求人 NEW

カラッとした土地で

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

高知県の土佐市は、冬でも比較的温暖。伝統的な一本釣りによる漁業や、早くから発達したビニールハウス栽培の農業も盛んです。

そんな土佐市が、地域おこし協力隊員を初募集します。応募資格は、東京・名古屋・大阪などの三大都市圏、それに政令指定都市に住む人です。

高知の沿岸を指す「土佐」の名を冠した人口2万8,000人の土佐市。県庁所在地である高知市の南西に接している。

その日の朝、JR高知駅にクルマで迎えにきてくれたのは、産業経済課の武森智也さん(左)と高芝賢大さん。

DSC_0279

漁業、農業、観光業。3分野で採用される人が、4月から実際に活動する場所を見せてもらうために出発。

土佐市生まれの武森さんは関西の大学を卒業。海外への仕事も考えたものの、新卒で市役所勤務へ。

土佐市ってどんなところですか?

「黒潮の影響で、あったかいところですね。出張や旅行で外に出ると、土佐があたたかいのを実感します。だから、寒いのは苦手です(笑)」

高芝さんは高知市出身。東京の大学を卒業後、横浜で社会人生活を8年近くおくった後、Uターンで高知県に戻った。

「ギャップはあったけれど、土佐市は田舎すぎず、都会すぎず、その中間くらい。人口30万の高知市には、映画館や大きな繁華街もあるし、クルマに乗れば20分で行けます。」

クルマがないと仕事ができないから、普通免許は必要だ。

水質が日本一と言われる仁淀(によど)川を渡って、土佐市に入る。昨年までは1車線だった道路も2車線になった。

途中で土佐市役所に立ち寄った。想像していたよりも、若い世代が多く働いている。

役所があるのは高岡エリアで、充実したグルメマップなどもある。ただ、観光情報の発信では、都会の高知市や四万十川の流域、お隣りの須崎市のほうが一歩リードしているのが事実。どうやってテコ入れするのかが課題だ。

「若い女性職員も結講おるんですよ。地元出身だったり、採用試験を受けて別の市町村から来ちょったり。県外から高知大学へ来た学生が土地を気に入ってそのまま就職する人もいます」と高芝さん。

協力隊員の窓口となる産業経済課は、こんな感じ。

DSC_0478

ここに隊員たちのデスクが設けられる予定なので、赴任して最初のうちは毎日通うことになる。家賃はそれほど高くないが、安くもない。同じ部署に移住コンシェルジュの女性もいるので、情報は豊富にある。

市役所を出て、トンネルをすぎるとすぐに宇佐港へ到着。三方が山に囲まれた港町で、山々から木のいい香りも漂っていた。

DSC_0287

魚市場がのんびりした雰囲気なのは、水揚げされる水産物がさまざまなせいもある。午後と夕方にもセリがあるそうだ。

お邪魔したのは「宇佐もん工房」。うるめいわしを加工して出荷する企業組合だ。立ち上げは2010年。前身は、特産品のブランド化を考える土佐市の協議会だった。

代表の所 紀光さんは、愛知県出身の41歳。東京のアパレル会社で働いた後、13年前に奥さんの出身地である、ここ宇佐に移住した。

DSC_0324

この日の作業は、土産品の加工と袋詰め作業。「一本釣りうるめいわしのオイルサーディン」は、店頭売価で500円ほどなので缶詰よりも高級品だ。好評を受けて、第二弾の「塩麹のサラダサーディン」「トマトサーディン」も開発された。

うるめいわしは繊細で、真鰯よりも傷みやすい。だから鮮度が大事。漁港に工房を構えるのもそのためだ。

それにしても、うるめいわしには、これまで干物のイメージしかなかった。

「皆さんそうですよね。しかも丸干しにするのは、1月から3月のうるめだけで、ほかの時期は商品価値がなかったんです。脂の乗った夏場のうるめが美味しいのは、地元だけで知られていました。独特の甘みがあってハマる人も多いですよ。」

漁網で獲るのでなく、一本釣りする漁法が残っていたのも幸いした。ウロコやヒレを傷つけないと、新鮮な状態を保ちやすいからだ。

さらに、釣ったばかりのうるめいわしの針を自動で外し、即座に氷締めする機械も開発。魚にストレスを与えないと、味も抜群だという。

「協力隊で来てくれる人には、工房での仕事のほか、漁船での漁も体験してもらおうと思います。」

所さんは、うるめいわしの刺身を「土佐の名産品にしたい」と奮闘。高知市内の飲食店へ、朝釣った鮮魚を届ける体制を築き、いまでは40店舗ほどに卸している。

工房に隣接して飲食店もオープン。現在は5隻の漁船と契約して供給量を確保している。

「宇佐は山に囲まれて海がある土地だから、高知県の縮小版のような地形。独特な風土が残っています。宇佐もんという名前も、気性が豪快な『宇佐者』という呼び名から取ったんです。」

