※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
制作に没頭できる時間や環境、そして生活に必要なお金。プロのアーティストを目指す人にとっては、どれも活動を継続するために欠かせないもの。でも現実は、バランスをとるだけでも一苦労する。
そんな悩みを抱えているアーティストの卵の方々。
いい環境と仕事が佐賀県鹿島市にありますよ。

日本仕事百貨では鍋島をつくる蔵人を何度か募集してきましたが、今回はプロを目指すアーティストを募集します。
いまも残る江戸時代の古い街並みの一角で、自身の活動に励みながら、日々の糧を得るため富久千代酒造の酒づくりを手伝う。
酒づくりは五感が発揮される仕事なので、きっとアート活動にもいい影響があると思います。
また、ここはまちづくりに熱心な地域です。催される様々なイベントを一緒に企画できるだろうし、関係者には陶芸家の方や人間国宝の染織作家の方がいるので、教えを請うこともできる。
都会から離れた環境を探していた人にとっては、いい機会だと思います。
福岡空港から電車を乗り継ぐこと約1時間半。
佐賀県鹿島市にある肥前浜駅を降りると、駅前に気持ちのいいまっすぐな道が続いている。

また、宿場町としても栄えたことから、江戸時代から昭和初期にかけて建てられた建築が残されている。
2006年にはその古い街並みが評価され、酒をつくる醸造街としては日本ではじめて重要伝統的建造物群保存地区に認定された。
認定のために活動してきた中心人物のひとりが、陶芸作家の熊本義泰さん。鹿島で生まれ育ち、京都などで修業を経て、故郷の肥前浜で窯を開いた方です。
自身の制作活動だけでなく、まちの活性化のために様々な活動を行ってきました。

「そういうこともあって、文化的な生活ができるまちになりたいなと。絵画でも音楽でも、いいものを共有して、後世にも続くようにしよう。それで仲間と一緒に『Classic in浜』というチームつくったんです。」
いまではなくなってしまった地元のお祭りを復活させたり、絵画展を開いたり。様々なイベントを催すなかで、酒蔵コンサートをはじめたという。
「やっぱり地元産業に頑張ってもらわないと、地域に生活の基盤が生まれない。酒も一緒にして、この街を活性化していこうと思ったわけです。」
そのなかで協力関係にあったのが、富久千代酒造の社長の飯盛さん。

「今年で10回目くらいかな。一般的に酒蔵さんがやっているのは、お米をつくって酒をつくることですけど、うちの場合は鹿島を楽しみましょうと」
「田植えのときは干潟体験。夏は、農家さんが無農薬で育てた野菜を子どもたちが穫って、山へ虫取りに行って清流で遊ぶ。マスを釣って、お昼にはおにぎりを食べたりするんですよ」
2月には酒づくり体験。毎回20組ほどの家族が集まって大賑わいだという。

富久千代酒造を含めた3つの酒蔵が、熊本さんや地域の方々と協力して春のイベント「花と酒まつり」を開催。
年々観光客数が増えていくなか、ほかの酒蔵も参画。酒蔵を巡るイベント「鹿島酒蔵ツーリズム」も誕生した。
当初3千人だった観光客が、いまでは7万人以上に。鹿島酒蔵ツーリズムは一大イベントに成長した。

そこで飯盛さんが着目したのは、アートによるまちづくり。それは単発的にアートイベントなどを行うのではなく、アーティストをこの地に定着させるということ。熊本さんと前々から構想していたことだったという。
重要伝統的建造物群保存地区の認定やイベントなどの認知によって、若い移住者が増えはじめている。いまが募集をかけるタイミングだった。
「やらないことにはなにもできないので、とにかくやってみようと。酒と同じように、アートがこの地の文化として定着していければと思っています」
「でも文化の定着って、すごく時間がかかる。もちろんまちおこしも大事だけど、まずは自分の制作活動をじっくりしてもらえればいいです。1日の半分とかうちでアルバイトをすれば、生活費をまかなえます」
いま富久千代酒造の酒づくりのアルバイトをしているのは、地元のおじいちゃんやおばちゃんたち。アーティストの方も一緒になって酒づくりをしたり、新たにお酒のもろみのサンプル採取なども手伝ってほしいという。
ただ、お酒は蔵総出でつくるもの。午前中だけのお手伝いとはいえ、アーティストの方もがっつり体を動かして働くことになる。夏の7〜8月は蔵人が休みに入るため、午前中から制作活動に打ち込めるという。

