求人 NEW

老舗だから届けられる味

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

創業は嘉永3年(1850年)。現在まで営業している弁当屋では、日本最古の歴史を持っているのが、仕出し折詰弁当の「日本橋弁松(べんまつ)総本店」です。

つくり置きせずに、その日に売る弁当に盛りつける食材のすべてを、深夜から料理しています。

前回の募集(「160年の味を受け継ぐ」)と同じ製造スタッフに加えて、今回は百貨店での販売スタッフも募集します。

01

深夜1時すぎ。東京・江東区の永代工場では、銅製の玉子焼き鍋がカタン、カタンと小気味よい音をたてはじめる。別のフロアでは、濃い味付けでじっくり煮こまれる煮物のいい香りが漂っていた。

朝からの配達に向けて、黙々と作業にはげむスタッフたち。調理に携わるのはベテランよりも、30代から40代の中堅が目立つ。

明け方4時ごろからは、でき上がったおかずを経木(きょうぎ)の箱に詰めていく。

曜日や催しの有無、季節などによって異なるものの、製造する数は1日に1,000個以上。その内容は毎日少しずつ違いがある。

調理以外のスタッフでは、ベトナムやネパール、中国などからの留学生も多い。キビキビと20歳前後の若者たちが動き、活気のある雰囲気だ。

弁当を詰めるスタッフのなかに、日本仕事百貨の募集記事を読んで入社した高橋亮一さんの姿があった。

7月末に採用され、試用期間を経て2014年9月1日から正社員になった33歳。

02

「今日は深夜0時に来て、初めて玉子焼きを先輩の木村さんから習って焼く練習をしました。」

あの重たそうな鍋を振るのは大変だったでしょう。

「ええ。難しかったですね。全然、まだまだです。」

これまで、家では特に料理をやったことはなかったと言う。

前職は何をされていましたか。

「高校を卒業して14年間、メガネの加工業で働いていました。」

この仕事に慣れて1年くらいしたら、一緒に暮らしている女性と結婚を考えているそうだ。給与面も考えての転職だった。

現在の住まいは、永代橋の工場からすぐの東陽町。自転車で通勤している。

この仕事の一番のネックは夜の仕事ができるかどうか。不安はありませんでしたか?

「そうですね。最初はかなり不安でした。普段は夕方の5時か6時に寝ています。起床は11時半くらいです。」

睡眠はしっかりとれてるようで、よかったです。

ただ、いきなりこの時間に働くことはないそうだ。まずは夜のシフトに入れるかどうかを、徐々に見極めていく。

最初のうちは始発の電車で来てもらい、午後1時か2時までに上がるシフトを組む。だんだんと途中から週末は夜中から来てもらうようになり、最後の1週間は夜中から毎日来てもらう。

大丈夫そうなら、晴れて正社員になる。

高橋さんが弁松総本店に応募しようとしたきっかけは、なんでしたか?

「やっぱり、歴史があるところです。長い歴史を持っている会社に興味がありました。江戸文化に興味があったのも含め、なんでこんなに続くのかな、と。日本初の弁当というのも、やっぱりすごい。それに加えて、自分も料理をやってみたいという思いがあったという感じです。」

03

それまで、弁松のお弁当を食べたことは?

「面接の前に弁当を食べました。美味しかったですね、“濃ゆい”感じで。特に、メカジキの照り焼きが好きです。きんとんも、辛いガリの煮付けも美味しかったです。たこ飯も食べてほしいですね。」

休憩は自分でタイミングをみてとるという職場。衛生面に徹底して配慮した仕事着は、いったん着こんでしまうと脱ぎ着するのも大変だ。

「作業が終わって、クルマで配達してから、ご飯を食べます。まかない料理は、弁当とは別のものです。3階のお惣菜担当の方たちがつくってくれます。」

配達もあるし、身体が丈夫な人でないと厳しい仕事かもしれない。

04

高橋さんの趣味は読書。

「ただ、前は小説を読んでいましたが、この会社に入ってから読めてないです。」

これから入社を考えている人に、どうぞひと言。

「創業して160年という会社ですが、想像していたよりは厳しくはないので大丈夫です。昔はスゴかったらしいですけどね。今は優しい先輩たちが多いです。」

朝8時半。弁当を積み込んで配達する時間だ。着いたのは日本橋三越地下にある、弁松総本店の売り場だ。

05

開店前の忙しい時間帯。売り場ではテキパキと準備が整っていく。

限られたスペースにふたり、人が入れ替わるタイミングでは3人立つというのが基本だ。ひとりの仕事に見えがちだが、チームワークが必須の職場だろう。

お客さんが来る前にやることがたくさんある。高橋さんが届けた100〜150個の弁当を綺麗に並べるほか、ショーケース内のお惣菜を売りやすいよう、小分けのパックに取り分けたり、レジの釣り銭を用意したりする。

06

開店30分前の9時半には、売り場全体の朝礼もある。

売り場で話をうかがったのは、副店長の畑 美樹さん。日本橋三越の売り場に入ったのは今年の4月からだが、弁松総本店の弁当を販売して13年を経験するベテランスタッフだ。

09

弁松総本店の直営売り場があるのは現在、都内に5店舗。日本橋三越のほか、日本橋髙島屋、銀座三越、東京駅の大丸、そして新宿の伊勢丹。

配属がどこになるかは入社時に決まっていないが、いったん配属されたら1店舗に数年は勤めることになるだろう。

この仕事の大変なところと、やりがいはどこでしょうか?

