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まちつくるカフェ

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「おいしい」という感情は、お皿の中の世界だけでは完結しないさまざまな要素で成り立っている。

たとえば、空間や流れている音楽、そして、誰と一緒に食べるのか。

12 そんな「おいしい」の理由を突き詰めるうちに、意識がお皿の外へどんどん出ていき、やがてコミュニティやまちをつくることが仕事になった人がいます。

「ブルーボトルコーヒー」や三越日本橋本店の「Hajimarino cafe」など、さまざまな「カフェを中心にした場づくり」に関わってきた石渡さんです。

今回は、石渡さんが2年前に立ち上げたWAT(ワット)という会社で一緒に働く仲間を募集します。

JR茅ヶ崎駅を降りバスに乗る。運転手さんが「このまままっすぐ行けば海ですよ」という日の当たる気持ちのいい道を走り、10分ほどで下車。

そこには、一見よく見る郊外の団地の風景が広がっている。学校帰りの小学生が遊んでいたり、商店街があったり、保育園や病院、図書館が入る複合施設がある。

そんな風景のなかに、真っ白な屋根にくっきり映える「CAFE POE」という文字を見つける。気持ちの良いテラスにはガーデンパラソルが開き、まるでここだけ浜辺のような雰囲気。

SONY DSC 「CAFE POE」は、茅ヶ崎を拠点にしたまちづくりのためのNPO法人の依頼を受け、WATが企画から運営まで担っているカフェ。

中に入ると、まず開放的なキッチンが迎えてくれる。

テーブル席はすべての席に窓から光が差す贅沢な明るさ。ところどころに配されたグリーンが美しく、木材を使った素朴なインテリアとも相性がいい。

おしゃべりに花を咲かせるお母さんたち、ひとりでゆっくりくつろぐおばあさん、店員さんが動き回るカチャカチャという音。

SONY DSC 「茅ヶ崎といいつつ、海のそばじゃない。かと言って駅前でもない。そんな場所でこんなカフェというのが面白いと思っています」と、石渡さん。

にこにこと店内の様子を眺めながら、こんな話をしてくれた。

「CAFE POEは、浜見平団地という50年前にできた団地地区にあります。建て替え事業が進んでいる地域で、このカフェには団地の古くからの住人や新しくマンションを買って移住してきた人が集まって来ています。駅から歩いて30分の場所で完全な住宅街で、人が集まり会話をする機会をカフェが提供している。そう思うと嬉しいですよね」

SONY DSC 「コーヒーやお食事だけでなく、ワークショップやイベントなどいろいろな方法で人が集まる機会を提供します。そのために、カフェの中だけではなく外のことを考えていく人がもっと必要です」

カフェの外のこと。

「私たちは、単に飲食店を開発しているのではなく、コミュニティを開発していると考えています。コーヒー1杯でまちは変わるか?とか、カフェが会話や出会いを生んでいるか?とか、そういう部分にとても興味があります」

石渡さんはもともと、大手電機メーカーで4年間サラリーマンをしていたけれど、よりお客さんの顔が見えるサービス業に就きたいと思うようになったそうだ。

「食べることが好きだったので、そこに根が伸びていったと思います。友人に誘われて起業し、2004年にカフェをつくりました」

実際に自分でカフェを営業しはじめたら、店の開発そのものから徐々に「まちの開発」や「まちの中の飲食店の役割」というところに興味が広がっていった。

その後「ダブリューズカンパニー」でいくつかの店舗の開発に携わった後、WATを立ち上げる。

9 ここで、聞いてみたかったことを聞いてみた。

WATは会社のウェブサイトもないし、ウェブにほとんど情報が出ていないですよね。それはどうしてですか?

「カフェのウェブサイトは常に必要ですが、そのカフェをWATがやっているという情報はお客様には必要ないですし、むしろその情報提供は、ただの自己主張というかエゴに近いと思います。ひょっとしたらウェブサイトは次の仕事を運んできてくれるかもしれませんが、次の面白い仕事は周りにたくさんあるので、今のところは必要ないと考えています」

仕事の話は、石渡さんのもとに直接くることが多いそうだ。いま進んでいるプロジェトの話をしてくれた。

「2年前から進行しているプロジェクトがあります。場所は東京の大崎。もともと明治以降の製造業が集積していたまちでしたが、再開発により新しいまちに変わろうとしています。そこに、再開発組合や品川区と連携した、地域交流施設として機能するカフェをつくろうとしています」

そういう依頼が来たとき、石渡さんはどんなふうにプロジェクトを進めていくんですか?

