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富山・内川地区のカフェ「uchikawa六角堂」。オーナーである博之さんの奥さん、明石あおいさんが経営する会社が「ワールドリー・デザイン」です。地方都市で働くクリエイティブ職の等身大を知りたい人、いま住む場所や携わる仕事に疑問を抱いたことがある人に届けたいのが、ここで働く3人の声です。

ワールドリー・デザインは、スターデザイナーがいるわけでも、東京から仕事を持ってくる太いパイプがあるわけでもない、小さな「ふつうの」会社だ。
社長の明石あおいさんは京都生まれ。2011年の起業から丸4年が経つ。

「富山では、1年間の緊急雇用制度で県の『定住コンシェルジュ』をつとめました。もともと起業しようとしていたから、在籍期間で地域の実状をいろいろ学びました」
独立後に増えていったのが、自治体が地域の魅力を発信するパンフレットの製作だった。
「企画から取材、撮影、執筆、編集まですべてをやります。地元の人たちと話し合いながらつくるので、時間と手間をかけるのが特徴ですね」

クライアントからワールドリー・デザインが選ばれる理由は、どこにあると思いますか。
「ずっと県内にいた人でなく、外からの視点が望まれることもあります。まちの魅力を引き出してくださいといった依頼では、いろんな人と組んで企画を考えます」
着実に仕事を増やし、紙デザインのほか、Webデザイン、イベントやフォーラムを手がけている。現在、ふたりの社員を雇える規模になった。
富山へIターンをして1年半前に入社したのが、橘川絢花さん。

「いまの仕事も写真を撮ったり、インタビューをしたり、当時と大きく変わってはいません。でも、取材する方との距離感が近いのは大きな差ですね。いろいろと緊密に連絡をとって、話しあいながらやっています」
富山に来てからの仕事は、コミュニケーションが大事。時間をかけないといけないことに気づいたという。
「1から理念を共有していく仕事が多く、やりとりが多いのは大変です。この『ふくおかたろぐ』では、朝7時25分に交通整理をしている方を撮影しました。その15分間のため、片道40分かけて出かけるような撮影もよくあります」

「自分からコミュニケーションをとらないと、写真も撮らせてもらえません。自分の頭で考えてやらないと、取材に行った意味もなくなる怖さもありますね。あと、おじいちゃん、おばあちゃんと話す機会が多いです」
橘川さんには撮影して映像がつくれる、ゼロからかたちにできるスキルがある。

「私は食事をおいしそうに食べるみたいで、食関連の仕事を振ってもらえることが多かったんです。でも、まだそこまで深く知るところまではいけていないから、食をもっと掘り下げるか、別の分野に移るか、探している最中ですね」
ところで、富山に移ったきっかけは。
「母親の出身地が富山です。祖母の家が空き家になったので、そこに両親が引っ越すことになりました。ふたりの暮らしぶりを見ているうちに『いいな』と思って。幼いころは夏休みのあいだ、ずっと富山で過ごしていたのを思い出しました」
どんなところが好きですか?
「自然が豊かで、景色がきれいなところ。生活にストレスがあまりないですね。基本はクルマ移動なので、電車通勤もないですし」
社長のあおいさんはどんな人なのか、きいてみた。
「とにかくパワフル。毎回いろんな相談をしますが、自分の今までの価値観や考え方とはぜんぜん違った角度で世の中を見ているから、とても勉強になります。言葉にも説得力があるし、人をやる気にさせたり、ワクワクさせたりすることがスゴくうまいです」
そんな橘川さん。仕事をこなせるようになったがゆえの悩みが生まれていた。
「社会人になってから、多くの取材をしました。仕事で取材して、発信していくのを繰り返すと、だんだん誰のために発信するのか、何のために発信しているのかわからなくなる瞬間があります」
「この会社はいろんな分野をやらせてもらえて、ありがたい環境ですが…」
そう言いかけたとき、事務所の窓の外から御神輿をかつぐ威勢のいい掛け声が聴こえてきた。今日は市内の夏祭りの日だった。

「こんな具合に、ほかのふたりは興味をもったことに突き進める。私にはそれが足りないから、身につけたいんですね。あと今年で30代を迎えるので、『橘川さんと言ったらコレ』という分野を掘り下げたいと思っています」
最後は、入社してちょうど1年の坂本理恵さん。

