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“おふろ屋さん”を超えて

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休みの日、どんなところへ行こう。

時間があるときに必ずチェックするのは、地のものを使ったおいしい料理とお酒、それと温泉。

“はだかの付き合い”なんて言葉もあるように、友だちと一緒に気持ちのいい温泉に浸かると、ふだん話さないようなことも話せたりする。

たまたま隣り合った地元のおじいちゃんとの会話も楽しくて、小さい兄弟のわんぱくな様子が微笑ましくて、ついつい長風呂になってしまうことも。

onsendojo01 最近では「若い人が温泉や銭湯に入らない」と言われているそう。

でも、おふろってどんな年齢の人とも交流できる、数少ないコミュニケーションの場でもあると思う。

「おふろのある暮らしは、日本の残すべき文化のひとつだと思います。そもそも銭湯の発祥は、1階のおふろに入ったあと2階の茶室で過ごして帰る。世代をまたいだリアルなコミュニケーションの場であり、文化の発信地でもあったんです」

そう話すのは、株式会社温泉道場の代表、山﨑さん。

onsendojo02 温泉道場は、埼玉県にある3つの温浴施設「昭和レトロな温泉銭湯 玉川温泉」「白寿の湯」「おふろcafé utatane」を運営する会社です。

さまざまな交流が生まれる温泉を通じて、埼玉県比企郡・ときがわ町の地域活性化にも取り組んでいます。ときがわ町の委託を受け、地域の魅力を伝える地域情報冊子をつくることも。

そのつながりから移住促進事業をはじめたり、地域の人から遊休不動産の活用を頼まれるようになりました。

ほかにも、起業支援や地域情報メディア、コミュニティスペースなど、さまざまな取り組みがはじまろうとしています。

目指すのは、おふろ屋さんの域を超えた“温泉ローカルベンチャー”。

経営企画職とデザイナー職を募集するという話をうかがいに、ときがわ町にある玉川温泉を訪ねました。

 
池袋から東武東上線に乗り、そのまま1時間ほどで武蔵嵐山駅に到着した。

タクシーに乗り込み「玉川温泉へ」と伝えると、運転手さんは「はいはい」と聞き慣れた様子。

運転手さんはこの辺りに住んでいて、玉川温泉へよく行くそうだ。全国でも有数の泉質を誇る玉川温泉は、地元の人たちにも人気らしい。

onsendojo03 玉川温泉には10分ほどで到着した。店先で待っていてくれたのはオート三輪。店内は昭和レトロの香りが漂う。

中へ入ると、温泉道場の3人が迎えてくれた。写真左から、永島さん、野村さん、山﨑さん。

2階の事務所の一室で、さっそく話をうかがう。

onsendojo04 代表の山﨑さんは現在32歳。温泉道場は2011年に立ち上げた。

前職ではコンサルティング会社に勤め、全国を飛び回りながら日帰り温浴施設の事業再生を行なっていたそう。多いときは1日に17ヶ所の温泉に入っていたのだとか。

そんななか「玉川温泉」と「白寿の湯」を運営する会社に出会う。山﨑さんは独立して温泉道場を立ち上げ、2つの温浴施設を引き継ぐことになった。

「自分がやらなきゃ、なくなっちゃうだろうなって思ったんです。私は埼玉出身で、地元でご縁をいただいたというのもあるし、実家が商売をやっていたので、やっぱり起業したいという思いが昔からあって」

とはいえ、2つの温浴施設はいまにも潰れそうな状態。かなり厳しいところからのスタートだった。

「でも、できると思っていましたよ。言ってしまえば『何もやっていない』ような店だったので。時間はかかるかもしれないけれど、しっかりやれば再生すると」

サービスの見直しや建物の改装はもちろん、温泉道場は地域の魅力づくりにも取り組んだ。

なぜなら、人口1万2千のときがわ町では温泉だけで集客するのは難しい。多くの観光客はまちを巡ってから温浴施設にやって来るため、まずはまちへ人を呼び込まないといけない。そのためには、地域の魅力を上げる必要があったという。

onsendojo05 温浴施設をPRするときは地域の魅力も同時に伝えたり、魅力的な特産品が少ないと思えば地元事業社と一緒に商品開発を行なったりした。

「必要に駆られてやりはじめたんですよね。で、あとになってから『自分たちがやっていることって地域活性化だよね』という話になって。しかも、地域に対してしっかり経済的な恩恵を与えられていると」

2013年には町役場から受託をうけ、ときがわ町の観光ガイドブック“ぶらっと、ときがわ”を制作した。

ときがわ町は、都心から車で約90分の立地条件にありながら、里山の風景が見られる自然豊かな地域。夏の嵐山渓谷ではホタルが見えるらしい。

カヌーに乗れるカフェギャラリーもあるし、創業80年の老舗お豆腐屋さんだってある。ガイドブックでは「遊ぶ」「癒す」「泊まる」などのさまざまな切り口で、ときがわ町の魅力を伝えた。

onsendojo06 「観光ガイドブックをやることによって、まちづくりとか地域活性化に主眼を置いている会社だと見られるようになって、地域の方々とふれあう機会が多くなりました。それからは、役場や地域の方との関わり方がちょっと変わってきて」