DSC_0380

どんな人に来てほしいですか。

「都会と比べ、祭りの準備や地域の集まりへの参加などやらなくてはいけないことも多いです。それが苦にならない人がいいでしょうね。」

「僕らは商売をしているけれど、最終的に街が元気になってほしい。地域の人に愛情が負けてなかったら、どんな人でも大丈夫です!」

次にお邪魔したのは「マルサ花卉(かき)農園」。宇佐まで抜けるトンネルの手前にある。

土佐市では温暖な気候を利用して、ビニールハウスを使った栽培が盛んだ。なかでも高知県のユリの出荷は、全国第2位を誇る。

澤村知秀さんは、土佐市で生まれ育った35歳、社長のお父さんとユリの栽培を手がける。農園では複数のハウスを所有している。

DSC_0570

いくつか点在するハウスの1つに入った。ズラッと並んだユリは、つぼみが膨らみかけた頃に切る。

よく見ると葉の形などが違う。ここに30種類ほどあるそうだから驚きだ。都心の有名な店舗にも出荷している。

この地でユリの栽培が盛んなのを、初めて知った。

「もともと冬場が忙しいんです。冬の出荷時は寝ずに働き、夏には昼から飲んで暮らすのが昔からのライフスタイル。みんな、お酒強くないくせに飲みよるのはなんやろね。」

外洋漁船の漁師のようですね。

「そう。安定性がない代わり、大らかで、大雑把。いまはちょっとずつ変わっていますが、僕はそんなゆるい雰囲気をポジティブにとらえています。」

澤村さんは「土佐経営塾」などの集まりにも積極的に参加。コストや流通のことを自分たちで考え、農業の経営感覚を培っている同業者のネットワークがある。

「担い手もおらんし、草ぼうぼうの休耕地も増えました。だれかが畑をやりたくても『誰がこれを持っちょるんやろう』という土地も多い。これは地域全体の課題です。」

DSC_0503

栽培から収獲、箱詰め。重たいものを運ぶような作業もあるが、いまは女性や高齢者の従事者が多いという。

人手があれば、いろんな展開ができるという。

「農業でいちばん難しいのは、自分で決定していかないといけないこと。そのために、最初はやりかたを学んだり、資金的なバックアップも必要です。」

花の栽培だけでなく、ここでは農業について広く学べると思う。

「ある程度、仕事ができるようになったら『このハウスを1つ任せるから、売れるものをなにかつくってくれ』ということも考えています。うちはユリの栽培がメインだけど、野菜がやりたいならそれもいい。」

最後にお邪魔したのが、新しい観光交流施設をつくる、公民館での第1回ミーティング。出席者は、地元団体の「新居(にい)を元気にする会」と、土佐市の建設課、産業経済課のメンバーだ。

DSC_0705

2016年2月末の完成を目指して着工される施設は、仁淀川の河口につくられる計画だ。おでんや鉄板焼き、レストラン運営、仁淀川を活かした観光メニューの開発などが議論されていた。

清流として名高い仁淀川は、食の宝庫であるとともに、近年はパドリングカヌーのようなアウトドアスポーツでも売り出すようになっている。海岸ではサーフィンも盛んだ。

こうした内容を企画して地域の人と一緒に施設運営にあたるほか、周辺敷地の雑草刈り、トイレ掃除といった雑用も中心になるだろう。

仁淀川の新しい河口が整備されたのは、いまからほんの1年前。半世紀近くをかけた治水事業によって、支流の波介(はげ)川の放水路をつくるために農地も削られたが、高潮や台風への備えは高まった。

DSC_0607

建設予定地の海岸には、大きな堤防が建設中だ。これは「南海トラフ地震」を想定したもの。その発生確率は、今後30年間で80%という予測がある。

新施設も「展望台兼避難タワー」がセットで計画されている。

土佐市の沿岸では、避難ルートと一時避難場所の整備も急ピッチで進む。

DSC_0718

公民館の裏手には、太陽光発電で夜間でも逃げ道を照らす装置をあちこちで見かけた。

市内で広く配布されているのは、エリアごとの津波浸水深と到達予想時刻が記された「津波ハザードマップ」。そこには「想定を超える津波が来ることもあるので『揺れたら逃げる!』」と大きく書いてあった。

「防災留学」という言葉がある。これは、防災分野で先進的な事例を学ぶ活動のことだ。津波だけでない自然災害が多い日本で、この地での見聞はさまざまな人に役立つはずだろう。

ミーティングが終わって解散。ただ、夕方ごろから始まる会議の場合には、たいてい懇親会がセットになっていることが多い。

この夜の会場は「ドラゴン広場」。地場産品の販売コーナー、いろいろな飲食店が軒を連ねる、土佐市が開設し、商工会が運営する施設だ。

着くやいなや、参加者が2千円ずつを机の上の皿に入れる。そのお金で鮮魚店や居酒屋へつまみを買いに走る若手たち。上司の到着などを待たないでスタートするのが、いかにも高知流。

めいめいが好きなつまみを食べ、何度でも乾杯する。メニューに「日本酒」とだけ書いてあれば、熱燗のこと。土佐市が誇る酒蔵「亀泉」の瓶が次々に空く。

噂どおり、飲み会が盛んな土地。ただ、アルコールの強要はまったくないので安心してほしい。お酒を飲まない人もソフトドリンク片手に、その場にいることを楽しめる空気がある。

IMG_4826

性別も年齢も属性も、あまり意識しない。ここにいるみんながカラッとしてて明るい。なんだか異国のゲストハウスのようだ、という感想がこみ上げる。

ほどほどに地方、ほどほどに都会。

温暖ですごしやすいこの土地には、心をオープンにできる人が向いていると思う。ここからオープンな心になって人生を歩み出そう、そんなタイミングの人にもオススメしたいです。

(2015/2/3 神吉弘邦)

この企業の再募集通知を受ける