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「こちら、塩辛バゲットでございます」目の前に置かれた料理は“塩辛”のイメージとかけ離れていた。
どんな塩辛を使っているのか聞いてみると、練りウニとイカの塩辛、バジリコとパルメザンチーズを合わせたイカの塩辛、天然エビの塩辛がそれぞれのバゲットの上に乗っているらしい。
この料理に合うとおすすめされた赤ワインと一緒にいただいた。

塩辛を料理に使うと、深い旨みのある味を出せるそうだ。塩辛バゲットのほかにも「塩辛オムレツ」や「塩辛枝豆」など、なんとも気になる料理がメニューに並んでいる。
全60種類の塩辛たち。イカの塩辛だけでも20種類以上あるという。
塩辛を使った創作料理とこだわりの日本酒のラインナップに、「次に来たときは何を注文しよう」と考えるのが楽しい。

運営する駿河屋賀兵衛が、新たにスタッフを募集します。
秋葉原駅から歩いて5分ほど。
赤レンガ造りの旧万世橋駅をリノベーションしたマーチエキュート神田万世橋には、個性的な飲食店やショップが立ち並ぶ。

運営する駿河屋賀兵衛は、塩辛と海鮮珍味が専門の静岡の会社。
「塩辛の会社」と聞くと老舗のイメージだけれど、創業15年だという。もともとは特産品を扱うお土産屋さんを静岡で営んでいたそうだ。
代表は、さきほどの料理をつくっていただいた渡邊さん。
目を合わせたら離さず、じっくり丁寧に話してくれるのが印象的な方です。

渡邊さんは海外留学を経て、世界中のさまざまな文化や価値観に触れたいという想いから、食品輸入会社に就職。世界各国を飛び回った。
しばらくしてからは、長期休みなどの際に実家のお土産屋さんを手伝っていた。
そんななか、お土産屋さんの業績は下降線を辿るように。本腰を入れてテコ入れしようと、渡邊さんはご両親の会社に参画することになった。
その背景には、ご両親がつくりあげてきたものを受け継ぎたいという想いと、塩辛に感じた可能性があったという。
「POPを書いたり、新しい仕入れ商品を考えたりして手伝っているうちに、塩辛にすごく興味を惹かれたんです。塩漬けして寝かせるだけで、どうしてこんなにもおいしくなるのだろうと」
「それに、塩辛だけでなくいろんな魚介類の商品を取扱っていたので、たとえば桜えびを塩辛にしたらどうなるのだろうとか、いろんなことを考えていたんですね」

やるからには自分たちにしかつくれないものを世に出そうと、個性的な商品開発を進めていった。
たとえば、静岡のお茶を使った塩辛。前職の経験から、外国のスパイスを使った塩辛なども試作した。
「その2つはボツになりましたけどね(笑)。いろいろ試した中で残ったのが、最初の商品でもある“賀兵衛のいか塩辛”です」
一般的なイカの塩辛は、そのままのイカを生の状態で塩漬けにしているそうだ。
渡邊さんは従来のつくり方を見直し、イカを一度天日干しして、戻したものを塩漬けに。その際、肝と身を分けて、それぞれに適した塩漬けを行なう。最後は一緒にして、長いときは3ヶ月も熟成させるという。
「干すと旨味成分が凝縮される。干物の要領でそうしたほうがおいしいんじゃないかという考えで試してみたら、おいしい塩辛ができたんですよね」
定番のイカの塩辛のほかにも「本ずわい蟹塩辛」や「ほたて塩辛」など、さまざまな魚介類を使ってバラエティ豊かな商品開発を進めていった。
適地適材、北から南までどれも素材にこだわり、地元静岡で水揚げされた新鮮なものにも力を入れている。

たしかな味と珍しさが評判を呼び、瞬く間に注文は増加。百貨店の催事に何度も出店するようになったという。
そして一昨年に東京へ進出。
神田にある商業施設“CHABARA”内の“日本百貨店しょくひんかん”の一角に販売店をオープン。続けて、マーチエキュート神田万世橋に会社初となる飲食店をオープンした。
「未経験の会社によくそんなオファーをしていただいたなと(笑)。会社としても冒険だったんですけれども、昔からやってみたかったことなんですね。つくりたてを出して、お客さまの反応を見てみたいなと」

ここでは60種類の塩辛に加えて、塩辛を使った創作料理や静岡の幸、寿司なども揃っている。さらに、それぞれの料理に合う40種以上の個性豊かな純米酒を楽しめる。
「塩辛って、幅広い料理に調味料として応用が可能なんですよね。塩辛のグラタン、ピザ、オムライス。火を入れただけでコクと旨味が増すんですよ。お刺身と塩辛を合わせてもおいしいです。いろんな可能性があるんですよね」
「そんな塩辛のあたらしい食べ方を提案して、お客さまの食を豊かにして幸せになっていただきたいという気持ちですね」
塩辛をはじめとした料理やお酒を通じて、お客さまを笑顔に。それは駿河屋賀兵衛が運営する飲食店で一番大事にしていること。
たとえば創作料理。メニュー板の改訂が追いつかないほど、次々と新作を打ち出している。
下の写真は“ハッセルバック塩辛ポテト”といって、細かく切り込みを入れたジャガイモに清水港で水揚げされたマグロの酒盗とイカの白造りを塗込んで、焼き上げた料理。スウェーデンの伝統料理からヒントを得たという。