飯盛さんや熊本さんは地域活性化のために、日々アート活動に励みながら、ゆくゆくはまちづくりに参画してほしいと考えている。
もちろんはじめから興味があれば、酒蔵ツーリズムなどのチームに加わって一緒に企画してほしいそうだ。
熊本さんが活動するグループには、人間国宝でもある染織作家の鈴田滋人さんがいらっしゃる。そういった方と知り合えるのは貴重だし、希望すれば熊本さんや鈴田さんに指導を仰ぐことができるという。
ここで、ふたたび熊本さん。
「ものの見方とか、こういうものをつくりたいっていうのが定まりつつあるのが、20歳前後。僕らみたいな70歳になっても、20歳くらいで感じたことをまだ引きずっているんですよね。追い求めている。だから20歳前後にいい環境にいることが、作家としてうまくいくかどうかってところだと思うんです」
「ただ、いい環境に甘えないようにね。午前は酒づくり、午後は自分の仕事ってパターンになると思うけど。その生活をずっと続けるっていうより、早く独立するようにしていかんとね」

まちづくりにつながるアーティストにはぴったりだろうし、一徹にものづくりする人でも作品がまちの魅力のひとつとなって、まちづくりに貢献できると思う。
どんな人でも絶対条件になるのが、人とのコミュニケーションが好きな人。定期的に食事会などが開かれ、移住者や地元民との交流が盛んだという。
実際に、どんな人がここに移り住んでいるのだろう。
今年6月に酒蔵通りの空き家にお店を開いたご夫婦に話をうかがいました。
キャンドルアーティストの浦裕彦さんと由紀さんです。

震災後の原発事故をきっかけに移住先を模索。九州各地を渡り歩くなかで、鹿島に住むことを決めたという。
なぜ鹿島だったのか。裕彦さんを中心に、話をうかがいます。
「一番は、地元の方の『地域をよくしたい』という貪欲な気持ちに惹かれましたね。何かしたいけどアイディアが浮かばないって正直に話してくれて、僕たちを巻き込んでよくしていこうとしてくれて」
「あとは街並み。これからずっと残すために、どう利用していくか一緒に考えるのが面白いと感じました。まだできあがっていない段階で、僕らも一緒にアイディアを出してつくっていこうと思えたんですね」

これから熊本さんたちが企画するまちづくりイベントにも参加するそうで、どんどん活動の幅が広がっている。
「夜の飲食店をはじめたのも『夜にすこしでも灯りのついているところができたらいいね』って移住してきた仲間と話し合って。それでお店をはじめちゃったんです。そんなふうに、いろんな人を巻き込んで巻き込まれて、まちを盛り上げるように自然となりましたね」
富久千代酒造が募集するアーティスト、どんな人が向いていると思いますか?
「まさに自分の作品だけじゃ食っていけないから、どうしようかなって人ですね。アマチュアでも、地域の方々は面白がってくれるんです。それにアーティストって身体のことも考えている方が多いと思うので、自然豊かな九州に移住するのはいいと思う。富久千代酒造さんでの仕事も面白いと思います。酒づくりもアートですもんね」

飯盛さんや熊本さんの存在も、とても心強いと思います。
制作活動をじっくりできる環境に移住したいと考えていた方。もしお知り合いにもそんな方がいたら、ぜひこの募集を知らせてあげてください。
(2015/8/5 森田曜光)