「ざっくばらんな相談をいただくことが多くなったんですよ。『ここの物件が余ってるんだけど、どう?何かつくってよ!』って、おふろ屋さんに(笑)」

すでに、遊休不動産を活用するプロジェクトは動きはじめようとしている。また、ときがわ町の移住定住に関わる冊子づくりのプロジェクトの準備も進めている。

ここで、メディア事業部の野村さん。

「その冊子をつくるにあたって、いま地域の方々に取材をしているんです。じつは、ときがわ町には外側から来た人が点在していて。定住した60~70代の団塊の世代の人たち、2地域居住で週末だけ来ている40〜50代の人たち、仕事と暮らしのバランスを考えている20〜40代の人たち。大きく分けてその3つのグループがあるので、一人ひとり探し出していこうと」

onsendojo07 今後は、移住や地域に関する情報を伝えるWebメディアを立ち上げる予定。

さらには情報発信だけにおわらず、コミュニティづくりも計画しているという。

「最終的には、人を外側から受け入れる母体が必要だと思っています。移住してきた人たちが集まる、人のプラットフォームをつくろうと。ときがわ町に興味があれば、温泉道場で移住した先輩に会えるみたいに。遊びにきてもらいながらだんだんと慣れて、まちも人も好きになって、移住したいと思ってもらえたらいいなと」

移住した人が起業するとなれば、投資や人材の面で温泉道場が支援するような動きが出てくる可能性もあるという。

それと付随して、後継者不足で悩む地元事業社に人材育成でサポートすることも。

「じつは本社を町のなかのどこかへ移転しようと思っていて。で、やるならカフェやコワーキングスペースがついて、面白い人たちが集まる本社にしたいなと。それも移住とすごくシナジーが生まれると思うんです」

「いかにとがった面白い人たちが集まって、根付いてくれるかで、地域が生き残るかが決まってくる。自分たちで人が集まる場を設計していくのって、すごく重要なことだと思うんです」

onsendojo08 起業支援、遊休不動産の活用、Webメディア制作…

これから取り組むさまざまなことを、野村さんをリーダーに置いたメディア事業部が中心となって進めていくことになる。

また、メディア事業部は広報部の役割も担うため、運営している温浴施設や会社のPRなども常に行なう。

今回の募集で加わる方は、メディア事業部に属し、経営企画やデザインを担当することになる。

今後は、メディア事業部という枠にとらわれず、社内外のコミュニケーション全般を事業に生かす役割を担う「コミュニケーション・デザイン 室」という部署名に名称変更する計画もあるそうだ。

ここで気になったのは、新しい動きが“温泉”というキーワードから離れているように思えること。

素直にそう伝えると、「そんなことないんですよ」と野村さん。

「銭湯やおふろの文化って、地域のハブとなるコミュニティの機能を持っている。近所の方が集って、そこで社交が生まれて、文化が生まれる。そのエッセンスを抽出して、事業化していっているんです。だから、どの事業をやるにしても『おふろから文化を発信する』という企業理念からぶれていないと思っています」

野村さんの言う「文化」は、どんな文化でもいいという。

食の文化、伝統芸能の文化、日本の文化。

「何でもできて、すごく楽しいと思います。いきなりバーベキュー場をはじめるかもしれないし、森林や渓流のような自然資産を活かすようなこともするかもしれない」

onsendojo09 「この会社は地域とのつながりも、経理や会計に関する資金調達の部分も、行政との折衝も、全部学べる環境がそろっている。組織を運営するために必要な経営から現場の細かな運営に関わることまで、全てを学びたい人にとってはとてもいい環境だと思う」

だからこの会社では、仕事もキャリアも自分でつくっていける。逆を言えば、自分から動いていく人でないと、辛く感じるかもしれないという。

「実務能力はあるのに、大きな組織ならではの障壁が重なって、自分の仕事が前に進まない。そんなふうに悶々としている人には、めちゃくちゃいい環境だと思います」

これまで求人広告会社や震災復興支援団体などで働いてきたという野村さん。

温泉道場の仕事環境について聞くと、絶賛の嵐だった。

「社長との距離が想像以上に近いので、決済が早いですね。メールで要件を伝えたら、5分で返信が戻ってきて『はいOK!』みたいな。あと、本社が地元の関係者と親しくさせてもらっているので、商売をする上で敵が少ない感じがします(笑)。サービス業って一般的には働きづらいイメージがあるかもしれないけど、社内ストレスもほとんどないです」

そんな話を聞いて、代表の山﨑さんは「プライベートで遊んでも面白いなと思える、ウェットな付き合いができる人がいいな」と話していた。

実際に会社のみんなで、研修や合宿などに出かけるという。

onsendojo10 見せていただいた社員旅行のアルバムの1ページ目には、初日に遅刻したというスタッフの方のチケットの写真が。

「調和がとれているんですけど、うちは変な人が多いんですよね」

そう話すのは、おふろcafé utatane副支配人の永島さん。永島さんもまた、独特な雰囲気を持っていらっしゃる。

onsendojo11 永島さんは副支配人を務めながら、チラシづくりなども担当。

その実力をかわれ、期間限定でメディア事業部に異動し、移住促進の冊子づくりを野村さんと一緒に進めているという。

「チラシを1つつくるにしても、ふつうだったら写真・デザイン・編集って分かれるところを全部自分でやっていて、すごく勉強になっています。『じゃあよろしく!』って任されるから大変でもあるけど、いままで自分ができなかったことができるようになっていって、いまはすごく楽しんでいるかもしれないです」

代表の山﨑さんは「サービス業の働き方を変えたい」と話していた。

現場の運営作業だけでなく、週に何日かクリエイティブな仕事を業務の中に取り込んでいく。そのほうがバランスはよくなるし、きっと楽しく働ける。収益性をしっかり上げて、働き方を多様化させていきたいという。

onsendojo12 軸となる温浴施設の運営が安定しているからこそ、地域に根ざした新しい取り組みがはじめられる。創業わずか5年足らずで、ここまでやれる会社ってなかなかないのではないだろうか。

けど何をやるにしても、そこには人が必要。

培ってきた経験を発揮したいという方、自分の力を試したいという方。まだまだ人数の少ない会社なので、これからのコアメンバーとして活躍できると思います。

(2015/10/26 森田曜光)