料理やお酒のほかにもこだわりがある。食器はどれも、陶芸家の方にお願いしてつくってもらったもの。お客さまに同じ器を出さないというルールを設けている。
「五感で楽しんで、幸せな気持ちになって帰っていただきたい。そういう場にしていきたいんです」

週末に来店するには予約が欠かせないほどだという。
「お店をはじめて驚いたことに、若い女性の方がすごく大勢いらっしゃるんですよね。週4日いらっしゃる常連のお客さまもいて。こんなに多くのお酒と塩辛を楽しむ方がいるんだって」
お客さまが楽しみにしているのは、めずらしい塩辛やおいしいお酒だけでないと思う。
取材中、どのお客さまも食事を終えると「ごちそうさま」「ありがとう、また来るよ」とスタッフさんに必ず声をかけていた。
リピーターが多く、差し入れを持ってきてくれるようなお客さまもいるという。
「小さなお店なので、自分がつくったものを直接お客さまに届けられるんですね。だから厳密にホールとキッチンは分けていないんです。料理をつくって、お出しするときはこのお酒が合うなどの説明をして、最後に料理の感想をいただける。『おいしかったよ』って言っていただけるのは、すごくやりがいにつながると思います」
「そんなふうに食を通じてお客さまとよろこびを共感できる方。やる気さえあれば、経験や資格はまったく問わないです。もちろん飲食店なので身体を使う大変さはありますが、腰を据えて向上心を持って取り組んでいただける方に来ていただきたいですね」
経験は問わない。とは言っても、実際に調理しているところを覗くと、一つひとつの料理にかなり手間をかけて丁寧につくっている印象だった。
本当に未経験でも大丈夫なのか、スタッフの米本さんに聞いてみると「つくることが好きであれば難しくはない」と話してくれた。
「ここではつくったものに対して『おいしい』『すごい』の声が直に伝わってくるので、好きであればもっとがんばろうって思えますよ」

以前はお寿司屋さんで働いていた。
「そのときは下働きで何年も働いていたけど、寿司を握ること以前に、刺身の切り付けさえもやらせてもらえなかったんですよ。でも、ここにきてからは料理を任せてもらえるし、自分で調理したものをお客さまに出せるんですよね」
一方で、ダイレクトに料理の評価が伝わる分、決して気は抜けないという。
また、たくさんある塩辛や合わせる日本酒の種類を覚えるのも一苦労。お客さまには味だけでなく、誰がどのようにつくっているのかも伝えることもある。
「お酒に詳しくなりたい人にはいいんじゃないかな。どれもいいお酒しかないので、勉強になると思いますよ」
「あと、下働きだけで終わってしまったという飲食経験者の方も多いと思うので、そんな人にもいい環境だと思います。ただ、黙々と料理に打ち込む人ではなくて、お客さまとコミュニケーションできる人だといいですね。一緒に働くスタッフも個性的な人が多いので」

「スタッフみんなで相談しながら『この塩辛にはこのお酒が合うんじゃないか』って考えられるので、ほかのお店にはない働きができて面白いと思いますよ」
そう話すのは、このお店の開業時から勤める大橋さん。

「このまえ、試しにウニの塩辛にお酢とお醤油を混ぜて、ウニドレッシングのサラダをつくったら、常連さんによろこんでいただけて。それからは毎回頼んでくれるようになったんですよ」
「新しいものを考える時間は与えてもらっているので、そういうことにチャレンジしたい方がいたら、楽しんで働けるんじゃないかなと思います。ただ何をやるにしても、一番はお客さまを大切に思える人だといいですね」
駿河屋賀兵衛は来年3月、川崎アゼリアに2店舗目となる飲食店をオープン。
それに伴うオープニングスタッフを今回はメインに募集する。
新しいお店では「マーチエキュート神田万世橋店でできなかったことをやりたい」と代表の渡邊さんは話す。
たとえばセルフ燗付け器を導入したり、人通りの多い場所だからこそできることを考えたり。いま以上にお客さまが楽しんでくれるようなお店にしたいと思っているという。

杜氏が集う日本酒の催事で駿河屋賀兵衛の塩辛を提供すると、おいしいと話題に。お酒の場に塩辛をケータリングするような動きも、今後増えるかもしれません。
「まだ夢の話ですけど」と渡邊さんが計画しているのは、海外へ向けた塩辛の缶詰の開発。
ほかにもやりたいことはあるそうですが、いまは日々の仕事で手一杯。今回新たに仲間を迎えることで会社の幅はぐんと広がっていくと思います。
もし経営にも興味のある方がいれば、渡邊さんの右腕となる人も採用したいそうです。
ぜひ一度お店へ塩辛を食べに行ってみてください。
駿河屋賀兵衛の塩辛の可能性を感じると思います。
(2015/12/21 森田曜光)