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空き家まちづくり

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

日本全国を巡り、決まって話にあがるテーマがあります。

「空き家」です。

地方に移住したい。でも空き家はあっても「借りられる物件」が見つからない。

一方、東京や大阪といった大都市でも、空室は目立ちつつあります。

日本全国で見ると、約800万戸の空き家があると言われます。今後は人口減少が進むなか、空き家も増加の一途をたどります。2050年には55%が空き家になるという予想も。

そんな空き家を活用して、定住・移住をすすめるコーディネーターの募集です。

舞台は、人口2万人弱の三重県尾鷲市。名古屋から車で2時間ほどの場所です。

人口の約8割が住む市街地は、端から端まで歩いて20分ほど。その中に生活に必要な機能が集約されています。

1 仕事は大きくわけて2つ。

移住を考えている人が利用する空き家バンクや、そこでの暮らしと仕事をイメージできるWEBの充実。

写真と文章で物件を紹介しつつ、リノベーションやDIYといった住まい方、そして仕事の提案もしていきます。

もう一つは、この地域に生まれ育った子どもたちが、将来もここで暮らしていきたい。将来的には教育とも連携しつつ、そう思ってもらえる地域を描いていきたいと考えています。

尾鷲市は市街地のほかにも7つの浦があり、それぞれに港町があります。

「尾鷲で空き家に取り組むことは自ずと、暮らしと仕事のコーディネートにつながるんです。」

そう話すのは、本プロジェクトを手がける尾鷲市役所の柳田さん。

2 尾鷲に生まれ育ち、このまちに何かしたいと思い市役所へ。現在は人づくり支援係として働いています。

今回のプロジェクトについて、思いだけでなく、全国の事例のリサーチにも力を入れている方だと思います。

今回の空き家プロジェクトについてうかがいます。

「日本全国の地方都市が過疎化するなか、移住促進の一貫として、空き家バンクに取り組む自治体はあります。でも実際に機能しているのは、右手の数ほど。尾鷲は、空き家活用の一番を目指したいんです。」

土地と物件の組み合わせにより、色々な選択肢が考えられるという。

「たとえば、港町には、かつての漁業の繁栄がしのばれる装飾の立派な日本家屋。傷みはあるけれど、原状回復が不要なセルフリノベーション向きの家もあります。市街地には、コミュニティスペースやシェアオフィス向きの旧映画館や銭湯もあります。」

3 まずは、WEBでの紹介を行っていきたい。

「読んだ人に、暮らしを想像してもらえるものにしたいんです。写真撮影も、三脚を立てて丁寧に行っていきます。賃料や間取りといった物件情報に留まらず、地域にはどんな人が住んでいるのか。どんな暮らしができるのか。自ら現地を訪ね歩き、文章で紹介してほしいんです。」

たとえば、僕が取材した中でもこんな住まいがあった。

目の前が海の「窓から釣れる家」。それから、お隣のおばあちゃんからの「お裾分けがある暮らし」。

WEBサイトを見た方から問い合わせを受けると、打ち合わせや内見に赴きます。

「尾鷲市内には1,000軒の空き家があると予想されます。どんな暮らしをしたいのか。希望を聞きつつ、適した物件を提案していきたいですね。」

ここで、尾鷲市内の物件を訪ねてみます。

最初に訪ねたのは、約500人が暮らす九鬼(くき)町。

4 港町ならではの急な石段を上り現れたのは、建具や欄間の装飾が見事な日本家屋。

九鬼は寒ブリの名産地として栄えたまち。“ブリ御殿”が建てられたという。

「半漁半林のまちなので、自分の山から切り出した最高級の材を用いています。尾鷲らしいかっこよさがあると思います。お金さえ許せば、僕が住みたい(笑)。こうした物件は、そのままを住み継いでもらえたらと思います。」

5 建てられたのはいまから100年ほど前。

ガラスや梁からは積み重なった歳月が感じられつつ、建具の状態もよい。ここ10年ほどは空き家だったけれど、こまめに手入れされてきたことがうかがえる。

一方で、トイレや風呂といった水回りは改修されている。使い勝手もよさそう。

市報で空き家を募集したところ、連絡を受けたといいます。

「家は住まないと、どんどん傷んでいきます。よい人がいれば住んでほしい、と大家さんも協力的でした。」

一方で、素性のしれない人には貸したくない。そんな声も耳にします。

「時間が空いたときは訪ねたり、地域の祭りには顔を出して。関係を築く中で、地域の方から物件を紹介してもらうこともあると思います。」

6 九鬼町には、地域おこし協力隊の方がいます。そうした方と連携をとることも考えられます。

東京から移住したのは豊田さん。フランスでの留学中、農漁村の豊さに触れたことがきっかけとなり、日本仕事百貨を見て応募された方。

約500人が暮らす九鬼町ですが、現在は飲食店が一軒もありません。

協力隊の方も空き物件を活用することで、外から訪れる人、そして暮らす人が集える場をつくろうとしています。

続けて、市街地へと向かいます。

ふと、こんな疑問が浮かんでくる。

日本自体の人口が減少していく中で、全国の地域が移住促進に動いているけれど。人口減少は、ほんとうに課題なんだろうか?

