けるだけじゃなくて、新しい手法でやっていく。そこに惹かれるというか、共感するところがあって。」

竹嶋さんにも聞いてみた。どんな人と働きたいですか?

「自分の言葉、やることに責任を持っている人。そういう人って素直だったりするんですよね。言い訳せずにごめんなさいとか。分からなかったら上司に聞くとか。」

熊谷さんはよく、「仕事は段取りと気配りだ」と言うそうだ。

ひとりでつくるんじゃない。現場監督がいて、棟梁がいて、いつまでにやる、という期限がある。

作業の流れに応じて、今日やる仕事を段取りしながら進めていくこと。そして、みんなが気持ちよく仕事できるように気を配ること。

kumagai10 当たり前のようで、難しいことかもしれない。

でも、まずは続いてきたやり方に、素直にならってみることだと思う。そこからだんだん、自分なりの感覚が掴めてくる。

最後に、熊谷さん。

「スレートも茅葺きも、日本では古いイメージがあるかもしれないけど、海外に目を向けてみると、もっと自由な発想で活用されてるんだよね。たとえば、南アフリカでは空港が茅葺きだったり、オランダでは消防署が茅葺きだったり。需要が減っていくなんて思ってない。むしろ、増えたら大変だなって思ってます。」

kumagai11 自然を支配しようとしたり、抗うのではなく、自然とともに活かしあいながら生きていく。

手を動かしながら、そうした新しい可能性についても一緒に考えてみてほしいです。

(2014/8/5 笠原ナナコ)