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「僕はいつも、子どもよりも、ここで働く職員が成長しながら楽しく働けることを考えています。だって、子どもは大人の姿を見て育つんですよ。すごくよく見ているし頭がいいんです。だから、大人が余裕を持って楽しく働いて、成長していく姿を見せることが、子どもにとってもいいと思うんです。」子どものことを第一に考える幼稚園は沢山あると思うのだけれど、この幼稚園は、まずは大人が楽しむことで子どもも楽しくなるような、そんな形を目指しています。

いわゆる「幼稚園の先生」を求めているわけではなくて、子どもの隣にどんな風に寄り添うのが一番いいか、どんな園にしていったらいいのか、常に考え続けていけるような人に来てほしいです。
幼稚園があるのは、北海道の南端にあるえりも岬から50kmほどの、浦河というまち。

札幌から高速バスも出ているけれど、おすすめはJR日高本線という列車で行くこと。
各駅停車だから少し時間はかかるけれど、右に海、左に馬と草原、という贅沢な景色が味わえる。途中の駅では地元の高校生たちが乗ってきたりもするから、なんとなく土地の空気も感じられる。
大きくて深い秋の空のなかをゆらゆら列車に揺られていくと、やがて浦河駅に到着する。

それから、日高支庁という道庁の出先機関があった関係で、昔から人の出入りが多かったことから、新しいものにあまり偏見がなく風通しが良い風土がある。体験移住をきっかけに、そのままここに住んでしまう人もいるそうだ。
「浦河フレンドようちえん」は、そんな町が見渡せる丘の上にある。

これから、園児たちを迎えにいく送迎バスに、一緒に乗せていただく。
送迎バスは、50分かけて浦河町内をぐるりと一周する。浦河町はとても広く、園児の家一軒一軒が離れているため、大抵それぞれの家の前にバスが停まる。

園につくと、さっそく広いホールで走り回る。跳ね回る。二階ほどの高さの登り棒にもするする登っていくから、見ているこちらは少しハラハラしてしまう。
「でも、最初に先生が横についていちから教えて、約束ごとをして、それを必ず守ってもらっているんですよ。先生も常に見ているし、危ないと思ったらすぐにとめます。危ないからだめ!と禁止するのは簡単なんですけど、思い切り遊んでもらうためにはどうしたらいいか考えたいんですよ。」と伊原さん。

なにしろ、元気な園児が60人もいる。ひとりひとりに向き合おうとすると、それなりに時間もかかると思う。
「だけど、僕が園長になってから、職員の負担はずいぶん減ったと思います。なぜなら、幼稚園のイベントやカリキュラムを減らしてしまったんです。英語の授業や土曜日のお預かりも辞めてしまいました。職員には、16時には帰ってもらえるようにしたいと思っています。」
それは、ご両親にしてみたら、一見マイナスの変化に思える。だけど実際には、働く職員たちが今まで以上に明るくなった。園児と接するときにも余裕が生まれて、ひとりひとりのことがもっと見えるようになった。
「さっき、バスに乗ってくる子どもたち、みんな楽しそうだったでしょう。幼稚園にくるのが好きっていう子、多いんですよ。その気持ちが一番大事ですよね。親御さんも、幼稚園に行きたくないと泣かれてしまうのが、なにより辛いし困ってしまうことだと思うんですよ。」
「あれもこれもやりたいとなると、優先順位を忘れてしまうんですよね。だから、常に一番大切なことはなんだったんだっけ?と確認しないと。」

その前は、アメリカのニューヨークで15年以上にわたってアーティストとして活動していた。専門はビデオアートがメインで、企業をスポンサーにつけてフリーランスで活動していたそうだ。
アーティストというと、ちょっと頑固だったり偏った考え方を持っているのかなと思っていたけれど、伊原さんは全然そんな感じじゃない。なんというか、全体が見渡せていて、とても落ち着いている印象がある。
「それはもしかしたら、6人兄弟の真ん中だからなのかもしれないですね。いつも兄弟喧嘩のとき、仲裁に入ったり、調整する立場でしたから。」と伊原さん。
もしかしたら、園長先生に向いている性格なのかもしれませんね。
「でも今、細かいことを言わないといけない立場に追い込まれている気がしていて。それが少し不本意というか、窮屈です。」
立場に追い込まれる?
「僕は上司だから、みんな無意識に、僕に指示してもらいたいという気持ちがあるんですよ。でも本当は、なにをすべきか、どうすべきか、自分で考えてほしいんです。これはビデオアートでもテーマにしていたことのひとつですが、僕はシステムとして自然発生していくものに興味があるんです。僕がこうしろといってその通りになることではなく、僕が想像しなかったようなことが起こっていくのが理想的です。」