「与件の整理から入ります。登場人物の整理、彼らから要望、このまちに住んでいる人の顔。今回の場合は、行政、再開発組合、区議の方とも面談をして、カフェのあり方を模索しました。ただ、彼らと合意形成をすることだけが仕事ではなく、カフェだからこそできることを伝えます」


カフェだからこそできること。

「私たちがつくるのは『儲かる飲食店』ではなく『コミュニティを形成する飲食店』です。だから『 飲食業で収益を上げたいなら、違うところに頼んでください』とはっきり言います。カフェをつくるための費用も我々は一切負担しません。そのかわり、その地域に一生機能し続けるような飲食店をつくると約束します」

132015年10月オープン予定の大崎カフェ

目先のことではなく30年後のことを考えて提案したい。だから、カフェとまちは将来こうなる、という「伸び代」の話も欠かせない。

「カフェは、ジェネレーターのような役割を持っていると思っています。人が集まり、収益が生まれる。そして、それをまちに再投資する仕組みをつくりたい。その循環がまちのにぎわいを30年つくり続けるのだと思います」

その思いが共有できたら、次は具体的にカフェのメニューや内装などを考えていく。

「来てほしい人を思い浮かべると、提供する食事の内容も値段設定も自然と決まってきます。内装は信頼できるデザイナーさんにお願いしていますが、具体的な指示をするのではなく、ただ『こういうまちにしたい』ということを伝えています」

そして、石渡さんが「どんなカフェにするか」を考える上でなにより大切にしているのは、そこで働く「人」。

「飲食店は『人』がすべてです。同じワインでも提供する人によって感じ方が変わると思っています。なので、働くスタッフのことを思い描きつつ詳細な計画を練りこむことも忘れません」

プランの段階で100%完成するわけではなく、実はオープンしてからの微調整がいちばん多いそうだ。

まち全体をみて、そこに必要なカフェをつくる。人をみて、そのカフェの内容ができてくる。

わたしが想像していた飲食店のつくりかたとはぜんぜん違う。でも、流れを無理に変えるようなことがないからとても自然だし、まちにも働く人にもストレスが少なそうだなと思う。

「CAFE POE」でキッチンのオペレーションやメニュー開発をしている宮原さんにも話を聞いてみた。

SONY DSC 宮原さんは、友人に誘われWATで働きはじめた。その前はべつの飲食店で働いていたそうだ。

「前の仕事と比べると、いい意味でギャップしかないです。前は言われたことをやる、というしくみをなぞるような仕事だったけど、ここでは、もっと手前の部分から関われるんです。だから僕も、料理以外のことに興味を向けて新しいことを勉強しています。大変だけど刺激がありますね」

手前のことって、たとえばどんなことですか?

「たとえばこの店だったら、このまちはどんなところなんだってところから話がはじまるんです。はじめから『どう思う?』って世間話のように聞いてくれるので、そこから話が膨らんでいくんです」

そこをベースに、だったらこうしよう、ということが見えてくる。家具を選んだりディスプレイをしたり音響を考えたり。それからインスタグラムに投稿する写真はどうしよう、とか。

「専門分野ではないこともたくさんあります。でも、全部に意味があると知っているからできるんです。自分で組み立てているから、教えるときも濃厚に話せるんですよね。こういう理由でこうしているんだよって」

7 宮原さんはどんな人と一緒に働きたいですか?

「職人は必要ないかな。飲食店だけど、料理しかやらない人ではなく、空間づくり全体にいろいろ興味を向けられる人がいいと思います」

「楽しくやろうよって言いたいですね。楽しくないと、いい接客も料理もできない。こっちが楽しく働いていると、お客さんがいい感じだなと思ってくれて、人が集まってくるんですね。それが、なんのためにここにこの店があるのか、という意味にもつながってくると思います」

宮原さんに話を聞いたあと、プロジェクト・マネージャーとしてカフェの開発と企画をしている樋口さんにも話を聞いた。

SONY DSC 樋口さんは、WATの仕事のほかに復興支援に関するNPO法人の運営もしている。

10年前に石渡さんが経営していたカフェにお客さんとして足を運んでいたことが、ここで働くきっかけだった。

「もともと建築を学んでいて、卒業してからはまちづくりのコンサルをしていました。歴史のある会社だったので少し保守的で、なにをやるにも国や県、市の許可がいるし、あまり新しいことをやらないほうがいいという風土だったんですね」

「でも、ここは新しいことがどんどんできるから楽しいです。それに、地域との関わりをどうつくるか、というハードではなくソフトの部分を考えられるのが面白いですね」

樋口さんにも聞いてみた。どんな人と一緒に働きたいですか?

「WATの仕事はソーシャルワーカーに近いけど、なにかもっと別の言い方があるような気がしています。強い使命感を持っているというより、まずは自分の身の回りを楽しくしたい、と思う人がいいんじゃないかな。ここで働く人は、自分の好きなことを好き勝手にしている人が多いと思います」

「人ありき」だからこそ、なにか自分なりの「好き」を持っている人なら、面白い化学変化が起こせるかもしれない。

まず自分が楽しいと思いながら働くこと。それはきっと周りの人を惹きつける。

6 カフェからはじまる場のプロデュース。一緒にできることがありそうなら、ぜひ応募してください。

最後に、石渡さんの言葉を紹介します。

「『恰好よく』生きたいです。私にとって恰好良いというのは、自分にフィットしていることで、クールだとかオシャレだとかそういう意味ではありません。お金以外の価値をたくさん受け取ることのできるこの仕事は、自分にとってはとても恰好がよいと思っています」

(2015/8/6 笠原名々子)