「挨拶も仕事の仕方も、最初はなにもわからない状態でした。学生時代にデザインの勉強をしていたんですが、クライアントワークは初めてだったので、難しかったです」
どんなところが難しいと感じましたか。
「相手のことを考えて、思いやって、意図にそったものをつくるところ。クライアントが納得のいくまでやり直すところですね。自分の考えるデザインは後回しにしないといけない難しさがあります」
そうは言いつつも、良いクライアントに恵まれていると感じる。
たとえば、地元の医療法人がつくっているニュースレター『ようそろ』。坂本さんが担当してからのデザインの変遷をたどると、こだわりを反映していくのがわかる。

坂本さんはUターン組。富山市の周辺部、八尾町出身だ。最初は東京で働くことを考えていたという。
「あんまり無理して東京で就職しなくていいかな、と途中で思って。東京で暮らすこと自体、気の休まるところがなさそうで」
そのうち、就活についての疑問が頭をもたげてきた。
「就職サイトもよく見ていたんですが、私たちをだまそうとしている、絶対おかしいと感じたんです。『同年代がこの会社に100人エントリーしてます』って……だからなんだってのよ。バッカじゃないの!と思っちゃって。ここと同じ土俵に立っても、絶対に満足いく就職はできないと思いました」
「かといって、バリバリのデザイン会社にポートフォリオを持っていくほど、自分に自信も実力もなかったんですけどね」
けれども、まず行動してみた。「富山 デザイン 求人」のワードで検索しまくって、ワールドリー・デザインを知る。
「当時の求人条件にピッタリ当てはまると思いました。『若い』、『経験がなくてもいい』、『そこまでソフトが使えなくても大丈夫』、それに『県外か富山県から出ていた人』だったんです」

ふたたび、あおいさん。ふたりは求める人材像にあっていたのですね。
「ええ。『私だけかもしれないけど、これは大好き』とか、ときめく力というか。そういうものを持っていると、強いのかなと思います」
プロのグラフィックデザイナーのように、IllustratorやPhotoshopがいきなりできなくてもいい。
「製作するだけではなく、コミュニケーションをしなくてはいけないですから。人のウズに飲みこまれたいという人でもいいし、人が大好きですというのでもいいけど…」
あおいさんは「私、人が大好きです」と自分で語る人は、あまり信用を置けないのだと言う。
「話好きという人ほど、人の話が聞けないときもあるでしょう? だから『人づきあい、ちょっと苦手です』くらいなほうが、相手のことを引き出せるかなという気がします。地方でかわいがってもらえるキャラクターというか」
社名の「ワールドリー」という英語は、「世間」という意味だ。
「世間にいる人々、それぞれ個々が魅力を持っています。取材するときも、質問と違う言葉が返ってきて『いったいなんの取材だったっけ?』となることがよくある。でも、そこから入っていくと、本来のやることも変わっていくんですね。私はお茶飲み話から、まちを変えられると信じています」
あおいさんが会社で実現したいのは、こんな働き方だ。
「クライアントワークのように『言われた仕事』だけでなく、全員が『言われなくてもやる仕事』をつくっていきたい。週5日のうち1日は、そういう自分のプロジェクトを地域で起こせる仕事のやり方をしたいと思っています」
ワールドリー・デザインは、秋ごろの事務所移転を目指している。
場所は富山市内からクルマで30分。カフェ「uchikawa六角堂」のある内川だ。

「内川の街並みがどんどん崩れています。空き家、もしくは持ち主がいるけどふだん人が住んでいない家が増えている。その結果『面倒くさいから壊しちゃえ』となる。その後どうなるか、まだみんな気づいてない。『あれ?』と気づいたときは、もう手遅れなんです」

「自分の生活に関わることすべて、身の丈をフル活用して地域の魅力を掘り起こし、発信していくのをやりたいんです。内川に限ったことではなく、それくらいしないと、地域を元気にするってことはできないんじゃないかと。足元を掘りまくった先に、なにがあるかが楽しみです」
県外からのスタッフを強く求める今回。Uターン、Iターン就職の場合は、移住支援制度も利用できます。
(2015/7/6 神吉弘邦)