移動の車中で、柳田さんに聞いてみる。

「僕は減少自体が問題ではないと思います。もちろん一つの自治体としての適正規模は、数字による試算も必要ですよ。ただ、もし100万人が住んでいるまちでも、全員その地域のことが嫌いならばしょうがない。逆に、30年後の尾鷲が1万人まで減っても、豊かに暮らせたらいいんじゃないか。そんな気がしています。」

「大事なのは、そこに暮らしたい人が住めること。僕はそのための体制を整えていきたいんです。」

市街地に到着。案内のもと、まちを歩きます。

中心部には、かつての映画館や銭湯といった大きな建物が見えてきます。

「移住は、急いでも仕方がありません。まずは週末、次は長期休暇。そうやってお互いに関係を深めていき、最後に移住する人が出てくれば。気軽に訪ねることのできる場を、つくっていきたいんです。」

7. 空き家を紹介するだけでなく、ほかにはどんな可能性があるだろう。

たとえば、シェアオフィスやシェアハウスを運営することだって考えられる。

また、コーディネーターの方には住まいだけでなく、仕事の紹介もしてほしいと考えている。

「行政の担当部署は、住まいと仕事で分かれているのが一般的です。けれど、地域の魅力の一つには、仕事と暮らしがつながっていることがあります。」

柳田さんはいま「後継ぎ」をキーワードに考えているという。

「今年、一軒のパン屋さんが廃業しました。学校給食から食べてきた尾鷲のソウルフードでした。経営面は成り立つけれど、後継ぎがいない中での決断だったようです。」

そこで考えていることがあるという。

「パン屋をやりたい人が家を住み継ぎ、仕事を受け継いでいけないか。パン屋の開業費用は機材だけでも1,000万円程度と言われます。機材は一式残っている上に、師匠になってもらうことで、技術も教われます。」

「いまははじめたいことがあっても、ハードルが高い。やりたいことが実現できるから尾鷲を選ぶ。そういう人を増やしていきたいんです。」

さらに柳田さんは、地元の中高生にも地域の魅力を伝えていきたいと話す。

「尾鷲高校の卒業生240人のうち、地元に残るのは24人。一割です。高校生と話すと、尾鷲の仕事と暮らしを知らないまま、なんとなく外へと流れていく学生が少なくない。尾鷲だからできることを伝えていきたいんです。」

8 今年に入り、柳田さんは尾鷲高校でのヒアリング事業をはじめています。

将来的には、コーディネーターの方にも連携をしてもらえたらと話す。

たとえば、高校の授業で地域にある仕事を紹介したり。

「ある人が話していたんですが『東京じゃなくて尾鷲で勝負せい』ってことだと思うんです。もちろん一度はこのまちを離れるのもいい。でも、やりたいことを実現していける雰囲気があれば。空き家を見つめると、仕事の再生、暮らしの再生、そして地域の再生。可能性は広がると思います。」

一緒に働く人に伝えたいことがあるという。

「色々な可能性を紹介させてもらいました。けれど、まずはやってくる方の自主性を尊重したいです。何か面白そうと思えば、連絡してみてほしいです。」

「それから、まずは自分が暮らして、ここを楽しむことからはじめてもらえたら。そう思います。」

活動を進めていく上では、仲間も必要になると思います。

今回訪ねたのは、弓削猛(ゆげたけし)さん。

尾鷲市の三木浦町で古民家をリノベーションして暮らしています。

9 インテリアデザイナーとして、ヨットのインテリアを中心に、日本、フロリダ、モナコなどで活躍してきました。

はじめて尾鷲を訪れたのは2005年のことだった。

「三木浦町で、多くの古民家が放置されていることを知ったんです。同時に、目の前の海で魚を釣ると、『捌いてあげようか』と漁師さんが声をかけてくれる。人に魅力を感じました。空き家を改装して、2011年から暮らしはじめました。」

今年の夏には、別の空き家をリノベーションして、一日一組限定のゲストハウスをオープンしました。

弓削さんはゲストハウス開業の理由をこう話します。

「古民家のなかには、放置されて荒れたものが少なくありません。移住を希望する人が現状を見ても、住むイメージが持ちにくい。そこで、暮らしのモデルハウスをつくったんです。リノベーションすることで、この家でできる暮らしを見せたいと思いました。」

今後についても考えていることがあるという。

「空き家は増え続けていきます。そのなかで、次々と古民家を再生させていきたい。ゲストハウスを買いたい人が現れたら、売却して次の物件再生に取りかかれますよね。」

リノベーションは、地元の人にも影響を与えたようだ。

「『うちにも古い空き家があるんだ』と声をかけてもらう機会が増えました。地元の人からすれば、冬は寒く、夏は暑い不便。一方で、そうした古民家に魅力を感じる人もいます。」

10 今後やってくるコーディネーターの方が紹介した不動産を設計していく。

そうした連携も考えられるとのこと。

ほかにも一緒に取り組める会社があると思います。

というのも、尾鷲はこれまでも日本仕事百貨で数多く取り上げてきた地域です。

天然成分による蜜蝋ワックスをつくっている小川耕太郎∞百合子社。尾鷲のお隣である紀伊長島には、Webやデザインを仕事にする株式会社ディーグリーン。未来の水産会社である尾鷲物産

何か一緒にできるかもしれません。

それは空き家をただ紹介するだけでなく、まちや暮らし、仕事、人、会社などをつなげて編集していくような仕事だと思います。

(2014/10/29 大越はじめ)