「僕が求めているのは、ルールや制度がなによりも重要だと思う人ではなくて、どうしてなんだろう?だったらこうしてみたらどうだろう、と自分で考えて行動できる人です。」
伊原さんは、幼児教育を専門にやってきたわけではないから、自分自身の体験や相手の気持ちを計りながら、探り探りでここまで園をつくってきた。そこへ加わって一緒になって考えていけるような人に、来てほしいと思う。
4月からこの幼稚園で働きはじめた、あやか先生にも話を聞いてみる。
あやか先生は、幼稚園教諭の資格は持っていないのだけれど、子どもと関わる仕事がしたいと思っていたところ、この幼稚園の求人を見つけた。
3歳の息子さんがいて、息子さんは園児と一緒に毎朝園に通っている。

働いてみてどうですか?
「発表会に向けてピアニカをどう教えようとか、こういうときはどう伝えたらいいのかな、とか、毎日初めてのことばかりです。周りの先生も教えてくれるけど、それだけじゃなく目で盗んで覚えたり。衣装づくりはお母さんたちにも助けてもらっています。」
前は、自分の子どものことばかり考えていたのだけど、今は自分のクラスの子のことを、休みの日もずっと考えていたりすることもあるそうだ。
「クラスの子たちは、自分の子どもみたいな感じで、すごくかわいいです。疲れがとれないなと思うこともあるけど、子どもに会うと癒されてなくなってしまいます。」

ひとりひとりのことを見る時間はありますか?
「なかなか大変なのですが、心がけたいですよね。子どもって、遊ぼうと言われたとき後でねと答えてしまうと、もう誘ってこなくなるんですよ。たぶん、気を遣ってしまうんですね。でも、そういうとき応じることができると、ずっと覚えてくれたりとか、大好きになってくれるんです。」
先生に余裕が生まれることで、子どもへの接し方は変わるのだと思う。そして、ひとりひとりを見ていることが伝わると、ご両親にも信頼していただける。そして、それがなによりの教育でありサポートなのかな。
最後に、もうひとり紹介したい人がいます。3、4歳のめだか組の副担任をしているのぶえさんです。

「お掃除は、わたしの希望でしているの。お掃除ひとつにしても、ここに勤めているからこそやらせていただけることよ。だからありがたいという気持ちで毎日しています。」
のぶえさんはもともと、東京で幼稚園の先生をしていた。その後、神学校で学び、40年間牧師さんをしていた。早期退職して浦河へやってきたのは、6ヶ月前のこと。
「一度、浦河に来たことがあって、いつの日かまた来たいと思っていたのよ。わたし、都会の人でしょう。都会じゃないと住めないと思っていたけれど、今は森みたいなところに住んでいるの。娘と2人で。周りはしーんとしているから、毎日気兼ねなくエレクトーンの練習もできるのよ。」
こちらで仕事をするつもりはなかったのだけれど、ぐうぜん伊原さんと話す機会があり、この幼稚園で働くことになった。
働いてみてどうですか?
「勤務していて、すごく自由さがある。神学校では、好き嫌い言わないでやるという訓練だったの。でも、ここは自由で、とても新しいと思う。職員も新しいメンバーが多くて、みんな自分の仕事に全力投球よ。子どもの成長も早いけれど、先生たちもそうなの。」

「相撲をやったりね。あとね、すごく良かったのが、じゃがいも。この幼稚園は畑も持っているのだけれど、そこで採れた大きなじゃがいもを、トングで開いてそこに溶かしバターを入れて、みんなで食べたの。本当に楽しかった。」
ここでは、広い園庭や海や草原といった自然環境を生かした遊びや体験を重視しているから、それをより生かせるような体験を考えるのも、きっと歓迎されると思う。
いいですね、と言うと、「いらっしゃい、浦河に。」とのぶえさん。

その楽しみを自分で見つけたりつくったりしていける人が、この園と相性が良いのだと思う。
まずはぜひ、一度幼稚園を訪ねてみてください。先生たち自慢の芝生が見られるうちに。秋の北海道は空が広くて気持ちがいいです。
(2014/11/20 笠原ナナコ)