「うちのお店は老舗なので、代々つながっている常連のお客さまが多いです。そういったお客さまたちと対話しながら、販売するのが楽しいです。店頭販売は、なんといっても会話が大切。私たちも楽しみながら販売させていただいています。」

07

畑さんは以前、日本橋髙島屋の店長をつとめていた。歴史ある日本橋界隈のことはよく知っている。

「ほとんどのお客さまが、この辺りの方です。広島や九州の方が『帰りの電車で食べるんですよ』と買っていかれることもありますね。地方に送りたいという声もいただきますが、うちは当日販売なので、それはお断りしなくてはいけません。」

今後は「真空パック」のような技術革新も会社では検討しているようだが、実験の結果、風味が少し変わることがわかった。

160年の伝統を持つ味つけは、これからも変えないそうだ。

「私たち販売員もスゴいと思います。薄味が主流になっているなか、味を変えないというのは。」

そんな畑さん、メニューのおすすめベスト3は?

「そうですね。いろいろあるのですが、並六弁当だといろんな味を楽しめますよ。一段のお弁当では豆きんとんが入りませんので。弁松の味を知っていただくという意味で、おすすめしやすいのはこちらです。」

08

「おすすめのメニューということなら、朝から焼いているメカジキ、手焼きした玉子焼きですね。」

「珍しいところでは『八つ頭(やつがしら)』、普通はお正月にしか出ない食材ですが、ここでは1年を通してあります。あとは『つとぶ』、生麩のことです。これもなかなかないですね。」

おすすめはベスト3に収まりきらない。

この売り場で、大変なところはどこでしょう。

「お弁当を持っていったり、取りに行ったりということがあります。」

というと?

「あるお店で弁当が売れ切れそうになったりすると、他店から弁当を移動するんです。だから他の店舗との状況が分かるように、日頃からの情報交換が欠かせないんです。」

新しく来る販売スタッフの方に、アドバイスをお願いします。

「常連の方が多いので、新しい顔があると『いつもの人はいないの?』と言われることもあります。だから、お客さまとのコミュニケーションが早くとれることを一番の目標にしてほしいです。」

10

「対面販売をしていると、お客さまのうれしい話もあれば、ご病気の話などを聞いてほしい方もいらっしゃいます。そういう会話ができるからこそ、店頭販売を選んでくださるのだと思っています。」

最後に社長の樋口純一さん。

11

どんな人に来てほしいですか?

「工場の製造スタッフの仕事は夜中からです。土日は弁当屋にとっては稼ぎどきなので、世間に合わせて休めません。生活リズムが狂ってしまうと厳しい仕事ですが、やりがいを見出そうとする人に必ず共感してもらえる職場なので、まずは、やる気のある人に来てほしいですね。」

食に関しては素人でも構わないという。その代わり、単純作業でも向上心を持って仕事してほしいということだ。

「食でも、江戸の文化でも、この仕事を通じて何かに興味を持てるかどうかが大事です。お金のために淡々とこなす人は続かないのは、これまでの例でありましたから。」

「自分の考えた弁当や惣菜が、何十年も続くようなヒット商品になる可能性もある。そういった取り組みがいがありますね。そこが第一に来てしまう人はダメなんですが、そんなヒットをつくったら評価をして報いたいです。」

販売スタッフへの希望はどうですか。

「仕事は多岐にわたるのですが、メインとなるのは売り場での接客ですから、笑顔と明るくハキハキとした人が希望です。それに加えて、衛生面やお客さんへの気づかいなど、やってもらうこと、覚えることがたくさんあります。」

「工場と違った部分でやりがいを感じてもらえると思うので、仕事を通して自分がどういうふうに仕事をしたいのか考えて、それができそうだったらぜひ来てほしいです。」

弁当業界を取り巻く状況は、競合が増えた今、厳しさを増している。ただし、弁松総本店にしか届けられない魅力がある。

「私たちには普通の弁当屋さんでは接点を持てないつながりがあります。それは老舗というポジションを持っているからです。」

「お客さんにしても、業者にしても、デパートだとか、地域だとか、いろんなところで、弁当屋の枠を超えたつながりを持たせてもらっています。」

今後スタッフが入って、時間の余裕ができれば増やしたい取り組みもある。

「今もときどきやっていますが、日本橋を巡るツアーがあるんです。うちの社員の皆さんにも同行してもらって『よその老舗はどうやっているのか』『一般のお客さんで日本橋に興味のある人はどういう人か』など、生の体験から感じてもらいたいんです。」

家族的なあたたかさを大事にした老舗です。楽しみにしている人に弁当をつくり、届けるというやりがいが、きっと得られると思います。

(2014/12/25 神吉弘邦)